男同士の話し合い
少女の近くの村は滅んでいない。
その言葉の意味がわからず、俺達は戸惑う。
確かにあの依頼者の男は村が鬼によって滅ぼされたと言っていた…。
先ほど行った村の奴等からもその話を聞いている。
…だが、こんな小さな少女が嘘をつく様な様子はない。
少し考えていると、鬼が話しかけて来た。
「お前はその依頼人の話で俺を討伐に来たんだよな?」
「そうだ」
そう言えば…鬼の特徴や見た目など聞いていなかった…。
だが、鬼はコイツ以外にはいないって言っていたし…。
「じゃあ、その依頼人の村の名前は?」
…確か、ウリの村だったな。
「ウリの村だ」
「…悪いが、そんな村、この付近にはないぞ」
ウリの村がない…?
どういう事だ…?
「ど、どういう事でしょう…?」
「…騙された」
アイムの言葉に俺はある事に気がつく。
確かに、鬼が暴れたという事件が起きれば、騎士団に連絡が行き、ヴェイグ達を通じて俺達にも知らせが来るはずだ。
だが、連絡が来ないという事は…。
「…すまない」
俺は警戒を解き、鬼達に頭を下げた。
それに続いて、メリルとアイムも頭を下げた。
それを見た鬼は驚く。
謝られるとは思っていなかったのだろう。
「い、いや!いいぜ!勘違いしていたのは俺も同じだしよ!それにお前等は騙されていたんだ、仕方ねえよ!」
それでも…メルド様の前で人を見て、依頼を受けるって、言っていたのにこの様だ…!
初めての依頼で舞い上がっていたのかもしれない…。
「俺はギルドのリーダーだ。この落とし前をつけたい。俺にできる事なら、何でもする」
メリルとアイムには罪はないと言う俺を見て、鬼と少女は顔を見合わせる。
そして、鬼は俺を見て、ニカッ、と笑った。
「じゃあよ。さっきの戦いの続きをしようぜ!」
え?、と俺達は聞き返す。
「お前との戦い…。久々に燃えたんだ!だからよ…俺はお前との決着をつけたいんだ!」
倒す為ではなく、勝つ為の戦い…。
鬼は俺を真っ直ぐ見て、右拳を突き出した。
断る必要も資格もない。
強いて言うのなら、俺もコイツとの決着を着けたいと思っていたんだ。
俺も右拳を突き出し、彼の拳とぶつけ合った。
「わかった。だが、手は抜かねえからな!」
「勿論だ!こっちも本気でいかせてもらうぜ!」
拳をぶつけ合った後、俺達はそれぞれ、後方へ飛んで互いに距離を取る。
その光景を見て、少女はニコリ、と笑い、メリルはアタフタとしている。
「ど、どうしてそうなるんですか⁉︎」
戸惑うメリルにアイムが説明する。
「これが男同士の友情の証。…そうでしょ?マスター」
「あぁ、コイツとの戦い…嫌、これはお互いの話し合いだ。それに必要なのは言葉ではなく、拳だけだ」
メリルとアイムに拳を見せると、鬼は笑う。
「わかってんじゃねえか。だが、俺の名はコイツじゃなく、マギウス。マギウス・ゼルスだ!」
「じゃあ、改めて…俺は麻生 アルト。無職冒険者でギルド、可能の星のリーダーだ!」
互いの自己紹介を終え、俺はエンゼッターを地面に突き刺し、拳を握る。
マギウスとの戦いにエンゼッターは必要ねえからな!
