三人目の転移者
シャーネルは戸惑うリングベルトを睨みつける。もう逃さないと言うかの様に…。
「な、何を言っているの、シャーネルさん! 私は麻生君に襲われそうになったのよ!」
「だから、それは意味ないよ。…全部見てたし、聞いてたんだから」
「だったら…! お願い、助けて! 誰か来てぇぇぇっ‼︎」
外にいるであろう人達に気づかせる様にリングベルトは声を上げるがそんな彼女にシャーネルはフフン、と笑う。
「無駄よ。この部屋の中では声どころか、微かな音も聞こえないのだから」
「ど、どうして⁉︎」
「私の技能《シャウト》の効果よ。今、この部屋にいる私達にしか声が聞こえないって事なのよ」
やられた…! と悔しそうに歯を食い縛ったリングベルトはシャーネルを睨みつける。
「どうして…どうして男なんかを庇うのよ⁉︎」
「あなたがどう言った理由で男嫌いになったのかは知らないし、興味もないわ。…でもね、あなたはそれだけでなく、この学園にいたあなたが気に入らないと思った生徒を何人も退学に追い込んだのよ。…あなたの機嫌を損ねただけでね」
噂は本当だったのか…。
「煩い! 私を怒らせるから悪いのよ!」
そう言い残し、リングベルトは部屋から出ようとする。
しかし、それをさせまいとシャーネルが動き出し、リングベルトの腕を掴み、関節技をかけて、地面に押し倒す。
「逃さないよ。…まあ、逃げた所で意味がないけどね」
リングベルトを捕らえたシャーネルはある機械を取り出す。その機会のスイッチを押すと、先程の俺とリングベルトの会話が流れた。
…録音していたのか…。抜け目のないやつ…!
「ッ…!」
流石に録音されていると思わなかったのか、まずいと言う顔を見せるリングベルト。
「これを学園長に聞いてもらうわ。…あなたがやって来た事全て…後悔させてやるわ」
「そ、そんな…!」
これでリングベルトは退学になる可能性が大幅に出た…。そう、罪を抱きながら彼女はこの学園を去る事になる…だが、本当にそれだけでいいのか…?
「やめてよ…! 私、この学園から出て行きたくない!」
「やめて? あなたはその言葉を何度聞いてきたの? それでもあなたはやめなかった…だから、あなたも味わいなさい!」
「い、嫌…!」
最後の抵抗で逃げ出そうとするが、シャーネルの拘束から抜け出す事が出来なかった。
「…シャーネル、その録音機…見せてくれないか?」
「…え? いいけど…」
リングベルトを押さえつつ、シャーネルは俺に録音機を手渡した。
「…悪いな、シャーネル」
そうポツリ、と言い残すと俺はシャーネルの録音機を地面に叩きつけ、録音機は音を立てて壊れた。
「な、何しているのよ⁉︎」
俺の行動に驚いたシャーネルは思わず、リングベルトから手を離してしまう。
だが、リングベルトも俺の行動に驚き、動けずにいた。
「…これを学園長に報告して、リングベルトを退学にする…。それだけで罪を償わせられると思うか?」
「言っている事はわかるけど…それでも、この学園にいる限り、彼女は改心しないわ!」
「退学になれば、お前を恨んで改心どころじゃなくなるぞ」
恨みは新たな恨みしか産まない…。だからこそ、それではダメなんだ。
「じゃあ、どうするの?」
「どうもしないさ…。俺はリングベルトが改心する事を信じてるからよ」
信じてると言われたリングベルトは目を見開くが、すぐにキッと睨みつけてくる。
「勝手な事を言って…! これで助けたなんて思わないで!」
その言葉を残し、彼女はドアを勢いよく開け、視聴覚室を出て行った…。
まあ、シャーネルもいる事だし、俺が襲ったなんてデマ、流さないだろう。
「…ハァ…。麻生君、あなた…人を疑うって事を知った方がいいわよ?」
「確かにな。でも、俺は疑うよりもまず信じたいんだよ。疑うのはそれからだ」
「…そっか。変わらないわね、あなたは…」
「は?」
変わらないって…俺の事を知っている様な言い方だが…。
「…それにしても、ありがとな、シャーネル。お前のおかげでなんとかなった」
「もう次は私の忠告も聞いてね」
肝に銘じておくか。
「それにしても…今二人っきりね」
「そうだな。早く帰らないとまた変な目で見られる」
「その事なんだけど…私も麻生君に話があるの」
シャーネルもかよ…。なんか、デジャヴだぞ。
「まあ、話があるのは私だけじゃないんだけどね」
「え…?」
首を傾げると視聴覚室にスーツの男が入って来た。
この学園の人間じゃないな…。何者だ?
