優しい心
俺の道を阻む様に左腕に剣を装備した16が立ち塞がり、俺もエンゼッターを手に持ち、構える。
睨み合う俺達…。
暫く沈黙が続くが、16がその小さな口を開く。
「…警告。この先はマスターの部屋…。此処で立ち去れば、攻撃しない」
「脅しか?…悪いが、そんな脅しに臆している場合じゃないんだ。お前等のマスターが俺が護衛している王女様を誘拐したからな」
彼女の警告を一瞬で跳ね除けると、彼女はキッ、と目に力を込める。
「それがマスターの望む事…。だから、私はそれを叶える」
「だったら…力尽くでも通らせてもらう!」
《閃光》で彼女の背後に回った俺はエンゼッターを振るうが、剣で受け止められる。
「…マスターの敵は私の敵…。敵は排除する…!」
エンゼッターを弾いた16は剣による突きで俺を貫こうとしたが、間一髪避け、《パワーキック》で彼女の横腹に蹴りを入れるが、腕を鋼鉄の腕に切り換えた彼女に受け止められる。
にしてもあの鋼鉄の腕…なんて硬さだよ…!
一度、彼女から距離を取った俺はリボルバーガンを四発放つ。
それも鋼鉄の腕に弾かれ、彼女は背中の服に隠れていたブースターを吹かして、俺の懐にまで急接近し、右フックを決められ、殴り飛ばされる。
地面を引きずりながら、後方へ後退する俺は殴られた場所を抑え込む。
「いい一撃だ…。ボクシング選手向きだぜ?」
「ボクシング?」
「…あー、そこは気にしなくてもいい」
っと、俺の世界の言葉はわかるはずがないか。
だが、やられっぱなしってのも嫌だな!
《クイックジャンプ》で彼女の前まで移動した俺は《パワースラッシュ》で彼女を斬り裂く。
左腕の剣で防ごうとしたが、威力が高かったのか、吹き飛び、地面に落下しようとしたが、受け身を取る。
しかし受け身と同時に俺の放った中ぐらいの《光波》が彼女を襲う。
受け身のため、反応が遅れた16は《光波》を受けてしまう。
着弾と同時に爆煙が立つ。
しかし、その爆煙の中から無数の弾丸が放たれる。
まずいッ…!
俺は何とか、《バリア》を展開し、弾丸を防ぐ。
弾丸が俺の足下にコトンコトン、と落ちる中、爆煙が晴れると左腕をガトリング砲に変え、弾丸を放ち続ける16の姿があった。
あの《光波》を受けても無傷かよ…!
弾丸を放つのをやめた16は左腕も鋼鉄の腕に変え、俺に接近し、ラッシュを浴びせてくる。
尚も《バリア》も防ぎ続ける俺…。
だが、彼女のラッシュに耐え切れず、音を立てて、割れる。
右ストレートが俺に迫って来たが、エンゼッターで防ぐ。
金属音を立てながら、俺達を武器越しに睨み合う。
「本当にしぶとい」
「それはこっちのセリフだ。相当タフだな!」
「…理解出来ない。何故、王女を守ろうとするの?彼女の貴方はそこまで親しい仲柄ではないはず…」
本当に理解出来ないという彼女の質問…。
しかし、彼女の瞳は真っ直ぐと俺を見る。
「護衛目的…ってのもあるが、それだけじゃない」
「だったら何…?」
お互い離れ、距離を取り…俺は口を開いた。
「親しいとか、親しくないとか関係ない。…俺は守りたいモノを守る…。ただ、それだけだ」
「…理解不能。その守りたいモノの為に身を傷つける意味が…」
「意味なんてねえよ。俺がただ守りたい…それだけだ。…それに、お前の理解不能って言葉…。本当は嘘なんだろ?」
彼女は嘘をついている…。
俺のその言葉に16はピタリ、と動きを止める。
「…何が言いたいの?」
「ギル隊長の話ではお前が襲った商人や旅人には怪我人がいようとも死人は出ていなかった…。お前程の実力者なら、相手を殺すなんてのはお手の物だったはずだ…。つまり、お前は殺す気なんてなかった…」
「…」
俺の推理に16は黙り込む。
だが、拳をワナワナ、と震わせるのがわかる。
「何故殺す気がなかったのか…。嫌、ただ殺せなかっただけだ。お前には優しい心があるからな」
「違う…」
「その優しい心が殺す前に怪我をさせ、相手を逃げさせた。…死人を出さない様にな」
「違う…」
「お前は口ではマスターを裏切る事は出来ないと言っているが…。心の中では人を殺したくないと思っているんだろ?」
