休日
昨日夜遅くまで起きていた影響か、起床時間になっても俺はまだ眠り続けていた。
よく考えれば、《ダケダケ》戦と三体の《スライムソルジャー》戦と連戦続きだったからな…。疲れて当然か。
でも、そろそろヴェイグに起こされるだろう…。
「アルト…朝だよ。起きて」
…ん? ヴェイグじゃあ…ない…?
声からして女だが…聞き覚えがありすぎる声だな…。
ゆっくりと目を覚ますと文字通り目と鼻の先にアレイナの顔があった。
「…アレイナ? お前、人の部屋で何やってんだ?」
俺の問いかけに彼女は頬を少し、赤く染め、顔を背けた。
「いつも食堂に来る時間になっても来なかったから、起こしに来てあげたのよ。クルス先生からも部屋に入る許可をもらってるから」
ヴェイグの奴…何勝手に許可してんだよ。
「それに関しては礼を言うぜ。ありがとな」
礼を言われたアレイナは更に頬を赤く染め、照れを誤魔化すかの様に何かを取り出す。
「そう言えば食堂に行ってる時間、もうないんでしょ? 簡単なモノ作ってきたから食べて」
小さなバスケットを開くとそこにはレタスとハムが挟んであったサンドがあった。
「おぉ! 助かる! いただきます!」
腹も減っていた為、レタスハムサンドに被りつく。
作り立てだったのか、レタスのシャキシャキ感がまだあり、美味しい。
凄い勢いでレタスハムサンドを食べ終えた。
「ふぅ…御馳走様。アレイナって、本当に料理上手だな」
「バ、バカ! お世辞でもそんな事言わないで!」
いや、お世辞でそんな事は言わないが…。
「と、兎に角、早く準備してよね!」
そう言い残すと彼女は部屋から逃げる様に出た。
「何怒ってんだ、アイツ…?」
アレイナの態度に首を傾げながらも俺は制服に着替え、部屋の外で待っていたアレイナと一緒に教室に向かった…。
その後、教室に着いた俺はすれ違ったヴェイグにテロリスト達の事を伝えておいた。
一方、ヴェイグは一時限目で担当授業がなく、手が空いていた為、授業が始まる少し前にアルトから昨晩、テロリストと遭遇したと聞き、その現場に来ていた…。
「テロリストと魔虎牙軍が繋がっている…。だが、どうして犯人はこの学園の生徒達を…?」
すると、彼のコンディションブレスに通信が届いた。
通話を開くとウィーズの声が聞こえてきた。
「ウィーズか、どうかしたのかい?」
『以前アルトが捕らえたデラゴス・ムストから話を聞いたのですが…どうやら行方不明事件の犯人は学園の中にいる様です』
「何…⁉︎」
学園の中に犯人がいる…それを聞いたヴェイグは驚愕する。それはつまり、この学園の生徒か、教師の中に犯人がいると言う事だ。
勿論、デラゴスが嘘をついている可能性もある…だが、それが本当だとすれば…。
「それで犯人の名前は聞かなかったのかい⁉︎」
『…申し訳ありません。犯人の名前も問いただしたのですが…』
言葉を詰まらせながら、申し訳なさそうに呟くウィーズは続けた。
『犯人の名を口にしようとしたその時…何処かからスライムが現れ、デラゴスとその部下全員を呑み込んで消滅してしまったのです…』
それを聞き、ヴェイグはアルトの時と同じだ…!、と拳を握る。
「そうか…。引き続き何かわかったら教えてくれ」
『了解です』
通話を切ったヴェイグは空を見上げる。
「犯人…その者は人の生命を何だと…!」
爪が掌に喰い込み、血が流れるほどの力で拳を握るヴェイグは卑劣な手を使う犯人に対して、静かな怒りをこみ上げた…。
一日の授業が終わり、俺は教室から出ようと席を立ったその時だった…。
「すみません。お兄ちゃん…いますか?」
教室にアイムが入ってきた事でクラスメイト達が声を上げる。
…アイツ、結構な人気者だな。
「どうしたんだ、アイム? 何か用か?」
「明日…何か用事がある? アレイナさんとスズカさんも」
明日…? あぁ、明日は土曜日だったな。
