メルド・ガイール
俺達の目の前の少女がまさか、帝都ガイールの王女だったとは…。
兎に角、正体を知った俺達は片膝をついた。
「も、申し訳ありません王女様!」
「私達、無知な所為で王女様に無礼な態度を…!」
俺達の咄嗟の動きにリフィル王女はポカン、となったが、すぐにクスクス、と笑い出した。
「構いませんよ。貴方達は私の生命の恩人なのですから。それよりもヴェイグ、この方達はどなたですか?」
笑うのをやめ、ヴェイグに問いかける。
すると、ヴェイグも敬礼を取り、答える。
「はっ。この者達がメルド様がお会いになりたいと仰られていた二人です」
すると、リフィル王女はまあ、と声を上げ、和かに笑う。
「貴方達がお父様が大いに興味を抱いていた冒険者の方々なのですね!」
掌を合わせながら、俺達の正体を知り、嬉しそうな表情をする。
「はい!麻生 アルトです!」
「メリル・シーニングと申します!」
名前を名乗った俺達は敬礼をする。
「アルト殿とメリル殿ですね。よろしくお願い致します」
その後、グレンも自己紹介をし、俺達はリフィル王女達と共に帝都ガイールへ向かった…。
その向かっている最中の事だが…。
「…どうしてこうなった…?」
俺は今、リフィル王女の馬車の中で座っている。
メリル、ヴェイグ、グレンは元の馬車の中にいる。
目の前にはニコニコしているリフィル王女と彼女の担当騎士が恨めしそうにこちらを睨みつけてくる。
「…申し訳ありません、王女様。何故、俺をこちらの馬車へ?」
「貴方には色々とお話をお聞きしたいのです!」
…好奇心ってヤツか…。
「わかりました。何からお聞きしたいのですか?」
「ありがとう。それではまず…」
こうして、帝都ガイールに着くまで、俺とリフィル王女はそれぞれの事を話し出した…。
一方、メリル達が乗る馬車の中では…。
「ム〜」
メリルが前方で走るリフィル王女の馬車を睨みつける。
「メリル、どうしたんだよ?」
彼女の明らかに不機嫌です、という表情を見て、グレンは首を傾げる。
そんな彼の横で苦笑しながら、ヴェイグは彼の肩を持つ。
「聞かない方がいいよ、グレン。恋する乙女というのは我々、男には理解できない」
「恋だぁ?…あぁ、成る程な」
ヴェイグの言葉を理解したのか、グレンも何度か頷く。
そして、数秒置いて、メリルが顔を赤くする。
「なっ…⁉︎ち、違います!私は…別に、アルトさんの事など…」
「おやおや。私は別にアルトの名など出していませんが?」
意地悪な人です、と目を細めてヴェイグを睨み付ける。
「そう言えばよ。気になっていたんだが、アルトとメリルはどういう関係なんだ?その様子だと、恋人ではないんだろ?」
グレンの質問にメリルは回答を困ってしまう。
この世界での俺とメリルの関係は冒険者としての相棒だが、本当の関係は女神と転移者だ。
しかし、転移者や女神の事を話せるはずもなく、少し考えた後、答えた。
「私達は昔からずっと一緒にいる幼馴染です」
「その割に君はアルトの事を《《さん》》呼びするんだね?」
ヴェイグの指摘にたじろいでしまう。
確かに、幼馴染なのに、俺の事をさん呼びするのはおかしいモノだ。
「わ…私は小さな頃からお父様に礼儀の正しい子でいなさいと言われていたので…さん呼びが癖になってしまっているのです」
苦し紛れの言い訳だと自分でも思ってしまうが、理由を聞いたヴェイグとグレンは納得してくれた。
ホッと息をついた頃に馬車は停車する。
どうやら、帝都ガイールに着いたようだ。
俺達は馬車から降り、帝都ガイールの街を見渡す。
イズルリの街も賑やかだが、こっちも負けずに賑やかだな…。
流石は帝都…。
「それじゃあ、俺はクエスト達成報告してくるよ」
「はい。またお会いしましょう、グレン殿」
リフィル王女に笑いかけられたグレンは緊張しながらも、頭を下げ、失礼しますと走り去った…。
俺とメリルはリフィル王女やヴェイグの案内で王宮に入り、王座の間の扉の前に辿り着いた。
「アルト殿、メリル殿。お父様がお待ちです。どうかお入りください」
リフィル王女はそう言っているが…。
