訓練
ムルナウを倒して、囚われていた少女達を救い出してから、もう一週間が経過した。
囚われていた影響で衰退していた少女達もこの一週間で回復していた。
今、私はエリスと共に農業の手伝いをしている。
「…ふう。これで終わりね」
「お疲れ様、スズカ」
缶ジュースを手渡され、ありがとう、と一言言い、受け取って椅子に腰掛けて、飲み始めた。
暑い中、農業をしていた為、ヒンヤリとしたジュースが身に染みるわね。
すると、エリスも私の隣に座り、ジュースを飲み始めた。
「…あの事件からもう一週間も経つのか…。速いね」
「時間なんてあっという間だって、お母さんが言ってたよ? いつの間にか大きくなって、いつの間にか恋をして、いつの間にか結婚して…いつの間にかお婆ちゃんになるモノだって」
「あ、アハハ…。否定はできないね」
お婆ちゃんなんて、考えてもないよ…。
それよりも結婚かぁ…。こっちの世界だと過激な彼氏とか出来そうな気がする…。
「スズカはモテそうだよね?」
「えー! それはないよ!」
前の世界じゃ、モテなかったし…。
付き合った経験なんてのもないし…。
「エリカこそ、モテるでしょ?」
「…そんな事ないよ」
それにしても、恋…か…。
私は…麻生君の事をどう思っているのかな?
「…ねえ、スズカ」
「何、どうしたの?」
「スズカは…いつまでもこの村にはいないんでしょ?」
「…うん」
そう、私はそろそろこの村を出て、麻生君探しを再開しようと考えていた。
いつまでもこの村にはいられないから…。
「だったら、この村にいる数日間でいい…。私を強くして!」
「え…? 急にどうしたの?」
拳を強く握って、私に強くなりたい、と告げるエリスに私は尋ねる。
「今回はスズカがいてくれたから、どうにかなった…。でも、またいずれ、誰かに襲われる…。それを防ぐ為にも私が強くなって、誰かを守りたいの」
エリス…。
エリスの覚悟は本物…無碍には出来ないわね。
「…わかったわ。私も教えるのはそこまで得意じゃないけど…教えられる所まで力になるわ」
「ありがとう、スズカ」
どういたしまして、と返し…私達は農業の続きを始めた…。
それから翌日…。私とエリスは剣の訓練を始めた。
まあ、勿論木刀でだけどね。
「やあーっ!」
エリスの何の捻りもない突きによる突進を避けた私はエリスの背中に木刀でコン、と叩いた。
「ただ突っ込むだけじゃ、相手に背後を取られるわよ!」
「っ…ハアァァッ!」
今度は闇雲に木刀を振り回してくるが、私はそれをすべて防ぎ切り、エリスのお腹に木刀を一撃を入れた。
一撃を受けたエリスはお腹を抑えて、蹲った。
そんな彼女に私は追い討ちをかけた。
「蹲っている時間はないわよ!」
「うぅっ…⁉︎」
出来るだけ、顔は狙わず、エリスに突進で吹き飛ばした。
地面を転がるエリスはそのまま倒れ込む。
「立ちなさい! その寝ている間でも敵は待ってくれないわよ! それとも、あなたの覚悟はそんなモノだったの⁉︎」
「…勝手な事を言って…! 少し私より上だからって、私を甘く見ないで‼︎」
叫びながら立ち上がるエリスを見て、私は少し、ニヤリ、と笑い再びエリスと木刀を打ち合った…。
その夜…。
私とエリスはエリスの家のお風呂に入っていた。
「うぅっ…。痛い…」
「ご、ごめん…やり過ぎた」
「構わないよ。スズカは渡しを強くしてくれているから」
お湯で傷が痛むのか、エリスは顔を歪ませる。
そんなエリスを見て、私は苦笑してしまう。
「そう言えば、スズカはアソウってひとを探しているのよね?」
「うん! 何か知らない?」
「ううん、わからない…」
そっかぁ…。
麻生君…何処にいるんだろう?
