生贄
時間を俺達がフィル洞窟を攻略していた頃に戻そう。
エル達の村に残っていたメリルは病に苦しんでいるエルの父親に定期的に《ヒール》をかけていた。
病は治る事はないが、少し落ち着くのか、エルの父親は再び眠りにつく。
《ヒール》をかけ終えたメリルの横に座って父親の顔を見続けるエル。
その表情は心配と悲しみに満ちていた。
そんな彼女の頭をメリルは優しく撫でる。
「大丈夫ですよ、エルさん。アルトさん達が必ず、治癒のお花を取って戻って来ますよ」
「うん!」
笑顔で訴えかけるメリルの顔を見て、エルも笑顔になる。
「エルさんはお父さんの病気が治ったら、何がしたいのですか?」
「んー…お飯事!」
「お飯事ですか!女の子なら楽しい遊びですね!その時は私も入れてください!」
「いいよ!」
まるで姉妹の様に話し合う二人を見て、エルの母親も微笑む。
そして、入れた紅茶を彼女に差し渡す。
「信じていらっしゃるのですね、アルトさん達の事を」
「はい。大切な人達ですから…。それはお母さんも同じではないですか?」
「ふふっ、そうですね」
メリルが俺やアイム、マギウスの事を信じている様にエルの母親も父親やエルの事を信じている。
家族や仲間というのはそういうモノだ。
すると、家の外が騒がしくなった。
様子を見に行く為に母親が外を覗き、メリルもそれに続く。
家の外には鎧を着込んだ男達が立っていた。
不審に思い、二人はエルを家の中へと残し、外に出て、彼等に話しかける。
「すみません、何かご用ですか?」
他の村人も不審に思ったのか、家から出てくる。
そうしていると彼等の一人が口を開く。
「お忙しい時に申し訳ありません。我々は魔虎牙軍の者です」
「魔虎牙軍…?」
どうして軍が…?、とメリルは首を傾げる。
「実は…この村で付近を襲っている鬼を匿っているという情報を得たのですよ」
「(鬼とは…マギウスさんの事ですね…)」
しかし、やはり、情報が食い違っている。
エル達は村など襲われていないと言っていたが、現に自分達や軍達はこの村へ調査に来ている…。
「すみません。私はある依頼でこの村へ来た者ですが、付近の村が襲われたという噂はありませんよ」
「そうです!それに鬼の人など匿っていません!」
軍を追い返そうとメリルと母親は話す。
しかし、そこへメリルに聞き覚えのある声が聞こえる。
「おやおや…まさか、貴女がこの村にいるとは…」
振り返るとそこには鬼を討伐して欲しいと依頼してきた男が立っていた。
「貴方は…!」
「依頼をこなしてくれなかった様ですね。…残念です」
「貴方にはお聞きしたい事があります…!」
ガッカリした様に溜息を吐く男に疑問をぶつける。
対する男は何でしょう?、と不敵な笑みを浮かべながら、問いかけてくる。
「貴女の依頼通りに私達はここへ来ました。…しかし、ここ以外の村は鬼によって襲われたと言っていました。…でも、この村の人達は誰も鬼には襲われていないと言っていす。これは矛盾していませんか?」
「成る程…。貴女は騙されているんですよ。…嫌、貴女だけではなく、村人達全員です」
どういう事です?、とメリルは聞き返すと男は叫び出す。
「その鬼が…この村人達を洗脳しているんですよ!自らの拠点を作る為にね!だから、彼等は鬼を守り抜こうとしているのですよ!」
男の話を聞き、メリルは背後にいる母親や村人達を見渡す。
洗脳されているのなら、ここでおかしな反応を取るはず…。
しかし…。
「我々は洗脳などされていない!」
「マギウスさんは我々を救ってくれているんだ!」
「嘘を流しているのはお前達の方だ!」
村人達から軍に対しての罵声が飛ぶ。
今の様子から見て、洗脳などされていない。
「…全く、ここまで洗脳が強いとは…」
「いいえ、この人達は洗脳などされていません」
「何ですと…?」
洗脳などされていないと、断言したメリルに男は眉を潜める。
「彼等はマギウスさんを心から信じています…。出なければ、軍を相手にここまで否定はしません!」
メリルのその叫びに男はウンザリとした表情を浮かべる。
「そうか…。だったら…テメェも敵だな!」
突然口調が豹変した男はナイフでメリルを斬り裂こうとしたが、それをバックステップで回避する。
「な、何をするのですか⁉︎」
キッ、と男を睨みつけるメリルを軍の男達も囲む。
「下手な態度を取っていれば意気がりやがって…。まあいい。今頃シュウの奴も目的を果たしている所だろう」
「シュウ…?目的…?一体、何の事ですか⁉︎貴方は一体…⁉︎」
「そう言えば、自己紹介がまだだったな。俺はシャルル・ガーネット…。ギルド、絶対終焉のリーダーだ」
「絶対終焉…⁉︎あの暗殺ギルドの…!」
暗殺ギルドと軍が繋がっていたとは…!
