モンスタードラッグ
人間が変化した《トカゲソルジャー》達はサーベルを構え、俺達に殺意を向ける。
そもそも、人間がモンスターに変化した事実を目の当たりにして、戸惑いを隠せと言われても無理だ。
頬をつたう汗を拭いながら、俺はシュウ・イグリアに問いかける。
「人間がモンスターに変化する…。先程、そいつ等が飲んだカプセル薬の影響か?」
俺の問いにシュウ・イグリアはククク、と笑いながら答える。
「そうです。名を〈モンスタードラッグ〉…。モンスターの細胞が凝縮されたカプセル薬で、一粒飲めば、その細胞のモンスターに変化できるという代物です」
モンスターの細胞が凝縮された薬…。
まさしく違法薬だな…!
見る限り、《トカゲソルジャー》に変化した奴等の理性はあるみたいだ。
「お前はその薬を貰ったと言ったな?それは誰だ?」
「残念ですが、企業秘密です。貴方達には死んでもらいます。…やれ」
シュウの命で《トカゲソルジャー》達は一斉に俺達に襲いかかる。
俺、アイム、マギウスはそれぞれのやり方で攻撃を防ぎ、カウンターを浴びせる。
吹き飛んだ《トカゲソルジャー》達を《パワースラッシュ》で斬り裂いていく。
斬り裂かれた《トカゲソルジャー》達は悲鳴を上げながら、地面に伏していく。
そして、通常のモンスターと同様に消滅した…。
「なっ…⁉︎」
倒せば、人間に戻ると思っていた俺達は驚愕の表情を浮かべる。
まさか…人間が消滅した…のか…?
「お、おい!消えた奴等は何処に行ったんだよ⁉︎」
戸惑いながらもシュウに問いかけるマギウス。
奴はケラケラ、と不敵な笑みを浮かべる。
「何処へ行ったとは意味の分からない問いをするのですねェ。彼等は文字通り消えた…。この世界から完全に消滅した…。つまり、死んだんですよ」
死んだ…?
あのモンスターになった奴等が…⁉︎
俺が…人間を殺したってのか…?
「まさかァ…倒せば人間に戻るとでも思っていたのですかァ?愉快なお方ですねェ」
人間をこの手で殺してしまったのだとわかり、戸惑いを隠せない俺をシュウは嘲笑う。
「俺が…人間を…殺した…?」
「マスター…」
モンスターに変化したとしても初めて人間を殺してしまった…。
俺は震える手を止める事が出来ず、ただ立ち尽くすしかなかった。
恐怖の表情を浮かべる俺にアイムは声をかけようとするが、かける言葉が見当たらず、踏みとどまった。
「…」
マギウスも何言うことが出来ず、変わりにシュウを睨む。
「おやおやァ?今名を馳せている無職の君が人を殺しただけでそこまで動揺するとはねェ…」
「人を…殺しただけ…だと…⁉︎」
シュウの言葉に恐怖が消えないまま、俺はシュウを睨む。
「そうです。人はいずれ死にます。…ただ死が早く訪れただけではないですかァ。それなのに悲しむ必要があるのですかァ?さらに彼等は貴方の知り合いでもないのにねェ」
…確かに《トカゲソルジャー》になった奴等の事は俺は知らない…。
でも、消して良い生命なんてモノは存在しない…!
「黙れ…!知り合いとか知り合いじゃないとか、関係ない!簡単に消して良い生命なんて、存在しないんだ!」
「簡単に、ねェ…。では、貴方が今まで消して来たモンスター達や貴方が食して来た生き物達の生命に関してはどう思っているのですかァ?我々人間なんてねェ…。生きる為に誰かの生命を奪っているのですよォ。生きる為に貴方は簡単にモンスター達の生命を奪っているんですよォ!」
シュウの叫びに俺は反論できなかった。
…俺は…確かに仕事だと言い切り、多くのモンスターの生命を奪ってきた…。
生きる為に…相手を殺してきた…。
「それが人間になると…人殺しになるとダメと言うのはァ…モンスターの生命はどうでも良いと言う事になるのではないですかァ?」
「お、俺は…!」
そんな事はない!…その一言だけ言えばいい。
だが、俺は言えなかった…。
言う資格は俺にはないんだ…。
「貴方は我々と同じです。…生命を奪う心に闇を抱えた存在なのですよ!」
心に闇を抱えた存在…。
確かにそうかもな…。
俺があの時あんな事をしなければ、歌音は…。
俺はまた、同じ過ちを…!