「俺は…特にないぞ? アレイナとスズカは?」
「私も用事はないわ」
「私もよ!」
何もないと聞いて、アイムは再び、口を開いた。
「明日…クラスの友達と一緒にスパイク・ボールをする事になった…。シャッティ達がお兄ちゃん達も来て欲しいと言ってた」
誘ってくれてるってワケか。
ん? それにしても…。
「スパイク・ボール…? 何だそれは?」
「この世界のバレーボールよ。ルールはほとんど同じの球技なの」
聞き慣れない名前に首を傾げるとスズカが近づき、耳元で小さく話してくれた。
バレーボールか…。体育の授業以来やってないな…。
「勿論、一緒に遊ぶぞ? アレイナとスズカもいいか?」
その言葉に二人は頷いた。
共に遊べると知り、アイムはパァッと笑顔になった。
「じゃあ、明日の8時に校門前に集合…シャッティも喜ぶと思う」
「じゃあ、明日な!」
アイムはそのまま小走りで、教室を出て行った。
「嬉しそうだったわね、アイムさん」
「そうだな」
アイムもこの学園生活を楽しんでいる。友人も沢山出来たと聞いたからな…。
やはり、彼女を連れてきて正解だったようだな。
「随分と嬉しそうね。お兄ちゃん♪」
「茶化すな!」
茶化してきたスズカにツッコミを入れるとクラスのみんなは笑い出した…。
その日の夜…。
アイム達とスパイク・ボールで遊ぶ事をヴェイグに話した。
「そうか。楽しんできなよ!」
「ヴェイグは仕事か?」
「うん…。教師は生徒と違って大変忙しいのだよ…」
どんよりした空気を醸し出すヴェイグに俺は何も言えなくなってしまった。
「ま、まあ…頑張れよ」
「それよりも…充分に気をつけてくれ。犯人は自分の正体を隠す為なら、人の生命を簡単に消す様な奴だ。…デラゴスとその部下達も全員消されてしまった様だ」
先程のガッカリした表情から一変し、真面目な表情になったヴェイグの言葉に俺は頷いた。
デラゴス達が消された…と言う事は情報を引き出せる人物は誰もいなくなったって事か…。
でも、そうなると…俺達だけでは人手が足らなくなる…。
どうすれば…。
「ヴェイグ、人手を補充したいんだが、騎士団からは誰も来てもらう事は出来ないよな?」
「前も言ったが、騎士団も人手が足らないんだ…。済まないが、人を出す事は出来ないよ」
やはり、ダメか…。
「わかった。悪いな、無茶な提案をして」
「構わないよ。…だが、君がそう思ってしまうのも仕方ない…。何か手を打たなければ…」
かといって、人を増やし続けたとしても犯人を刺激するだけだ…。せめて、あと一人か二人…って所か。
「…まあ、考えていても仕方ねえな。こちらの方は俺とアイムが見るから、学園の方は任せるぜ」
「了解だ。警戒しつつも楽しんできてくれ」
話し合いを終え、夜の偵察を終えた俺達は就寝した…。
翌日…。
約束の時間よりも一時間早く起き、弁当的なモノを作る事にした。
既にヴェイグは仕事に行っていていなかったので、心配なく作る事が出来る。
「アレイナに礼も込めて作らないとな。さて、久々に腕を振るうか!」
早速昼食用の弁当を作り始めた…。
昼食を素早く作り終えた俺は自宅を済まし、部屋を出て、正門に着いた。
正門前には既にアイムとシャッティ、それから赤髪の娘と青髪の娘がいた。
「あ! お兄さん!」
「おはよう」
「おはよう、アイムとシャッティ。…それから…」
赤髪と青髪の娘達は初めてだな。
「あ、初めまして! アルトさん! 私はノーウェル・リジェネです!」
「エアル・ジュリスです。よろしくお願いします、お兄さん先輩」
「よろしく、二人共。…後、エアル…だったか? お兄さん先輩はやめてくれ」
またアイムの影響が出ているな…。
「…所で、スズカ達は?」
「まだ来てない」
まあ、女の支度には時間がかかるって言う話だからな。
「みんな〜! お待たせ〜!」
