ザイガンの谷の魔導人形
水の都、アクアースへ向かう為、帝都ガイールを後にした俺達は馬車に揺られていた…。
目の前にはリフィルとリフィルの護衛騎士の隊長、そして左右にはメリルとグレンが座っていた。
「うお〜!これが王宮製の馬車か!普通の馬車と違って、豪勢な素材で出来ているな!」
俺の左で子供の様にはしゃいでいるグレン。
人選間違えたか…?
護衛騎士の人なんて、呆れた顔をしているし…。
対して、リフィルは笑いを堪えていて、メリルは苦笑している。
「フフフ、グレンは面白い人ね」
…どうやら、グレンにも素で行く様だ。
この護衛騎士の隊長もリフィルの素の姿を知っている様で何も言わない様だ。
「…なんかすみません。ですが、戦闘においてはなかなかの腕なので…」
呆れている護衛騎士の隊長の人にグレンに対しての謝罪をすると、気にするな、と笑顔で返してくれる。
「呆気は取られたが、良い若者じゃないか。いやはや、君は人選の選び方もなかなか良いものだな」
この人は他の騎士や貴族と違って、俺を毛嫌いの目では見ていない様だった。
初めて、リフィルと出会った頃の護衛騎士とは大違いだ。
「名を名乗るのが遅れたな。ワシはギル・アリオン。長きに渡り、リフィル様の護衛騎士の隊長を務めている。昨日の部下が失礼な真似をしてすまない」
「いやいや、気にしていないので構いませんよ!俺は麻生 アルトです。今日はよろしくお願いします!」
握手をする俺とギル隊長…。
しかし、握手をしながら、ギル隊長は俺の目を見続ける。
「えっと…何か?」
「…嫌、何でもない」
苦笑しながら、目を逸らしたギル隊長は手を離す。
「それにしてもまさか、アルトが自分のギルドを建てようとしているとは思わなかったぜ」
「自分でも何かできるか悩んでいてな。それでこの答えに辿り着いたんだ。勿論、メリルにも手伝ってもらうからな」
「はい!精一杯頑張ります!」
笑い合う俺達を見て、リフィルの目が怪しき輝いた。
「ふ〜ん。ヴェイグからの情報は正しかったのね?」
「ん?ヴェイグからの情報って、何だ?」
「え?聞きたい?それはね…」
「ワ〜!リフィルさん、それぐらいにしてください!」
リフィルがヴェイグからの情報を話し出そうとしたが、彼女の言葉を遮る様にメリルが顔を赤くしながら、声を張り上げる。
俺は何の事かわからず、首を傾げるだけだが、何故か、グレンも腹を抱えて、笑いを堪えている。
一体何なんだよ…?
そんな他愛もない話をしていると行者が声をかけてきた。
「まもなく、ザイガンの谷付近です!」
…いよいよか。
いつでも戦闘を出来るように俺達は警戒を始める。
「気を付けてね、みんな。あの谷は深い上に技能無使用エリアだから」
「技能無使用エリア?」
聞き慣れない名前に首を傾げるとギル隊長が説明を始めた。
「その名の通り、技能や特殊技能を使用できなくなるエリアの事だ。強力なモンスターが出ないが、技能を頼った戦い方をすると、ピンチになるエリアなんだ」
そんなエリアがあるのか…。
「アルトさんは特に気をつけないといけませんね!」
「お前にだけは言われたくねえよ!」
メリルにツッコミを入れていると、馬車が急停車する。
「た、隊長!前方に…ローブの人物が現れました!」
「何だと…⁉︎」
来たか…!
俺達が外に出ると既に複数の騎士達がローブの人物を取り囲んでいた。
ローブの人物の顔は見えないが、背丈からして子供か、女か…?
「警告する!大人しく投降しろ!さもなければ、剣を抜く!」
ギル隊長の言葉にローブの人物は無言を貫きながら、左腕から剣を取り出す。
袖に隠れて、剣を持つ腕は見えない。
だが、奴の武器はチェーンソーだけじゃなかったのか。
「致し方ない…抜刀!行け!」
指示を受けた騎士達は剣を抜き、ローブの人物に襲い掛かった。
しかし、ローブの人物はその場から避ける様な動きも見せず、身体を横に回転させる。
すると、剣から無数の斬撃が放たれ、ローブの人物に襲い掛かった騎士達に直撃し、俺達の元まで吹き飛ばされる。
次々と地面に崩れていく騎士達を見て、俺達も武器を構える。
「メリル!ギル隊長と共にリフィルを守れ!グレン、行くぞ!」
「おう!」
リフィルの守備をメリルとギル隊長に任せ、俺達は駆け出した。
先手を打ち、グレンが攻撃を仕掛けるが、彼の剣をローブの人物が自身の剣で受け流す。
さらに裏拳をグレンの顔面に入れる。
「ぐっ⁉︎…ンノヤロウ!」
一瞬、フラついたグレンだがすぐ様、剣を振るう。
だが、何事もない様に剣身部分を受け止める。
「かかったな!…《炎身》!」
剣身に炎を纏わせるグレン。
ローブの人物は逃げようとしたが、もう片方の腕をグレンの腕が掴んでいた。
真紅の炎が纏われた剣身を掴んでいたローブの人物…これでダメージが入る…はず…⁉︎
ローブの人物は呻き声も上げず、ダメージを受けている様子もない。
これは俺達も驚く。
「な、何で無事なんだよ…⁉︎」
すると、掴まれていた左腕を振り解いた後、彼を蹴り飛ばした。
あまりの威力にグレンは地面で蹲る。
そして、彼を見下ろしながら、右掌を彼へ向けると何と掌の中心部分が開き、砲身を覗かせた。
「ッ…⁉︎」
砲身を向けられたグレンは動けずにいた。
そこへ、俺がエンゼッターで斬りかかった。
その攻撃を剣で防いだ為、砲身による攻撃を中断し、右掌を戻した。
次の標的を俺に変え、左腕の剣をチェーンソーに変える。
「まさか、それをこの世界で見る事になるとはな!」
音を立てるチェーンソー構え、ローブの人物は俺に何度も斬りかかってくる。
エンゼッターで防ぎ続ける。
いや、回転の所為で防いでいるというより、弾かれているの間違いか…。
それにコイツの動き…無駄がない…!