シュウの言葉に俺は徐々に闇へ引き摺り込まれそうになる。
ならば、もういっそ闇に身を浸しても…!
「マスターは貴方とは違う!」
普段叫び声を上げないアイムの叫び…。
その声を聞き、俺は一気に光りの中へ戻ってくる。
気がつけば、アイムがシュウを睨んでいた。
いつもの無表情ではなく、仲間を侮辱された事への怒りをぶつける様に…。
「何が違うと言うのですかァ?生命を奪うと言う点では、我々もこの世界に生きる人間達も同じです。そう、貴女やそこの彼もねェ」
命を奪う者…それを聞いて、俺は再び、罪悪感に押しつぶされそうになる。
しかし、アイムが地面に膝をつく俺の手を優しく握ってくれた。
「そうね…。この世界に生きる者は必ず、生きる為に他の生命を奪っていると言っても過言じゃないわ…。でも、マスターと貴方は全く違う!」
「違う、違うと…。一体、何が違うのですかァ?」
未だ嘲笑う様に笑みを浮かべながら、シュウはアイムに問いかける。
アイムは絶望の表情を浮かべる俺に笑いかけ、再びシュウへ視線を移す。
「マスターは…私達を助けてくれた!悪い人から…獣人から…そして、モンスターから!マスターのおかげで消えるはずだった生命の多くが守られた!…生きる希望を私達は…マスターから与えられたの!」
アイム…!
「そしてマスターには…消えていった生命を背負う覚悟がある!…これ以上、私達の大切なマスターを侮辱すると言うのなら…私は貴方を絶対に許さない!」
感情を爆発させ、俺の為に怒ってくれているアイム。
俺はそれが嬉しく、そして、アイムにそんな事を言わせてしまうのが悔しくて、目に涙を浮かべる。
すると、マギウスもアイムの横に並び立つ。
「俺はアルトとはそんなに関わりはない…。でもな!コイツは誰かを気遣う優しい奴だ!関係のない、エルの父親の病を治す為に協力してくれている!遊び半分で人の生命を奪うテメェ等とアルトを一緒にするんじゃねえ!」
「アイム…マギウス…」
俺の為に怒ってくれている二人を見て、俺の中に光が完全に戻った。
それに対し、シュウは以下にも不機嫌そうな顔をする。
「そうですかァ…。あわよくば、彼を手元に置いておきたかったのですがまあいいでしょう…。では、彼の目の前で貴女方を殺すとしましょう!」
そう叫んだシュウは〈モンスタードラッグ〉を取り出し、それを飲み込む。
すると、奴の身体は《トカゲソルジャー》の隊長である《トカゲコマンダー》に変化する。
『さぁ…辺りを貴女方の血で濡らしますよォ!』
シュウの声で《トカゲコマンダー》は叫び、アイムとマギウスに曲刀で斬りかかる。
身構える二人だが、曲刀は二人に当たる事なく、変わりに金属音が響いた。
立ち上がった俺はエンゼッターで奴の攻撃を防いだからだ。
「マスター!」
「アルト!」
俺が立ち上がった事に二人の顔は明るくなる。
そうだ…。
俺は誰かを守る為に戦う…!
そして、俺は…俺は生命を奪うのではなく、誰かの生命を守るんだ!
全て吹っ切れた俺はエンゼッターを構え、《トカゲコマンダー》の曲刀を弾いて、睨みつけた…。




