反逆の意志
両腕を何度も何度も振り下ろしてくる《サイクロプス》に俺は避け続けるしか方法がなかった。
メタルソードで拳を受け止めてもいいが、地面を抉る程の威力のパンチを受け止められる自信はなかった。
《サイクロプス》の弱点はあの分かりやすい眼…。
何とかあの眼に一撃を浴びせられれば、大ダメージを与えられる事は難しくはない。
だが、今の俺の状態は最悪だった。
アイテムは治癒ポーションが三つで弾丸もリボルバーガンに装填されている六発しかなかった。
避け続ける俺にイラついたのか、《サイクロプス》は雄叫びを上げ、右腕で俺をなぎ払おうとしたが、俺は跳躍で回避し、三発弾丸を発砲する。
しかし、その三発は左腕に防がれるが負けじと《サイクロプス》の目の前にまで跳躍し、メタルソードで一つ眼に斬りかかるが…。
その俺を捉えた《サイクロプス》は口から息を俺に吹きかける。その息の勢いはまさに突風で俺は体制を崩してしまう。
そんな俺目掛けて、巨大な拳が迫る。
突風の所為でメタルソードを構える事が遅れ、俺に巨大な拳が直撃し、そのまま地面に殴り落とされた。
地面に激突し、俺の身体は大きくバウンドして壁に激突する。壁にめり込んだ身体を動かそうとするが、あまりの威力に身体がふらつく。
口からも血を吹き出し、手の甲で口周りの血を拭く。そして、俺は一つ目のポーションを飲み、ダメージを回復する。
「一撃でこの威力かよ…!」
セイラ・グルントの時の比ではない程の痛みに恐怖を覚えてしまい、身体を震わせる。
アイツの攻撃は一発で瀕死レベル…。対して俺の攻撃は全くと言って、通じない。
本当に勝てるのか…? 俺は今、大きな絶望も恐怖に取り憑かれている。
敵を前にして、足がガクガクと、震え、頬を伝う汗が止まらない。
そんな俺を待ってくれるはずもなく、サイクロプスは両腕を振り下ろし、俺を叩き潰そうとするが、俺はまたもや跳躍で回避した…はずだった。
突然、地面に叩きつけられていたはずの右腕でが俺の目の前にまで伸びてきており、巨大な右手は俺を掴んだ。
「グッ…! 離し…やがれ…!」
何とか、右手から脱出しようともがくが、それを楽しくそうに感じたのか、《サイクロプス》は右手に力を込め、俺は握り締められる。
全身がバキバキ、と音を立て、あまりの痛みに悲鳴を上げてしまう。俺を握るのが飽きたのか、《サイクロプス》は壁目掛け、俺を投げつけた。
ドシン!、と音を立て、俺は壁に激突して、地面に叩きつけられる。
血が…痛みが止まらない…。痛い、苦しい…。その様な言葉が俺の全身を駆け巡った。
何とか、腕を動かし、虫の息状態の俺は二つ目のポーションを飲む。
そして、ゆっくりと立ち上がろうとしたが、目の前にすでに《サイクロプス》が接近しており、右拳を俺に叩きつけた。
避けられずはずもなく、俺は右拳による一撃を受ける。さらに《サイクロプス》は逃すまいと咆哮を上げ、右拳、左拳と交互に叩きつけてきた。
あまりの連続パンチのスピードに俺は逃げる事もできず、何度も、何度も何度も何度も殴られる。
俺の周りの地面は既にクレーターが出来ており、息も出来なくなってきた。
痛い、辛い、苦しい…。
誰か…助けて、くれ…!
俺は助けなど来るはずもないのに助けの声を求めてしまう。もちろん、助けなど来ない…。
死へのカウントダウンが迫る。今の状態ではポーションを飲む暇もない。
悲鳴を上げる事もできず、俺は攻撃を受け続ける…。
思えば、俺は多少の力を得て、この世界で意気がっていたのかも知れない…。レベルの高いセイラ・グルントを討伐して、舞い上がっていたのかも知れない。
…そうか。これは調子に乗った俺への罰か…。
それならば、いっそもう殺してくれ…。
痛いのは…辛いのは嫌なんだ…!
どうせ死にそうになった身だ。二度目の人生なんて…所詮無意味だったんだ。
…どうせ、もう…俺の事を想っている人もいない。このまま…楽になりたい…。
俺の視界は徐々にブラックアウトしていく。
あぁ…漸く、死ねる…楽に、なれるんだ。
だが、ブラックアウトした暗闇の中に一筋の光が現れる。その光は人型となる。
『アルトさん…!』
その人型の光から声が発せられた。その声に聞き覚えがある…。
いや、忘れてはいけない声だ…!
その人型の光が消え、メリルの姿となった。そのままメリルは口を開く。
『待っていてください、アルトさん! 必ず…助け出しますから…!』
メリル…!
そうだ…! 俺は、イネスと約束したじゃないか…!
メリルを…守るって…!
何で忘れていたんだ、俺は!
すると、目の前のメリルは消え、男の声が聞こえて来た。
ー漸く、反逆の意志を示したな。
「誰だ…⁉︎」
突然の声に驚く俺だが、尚も声は話を続ける。
ー私の事など、どうでも良かろう。…今必要なのは、君が今後どうしたいかだ。
俺が今後どうしたいか…?
「そんな事…決まってるだろ! あの一つ眼を倒して、あの部屋を出る! そして…メリルと合流する! アイツと…この世界を生き抜く為に!」
俺の決意に声は笑う。
ーそうか。君はやはり、面白き男だ。…ならば、君に力を与えよう。
力…?
その様な単語が聞こえた後、俺の身体は光り、力が溢れてきた。
ー見せてくれ。反逆の意志を…大いなる決意を示した君の新たな力…技能複写を!
俺は光に包まれ、気がつくと視界が元に戻っていた。
《サイクロプス》の拳が目の前に迫っていたが…何かの力が俺に流れ込み、それが溢れると衝撃となり、《サイクロプス》を吹き飛ばした。
…力が溢れる…! 俺はまだ戦える…!
最後のポーションを取り出し、それを飲み干した俺は勢いよく、ポーションを地面に叩きつけた。
ポーションは音を立てて割れ、俺は立ち上がろうとしている《サイクロプス》を睨み、ニヤリ、と笑った…。
「さあ…反撃開始だ!」
メタルソードの先端を《サイクロプス》に突きつけ、俺は叫んだ…。




