襲撃
ザイガンの谷の奥底で俺は《ゴブリン》の群れと戦っていた。
技能無使用エリアの為、技能は使用できないが、それでも《ゴブリン》達はそこまで強くないので苦戦はしない。
残る一体の《ゴブリン》を斬り伏せる。
何とか終わったか…。
でも、経験値はそこまで入らないな…。
…そう言えば、先ほどから壁の形状が変わって来たな…。
呼び登れる壁はもうすぐか。
「…ん?」
ふと、俺を見下ろす視線を感じ、上を見上げるが、そこには誰もいるはずもなく、気のせいだと思い、俺は歩き始めた…。
…本当に俺を見下ろしていた者がいたのも気づかずに。
俺を見下ろしていたのは白銀の神の男と紫の髪の少女だった。
「成る程…。イネスって、女神に転移されられた程ではあるじゃねえか」
「…でも、メリルの姿が見当たらないわ」
俺の戦いを先ほど見ていた男は興味深そうに呟く。
少女の方は不満そうな表情を覗かせるが…。
「上にいるんだろ?…さて、此処で潰すか?」
「まだ様子を見るわ。彼等が私達が直接手を下す存在か…。消すのはその後よ」
「了解」
男は歩き去る俺の後ろ姿を眺めながら、不敵な笑みを浮かべた…。
一方、その頃…。
ある施設に16は帰って来た。
施設の中に入ると自分そっくりな少女が何人もいて、その中心にフードを被った男が立っている。
「帰ったか、16」
「マスター、申し訳ありません。対象の排除に失敗しました」
任務失敗の報告をしながら、俺の姿をモニターに映した。
「気にするな。奴は今、噂の無職冒険者だ」
「技能複写と呼ばれる奇妙な技能を使うという…」
彼が…、と16は俺の顔を思い出す。
「それよりも奴と共にいたのは帝都ガイールの王女、リフィル・ガイールだ。1」
「はい」
男が呼びかけると赤髪の少女が膝をつく。
「2から10を率い、彼女を連れ去るのだ」
「了解」
1と呼ばれる少女は九人を引き連れて、その場を去った…。
それを見送った男は真隣にいた青髪の少女にも声をかける。
「15…。もしもの時は頼むぞ」
「了解しました」
頭を下げる15を横目に16も自分も行くと言い出したが…。
「16…。お前は休め。大丈夫だ。お前は良くやってくれた」
彼女の頭をポンポンと、叩いた男は立ち去る。
すると、今度は15が16の頭を撫でた…。
「必ず成功させるから、待っていてね、16」
「15…」
ニコリ、と笑いかけた15は歩き去り、その後ろ姿を眺める16の顔は悲しそうな表情だった…。
暫く歩いた後、ついに俺はよじ登れるほどの崖を見つけた。
「さてと、早くアイツ等と合流しないとな…」
相当の高さだ…。
こりゃ時間がかかるかも知れないな。
ブツブツ、と文句を言いながらも、俺は崖をよじ登り始めた…。
俺が必死に崖をよじ登っている頃…。
メリル達はアクアースに着き、市長と話をしていた。
「アクアースへようこそ、リフィル王女」
「遅くなって申し訳ありません。ザイガンの谷で例のローブの人物に襲われてしまいましたので…」
椅子に座るリフィルの後ろにはギル隊長、グレン、メリルが立っている。
「やはり…ザイガンの谷ではローブの人物が…」
「…私の優秀な護衛のおかげで事なきを得ました。こちらでもあのローブの人物について、何かご存知な事はありませんか?」
あえて、ローブの人物の正体が魔導人形という事は伏せている。
「いえ…。ですが、その人物の所為でこの町に来る人々が少なくなってしまって…。商人も襲われている為、食料なども届きにくくなってしまっているのです…」
「それについては既に知っています。私達がこの町に来たのは、その事件についての調査もありますので。この町を仕切っている貴族の方は何処に?」
すると、失礼します、という言葉と同時に白髪の男が入ってくるなり、リフィルに向けて頭を下げた。
「お久しぶりです、リフィル王女様。キーズ・リファパインです」
「ええ、その様子ですと、お変わりない様ですね」