「初めまして、麻生 アルト様。私はノエルと申します」
綺麗なお辞儀を見せてきたノエルという男を見た後、俺はシャーネルに視線を戻す。
「シャーネル、彼は?」
「…そう言えば、改めて自己紹介ね。私はスズカ・シャーネル…。転移前の名前が波城 鈴香よ」
転移前…だと⁉︎
「お前…転移者だったのか⁉︎ …待て、波城 鈴香…? まさか!」
「気づいた? 私よ、麻生 或都君。あなたのクラスメイトだった…波城 鈴香なの」
波城 鈴香…! 確かに彼女は俺の前の世界のクラスメイトだ。…何度かだけしか話した事はないが…人当たりのいいやつだった事は覚えている。
という事はノエルは…!
「という事は…」
「はい。私はスズカ様にお従いしている男神です」
「じゃあ、メリルの事も…」
「勿論、知っております。実はメリルにも会いたかったのですが…来ていない様ですね」
そうだな…。こんな事ならメリルも呼ぶべきだったな。
「済まない。また今度、メリルも呼ぶから二人でゆっくりと話してくれ」
「お心感謝致します」
キリヤの所のアナトスと違って、礼儀正しいな…。
それにしても、波城までこの世界に来ていたとは…。
「波城はどうしてこの世界に?」
「…私はひったくりから盗んだ物を取り返そうとして階段の上から突き落とされてね…。そこでノエルと女神のイネスって人に助けられたのよ」
…殺されかけたって事か…。
「あなたの事については以前から知っていたの。でも、私はこの学園に通う事になったから、会えに行けなかったのよ」
「俺もまさか、前の世界のクラスメイトに会えると思っていなかったよ」
「…それにしても麻生君、この世界で結構有名人になったわね」
流石に波城は知っていたか。
「ああ…。自分でも驚きだ」
ははは、と笑う俺を見て、波城もクスリ、と笑う。
「勿論、この学園に来た理由も知っているわ。…行方不明事件の件でしょ?」
「…何か知っている事はあるか?」
「…ごめんなさい。今はまだ…」
そうか、と残念そうな声を出すが、波城はでも! と付け加える。
「一つ、不自然な事があるの」
「不自然?」
「…行方不明者の現場はわからないけれど、この学園内でしかも、夜遅い時間よ? それなのに誰一人として、悲鳴や叫び声を聞いていないなんておかしいわ」
…確かに…夜遅くまで仕事をしている教師は何人かいるって、学園長も言っていた程だからな…。
これはもう少し調べてみる必要があるな…。
「麻生君、私はあなたの力になりたい…。だから、何かあったら言ってね」
「ありがとう。頼りになるぜ、波城」
「この世界ではスズカ・シャーネルよ。だから、スズカって呼んで。私もアルト君って呼ぶから」
「了解だ」
握手をした俺達を見て、ノエルは微笑む。
「じゃあ、そろそろ寮に戻らないとね。…調査も大事だと思うけれど、気をつけてね。アルト君」
「スズカもな。何かあったらすぐに呼んでくれ」
俺の言葉に頷いたスズカはノエルと共に視聴覚室を後にした…。
俺も寮へ行こう…。アイムやヴェイグと合流しないとな…。
俺も視聴覚室から出て、寮へ向かった…。
ー学園のある暗い部屋ではある影がアルト、アイム、ヴェイグの姿を見ていた。
「騎士団に英雄となりつつある麻生 アルトがこの学園に来たか…。だが、誰にも邪魔はさせない…。僕の…可愛い可愛いお人形造りをね…」
影の笑い声が誰もいない部屋中に響いた…。