「スズカはさ…その人の事好きなの?」
うぇっ…⁉︎
「う、うーん…好きとは…ちょっと違うかな?」
「え?」
「実は麻生君とはそこまで親しくもないし、話した事もそんなになかったの。…でもね。彼は何処か寂しそうに…辛そうにしていた事があったの。それは誰にも見せずに、一人で抱え込んでいた。…私が問いかけても、何ともないって言ってくるし…」
覚えば、初めて話したのがそれだったのかも…。
「そして、彼は突然いなくなった…。みんなに何も言わず…。だからこそ、私は彼を探して、力になりたいと思ったの」
「誰かの為に、か…。凄いね、スズカは」
「何言ってるのよ、エリス。あなたも、でしょ?」
「うん…。よしっ! 明日も張り切る!」
お風呂からバシャ、と出て張り切るエリスに私は微笑んだ…。
それから三日間…私とエリスは訓練を続けた。
その三日目にある変化が起きた。
いつもの様に突っ込んできたエリスの動きがまるで残像を残す様に揺れ、気がつくと私の目の前までに来ていた。
咄嗟に攻撃をガードし、私はエリスから距離を取る。
「エリス…!」
「まだまだ!」
同じ動きで私を翻弄しようとするけど、そこは私の動きで止められ、エリスは吹き飛ばされた…。
そして…。
特訓を初めて一週間後…。
私とエリスはいつもの様に向かい合い、構えた。
しかし、手に持つのは木刀ではなく、本物の真剣だった。
「…行くよ!」
「ええ!」
エリスは剣の剣身を靴の踵に当てると剣身に炎を纏わせた。
成る程…靴との摩擦を活かした着火の技ね…。
流石に炎の剣を受ける事は出来ず、それを避け、技能 《スラッシュ》を発動、彼女に攻撃を仕掛けた。
だけど、彼女は大きく息を吸い込み、その場に構え、私の攻撃を受け止めた。
集中させて、全身の体重を両足に込めたのね…!
全くもう…この短期間でよくそんな技術を…。
これで技能を覚えたら、どんなに強くなるのかな?
「…っやあっ…!」
私の剣を力で弾いたエリスはそのまま回転斬りで攻撃してきた。
すかさず私も攻撃を受け止め様とした、が…。
「うっ…⁉︎」
あまりの力に剣ごと大きく吹き飛ばされ、地面に着地した。
マズイ…! すぐに体勢を…!
体勢を整えようとした私だったが…。
既に遅かった…。
「…!」
一瞬で私との距離を詰めていたエリスの剣先が私の首元を完全に捉えていた…。
これが本当の戦いだったら、確実に私は殺されていたわね…。
「…私の勝ち、でいい?」
「うん、勿論」
その言葉を聞いたエリスは剣を下ろし、私に手を差し伸べた。
そのエリスの手を掴んだ私は立ち上がり、エリスと笑い合った。
「おめでと、エリス! これでもう教えられる事はないわ!」
「ありがと、スズカ!」
これで…もうこの村に残る理由はないわね。
「…じゃあ、私行くね」
「…うん」
私は既に用意してもらっていた荷物を持ったノエルの下に行き、荷物を受け取り、村の出口に向かう。
「スズカーーー!」
私を呼ぶエリスの声に私は振り返る。
「また来てね! 絶対だよ! また強くなってるから! スズカに負けないぐらい…強くなってるからね!」
「…エリス…。私だって、負けないんだから!」
また会う約束をして、私とノエルは村を後にした…。
村を後にし、暫く歩いているとノエルが声をかけてきた。
「エリス様…きっと強くなりますよ」
「そうね。私も負けていられないわ」
エリスとの再会を楽しみにしつつ、私はクスクス、と笑う。
「そう言えば、今日のニュースで気になる記事を見つけましたよ?」
「気になる記事?」
ノエルに手渡されたニュースを確認すると…。
『盗賊ギルド盗獣の牙リーダー、セイラ・グルントが逮捕! 彼女を討伐したのは無職の青年だった!』
…との内容だった。
ま、まさか…無職の人がお尋ね者を倒すなんてね…。
ホント、異世界は何が起こっても不思議じゃないわね。
…って、その青年については何も書かれていないわね…。
何者なんだろ?
「…まあ、いずれ出会えるでしょう」
「…では、行きましょう。スズカ様」
「ええ!」
新たな出会いと冒険を期待し、私は麻生君を探す旅を再開した…。