「じゃあ、いくぜ…マギウス!」
「おう、アルト!」
俺とマギウスは一斉に駆け出した。
俺は拳に炎を、マギウスは拳に赤雷を纏わせて、振り被り、拳を突き出した。
炎と赤雷のパンチの激突は爆風を起こし、辺りの木々を激しく揺らす。
メリルと少女を抱き抱えていたアイムもその爆風に耐える。
パンチをぶつけ合った後、俺達は蹴りも合わせたラッシュを掛け合う。
しかし、あまりの威力にお互いは後方に下がる。
「《エレキガン》!」
右手の指で指鉄砲の形を作ったマギウスはそこから雷の弾丸を発砲してきたので《バリア》で雷の弾丸を全て防ぐ。
お返しに《ファイアボール》をマギウスに向けて放った。
しかし、マギウスはそのファイアボールを防ごうともせず、殴り消した。
「ファイアボールを殴り消すか普通⁉︎」
「そっちこそ、《バリア》を発動できるとはな!」
マギウスの実力を認めながらもマギウスの頭上に雷雲を形成する。
「《エレキシュート》!」
それに気づかずにマギウスは右腕に赤雷を纏わせ、赤雷の光弾を形成し、それを放ってきた。
それを弾き返す為、右手を突き出し、大きな岩の球を作り出し、放った。
「《ロックバースト》!」
色々な戦いを経験し、手に入れた技能を応用し、独自の技能を作り出す事が可能になった。
赤雷の光弾と岩の球がぶつかり合い、それぞれ消滅する。
それと同時に雷雲の形成が完了する。
「《サンダーボルト》!」
巨大な落雷をマギウスに落とした。
落雷はマギウスに直撃し、爆発を起こす。
本来なら、これで倒せた…そう思えるのだが…。
俺は警戒を弱められなかった…。
爆煙が消えると身体がスパークしているマギウスの姿があった。
服は汚れているが、全くの無傷だな…。
「《エレキドレイン》…。お前の電撃は吸収させてもらった。なかなかの威力だったが、俺の得意分野である電撃は俺には無意味だぜ」
すると、俺の電撃を利用し、マギウスは電撃エネルギーを蓄積させる。
「《エレキブラスター》!」
赤雷の光線を放ってきたマギウス。
その威力の爆風だけで吹き飛ばされそうだ。
「やるな、マギウス!…だが、俺も負けられねえ!」
技能《フォトンビーム》の体制に入った俺は光のエネルギーを蓄積させ、光の光線を放った。
雷の光線と光の光線が激突し合い、俺とマギウスは爆風で吹き飛ばされる。
何とか立ち上がった俺達はまたもや殴り合いとなる。
殴りかかり、それを防ぎ、また殴る。
見るからに何も考えない様な喧嘩だと思えてしまうが、俺とマギウスは笑みを浮かべている。
まるで好敵手と一種のスポーツを楽しんでいるかの様に…。
戦闘再開から数十分ぐらい経った今、俺達は肩で息をする。
お互いにボロボロで今にも倒れそうだった。
…だからこそ、負けられねえ!
息を整えた俺達は右拳を力強く握りしめる。
「これで…!」
「終わらせる!」
一斉に駆け出した俺達の右拳はお互いの頬に直撃した。
クロスカウンター…。
その威力は凄まじく、俺もマギウスも脳が揺れ、そのまま倒れた。
「ハァ…ハァ…まさか、引き分け…かよ…」
「ハ、ハハハ…。もう動けねえ…」
引き分け…。
あまりにも中途半端な結果のはずなのに俺達は笑いを抑えられなかった。
そんな俺達を見て、少女…エルやメリル達は微笑む。
暫くした後、ようやく動ける様になり、俺達は立ち上がる。
「楽しかったぜ、アルト。次やる時は決着をつけるからな」
「望む所だぜ、マギウス。…それより、早くその子を村まで送ってやった方がいいんじゃないか?」
「そうだな。エル、お前の母さんも心配していたぜ。早く帰るぞ」
マギウスのその言葉を聞いて、エルは浮かない表情で頷いた。
そんな彼女を安心させようとニッ、と笑ったマギウスはエルの頭を撫でた。
「心配すんな。俺も一緒に誤ってやるからよ!」
マギウスとエルの兄妹やり取りを見て、アイムは俯く。
…恐らく、15の事を思い出しているのだろう。
マギウスと同じ様に俺もアイムの頭を撫でるとアイムは俺を見上げ、笑顔になる。
「アルト、お前達も着いて来てくれ。一応、エルの生命の恩人だしな」
マギウスの言葉に頷き、俺達はマギウスとエルに連れられ、歩き出した…。