ヤベェ、スゲェ緊張してきた…。
「ア、アルトさん…き、緊張しているんですか?」
「そ、そういうお前も緊張しているじゃねえか…。女神のクセに…」
「それは関係ないじゃないですか…!」
緊張しつつも口喧嘩をする俺達に痺れを切らしたのか、ヴェイグは溜息を吐く。
「…気持ちはわかるが、そろそろ入ってくれないかな?」
その言葉に無言で頷いた俺達は扉を開く。
扉の先では左右に二十人程の貴族や男爵がいて、その奥の王座に王冠を被った男の人がいる。
…あ、あの人がこの国の国王…メルド・ガイール様か…。
覚悟を決め、俺とメリルは歩き出す。
視線が俺達に集まるが、貴族や男爵達の視線は痛々しいモノだった。
指図め、貴族でもない俺達がこの王宮…さらにメルド様との謁見をよく思っていないのだろう。
…気にしたら、負けだ。
自分にそう言い聞かせ、俺達は王座の目の前まで来た所で片膝を付き、敬礼した。
すると、ヴェイグも真横にたどり着き、同じく敬礼を取った。
「メルド様。麻生 アルト並びにメリル・シーニングをお連れしました」
ヴェイグの言葉にふむ、とメルド様は頷いたので、俺が代表して名乗る。
「初めまして、メルド・ガイール様。俺は麻生 アルトと申します。こちらは相棒のメリル・シーニング…。この様な謁見を開いていただき、真にありがとうございます」
「いやいや。ようこそと言おう、麻生 アルト。忙しい所、来ていただき、こちらこそ感謝している」
…案外、フレンドリーな人だな…。
「して、麻生 アルトよ。ソナタ達の活躍は耳に入っている。騎士団もソナタ達には世話になっているともな」
ん…?貴族の列夜中にルークさんもいるじゃねえか。
「い、いえ…勿体ないお言葉です」
「無職という君の二つ名を聞き、少し興味を抱いていたが、よもや、町を守る程の力を得ていたとは…」
それ、二つ名になってたのかよ…。
「…お聞きしますが…何故、俺達と謁見を?」
「ソナタ達に何を褒美を与えたいと思ってな。何でも叶えよう」
ま、マジかよ…。
国王自ら、褒美を与えてくれるって…。
「よ、よろしいのですか?」
「ソナタ達のおかげで、多くの民の生命が救われたのだ。このぐらい当然の事だ」
褒美か…。
だったら、アレを頼んでみるか。
「…では、失礼ながらお願いしたい事があります」
俺が口を開くと、視線が集まってくる。
しかし、俺は臆せず、言葉を続けた。
「イズルリの街の北部に小さな泉があります。そこの土地の所持権を頂きたいのです」
俺の申し入れには皆は驚きの表情に変える。
「…あの泉か…。何故その土地の所持権が欲しいのだ?」
「今日、俺達の冒険者ランクはBとなりました。ランクBとなった冒険者はギルドを立ち上げる事が出来るとお聞きしました。…なので、そこに俺達のギルドホームを作りたいのです。…困っている人達の悩みやクエストを申請できる…便利屋ギルドを」
便利屋ギルド…。
俺がやりたいと思っていた事の一つだ。
この世界に来て、流れで冒険者となった俺…。
しかし、俺は今、技能複写という凄まじい力を持っている。
…だからこそ、この力を困っている人達の為に使いたい…。
「便利屋ギルドか…。面白い事を思いつくものだな。…しかし、もしだが、依頼者が悪党であればどうする?」
中には依頼人を偽って、悪行の手伝いをさせる奴等もいると聞く。
…しかし、答えは決まっている。
「俺達は平等に依頼を受けます。…しかし、それは善意のある者だけ…。俺達が信用できなければ、どれだけの報酬を注ぎ込まれようと、依頼を受ける事はしません」
「…つまり、例え我々の依頼でもソナタの納得がいかなければ、依頼を受けないという事か…」
メルド様の言葉に俺は無言で頷いた。
無言で見続ける俺とメルド様…。
しかし、ヴェイグやルークさん以外の周りの貴族達は声を上げる。
「な、何という無礼な者だ!」
「たかがBランクの男が調子に乗りおって!」
「何、この国を陥れる悪人になるに決まっている!所詮、奴は無職なのだからな!」
どうやら、俺の申し入れに周りの奴等は納得がいかないようだ。
…やはり、出過ぎた事だったか…?