このままでは部が悪いと俺は距離を取る。
そして、上空に雷雲を形成した瞬間、ローブの人物が迫ってきた。
攻撃を防ぎながら、避ける。
その動きをしていると雷雲の形成に成功する。
それを確認した俺の腹にローブの人物は蹴りを浴びせてくる。
俺は軽く吹き飛ばされるが、すぐさま手を振り下ろした。
「《サンダーボルト》!」
雷雲から放たれた落雷がローブの人物に直撃した。
軽く爆発し、煙が立ち込める。
それでも尚、俺は警戒を強める。
煙が晴れるとそこには…。
「…危険度上昇…」
丸焦げになったローブが外れ、そこには緑の瞳にツインテール状の水色の髪をした少女が立っていた。
年齢的に10歳ぐらいか…⁉︎
「お、女の子…⁉︎」
「あのガキが…旅人や商人を襲っていたのかよ…⁉︎」
驚く俺の背後でメリル達も驚愕の表情を浮かべていた。
すると、少女は口を開いた。
「…貴方は今まで襲ってきた人達とは違う。…強敵。だから、消去する」
そう言うと少女は、右拳を作り、腕を突き出してきた。
また、砲身を抜き出しにさせるつもりか…?
そもそも、彼女は…?
すると、右腕が外れ、まるでロケットの様に俺の方へ飛んで来た。
「ウッソだろォ⁉︎」
予想外の攻撃に避ける事が出来ず、ロケットの様に飛んで来た腕をエンゼッターで防いだが、あまりの威力に俺は後方へ吹き飛ばされ、岩に激突する。
右腕は少女の腕に戻り、再び戦闘態勢に入る。
「アイツ…腕を飛ばしやがったぞ…⁉︎」
「もしや、彼女は…魔導人形…⁉︎」
リフィルの言葉に俺達の視線は彼女へと向かう。
「魔導人形とは何ですか…⁉︎」
「魔力によって動く人形…。十数年前に廃止されたと聞いたけど…!」
だから、グレンの炎も耐えれたってワケか…!
「へっ。それにしてもまさか、この世界に来て、チェーンソーばかりか、ロケットパンチまで見られるとはな…!」
「訂正。これは《ナックルミサイル》」
間違えないで、と言わんばかりの顔で俺を見る少女。
いや、変わんねえだろ…。
「それは悪かったな!…なら、俺も本気でいくしかないな!」
《ウイング》を発動した俺は上空へ飛ぶ。
空からの奇襲なら、何とかなるはずだ…!
そう思って、下を見ると俺の表情も驚愕に変わる。
何と、少女が俺目掛けて飛んで来たのだ。
そして、俺の視線は彼女の背中に向く。
「飛行ユニット…⁉︎まんま、ロボットじゃねえかよ⁉︎」
後ろにターボが搭載された鋼鉄の翼で空を飛んで来た様だ。
そのまま俺達は空中戦となり、エンゼッターとチェーンソーをぶつけ合う。
火花を散らす攻防が続く。
しかし、少女が不振の動きを見せると、目の前にいたはずの少女の姿が消える。
「…⁉︎後ろかッ…!」
俺は背後を振り返ったが、既に俺の腹を目掛け、チェーンソーが横振りされていた。
防ぐ事が出来ないと悟り、翼を羽ばたかせ、後方へ下がる。
しかし、浅く腹を斬り裂かれた。
浅くとも腹を斬り裂かれた痛みを受ける俺…。
だが、後方へ下がっていなかったら、確実にチェーンソーの餌食だったぞ…!
「アルトさん!」
「だ、大丈夫だ…!」
「しぶとい…」
ウンザリした様な表情で再び、チェーンソーを構える少女…。
こっちもこんな攻撃を何度も受け続ける気はない…。
だったら、次で決める…!
翼を羽ばたかせ、俺は少女に突っ込んだ。
俺の動きを悟った少女も俺に突っ込む。
お互い、エンゼッターとチェーンソーを構え、すれ違いざまに斬り裂こうとした…。
しかし、チェーンソーが当たる寸前で体勢を変え、チェーンソーの攻撃を避けた後、彼女の背中を取る。
「ッ…⁉︎」
「取ったッ!」
少女の背中の飛行ユニットを《パワースラッシュ》で斬り裂くと飛行ユニットから煙が出る。
そして、小さな爆発を起こし、少女の身体は谷の底へ落下していく。
「マズイッ…⁉︎」
この高さから落ちれば…!
俺は落下していく少女に突っ込み、抱き抱える。
だが、谷の技能無使用エリアに入ってしまい、《ウイング》が解除されてしまう。
メリルとグレン、そしてリフィルとギル隊長が俺を谷の底を覗き込みながら、俺の名を叫ぶのは見えた。
「ウワァァァァァッ…⁉︎」
だが…俺の身体は少女事、谷の奥底まで落下して行った…。




