新たな依頼
ーよう、みんな! 麻生 アルトだ!
俺は今、大変困難な状況にあるんだ…。それは過酷な依頼が来たワケでもなく、魔虎牙軍が攻めてきたワケでもない…。
「麻生 アルトさん! サインください!」
「あっ、ズルい! 私も!」
…俺を取り囲む様にいる十数人の女の子達…。
みんな俺目当てで来ている様で、俺は既に逃げ場を失っていた。
一見俺がハーレム野郎に見えるだろう…。だが、勘弁して欲しい。俺はハーレムなんてのには興味ないし、女の敵になるつもりもない。そもそも、歌音の件があったのに今はまだ恋愛もするつもりもない。
確かに、人気になったって事に関しては素直に喜ぶが、俺だけでなく、可能の星そのモノが人気になって欲しかった。
…まあ、人気にはなって、最近依頼が後を経たなく、ルルも忙しそうにしている。
だが、それと同時期に俺から握手やサインを求める女性達も一気に増えた。みんな、俺が無職と知っての反応だぜ?
一方仲間達の方は、マギウスはその女性達の大軍から逃げる様に部屋に篭り、エルスカーネもケイルの下へ行っている。
マギウスは兎も角、エルスカーネに関しては仕方ないと思っていた。俺達は彼女とケイル…愛し合っている二人が共にいるべきだと提案したが、彼女がそれを断った。
何でもそれではケイルの優しさに甘えてしまい、俺達に迷惑をかけてしまうとの事だった。
なので、週三おきにケイル達が建築している村に彼女はよく通っている。勿論、俺達も依頼がない日は手伝いに向かい、エルスカーネとケイルはよくルルとマギウスに揶揄われている。
…まあ、何故か揶揄ったマギウスだけは、アイムの拳を受けていたが…。
そして、そのアイムとはと言うと…元々、人見知り気質があった彼女は勿論、女性達の大軍に盛大に驚いていたが、その動作と容姿がまるで人形の様だと思われ、俺に次ぐ人気者へとなってしまった。…人形なのは間違いないが…。
それを恐れ、アイムは女性達の大軍の気配を感知すると真っ先に逃げ、ガルナやカイリの家へ良く逃げ込む様だ。
アイムが可愛いと思っているガルナには願ったり叶ったりだろうな。
最後にメリルとルルは…。まあ、何だ…? 彼女達は凄く俺を睨むんだよ…。理由は知らない…だが、すごく冷たいジト目で俺を睨み、助けようともせず、視線を向けても顔を逸らされる始末だ。
理由を聞いても、更に鋭い視線で睨まれるだけだしな…。本当に勘弁して欲しい…。
それから数十分後…良くやく満足したのか、女性達は帰っていった…。
「や、やっと帰ってくれたぜ…」
これが毎日だと考えたら、苦労しそうだな…。
「人気者はいいですよね」
「モテる男の方は違いますね」
…冷たいよ、メリルとルル…。疲れているんだから、心配の声を一言かけてくれてもいいのによ。
「お前等…なんか怒っていないか?」
「「特には」」
嘘つけ、絶対に怒っているだろ。
少し、休憩にしようと思い、椅子に腰かけたと同時に入口の扉が開いた。
「ただいま」
「ただいま戻りました!」
ん…?アイムとエルスカーネが帰ってきたのか。
「お帰りさない、お二人とも。一緒に帰ってきたのですね」
「お客さんが来ているよ」
客…? 依頼人かと、首を傾げていると、アイムとエルスカーネの間からひょっこりと見慣れた顔の男が現れた。
「やあ、アルト! 久しぶりだね!」
「…久しぶりでもねえだろ、ヴェイグ…」
和かに笑うヴェイグに呆れ、ツッコミを入れた俺は彼をギルドホームに招き入れ、椅子に座らせる。
マギウスも部屋から出てきて、メリルが全員分の紅茶を入れ、差し出した。
差し出された紅茶を一口飲んだヴェイグはメリルに笑いかける。
「うん、美味しいよメリルさん」
「ありがとうございます!」
紅茶が美味しいと言われ、嬉しかったのか、メリルは微笑む。
「それで…何の様だよ、ヴェイグ? お前がただ遊びに来たってワケじゃなさそうだしな」
「察しが良くて助かるよ。…まずはこれを見てくれ」
ヴェイグは懐から一枚のポスターを取り出し、テーブルに広げた。
そのポスターに目を通す俺達…。
「聖ミリアルド女学園…?」
聴き慣れない名前なのか、マギウスとアイム、エルスカーネが首を傾げる。
俺も聞いた事がないので、質問しようとすると、先にルルが答えてくれる。
「聖ミリアルド女学園は冒険者や騎士を育てる女学園です。毎年の卒業生達が優秀な冒険者や騎士になるのですよ」
ふーん…ファンタジー系のエリート学校って所か…。
