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ジョブ無し転移者の技能複写  作者: カイト・レイン
第八章 聖ミリアルド女学園編
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歪めた過去


 二時限目の授業が終わり、一息付く俺の前にスズカが話しかけて来た。


「お疲れの様ね、アルト君…。授業でわからなかった事でもあったの?」


「…嫌、授業はついていけているが…ここ二日間で結構色々な事があるから、結構気疲れが絶えないんだよ…」


 まさか、潜入調査二日目で決闘を申し込まれるとは…。


「フフッ。それは災難ね。…でも、見させてもらうから。あなたの実力を」


「…まあ、全力を見せるワケじゃないが、ご期待に添える様頑張ってみるぜ」


 俺のその言葉を聞いて、スズカは満足そうに微笑む。そんな俺達を見て、クラスメイトのみんなは何やらニヤニヤしているが、無視だ無視…。


 三時限目担当の先生が入って来たので、俺達は再び、授業を受ける事となった…。










 時は進み、昼休み…。

 

 アイムは教室でクラスメイト達と昼食を取っていた。


「ねえ、アイムちゃん? お兄さん、決闘する事になったんだって?」


 噂は風の如しか、既にアルトとアレイナが決闘する事は学園全体に広まっていた。

 シャリティアの質問にアイムは口の中の食べ物を飲み込み、頷いた。


「うん。何でも、リングベルトって人がお兄ちゃんに決闘を申し込んだみたい」


「リングベルト先輩かぁ…。あの人苦手なんだよね…。偉そうで」


 嫌そうな顔を見せるシャリティアに相当嫌なんだな…、と思うアイム。


「でも、大丈夫」


「え?」


 大丈夫と言う言葉にシャリティアはキョトン、とするが、アイムは構わず続けた。


「お兄ちゃんは簡単に負けない…。だって、強いから」


「…フフッ! そうだよね! なんて言ってもアイムちゃんのお兄さんだもんね! じゃあ、みんな! 明日はお兄さんの応援に行こうね!」


 納得したシャリティアはクスリ、と笑い、クラスメイト全員にアルトの応援へ向かうぞ、と叫ぶとクラスメイト達もおー!、と声を上げた。


「(でも…そのマスターは今日の夜にヴェイグお兄ちゃんに怒られると思う…)」


 クラス全体が声を上げている中、アイムは何、ヴェイグに説教を受けるであろうアルトの姿を想像し、心の中で笑みを浮かべた…。









 全ての授業が終わり、俺はやる事もなく、寮へ戻り、部屋の扉を開くと…。


「おかえり、アルト」


「…た、ただいま…」


 キッと睨みを聞かせ、腕を組み、仁王立ちしているヴェイグの姿を見てしまう。


 …ヤバイ、これは確実に怒ってる…。


「まあ、そんな所で立っていないで中に入りなよ? お茶も用意しよう…ゆっくり話をするためにもね」


「嫌、だから…。はい…」


 言いワケも試みようと思ったが、ヴェイグの気迫に押され、肯定せざる負えなかった…。



 制服から普段着に着替えた俺は当然の様に正座をさせられる。


「それで…どうして私が怒っているか、わかっているかな?」


「…決闘の件だろ? それは本当に申し訳なかったと思ってる」


「目立たない様にしようと言い出したのは君じゃないか。…なのに、決闘なんて…目立ちたいと言っている様なモノだよ?」


「…お言葉もありません…」


 今の俺の姿を見て、誰もガイールとコルドブームの危機を救った男だとは思えないだろう…。


「それに戦いとなると、確実に君の力が犯人の目に届いてしまうよ」


「出来るだけ全力は出さない。それだけは約束する。…だが、ヴェイグ…決闘をする事になったのは元々、学園長の所為なんだよ!」


 学園長の名前が出て来た事にヴェイグは、は?、と言う顔になる。

 …ってか、学園長はこの事を話していなかったんだな…。


 当然、ヴェイグは頭の上にクエスチョンマークを浮かべるばかりだったので、決闘までの経緯を話すと彼は頭を抱いて、ため息を吐く。


「…ハァ。事情はわかった。明日、私から彼女に詳しい話を聞いておくよ。…取り敢えず、偵察に行こう」


 話をし続けていれば、遅くなるので俺達は夜の偵察を行い、24時になった時点で、部屋へ戻り、就寝についた…。










 時間はアルトが寮へ戻った時まで遡る…。


 一早く部屋に戻ったアレイナは風呂に入っていた。

 体を洗い流し、湯船に浸かりながら、アルトの顔を思い浮かべ…そして、憎き父親の顔が湯船の水面に映し出された。


「ママ…私は男にだけは負けないからね…!」


 決意を新たに持ち、彼女はシャワールームから出た…。










 翌日…。

 授業以外は何もなく、決闘を行う放課後を迎える。


 早速スタジアムへ向かおうとしていた俺だったが、ミリム学園長に呼び止められた。


「学園長…?」


「麻生、少し話がしたい…。構わないか?」


 断る必要もなく、俺は廊下の人が寄り付かない場所まで連れてこられた。


「まず、決闘の件…済まなかったな」


 何だ、突然…?


