信じる者
ムルナウに挑んだ私は太刀を何度も振り、ムルナウを斬り裂こうとする。
だけど、私の攻撃は受け流されたり、避けられたりして、ムルナウにはダメージを与えられずにいた。
ムルナウ…! どれだけの悪党と言っても一つのギルドを束ねるギルドリーダーと言い張れる程の実力があるわね…!
「どうした? 意気がっていた割にはそれ程強くもないな」
「あのね…! こっちは異世界に来てまだ間もないのにそう言う事言うの⁉︎」
「異世界…?」
「…な、何でもないわよ」
あ、そっか。この世界の人に異世界の話をしても無駄よね。
…って、そんな事言っている場合じゃなかった…!
「何を言っているかは知らんが、今度はこちらからいかせてもらうぞ!」
大剣を握り締め、私に向けて振り回してきた。
太刀で大剣を受け流したり、防いだりする事は出来るはずもないので、私は攻撃を避けていく。
大剣は威力が高いが、その分重くて隙が大きい。
だからこそ、そこをカウンター攻撃で反撃するしかないわ…!
私の考え通り、ムルナウが大きく振り下ろした大剣の攻撃を避けると大剣の剣身部分が地面に突き刺さった。
その隙を私は見逃さず、ムルナウを蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた勢いで大剣が抜けたが、大剣ごとムルナウは吹き飛んだ。
けど、ムルナウは吹き飛びつつも片手で態勢を整え、着地する。
「女の蹴りなど効かないぞ」
「甘く見ないでよね!」
再び、太刀を構え直した私はムルナウを睨む。
対するムルナウは余裕そうな表情で大剣を構える。
「それにしてもお前の仲間は今頃俺の手下共に敗れているだろうな。昔からよく言うだろう? 質より量とな」
「そうかしら? あまり、ノエルとスノウさんを舐めない方がいいわよ! それから私…量も質も同等と思っているから!」
今も尚、数十人いるであろう《ブラック・アウト》の手下達と戦っているノエルとスノウさんの勝利を信じ、再び太刀を握り直した。
「だから…私はあなたに勝って…ノエル達と一緒に捕われている女の子達を解放するわ!」
「小娘如きが…図に乗るな!」
私の言葉に若干の苛つきを見せたムルナウは姿勢を低くして、私目掛けて突っ込んできた…。
手下達と戦うノエルとスノウ…。
手下達はそこまで強くはなく、ノエルとスノウの二人は無双状態だったが…。
やはり、彼等も人間なのか…息を切らし始めた。
「はっ!」
技能 《ライトニングウィップ》で手下達を蹴散らしたノエルに向かって、別の手下達が続いて突っ込んで来たが…。
すぐさま方向転換をして、《ライトニングウィップ》で弾き飛ばした。
しかし、背後に迫っていた一人の手下に対応出来ず、ドロップキックを受けて、ノエルは後方へ吹き飛んだ…。
スノウも手に持つレイピアで次々と手下達を吹き飛ばしていた。
依頼を受けている彼は殺さず、を以とうに戦っているが、手を抜いている様子は一切ない。
しっかりと相手の攻撃を見極め、それを受け流し、カウンター攻撃を何度も与えていた。
だが、彼も疲れの色が見え始めた為…。
「ぐっ…⁉︎」
手下達の連携攻撃に受け流しきれず、スノウは攻撃を受けて、吹き飛ばされた…。
お互いに吹き飛ばされたノエルとスノウは背中合わせで激突する。
「…敵もなかなかやる様だね」
「数で押してきています。…ギルドの特権ですね」
「そうだね。でも、僕達も一人じゃない…まだまだいけるかい? ノエル君」
「当然です。スズカ様を残して、退場というワケにはいきませんから!」
言葉を交わしたノエルとスノウはお互いにクスリ、と笑い合い、自分達を取り囲む手下達を見回し、再び戦闘に入った…。
二人もスズカがムルナウを倒す事を信じていた。
だからこそ、彼等も負けるつもりなど毛等になかったのだ…。
微かな光しかない部屋に鳴り響く金属同士がぶつかり合う音…。
その音の正体である私…スズカとムルナウは太刀と大剣を激しくぶつけ合っている。
辺りには火花が散り、辺りにその破片が飛び散っている。
ムルナウと打ち合いを始めてから、数十分…最初は互角の様に見えていたけど、段々押され始め、私は防ぐのが手一杯となっていた。
嫌、防いでいると言っても、攻撃を弾いているのがやっとの事よ。
そもそも太刀と大剣との間には大きさや重さの差が生まれているだけでなく、ムルナウは戦い慣れているが、私はこの世界にきて、人と戦うのは今回が初めてだからこそ、苦戦を強いられているの…!
