親友
初めて麻生君と出会った夢を見た私はゆっくりと目を覚ます。
痛む身体を堪えながら、身体を起こし、辺りを見渡す。
…ここ、アクアースの宿屋?
すると、扉が開き、ノエルが入ってきた。
「ス、スズカ様⁉︎ 目が覚めたのですか⁉︎」
私の目が覚めた事に気がついたノエルは心配そうな表情を浮かべ、私に詰め寄る。
「心配かけてごめんね、ノエル。私は大丈夫よ」
「ご、ご無事で何よりです…。お待ち下さい! 今、治癒を致しますので」
そう言うとノエルは私に《ヒール》をかけてくる。
…そう言えば確か、気を失っている相手に《ヒール》を使っても治りが遅いんだっけ。
ノエルの発動してくれた《ヒール》のおかげで傷がみるみる癒えていく。
こう言うのを見ると本当にファンタジーな異世界に来たのだと再認識されてしまうわね…。
治癒が終わるとノエルは私から少し離れ、容態を確認してくる。
「終わりました! お身体のお加減はどうですか?」
「何ともないわよ。少し、気怠さがあるけど、何とかなるわ。ありがとう、ノエル」
それから私は気を失った後の事をノエルから聞いた。
ノエルが…此処まで運んでくれたのね…。
話を聞いた後、未だ身体に疲れが残っていた為か、急激に眠気が襲ってきたので、私はゆっくりと眠りに入ろうとしていた。
ノエルも気を利かせてくれて、部屋を後にしてくれた…。
夢で麻生君と初めて出会った時の夢を見たけどあの時の事…麻生君は覚えてなかったんだよなぁ…。
二年になって、同じクラスになったけど、あまり話さなかったし…。
っというか、私が進んで話せなかったんだけどね。
話したのは挨拶ぐらい…。
私が気恥ずかしくて話しかけなかったのもあるけど…隣の席になった時、気付いてしまった。
彼が…時より、後悔した様な悲しみの表情を浮かべる事に…。
だけど、私は聞かなかった…。
いいえ、聞けなかったのいい間違いね。
何か…これ以上、彼の中へ踏み込んではいけない…。
そんな気がして、怖気ついて…彼の悲しみの表情に気づかないフリをしていたの。
私は…そんな自分が嫌だった。
親友…誰かの為になら、強気でいられる…そんな気がしていたのに…いざとなれば、動けなくなる。
だから…あの男の人達にも負けそうになったんだ…。
どんな事があっても…愛美だけは…守ると決めたのに…!
ー栗原 愛美…。
彼女と出会ったのは幼稚園の頃だった…。
出会いと友人になったきっかけは単純なモノだった。
愛美の両親は仕事に追われていたらしく、彼女のお弁当を作り忘れた為、愛美はお茶だけでお昼を凌ごうとしていた。
「ねえ? お弁当はどうしたの?」
流石に見てられず、私が愛美に声をかけると彼女はお弁当を持ってきていない事を話してくれた。
私は幼いながら、両親が育児放棄をしているのではないかと、疑ったが、そうでもないらしい。
何でも、愛美自身が夜勤疲れで眠っている両親を起こさない様に一人で準備して、幼稚園に来たらしい…。
強くて優しい…私はそんな彼女に惹かれてしまった…。
そして、私はお弁当を愛美と二人で食べ合う事にした。
最初は愛美も遠慮していたが、話を続けるうちに二人で一つのお弁当を食べた。
その日から愛美と仲良くなり、彼女の両親とも会う事が多くなった。
愛美がいない時に彼女の両親から仲良くしてくれて、ありがとうと言ってくれた。
食事をかわして、分かった事は愛美の両親は本当に彼女を毛嫌いしているワケではない様だ。
それにあの一件以降、家族で一緒にいる時間を増やした様なの。
愛美の両親も私を本当の娘の様に扱ってくれて、居心地が良かった。
それから数年が経ち、私達も中学生となっていた。
この数年経った後でも愛美との関係は変わらずにいた。