「それで、この学校がどうしたんだ?」
「…実は最近、この学園で行方不明事件が多発しているんだ」
「行方不明事件…?」
…そう言えば、冒険者支援施設の方でも何か噂になっていたな…。それが聖ミリアルド女学園の事だったのか。
「不定期の夜に生徒一人が突然、行方不明となり、未だ帰ってきていないんだ」
不定期…。それじゃあ、捜査が困難してもおかしくはないな…。
「行方不明者に関連性もなく、犯人の目的も不明…。事件が拡大してしまえば学園の名前に傷がついてしまう危険性を考え、学園長が私達に事件解決の依頼をしてきたんだ」
「…ヴェイグさんよ? その事件とここに来たの、何の関わりがあるんだ?」
「聖ミリアルド女学園はガイールで一番大きな規模の学校でしたが…もしや…」
「ルルさんの察しの通り…簡潔に言えば、手が足りないんだ。騎士団の方でも私以外は別任務についているし…」
…今、ヴェイグが暇人疑惑が出たが、聞かなかった事にしておこうか…。
そして、今のヴェイグの言葉で彼が何を言いたいのか、わかってしまったぞ…。
「…成る程な。お前は俺達にその調査を手伝ってくれって言いたいんだな」
「ご名答だよ。よろしく頼むよ、アルト。ルーク隊長も君達ならば、必ず手伝ってくれると思っているんだ」
…コイツ、断りづらくしてきやがった…。
「わかったよ。その依頼…受けてやるぜ」
「感謝するよ」
予想通りの回答が来たのか、ヴェイグはフフッ、と笑った。
「…でも…誰が行くのですか?」
そうだったな…。全員で行くワケにはいかないし、女学園だ…。俺やマギウスも入れないだろう。
「やっぱり、メリルか、アイム…それとルルか、エルスカーネだな」
「わ、私は遠慮しておきます…。年齢が学生ではないので…」
珍しく引きつった顔で断るルルに俺は尋ねる。
「あれ? ルルって、何歳なんだ?」
ルルの年齢…聞いてなかったな。
「マスター…」
メリルやアイムにジト目で睨まれる…。
あぁ、やっちまったな…。
「アルトさん…マナー違反ですよ」
やっぱりな。
「悪いって! …じゃあ、エルスカーネはどうだ?」
「…その、私は亜人なので…」
コルドブームの事件以来、亜人への差別は減ったが…やはり、まだ完全には無くならないか…。
「じゃあ、メリルとアイム…頼めるか?」
「…アルト、その事なのだが…。今回の調査は君と私…それから後一人の女性の方で行きたいと思っている」
「…は?」
今、ヴェイグの奴は何と言った…?
「アルトさんが女子校へ…⁉︎」
「…は?」
何で男の俺が女子校に行かなければならないんだよ?
「おいおい…って事はアルトは女装しなければならないって事か⁉︎」
「…は?」
女装って…マジで…?
「ちょっと見てみたい」
「…は?」
見たいとか言うなよ、アイム!
「…僕もアルトの女装には大変、興味があるが…残念だが、アルトにはそのまま向かってもらう」
「待て! 俺に話をさせろ! どうして俺なんだ⁉︎ エルスカーネとルルが無理にしてもメリルやアイムがいるだろ!」
「考えてもみなよ? 男の君が新たに生徒として、入ったら犯人は警戒をし、その姿を表す可能性がある」
…焦りを誘うってワケか…。
「いや、でも…。目立つだろ…」
「それに…君がいた方がまだ解決しやすい。これは君の腕を見越しての判断だ。…どうかお願い頼むよ」
…まあ、女装しろって事じゃないからな…。
「…ハァ…わかったよ。…それで、後一人は誰にするんだ?」
此処はメリルが妥当だが…。
「私…行ってみたい」
何と此処でアイムが立候補してきた。
「学校というモノがどんなのかを…知りたい」
…好奇心から来る期待の眼差し…。これは断りづらい…!
でも、此処でアイムに色々な事を学ばせるのも手か。
「良いぞ、アイム。お前なら、襲われても対処出来るしな」
「では、支度を済まし、二時間後に出発するよ。…それまで休んでいてくれ」
…遠回しにヴェイグの奴も二時間、ギルドルームで休むと言ってやがるな…。
「とにかく、メリル。マギウスやルル、エルスカーネと一緒に貯まった依頼とかをこなしていてくれ。毎晩には連絡をする。…場合によってはお前達も呼ぶ事になるからな」
「わかりました!」
「花の女子校を楽しんで来いよ!」
よし、出発前にマギウスを一発ぶん殴る事決定だ。
その後、俺とアイムは支度を済まし、ヴェイグと共に馬車に乗り、聖ミリアルド女学園へ向かった…。