「最初の威勢はどうした? 防御だけで手一杯か!」
「うあっ…⁉︎」
力を込めたムルナウの一撃に私は防ぎきれず、弾き飛ばされた。
地面を転がりながらも立ち上がった私は再び太刀を強く握る。
額から流れる汗を拭う事も忘れ、私は肩で息をする。
少しでも気を緩めてしまえば、殺されてしまうという恐怖心から激しい心臓の鼓動が鳴り止まない。
「何だ? 怖いのか?」
「ッ…⁉︎」
私の心情を気づかれ、私は激しく動揺してしまう。
その私の反応を見て、思い通りかというかの様にムルナウはクスリ、と笑う。
「そうか。勇しくてもやはりお前は女という事か。自身よりも強大な力を持つ者に対して恐怖を抱く。だが、恥じる事はない。…それは人にとって当たり前の感情だ」
当たり前って…馬鹿にして…!
でも、ムルナウの言う通りね…。私は異世界に来て、戦える様になったとしても未熟で殺される危険性に迫られると恐怖を受けて、動けなくなってしまうのだから…。
「だが、それでも恐れずに俺に挑んでくるその勇気…俺は気に入った。どうだ? 俺の女となり、共に《ブラック・アウト》で活動していかないか?」
気に入られたって事…?
でも、私の答えは決まっているわ…!
「断るわ…! どれだけ恐怖に囚われたとしても…私はあなたには屈しない!」
決意を込めた叫びを聞いたムルナウは高らかに笑った。
「やはり、お前は良い! お前を殺すのは惜しくなってきた! よし、お前を倒し、俺の女として、操ってやろう!」
「そんなの絶対にお断りよ!」
「それなら、俺に勝って見せろ!」
大剣を振り回し、ムルナウは私に突っ込んできた。
それに対し私は太刀を鞘に戻した。
力技でムルナウに勝てないと判断した私は息を落ち着かせ、目を閉じる。
所謂、精神統一で心を落ち着かせ、目を閉じている暗闇の中で迫ってくるムルナウを見定める。
暫く心を落ち着かせ、ついにムルナウの姿を暗闇の中で捉える事が出来た。
そして…決めるなら今…!
「これで終わらせてやるよ!」
大剣の剣身にエネルギーを蓄積させ、ムルナウは私を大きく斬り裂こうとした。
「終わるのは…あなたよ!」
暗闇の中でムルナウの動きがスローモーションとなっていた。
だからこそ…攻撃が避けられる!
ムルナウの放った縦斬り…それを避けた私はガラ空きとなったムルナウの横っ腹に《パワースラッシュ》を浴びせた。
「ぐっ…⁉︎」
《パワースラッシュ》を受けた事で苦痛の表情を浮かべたムルナウは吹き飛ばされない様に踏ん張っている。
「私は負けない…! 信じてくれている人達の為にも…必ず勝って見せる!」
そう叫んだ私は両腕に力を込め、踏ん張るムルナウを吹き飛ばした…。
峰打ちでも相当な威力のはずよ…!
吹き飛ばされたムルナウは勢いよく壁に激突した…。