「…良いだろう」
メルド様の呟きに騒いでいた貴族達が黙り込む。
「ワシはソナタを信じられる。…聞いているぞ?ソナタ達はリフィルの生命の恩人でもあるとな。のう、リフィル?」
そう問いかけると扉がガチャリ、と開き、リフィル王女が入ってくる。
「はい、お父様。彼等は私や私の護衛の騎士達を守ってくれました。私は彼の申し入れを受けたいと思っています」
非難の声を上げていた貴族達を見渡して言い放つリフィル王女。
その目は少し怒りを込めらせていた。
リフィル王女の目を見た貴族達はたじろぐ。
「そうだな。良かろう…ソナタの願いを叶えよう」
了承してくれた事に俺とメリルは笑顔になる。
だが、しかし…、というメルド様の言葉に首を傾げる。
「土地を与え、ギルドホームを建てるという事で一つ依頼したい事がある」
…まさか、第一号の依頼者がメルド様になるとは…。
「何でしょうか?」
「明日、リフィルはここから南にある水の都、アクアースへ会合に向かう事になっている。ソナタ達にはその護衛をお願いしたい」
「かしこまりました。…実はあと一人、連れて行きたい男がいるのですが、よろしいですか?」
「構わん。それと一に気を付けて欲しいのは途中で通るザイガンの谷だ」
ザイガンの谷…?
「そこで何かあるのですか?」
メリルの問いにルークさんが答える。
「数日前からザイガンの旅を通る旅人や商人がローブを着た何者かに教わるという事件が起きている」
ローブを着た何者か…?
そして、尚もルークさんが続ける。
「その者は回転する鋸で主力の武器としているようだ」
回転する鋸…チェーンソーか…?
ってか、鋸ってこの世界にもあるんだ。
「ご忠告ありがとうございます。騎士団の方はどうなっていますか?」
騎士団から誰か派遣されるのかどうかを問うとヴェイグは首を振る。
「すまない。私の隊とルーク隊長の隊も今日中に別の任務へ向かわなければならないんだ」
…つまり、着いてくるのはリフィル王女の護衛の騎士だけか。
「その依頼…謹んでお受けしましょう」
「うむ、感謝する。では、支度を整えるといい。今日は城で休むといい」
「「ありがとうございます!」」
敬礼をして、俺達は王座の間を後にした…。
王宮を一度出て、俺達は街へ繰り出し、依頼の準備をする。
途中、グレンと出会い、今回の件をグレンに話すと彼も手伝ってくれると話した。
そして、その夜…。
俺達はパーティーを受け、それぞれ用意された部屋で寛ぐ。
俺の部屋でメリルと話していると扉をノックする音が聞こえてくる。
「はい?」
「リフィルです、アルト殿」
「リフィル王女…?お待ちください、今開けます」
俺が扉を開き、リフィル王女が入ってくる。
その姿は寝巻き用のドレスだった。
「明日はお願いしますね」
「こちらこそ、精一杯護衛させていただきます」
俺の返しにリフィル王女は不満そうな顔をする。
何だ…?
「…よし、決めた。これから私は貴方達の前では王女キャラを止めるわ」
…おい、待て。
リフィル王女のキャラが変わったぞ…?
「これが私の素なのよ。いつも疲れるのよね〜。あのキャラ…」
マジで…?
「だから、これからは貴方達の事をアルトとメリルって呼ぶから…貴方達もリフィルでいいわよ」
いや、待てって!
急過ぎるだよ!
「え…い、いや…本当によろしいんですか?」
「ええ、勿論よ」
リフィル王女の言葉に俺は悩むが、意を決して口を開く。
「…じゃあ、明日はよろしくな。リフィル」
微笑んだ俺は手を突き出し、握手を求める。
それには何故か、驚いた様な表情をしたリフィルだが、すぐに笑い、握手をした。
「えっと…。では、僭越ながら、リフィルさんと呼ばさせていただきます!」
「ええ、よろしくね」
この後、暫く話し合った俺達。
メリルとリフィルも自分達の部屋へ戻り、就寝した…。
ー翌日…。
支度を済ませた俺達は馬車に乗る。
出迎えには貴族達やメルド様も来ていた。
メルド様と挨拶を済ませたリフィルも馬車に乗り、俺達は水の都、アクアースへ向かった…。
ーとある施設の奥では一人の男とローブを被った人物がいた。
「今日も何者かがザイガンの谷を通る。…その者の排除を任せたぞ、16」
男の命令にローブの人物は頭を下げた…。
「お任せください、マスター。マスターの敵は…私が排除します」
ローブの中ではその人物の目であろうか…。
目の色が緑色に輝いた…。