「ヴェイグさんから文句を言われてな…。流石に出過ぎた真似だった」


 申し訳なさそうに頭を下げる学園長…。一体、ヴェイグに何を言われたんだ…?


「それなら、学園長…お詫びとして教えてもらえませんか?」


 俺のお詫びという言葉に反応した学園長は顔を上げる。


「リングベルトが…どうしてあそこまで男を憎み、嫌っているのかを…」


 リングベルトの名前を出され、学園長は渋った顔をしたが、観念したのか、溜め息を吐いた。


「わかった…。だが、プライバシーな事もあるから、他言無用だぞ?」


 そして、軽く息を吐いた学園長は口を開いた…。


「幼い時のリングベルトはまだ男を嫌っていなかった…。だが、ある出来事がきっかけで男嫌いとなってしまったんだ」


「その出来事とは?」


「…十一年前…彼女の父親が多額の借金を残して、彼女と母親の前から姿を消したんだ」


 借金を残して…⁉︎


「当然、借金取りは彼女の家に何度も押しかけた。…行方知れずとなった父親に変わり、母親は掛け持ちでバイトをしながら、父親の借金を返済しようとした…。そして、遂に借金返済を出来る程のゴールドを集める事が出来た…」


 それだけ聞くとその先は何ともないと思えるが…違うんだな。


「だが、突然…契約になかった利子を要求され始め、母親は抗議を繰り返したが、借金取り達には敵わず、母親は…リングベルトの目の前で性的暴行を受けさせられたんだ」


「ッ…⁉︎」


 あまりの残酷すぎるリングベルトの過去に俺は言葉を失い、絶句してしまう。

 心残りの母親が目の前で…。


「借金取り達の暴行は続き…遂に彼女の母親は彼女の目の前で…自殺をした」


「…」


 それが彼女が男を嫌う理由…。嫌、そんなモノ憎しみを持ってもおかしくない…。大切な父親が消え、母親さえも間接的に殺され…それで正常に保って入れるワケない…。


 唯一安心出来たのは復讐鬼などにならなかった事だけだ…。


「同年代も年上も年下も…赤子や幼き子供、老人さえ…男なら彼女は過剰に反応し、憎しみを込めた殺気を向ける様になってしまった…。だが、世の中の人間は男と女がいる…。この二つがあるから世の中がある。…どちらか片方だけと永遠に共に過ごせるワケではない」


 確かに…大きくなるにつれて、憎い男とも関わらなければならない。


「彼女の男嫌いが彼女自身を孤立させ…今のアレイナ・リングベルトを生み出した。男を嫌い、女からも邪険に扱われている彼女の居場所は無くなりつつあるんだ」


 学園長は胸ポケットにさしていたペンを手に持ち、クルクルと回す。悲しさを紛らわす様に…。


「心の傷を負った彼女は簡単に変われる程、傷は浅くない…。もしかしたら、一生彼女は孤立したままなのかも知れない…。だが、私は彼女を救い出したい…教師として…」


「まさか、決闘を認めたのは…!」


 男である俺と関わらせて…少しでも心を強くしようと…。


「お前という存在もダシにしてしまって、本当に済まないと思っている…。だが、麻生…お願いだ! 彼女の心が癒える様に…私に協力してくれ!」


 迷いのない一直線な学園長の瞳に俺は思わず、目いってしまう…。この人がどれだけ、リングベルトを想い、救い出したいのか…その眼差しだけで充分に理解できた。


 それなら、俺に言える事は一つだ。


「俺は完全な全力は出しませんが…手加減もしませんよ。…学園長に協力してもしなくても…俺にはやる事があるので…」


「それは一体…?」


 俺のやる事を尋ねてくる彼女に俺は笑みを浮かべ、言い放った。


「彼女の目を覚まさせる事と…彼女を暗い過去から助け出す事です」


 その言葉を聞き、学園長は目を見開き、同時に嬉しそうな笑みを浮かべた。


「では…彼女にわからせてやれ。…お前という存在でな…アルト(・・・)!」


 学園長が俺の事をアルトと呼んだ…それはつまり、期待と信頼を向けている証拠だ。

 俺は自信満々に頷き、学園長に背を向け、スタジアムへ向かい、中に入る。


 そして、リングへ繋がる扉へ向かっていると目の前にマリルやカナリア、フェルト達クラスメイト達とスズカ…それからアイムの姿があった。


「頑張ってね、アルっち!」


「応援してるからね!」


「頑張れー!」


 クラスメイト達の応援の言葉を受け取り、俺は心の中で感謝する。

 スズカも声をかけてくる事はなかったが、視線で頑張れと応援してくれた為、頷きで返事をした。


 そして、目の前にいたアイムとすれ違い様に彼女に声をかけられた。


「マスター…信じてる」


 アイムに…仲間にそう言われては負けられないな…!

 みんなの為…学園長の為…そして、リングベルトの為にも…やってやろうじゃねえか!


 声援を背に受けながら、俺はリングへ繋がる扉に手をかけ…勢い良く開いた。


 扉を開くと俺を刺す強い太陽の光と沢山の生徒達のザワザワとした声を受けながらも俺は前に進んだ…。


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