大切なモノ
生命…。
それはこの世に生きている者ならば、必ず持つモノだ。
それを持っているのは人間だけでなく、動物、魚…植物も生命を持っている。
そしてこの世界に存在するモンスターもだ。
モンスターも生きる為に人間を襲っている…そんな事はわかっている。
そう、俺達も生きる為にモンスターを狩り、報酬をもらっている。
冒険者でない者も腹を満たす為に食事をしている。
その食事の肉は元は生命を持っていたモノだ。
…俺達は多くの生命を犠牲にして生きている…。
前世の俺がいるのも…歌音が犠牲になったから…。
だったら俺達は殺人者と同じなのか…?
生命を奪っていると言う点では同じかも知れない…。
だが…!
俺達は殺人者とは違う…!
面白半分で生命を奪うアイツ等とは違うんだ…!
アイムやマギウスの言葉でそれを思い出した俺の身体は不思議と動き、〈モンスタードラッグ〉で《トカゲコマンダー》となり、曲刀でアイムとマギウスに斬りかかるシュウの前に立ち塞がり、攻撃を防いで、弾いた。
攻撃が弾かれた《トカゲコマンダー》の表情は険しいモノになる。
「何をしているのですか、貴方はァ?生命を奪った事で思い悩んでいたのではないのですかァ?」
…確かに俺は《トカゲソルジャー》となった奴等を殺してしまった事に絶望して、動けなくなった…。
でも、それじゃダメなんだよ…!
「悩んださ…苦しんださ。この苦しみから逃げようとしたさ…。だけどな、その想いがあるから、俺にはまだ生命があるってわかった。…そして、俺の戦う理由も再び理解した」
「それは何ですかァ?」
「俺は…大切なモノを守る為にこの力を振るう…!お前達が俺の大切なモノの生命を奪うって言うのなら…躊躇いなく殺す…!たとえ、それで人殺しになったとしても…俺は大切なモノを守り続ける!」
人を殺すのは簡単な事だ。
だが、人を殺す覚悟…それを示すには時間がかかる。
だからこそ、俺は今、少しの時間をかけて覚悟した。
どれだけ人殺しだと世界から見放され様とも俺は大切なモノを守る…。
その大切なモノの生命を奪うと言う奴等と戦う…!
俺の発した言葉に怯え、《トカゲコマンダー》は二歩ほど下がる。
「マスター…」
「アルト…」
マギウスは安心した様な表情で俺を見て、アイムは目元に涙を浮かべる。
そんな二人に振り返り、俺は微笑んだ。
「ありがとな、二人とも。…俺はもう迷わない…。アイツがお前等の生命を奪うと言うのなら俺はアイツと戦う…!」
エンゼッターを強く握り締め、覚悟の言葉を述べた。
それを聞いた《トカゲコマンダー》は狂った様に笑う。
『だったら…貴方も消すまでです!』
曲刀で斬りかかってくる。
俺はその攻撃を受け流し、奴の腹に蹴りを入れる。
奴は後方へ軽く吹き飛びながらも、踏ん張り、俺に急接近する。
しかし、俺は《閃光》を発動し、まさに光の速さで奴の懐に踏み込み、エンゼッターで何度も斬り裂いた。
『グオッハッ…⁉︎』
あまりの痛みだったのか、奴の口から黄色の血が吹き出される。
勿論、腹の斬り傷からも血が溢れている。
『この力は…⁉︎なぜ貴方はここまで戦えるのです⁉︎』
「言ったはずだ。俺は大切なモノを守る為に戦う。大切なモノを助けたいと言う想いが…俺に力をくれるんだよ。特殊技能や技能でも敵わない…凄まじい力をな!」
そう叫び、《トカゲコマンダー》を蹴り飛ばす。
ドスッ!、と音を立てて、地面に倒れた奴は俺を睨みながら、ゆっくりと立ち上がる。
『わ、私は…私はギルドの副リーダーなのです…!だから、貴様の様な虫螻に負けるわけにはいかないのですよォ‼︎』
怒り狂いながら叫び、俺に接近してくる奴に向けて、エンゼッターの剣先を向けると、剣身にエネルギーが蓄積される。
「シュウ・イグリア…。他人を動揺で追い込み、苦しめる。さらには生命の大切さを知らないお前では…!」
そして、俺は地面を蹴り、走り出しながら《閃光》を発動し…エンゼッターで奴の肉体を貫いた…。
技能《クイックスティング》…。
エンゼッターの剣身にエネルギーを込め、《閃光》の速さを利用して相手を貫く…。
俺が生み出した技能の一つだ。
「俺には触れる事も出来ない!」
奴の肉体を通り過ぎた為、俺の背後で奴は倒れた。
すると、奴はシュウの姿に戻った。
「バ、カな…!」
目の前の状況が信じられず苦痛の言葉を口にするシュウを俺は見続ける。
そんな俺の下にアイムとマギウスが駆け寄ってきた。
「大丈夫なの、マスター…?」
「…心配ない!ありがとな、アイム。お前のおかげで俺はまた立ち直れた」
クスリ、と笑いながら彼女の頭を撫でると彼女は頬を赤くする。
「良かった…」
「マギウスも、ありがとな!」
「お、おうよ!」
感謝の言葉を言われ、照れたのか視線を逸らしている。
そんな仲間との何気ない会話…。
笑顔で話し合っていたが、生きていたのか、シュウの笑い声が聞こえる。
か細いか、不気味さは消えず、俺は警戒する。
「貴方を引き入れると言う目的には失敗しましたが…どうやら、時間稼ぎは成功した様ですねェ」
何だと…⁉︎
時間稼ぎだって…⁉︎
「テメェ、どう言う意味だ⁉︎」
「我々…絶対終焉の目的は貴方方の住む村にある祠に封印されたモンスターを蘇らせる事なのですよォ」
モンスターが封印された祠…⁉︎
「まさか…《イグニッションオーガ》か…⁉︎」
《イグニッションオーガ》…?
どうやら、マギウスには心当たりがある様だな。
「何だその、《イグニッションオーガ》ってのは?」
「かつて、鬼族が封印した鬼のモンスターだ。だが、あれには特別な力を持つ者の血がなければ…!」
ならば、なぜ俺達を引き止める様な真似を…?
「…あの村に、特別な力を持つ人間がいた…」
アイムの言葉に俺とマギウスは驚く。
すると、シュウもお見事、と笑う。
「その通り…。だから、その者を捕える為に今、リーダー達が村にいるでしょう」
村に…奴等のリーダーが…⁉︎
「テ、テメェ!誰なんだよ、その特別な力を持つ奴ってのは⁉︎」
焦った表情を浮かべたマギウスは倒れるシュウの胸倉を掴み、持ち上げる。
「名は…確か、エルという少女でしたねェ」
エルが…特別な力を持つ者…⁉︎
「エルが…⁉︎」
「今からではもう間に合わないとは思いますがァ…急いだ方がいいのではありませんかねェ…アハハハハッ!」
シュウは高らかな笑いと共に消滅した…。
「マスター!マギウスお兄ちゃん!」
アイムの言葉を聞いた俺達は走り出した。
村にはメリルもいる…。
だが、戦力で言えば、絶望的だ…!
無事でいてくれ、みんな…!




