16《シックスティーン》
ザイガンの谷の奥底…。
俺は魔導人形の少女と共に落下した所だ。
あの後、なんとか受け身を取ったが、打ち所が悪かったのか、俺は気を失った…。
そして、どれだけの時間が経ったのかわからなかったが、俺は意識を取り戻した。
目を覚ますと、そこには俺の顔を覗き込んでいた少女がいた。
「…生存確認。…大丈夫?」
俺の無事を確認すると、小首を傾げる。
「…あぁ、お前に斬られた所は痛いけど、大丈夫だ」
身体を起こし、辺りを見渡す。
周りには俺達を覆う程の絶壁…。
さらには壁はゴツゴツとしていない為、よじ登る事も不可能だ。
…技能も…やはり、使えないか…,
どうやって、この壁を登るか…。
それを考え込んでいると、少女が話しかけて来た。
「ねぇ…」
「ん?どうした?」
「…どうして、私を助けたの?私は貴方を殺そうとした。貴方にとって、私は敵…」
何だ、そんな事か…。
俺は頭を掻きながら答える。
「特に理由なんてないよ」
「え…?」
その答えに少女は理解が出来ないという顔をする。
「確かにお前は俺の敵だ。…でも、見捨てていい理由にはならない。そんな事をすれば…もう後戻りが出来なくなるからな」
前世のある事件を思い出しながら、俺は軽く拳を握る。
「…理解不能。私は人間ではなく、魔導人形…。マスターによって、開発された道具…」
《《道具》》…。
その言葉を発した少女は悲しそうな表情をする。
「道具、か…。確かにお前は人間によって作られた存在だ。…でもよ、お前は俺の心配をしてくれたじゃねえか。敵である俺の心配を」
それを聞いた少女は目を見開く。
「否定…。私は心配などしていない」
「心配していない人間が〈大丈夫?〉…って、なんて聞かないぞ?」
心配していた事を否定したが、すぐさま反論され、口籠ってしまう…。
「それにお前は本当は優しいヤツなんだな」
「…どうしてそう思うの?」
「…さっきも言ったが、お前にとっても俺は敵だ。なのに、気を失っていた俺を殺そうともせず、介抱してくれた」
またもや少女は黙り込んでしまう…。
こうして見ていると本当の女の子なんだけどな…。
「お前、名前は?」
「魔導人形アームドシリーズ、16号機。名称はA16」
A16…。
しっかりとした名前も与えられないとはな…。
「じゃあ…16だな」
名前を呼ばれた事に顔を逸らした16は指を指す。
「この先…登れる壁が見えてくる。そこから上に上がる事が出来る」
指差す方向を見た俺は再び、16へ視線を戻すと彼女は指を指した方向とは反対方向へ歩いていた。
「16!」
「…次に会うときは敵同士」
俺の呼びかけに振り向かないで彼女は足を止める。
「そうだな。またな、16!」
またな…。
その言葉を聞き取った16は拳を軽く握り、身体を震わせて…歩き出し、暗闇にへと消えた…。
その後ろ姿は寂しさを出していた…。
暫く彼女を見送った俺も歩き出そうとすると、コンディションブレスから音が鳴る。
応答すると、メリルの声が聞こえてきた。
『漸く繋がった…!アルトさん、大丈夫ですか⁉︎』
「メリルか?心配かけて悪いな。俺は何とか大丈夫だ」
俺の無事を知るとメリルから安堵の声が漏れる。
「あの魔導人形の少女と一緒に落ちたので心配しました…。それで、今後どうしますか?」
「俺も何とか、地上に上がる。お前達は先にアクアースに向かってくれ」
「わかりました。では、アクアースで合流しましょう」
通話を切り、歩き出そうとした俺の前に十数体の《ゴブリン》が歩いてくる。
まあ、そう簡単にはいかないよな。
「悪いが通らせてもらうぜ…。仲間が待っているからな!」
鞘からエンゼッターを抜き、俺は駆け出した…。