スズカの声が聞こえてきたので視線を向けるとスズカとアレイナがこちらに向かって歩いてきていた。
だが、俺の視線は彼女達の奥に向けてしまう。
「えっ…⁉︎ な、何で…⁉︎」
「アルっち〜!」
どうしてマリルやカナリア、フェルトまでいるんだよ…⁉︎
スズカ達が俺達の下へ来たので、俺はスズカとアレイナに問いかける。
「どうして、マリル達がいるんだ?」
「彼女達から、一緒に行っていいかと聞かれたから、誘ったのよ」
「嫌、だからどうして今日、遊ぶ事を…⁉︎」
未だ理解しない俺を見てか、スズカ達は呆れた様に溜息を吐いた。
「…遊ぶ約束…教室でしたでしょ?」
「あ…」
た、確かに…思いっきり教室で約束していたな。そりゃ知っていて当然か。
「ごめんね、アルト君。でも、どうしても遊びたくて…」
「ダメって言うなら帰るけど…」
それでダメって言ったら俺が悪人になるじゃねえか。
「流石に俺はそんな薄情な人間じゃねえよ。じゃあ、三人も一緒に遊ぼうぜ!」
その言葉を聞いて、マリル達は笑顔で頷いた…。そして、俺達はスパイク・ボールができると言われるビーチに向かった…。
「へぇ…ノーウェルとエアルは幼馴染なのか」
「はい。よく昔は色んな事で競い合っていました!」
「今もしてますよ」
それはもう幼馴染を通り越して、姉妹だな。
「そっか。いつまでも仲良くな」
「「はい!」」
礼儀正しくていい娘達だな。
「二人もお兄ちゃんに惚れた?」
「ち、違うよ!」
「そ、そんな事ないよ!」
揶揄う様なアイムの言葉にノーウェルとエアルは顔を真っ赤にしながら、弁解する。
流石に二人が可哀想だと思い、アイムの耳を引っ張る。
「い、痛い!」
「友達を揶揄う様には教えていないぞ、アイム? これ以上二人を困らせるなら説教二時間コースを帰ってから繰り広げてやるが…どうだ?」
「わ、わかった! ごめんなさい…!」
素直に謝ったのでアイムの耳から俺は手を離した。
「アルト君…虐待」
「最低ね」
「お前等な!」
毒々しい言葉を口にするスズカとアレイナの二人に俺はツッコミを入れる。
そんな事を話していると探していたビーチが見えてきた…。
綺麗なビーチを見た俺は思わず見惚れてしまう。
「綺麗…」
「あぁ、本当にな…」
夏になったらまた来たいな…。
「コートは…あ、空いてますよ!」
「よかったな。じゃあ、チーム分けをするか!」
えーっと、スパイク・ボールをするメンバーは…俺、アイム、シャッティ、スズカ、アレイナ、ノーウェル、エアル、マリル、カナリア、フェルトの十人、か…。
「よし、五人チームで始まるか!」
俺達はスパイク・ボールを始めた。
チーム分けは俺、スズカ、ノーウェル、エアル、フェルトチームとアレイナ、アイム、シャッティ、マリル、カナリアチームだ。
そこからは所謂普通のバレーボールが始まった。
「打つ…!」
「ちよっ、まっ…⁉︎」
…訂正しよう。異世界の普通など俺達の世界では異常だった事を忘れていた。
アイムが放ったアタックでボールは俺達の陣地の地面にめり込んだ。
「殺す気か⁉︎」
「何を言っているの、アルト?」
「…スパイク・ボールは過激なスポーツ…怪我人が出てもおかしくない」
全然、おかしいっての⁉︎
その後もメンバー交代を行いながらもスパイク・ボールを楽しんだ…。
一時間、身体の疲れも忘れ、スパイク・ボールを楽しんだ俺達は少し休憩する事にした。
「初めてやったけど…楽しいスポーツね! スパイク・ボールって!」
「マジで死人が出かねないスポーツだけどな」
ははは、と乾いた笑いをする俺にアレイナは苦笑してしまう。
すると、そこへ…。
「…アレ? アルトか…?」
聞き慣れた声が聞こえ、振り返るとそこには…。
「アルト! 久しぶりね!」
「こんな所で何してんだ、お前?」
「カイリ! グレン!」
カイリとグレンの姿があった…。