メリルはそう思い、警戒を強める。
「貴方達の目的とは何ですか⁉︎」
「この近くの祠に眠る強力なモンスターを蘇らせる事だ。…そして、奴を復活させるに必要な生贄がこの村にいる」
「それは一体…⁉︎」
モンスターを復活させる為の生贄…それが誰なのか問いかけていると…。
「お母さん、お姉ちゃん…?どうしたのー?」
家の中で待っていたエルが待てずに外へ出てきた。
「エルさん⁉︎」
「エル!危ないから出てきてはダメ!」
母親がエルを守る様に抱き寄せる。
エルを見たシャルルはニヤリ、と笑みを浮かべる。
「捕獲対象が自ら来てくれたのは助かるぜ!」
「まさか、エルさんが…!」
エルが生贄の対象だと気づき、エル達を守る様に立つメリル。
「何故、私達に鬼の討伐を依頼したのですか⁉︎」
「まず一つはそこのガキを手に入れる為にはあの鬼が邪魔だという事…。もう一つはお前等のリーダーをこっちの仲間へ引き入れる為だ」
「アルトさんを…⁉︎」
「あぁ今頃、俺の仲間がアイツ等に会っているはずだぜ」
シャルルの話を聞き、ジッとは出来なくなったのか、メリルは戦闘態勢を取る。
「エルさんは渡しません!…貴方達を止めて、私はアルトさん達も助けに行きます!」
「やるってのか?俺はともかく…軍を敵に回すという事がどういう事になるかわかるだろ?」
今騎士団と軍はいがみ合っている状態…。
ここでメリルが軍と敵対してしまえば、戦争が加速してしまう危険性がある。
それでもメリルは止まらない…。
目の前の小さな生命を守る為に…。
「それでも…私はエルさんを守ります!」
「そうかよ…。そんじゃあ、死ねよ!」
シャルルの叫びと同時に軍の兵士達が抜刀し、一斉にメリルに襲い掛かった。
それに対し、メリルはエル達を下がらせ、《バリア》を発動し、攻撃を防ぐ。
「《ファイアボール》!」
《バリア》に何度も攻撃を仕掛けてくる兵士達に向けて、《ファイアボール》を放ち、それを受けた兵士達はシャルルの下まで吹き飛ぶ。
「へぇ、やるじゃねえか…。だが俺には勝て…」
俺には勝てない…。
シャルルがそれを言い切る前に奴の頬を風の刃が掠めた。
メリルが《ウインドカッター》を放ったのだ。
軽く切れた頬から血が伝い、地面にポタポタ、と落ちる。
「…調子に乗りやがって、このクソ女が…!いいぜ!テメェも捕らえるつもりでいたが、此処で消してやるよ!」
怒り狂ったシャルルは懐からカプセル薬…〈モンスタードラッグ〉を取り出し、それを飲み込んだ。
そして、シャルルの肉体はみるみる変化していき、《トカゲファイター》というモンスターになる。
「人が…モンスターになった…⁉︎」
『俺の拳で…テメェをぶっ殺す!』
雄叫びを上げた《トカゲファイター》は両拳をぶつけ、勢いよく、メリルに接近した。
そして勢いをつけた右ストレートを放つ。
《バリア》を発動し、それを受け止めようとしたが、《バリア》は右ストレートを受け、音を立てて、破壊された。
「そ、そんな…⁉︎」
そのまま右ストレートはメリルの腹を捉え、彼女は殴り飛ばしてしまう。
殴り飛ばされた彼女は近くの木に叩きつけられる。
「お姉ちゃん!」
そんなメリルを心配し、エルが叫ぶ。
その叫びを聞き、メリルは痛む腹を抑え、立ち上がる。
「…ガハッ…⁉︎」
しかし、余程のダメージだったのか、口から血を吐いてしまう。
『おいおい、まだまだ楽しませてくれよ!』
メリルの放つ《ウインドカッター》を避け、接近した《トカゲファイター》は強烈なラッシュをメリルに浴びせていく。
メリルの苦痛な悲鳴が村中に響き渡り、村人の中にはあまりの残酷さに目を逸らす者もいる。
そして、ラッシュの最後に《トカゲファイター》は至近距離で光弾をメリルに浴びせ、彼女は吹き飛び、地面に叩きつけられる。
既にボロボロで意識を失いそうな彼女だが、何とか立ち上がろうとする。
しかし、立ち上がれずに《トカゲファイター》を睨む。
『俺達に喧嘩を売るからそうなるんだよ。無力な女が』
倒れているメリルの強引に髪を掴み、彼女と視線を合わせた《トカゲファイター》はトドメの一撃をメリルに浴びせようとしたが…。
「申し上げます!」
奴等の仲間の一人が焦った表情で駆けつけた。
「何だ?」
「シュウ様が…麻生 アルトによって、討死しました!…彼等は今、この村へ向かっています!」
「…シュウを倒すとは流石だな。…つまり、引入れには失敗したという事か。仕方ねえ」
勢い良く、メリルの頭を地面に叩きつけた《トカゲファイター》は鼻で笑いながら、立ち上がり、エルと母親に近づく。
そして、エルを守ろうとした母親を殴り飛ばし、エルを気絶させる。
「エル…さん…!」
このままではエルが連れて行かれる…!
そんな事はさせない、とメリルは立ち上がろうとするが、身体に力が入らない。
『じゃあな。精々自分の無力さに後悔してな』
高らかな笑と共に《トカゲファイター》はシャルルに戻り、軍の兵士や手下を率いて、担いでいるエルと共にその場を去る。
そんな奴等の後ろ姿を最後にメリルは気を失ってしまった…。




