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ジョブ無し転移者の技能複写  作者: カイト・レイン
第八章 聖ミリアルド女学園編
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加速する面倒事


 寮の入り口の前に着いたその時、アイムの姿が見えた。


「お兄ちゃん…遅かったね」


「誰もいない時はその呼び方やめろ」


 呆れてため息を吐きつつ、俺はアイムと共に寮の中に入り、廊下を歩きながら、話を始めた。


「初めての学園生活はどうだ?」


「凄く楽しい。クラスの人達はみんないい人」


「そうか。そりゃ良かったな」


 強姦の冤罪をふっかけられそうになった俺とは大違いだな。


「マスターはどう?」


「…俺か? 俺は……まあまあだ」


「曖昧な答え…」


 ジト目で睨んでくるが、言えないだろう…。初日からイザコザがあったなんて…。

 睨んでくるアイムにどう返そうかと悩んでいると、俺の寮部屋が目の前に見えた。


「此処がマスターの部屋?」


「正確には俺とヴェイグのな。…お前の相方は誰なんだ?」


 此処、聖ミリアルド女学園の寮は二人一組の相部屋の様で、男同士の俺とヴェイグが相方になった。


 アイムはと言うと…。


「私はシャッティと同じ部屋」


 おっ、早速仲の良いクラスメイトと相部屋か。これなら怪しまれずに済むな。


 部屋の扉を開き、中に入ると既に教師の仕事を済ませ、紅茶を飲んでいるヴェイグがいた。


「遅かったね、二人共…。何かあったのかい?」


「私はマスターを待ってた」


「ちょっとな」


 今、教師であるヴェイグにリングベルトの事を話すと面倒な事になりそうだから、誤魔化しておこう。


 普段着に着替えた俺も席に座るとアイムが紅茶を差し出してくれた。


「二人共、学園生活はどうだ?」


「楽しいよ」


「…学生気分は久々だからな。俺がいた世界とは少し違うけどな」


 紅茶を啜りながら、俺とアイムは学園生活の話をヴェイグにする。


「それにしても今日は偵察をしなくて良いのか?」


「したい所は山々なんだが…初日というモノもあり、今日は早く休もうと思っているんだ」


 確かに…変な気疲れをしているからな。

 現にアイムも目を擦っているし…。


「寮の就寝時間もあるし、アイムさんは戻った方がいいよ」


「そうする…」


 小さいあくびをして、アイムは席から立ち、部屋を後にした…。


「…アルト、少し良いかな?」


「ん? どうした?」


「アイムさんのいる前では言わなかったが…アレイナ・リングベルトさんと問題が起こったみたいだね」


 チッ…知っていたのかよ。


「何だよ…知っていたのなら誤魔化した意味無いじゃねえか」


「君が優しい事は知っているが…一歩間違えれば、君の立場が危うかったんだよ?」


「悪かったよ。…でも、ああするしかなかったんだ」


 それにアレでリングベルトは救えたからな。


「…それにしても、一つ妙な事がわかった」


「妙な事?」


「今まで襲われた被害者は全員、夜遅い時刻に襲われた…。だが、誰一人として被害者の声を聞かなかったそうだ。もっとも静かな夜の時にだ」


 それを聞いて、ヴェイグも確かに…、と手を顎に当て、考える仕草を取る。


「だが、被害者が声を上げる前に囚われたとも考えられないかい?」


「そうだとしても…此処は冒険者や騎士を生み出す学園だぜ? 何かしらの抵抗をする奴がいてもおかしくない。…ましてや、行方不明事件が立て続けに出ていれば、警戒する生徒が出てもおかしくない」


「…っという事は…被害者の周りの音を掻き消す技能(スキル)の類の可能性があるという事か…」


 流石はヴェイグ…そこにたどり着くまでには早かったな。


「…それなら、また近い内に学園長に生徒全員のデータを見せてもらう事にするよ」


 これで生徒の中に犯人がいるかどうかがわかるな…。


「頼むぜ。…それにしても…被害者の共通点と犯人の動機がわからなければ、探すのは苦労するな」


「ああ、生徒達を注意深く見るしかない」


「…嫌、注意深く見るのは生徒だけでなく、教師の方も見た方がいいかもしれないです」


「…まさか、教師も狙われる可能性があると…?」


 驚くヴェイグに俺は頷く。


「共通点がわからない以上、その可能性も大いにある。…そして、もし俺達が襲われた場合の時だ」


「…私達が襲われたら何がおかしいんだ?」


「この学園にいる男は俺とお前だけだ。…つまり、俺達のどちらかが襲われでもしたら、犯人は俺達の事を知っていて、消しに来たって事になる」


 それに犯人が魔虎牙(まこうが)軍と関わりがあるのならば、尚更警戒を強めた方が良い。


「もしそうなれば…犯人は被害者の共通点関係なく、襲うかも知れない…! そして、この学園にいる多くの生徒を危険に晒してしまうという事だ」


「…出来るだけ犯人を刺激しない様にしないとな。…犯人が暴走しない為にも」


「ああ。こちらも出来るだけ、犯人の手がかりを探す。君も警戒を続けてくれ」


 犯人の手がかりが何も掴めていない今…俺達にすべき事は警戒を強め、襲われそうになっている生徒を守り、犯人の尻尾を掴むしかない。


「それと…明日からの偵察の件だが…。アイムには寮に残ってもらう事にする」


「…寮を守る為かい?」


「それもあるが…。俺達と違って、アイツの相部屋の相手はこの学園の生徒…犯人の対象であってもおかしくない。俺達の正体がわかっていたとすれば、勿論、アイムの事を知っているだろう。…そして、犯人はアイムの心を蝕もうとして、アイムの友人を狙う可能性もあるからな」


 アイムは15(フィフティーン)を失い、充分に悲しんだ…。だから、もうアイツの大切なモノを奪わせるワケには…アイツを悲しませるワケにはいかないんだ…!