そして、この歳にもなると得意不得意が分かれる様になっている。
私はスポーツ優秀で、愛美は勉強優秀…。
それなので、私はよく愛美に勉強を教えて貰っていた。
「さて、此処の問題の答えは?」
「…えっと…15%?」
「正解! うん、やっぱり鈴香ちゃんは頭がいいね!」
「…毎回、愛美には勝てないけどね」
本当に愛美には頭で勝つ事ができない…。
それに…愛美は男子から人気もあるし…。
「そのかわり私は鈴香ちゃんにはスポーツで勝てないけどね」
「サッカーでオウンゴールしてしまう程おっちょこちょいだものね」
「ちょっ⁉︎ それは言わないでよ⁉︎」
恥ずかしそうに顔を赤くする愛美に私はクスクス、と笑う。
「…あ、鈴香ちゃん…。ちょっといい?」
突然、表情を固く変えてきた愛美に疑問に思いながら、問いかけると、一枚の手紙を見せてきた。
「手紙…?」
あ、何となく察したわ。
手紙を読むと『放課後、屋上へ来てください』と書かれていた。
「これ…ラブレター…?」
思わず、ラブレターと口にしてしまい、愛美は真っ赤にした顔を両手で隠した。
あ、なんか可愛い…。
「やっぱり、鈴香ちゃんもそう思う…? どうしようかな…?」
「どうしようって…行くしかないでしょ?」
私もそうだけど、愛美は誰かに告白とかされた事がないからな〜。
どうしたらいいか、わからないんだと思うわ。
その放課後、愛美は指定された場所に行き、数分後に戻ってきた。
…あんがい早いわね。
「どうだったの、愛美?」
「手紙を書いてくれたのは須藤 雅史君だった」
須藤 雅史君って…イケメンだって有名の…。
「それで、なんて言われたの⁉︎」
友人の告白話に釘付けになった私…。
愛美は苦笑するも、答えてくれた。
「初めて見た時から、好きでした…って、言ってくれたの」
おぉ、一目惚れってやつね!
「…でも、断ったけどね」
…え?
…嘘?
「どうして断ったの⁉︎」
「断ったというか…お友達から始めようって言ったの。だって、須郷君とは話した事もなかったから…」
あぁ、流石は愛美ね。
確かに私も話した事のない人とは…はい、そうですとは言えないわね。
…だけど、数日後この告白を断った事で事件が起きた。
須郷君は女子にも相当人気があり、須郷君が愛美に告白した事をよく思わない女子生徒達が愛美にイジメ行為を始めた。
何度も助けに入った私だったけど、次第に私も目をつけられる様になっていた。
イジメが起こって数日後…。
いつもの様に愛美がいじめっ子達に連れられた事を知り、その場に着くと、既にいじめっ子達は愛美に手を挙げようとしていた。
すかさず私が助けに入ろうとしたが、いじめっ子の一人が口を開く。
「それにしても、波城ってバカよね?」
「そうね。こんなバカに関わるなんて…相当頭のネジが外れているわね」
この場に私がいないからって、言いたい事を言って…!
流石に堪忍袋の緒が切れ、私は走る速度を早めたが、次に聞こえた声で立ち止まる事になる。
「取り消して…!」
「え…?」
「私の事はどれだけバカにしてもいいよ…。でも、鈴香ちゃんをバカにする事だけは許さないから‼︎」
そう言うと掴まれていた腕を振り解き、目の前にいたいじめっ子を叩き飛ばした。
まさかの反撃にいじめっ子達は驚き、目を見開いていた。
「…!」
睨み付けられ、いじめっ子達は逃げた…。
それとすれ違う様に私は愛美に抱きつくと、愛美も涙を流しながら抱きしめ返してきた。
涙で顔を濡らしている状態を見ると強気で無理していたらしい。
でも、この日…親友の大切さを改めて実感した…。
何としてでも愛美だけは守ってみせる…そう思いながら…。
その事を思い出しながら、私は眠りについた…。