「違うっ‼︎」
俺の言葉を否定する様に珍しく声を荒げる16。
彼女のその目は怒りを帯び、俺を睨みつけている。
「私に心がある?私がマスターを裏切ろうとしている?バカな事を言わないで!私はマスターに造られた存在…だから、マスターの望みは私の望みなの!」
首を横に振り、何度も否定し続ける。
自分はキーズを裏切る事は絶対にない、と…。
「それに相手が死んでいないのは偶然よ!マスターが望むなら、私は誰だって殺す!」
「…」
決して、殺せなかったのではないと言い張る16を見て、俺は一度目を閉じ、再び開け、言い放った。
「だったら…今此処で俺を殺してみろよ」
エンゼッターを地面に突き刺し、両腕を広げた俺の行動に16は戸惑う。
「な、何を…⁉︎」
「お前が本当に人を殺せるなら…。お前の中に優しい心がないのであれば、俺を殺せるはずだ。さあ、殺してみろよ。俺はお前のマスターの敵だぜ?」
早く殺せと、俺は一歩ずつ彼女に近づき、彼女も一歩ずつ下がっていく。
彼女はというと一向に武器も構えようとしない。
「どうした?お前は簡単に人を殺せるんだろ?だったら、やれよ」
「…言われなくても!」
左腕にガトリング砲を装備した16は弾丸を連射する。
無数の弾丸が俺に襲いかかる…だが。
一発も俺には当たらない。
そもそも、擦りもしない。
「おいおい。この至近距離で外すか普通?」
どうして当たらない…。
今の彼女はそう思っているだろう。
それこそが答えだった…。
「どうして…どうして当たらないの⁉︎」
左腕を動かしながらも俺に当てようとするが、一向に当たらない。
「どうして…どうして…⁉︎」
「…もういいだろ。16…。それが答えだ」
「ッ…⁉︎」
答え、その言葉を聞いて、彼女はガトリング砲を撃つのをやめて、目を見開く。
「お前は心のどこかで知っていたんじゃないのか?お前自身にも…優しい心があるって事を」
「そ、そんなワケない!私は魔導人形…。私は…私はマスターの…!」
それでも尚、否定し続ける…。
しかし、彼女の目から涙がポタポタ、と落ちる。
泣いている…。
人によって造り出された魔導人形である彼女がだ…。
そして、その涙を見た俺は確信する。
彼女には本当に優しい心があるのだと…。
「私はマスターの道具なのだから!」
道具…。
確かにキーズによって、造り出された彼女達、アームドシリーズは側からみれば、彼の道具かも知れない…。
だが、そんな事は俺には関係なかった。
「道具?お前が…?」
「そうよ!私は…私達はマスターの道具なのよ!」
「それなら、お前に聞くぜ?…どうしてその道具であるお前が涙を流しているんだよ?」
俺の言葉に彼女は驚き、目に手を当てる。
どうやら、涙を流していた事も気がついていなかった様だな。
「何故…⁉︎理解出来ない…!どうして私に涙が…⁉︎」
「お前は道具なんかじゃない!今此処で、この世界で生きているんだよ!その涙が何よりの証拠じゃねえか!」
それを聞いて、涙が大粒となり、16はその場に座り込む。
「相手を思いやり、相手の為に涙を流せる…。そんなヤツが道具なワケあるかよ。お前は正真正銘…この世界で生きる生命だ」
「麻生…アルト…」
そう言えば、初めて俺の名前を呼んでくれたな。
これ以上、敵意を感じないと思い、俺は奥に向けて歩き出す。
そして、16とのすれ違い様に座り込む彼女の頭にポン、と手を置いた。
「その心を失わない限り、お前はお前だ。…16。後、約束してやる…。俺はリフィル達を助け出し、必ずお前達をキーズからお前達を解放してやる!」
俯き、嗚咽混じりに泣いていた16はハッ!、と顔を上げる。
「ですが…そんな事は不可能です。彼に…マスターに勝つ事は…」
不可能、か…。
「だったら、そのキーズってなの不可能を俺が打開してやるよ!」
ニカッ、と彼女に笑いかけ、俺は奥に向けて、歩き出した…。
その場を後にする俺の後ろ姿を眺めながら、16は目を閉じ、考えた。
そして、考えが纏まったのか、目を開け、力強く立ち上がった…。