「…仲間の身を案じる君は素晴らしいが…自分の身の安全も考えなよ?」


「わかっているって。もう寝よう」


 そのまま俺達は眠りに着いた…。






 翌日…。

 俺は支度を済ませ、朝食を食べ、教室に入った。

 俺が入って来たのを確認し、マリルとカナリア、フェルトが挨拶をして来た。


「おはよう、アルト君!」


「おはよう、マリル、カナリア、フェルト」


「アルっち、昨日大丈夫だったの?」


 昨日…? あぁ、リングベルトの事か。大丈夫じゃなかったが、心配させない様にしようか。


「大丈夫だ。普通に話して終わったよ」


 それを聞いて、彼女達三人は安心したのか、胸を撫で下ろしていた。


「みんな、おはよう」


 そこへ挨拶をしながら、スズカが教室に入ってくる。そして、俺の横を通り過ぎる際、小さい声で嘘つき、と言われ、思わず笑ってしまう。


「何々? シャーネルさんとアルト君…何か隠してるの?」


「そのコソコソと話し合っている感じ…」


「付き合ってるの〜?」


 何を言い出すんだ、この三人は…。


「そんなワケないだろ」


「彼とはただのクラスメイトよ…。まぁ、ずっと前からね」


 そのずっと前からって言葉は言う必要ないだろ…。


「そうだ。アルト君、何か授業でわからない事があったら言ってね。教えられる範囲で教えるから」


「ありがとな、スズカ。だが、今のところ大丈夫だ」


 そんな何気ない会話をしているだけなのにマリル達三人はニヤニヤとこちらを見てくる。

 一体何だと言うんだ…。


 ワイワイ、と騒いでいたクラス中だが、一人の生徒が入って来た途端、一気に静かになった。


「…」


 リングベルトか…。無言で教室の中へと入って来た彼女は真っ直ぐと俺の方へ向かって来て、睨みつけてくる。


 …ん? 彼女、両手に手袋を嵌めている…? 昨日は嵌めていなかった筈だが…。

 すると、彼女は右手の手袋を外して、俺の足下へ投げつけて来た。その彼女の行動に俺とスズカを除く全員が驚いた。


 手袋を投げる意味は決闘…。この意味を理解しているからこそ、クラスのみんなは驚いているのだろう。


「…麻生 アルト君…私と決闘しなさい!」


 おっと…改心させる筈が面倒な方向に進んだ様だな。現にスズカが呆れて、ため息を吐いている。…後で愚痴を聞かされる事になるなこれは…。


「断る。お前と決闘する意味がない」


「…! 男が決闘の合図を前に逃げ出すって言うの?」


 俺を挑発している様だが…無意味だ。


「いい加減、男だ女だって囚われるのは辞めにしないか? 聞いてて虚しくなるぞ」


「何ですって…⁉︎」


「兎に角…お前とは決闘しない。俺を勝負から逃げた腰抜けだとか言いたいんなら勝手にしろ。そんな安い挑発に乗る程、俺もやわじゃない」


「言わせておけば…!」


 ふと、リングベルトが動き出した。振りかぶった右手は平手で俺を打とうとしていたのだ。

 俺は避けようともせず、どう彼女の腕を防ごうかと考えていると、突然手を叩くパァン!、と言う音が教室に鳴り響いた。


「そこまでだ。流石に私の前で暴力行為は見逃せないな」


 教室の入り口の方へ視線を移すとそこにはミリム学園長がいた。


「学園長…」


「揉め事が解決しないのであれば、実力で証明してはどうだ?」


 …は? ちょっと待て…⁉︎


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 実力って…決闘に応じろって事ですか⁉︎」


「そう言っているが?」


 嫌、何かおかしな事を言ったか? と言わんばかりの表情やめてくれよ…。


「このままでは話が終着しそうにないからな。それにお前達は将来、冒険者や騎士になるんだ…此処で力を見定めてもいいだろう」


 …俺はもう冒険者なんだがな…。


「…私は勿論良いですよ」


 まあ、決闘を持ちかけてきたリングベルトは当然、肯定するよな。

 …多分拒否権もないとしたら、仕方ないか…。


「…わかりましたよ。俺もその決闘、受けます」


 俺達の了承を受け取った学園長はリングベルトに視線を移す。


「リングベルト…。最後に一つだけ問う。…本当に麻生と戦ってもいいんだな?」


「え…?」


 質問の意図がわからず、思わず聞き返した様だ。


「麻生との決闘…本当に応じていいのだなと聞いているんだ。…彼は今までお前が見てきた男とは全く違うぞ」


「…男は…男です」


 学園長の言葉にも耳を貸さなかったのか、リングベルトは視線を逸らし、俺を睨みつけてきた。


「…俺もやるからには全力でやらせてもらう」


「良いわよ。じゃあ…勝った方は負けた方に好きな要求を何でも出来る…って事で良いわね?」


 …それで俺をこの学園から追い出す気か。


「構わない」


 睨み合う俺達を見て、学園長は再び、手を叩く。


「では、この話は終わりだ! 明日、スタジアムで麻生とリングベルトの決闘を執り行う! では、授業に戻れ!」


 学園長の指示に生徒達はそれぞれの席へ戻っていった…。

 俺とリングベルトもそれぞれ席へ戻った…。


「やっぱり、面倒事になったわね」


 悟ってたかの様に口走るスズカに図星を突かれ、俺は何も言えなくなった…。

 コレは…ヴェイグにも文句を言われるなぁ…絶対…。


 心の中でため息を吐きながら、俺は授業を受ける事にした…。


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