リフィルの少し頭を下げると彼から詳しく話を聞こうとする。
「それで、キーズ。ザイガンの谷の件についてはどういう対応を?」
「一先ず、あの谷への道は封鎖しようかと…。このままでは死者も出かねないので…」
「ですが、それではこの町とのルートが塞がれてしまうのでは?」
「その事についても既に対策済みです。既に別ルートの建設も開始しております」
「…その様な建設現場は見かけませんでしたが?」
リフィルのその問いにキーズは黙り込んでしまう。
しかし、すぐに表情を和らげる。
「でしたら、ご確認しますか?ご案内しますよ」
「…いいえ。私は貴方を信頼しております。今日此処に参ったのはその件の対応と解決をお話に参っただけです。一度、城へ戻り、お父様に報告した後、さらなる解決の線を見出します」
「ありがとうございます」
リフィルは立ち上がり、部屋から出る。
それに続き、ギル隊長達も部屋から出た…。
それを見送ったキーズが市長にも気づかず、不敵の笑みを浮かべた事は誰も気づかなかった…。
部屋から出たリフィル達は外へ出ようと廊下を歩く。
中心を歩くリフィルにギル隊長は問う。
「リフィル様。キーズ様については良くない噂があるとお聞きしましたが…」
「お父様からその話は既に聞いているわ…。でも、証拠がない以上、下手な動きはできないわ」
「そうですね…。ローブの人物の正体に関して、メルド様にはお伝えしますか?」
リフィルは少し考える仕草を見せるが、すぐに答える。
「勿論、話すわ…。それに魔導人形の開発元についても調べなければいけないしね」
ここまで一言も発しなかったグレンとメリルが口を開いた。
「それにしてもあのキーズってヤツ…胡散臭い顔をしていたな」
「ぐ、グレンさん!失礼ですよ!」
悪態をつくグレンを注意するメリル。
そんな彼等のやり取りを見て、リフィルはクスクス、と笑う。
「貴族の人はそんな人が多いわ」
「リフィルさんまで…」
そんな他愛もない話をしながら、彼女達は市長所を出る。
「その表情を見る限り、話し合いは特に問題はなかった様だな」
入り口の壁にもたれかかりながら、俺が笑みを浮かべる。
俺に気がついたリフィル達の表情は明るくなり、駆け寄ってくる。
「アルト!」
嫌、駆け寄ってくるのは良いが、リフィルが俺に抱きついてきた。
…頼むからやめてくれ…。
「お、おい、リフィル!」
「心配をかけた罰よ!全く…!」
周りの視線が痛い…。
俺はグレンやギル隊長に助けの視線を送るが、ニヤニヤ顔で見られるだけだった。
メリルに視線を移すと頬を膨らませて、睨まれる。
…何故、コイツが俺を睨む…?
「兎に角…ガイールに戻るんだろ?早く戻ろうぜ」
まあ、ザイガンの谷を通るって事はまた16に襲われる可能性があるがな…。
「そう言えば、アルト君。あの少女はどうした?」
「…谷底に落ちた後、気を失っていたので…彼女が何処にいるかまでは…」
そうか…、とギル隊長は息を吐いた…。
本当は彼女と少し話をしたのだが、何故かその事を話す気にはなれなかった…。
アイツの…16の寂しそうな表情を見ていられない…。
そう思ったからだ…。
そんな話をしつつ、町の外へ出て、馬車に乗ろうとすると…。
何者かが、落下して来た…。
すぐさまギル隊長がリフィルを守り、俺達は立ち込める土煙の中、片目だけを開き、襲撃して来た者を見る。
土煙が晴れるとそこにいたのは赤髪で緑色の目の少女だった。
しかし、髪の色以外でその容姿は…。
「16…⁉︎」
俺が谷底で話した16にそっくりだったからだった。
「否定。私は1…。貴方の言う、16の姉機」
16の姉…⁉︎
姉妹機って、ヤツか…!
すると、1の後に九人の同じ容姿をした少女が降りてくる。
おいおい…!
コイツ等も16の姉ってワケかよ…!
「アームズシリーズ隊…。我がマスターの命により…。リフィル・ガイールを捕獲します」
1の言葉に俺達は驚愕の表情を浮かべた…。




