灼焉の魔眼《レッド・アイ》
《ドラグネス》に敗北した俺は意識を失ったはずだったのだが、今は暗闇の中にいた…。
「此処は…? まさか…天国だとか言うんじゃないだろうな?」
「はい。あなたはまだ死んではいませんよ。アルトさん」
一度きりだが聞いた事のある声が聞こえ、俺は振り返る。
そこには俺をラインバルクへ転移させたメリルの上司女神でもあるイネスがいた。
「イネス…⁉︎ なんか、久しぶりだな!」
「ええ、お久しぶりです」
クスリ、と笑うイネスを見て、俺はあれ? と首を傾げた。
「俺が死んでいないとして…どうしてお前と会えているんだ?」
確か…女神とは死なないと基本会えないんじゃなかったか?
「…いいえ、そうでもありませんよ? そもそもアルトさんだって、この世界に来る前は死んでないではないですか」
…そう言えばそうだな。俺の場合、死ぬ瞬間に女神の空間へ連れてこられたんだっけか。
「それじゃあ、どうして俺は此処に? 死んでいないとしたら、意識の中とか?」
「察しがいいですね。そうです、此処はアルトさんの意識の中です」
いや、俺の意識の中に俺がいるってどう言う事だよ?
「それで…俺はどうして此処に?」
「あなたに…尋ねたい事があります。…今の世界はどうですか?」
「今の世界…?」
ラインバルクの事か…?
「どうとはどう言う事だ?」
「…あなたとメリルにはラインバルクの危機を何度も救って貰っています。そして、あなた達は何度も辛い目にあっています」
まぁ…確かに何度も死ぬかと思った程だしな…。
「もし、これ以上…ラインバルクで暮らす事が辛いと思うのならば…あなたとメリルだけでも別の異世界へお送りする事も可能です」
…ラインバルクとは違う異世界か…。
「勿論。戦争やモンスターも存在しない世界です。あなた達がそれを望むのであれば、私はお二人をその異世界へお送りしますよ」
…この世界に来て、無職と言われ、技能複写を手に入れ、アイム、マギウス、ルル、エルスカーネというかけがえの無い仲間が出来た…。
そして、多くの友人も…。
だからこそ、答えは決まっている…。
「イネス…」
「…何でしょう?」
「俺もメリルも…ラインバルクから出て行くつもりはないぞ」
俺の言葉にイネスは目を見開く。
「ど、どうしてですか⁉︎ あなた達は確実にラインバルクに存在する悪に目をつけられています! これ以上、関わってしまえば、もっと傷つく事になってしまうのですよ⁉︎」
傷つくのは嫌だ…。そんな事は当たり前なんだ。傷つくのを好む人間なんて存在しない。
誰かの為に傷ついたとしても、その傷は残ってしまう…。
でも、だからこそだ…!
「その傷つく経験を…想いからは逃げていたら…例え平和な世界だろうと生きてはいけない。人間は…傷ついても立ち上がる生き物だから…。俺は世界から目を背けたくないんだ!」
「アルトさん…」
「それに、辛い事ばかりじゃないんだ。俺には多くの友人や仲間がいる。…ラインバルクから逃げるって事はその仲間達からも逃げてしまう事になるんだ」
フフッ、と微笑んだ俺は目を閉じゆっくりと告げる。
「イネス…。俺をラインバルクへ連れて来てくれて…多くの人達と逢わせてくれてありがとな!」
目を開け、俺が告げるとその言葉を聞いたイネスの目元に涙が浮かび、頬を伝い始めた。
「私の方こそ…メリルと共にいてくださって…本当にありがとうございます!」
未だ泣きながら、頭を下げたイネスに俺はクスリ、と笑った。
「…それで、俺は気を失っているんだよな?」
俺の今の状況を聞くと、彼女は頷いた。《ドラグネス》…ガランの野郎に負けた事は事実だったって事か…。
「アルトさん…」
「何だ?」
「…あなた達の未来に幸があらん事を…」
祈る様な仕草を取った後、イエスが両腕を広げると、彼女の姿は消えた。
「イネス…⁉︎」
イネスを探すように辺りを見渡すが、彼女の姿は無く、俺の声が響くだけの何も無い暗闇の空間にへと戻った。
まだ意識が戻っていない事に疑問を抱きながら、俺はこれからどうしようかと考えていると、突然、頭の中に映像が流れ始めた。
これは…! 初代魔王と初代勇者が手を取り合い、共通の敵である《ドラグネス》と戦う光景…⁉︎
映像が進み、《ドラグネス》の火炎弾を聖剣で弾き切った初代勇者が《ドラグネス》に接近する。
初代魔王は補助技能で初代勇者を援護し、初代勇者の聖剣が《ドラグネス》に突き刺さった…。
《ドラグネス》の突き刺された先から血が溢れ、初代魔王にかかった。
だが、どう見ても初代勇者と初代魔王の勝利かに見えた…。しかし、《ドラグネス》は初代勇者の肩を掴んだ。
『私だけは死なぬ…勇者よ、貴様も道連れだ!』
そう言い残した《ドラグネス》は自身のエネルギーを暴走させ、自爆する。
その爆発に巻き込まれた初代勇者は爆煙に包まれる。
初代勇者の仲間達と初代魔王が爆煙を掻き分け、彼の下へ駆け寄るとそこには身体が消滅しつつあった初代勇者の姿があった…。
「勇者…! 貴様…!」
初代勇者の今の姿を見て、仲間達は涙し、初代魔王も涙を流しながら、倒れる初代勇者の手を掴む。
「…魔王よ…。お前を倒せなかったのは惜しいが…俺の息子が必ずお前を打ち倒す」
「我は…貴様との決着を着けたかったぞ…!」
「…俺もだ。…そう言えば、お前には娘がいたな? 俺の息子と交わる事のない事を…祈るぞ…」
そう言い残し、初代勇者は消滅した…。消滅した初代勇者の光を見上げながら、初代魔王は誰にも気づかれず、涙を流す。
「…さらばだ。勇敢なる我が宿敵よ…!」
それを最後に映像が途切れた…。この後は伝説通りって事か…!
それにしても…敵同士である者達が手を取り合い…互いの事を想い、涙する…か…。
『(そう。人間と魔族…。例え、対する者同士でも守りたいモノがあれば、手を取り合う事が出来るわ)』
「誰だ⁉︎」
突然、頭の中に女性の声が響き、俺は辺りを見渡すが、変わらず暗い空間のままだった。
『(私の事なんて、どうでもいいわ。…それよりもこれを見て)』
俺の周りに多くのモニターが映し出される。
そこには《ドラグネス》と戦っているメリル、アイム、マギウス、エルスカーネの姿があった。
「みんな…!」
俺の変わりに…アイツと戦ってくれているのか…!
だが、《ドラグネス》の圧倒的な力の前に次々とメリル達は倒れていく。
倒れていく仲間を見る事しか出来ず、俺は歯を食い縛る。
『(彼女達を助けたいの?)』
「当たり前だ!」
もう二度と…失うのは嫌なんだ…!
『(意気込みは買ってあげるけど、今のあなたでは《ドラグネス》に勝つ事は不可能よ)』
…確かに俺と奴の差は歴然だ…。でも、見ているだけなんて出来ない…!
「…アンタが誰かは俺は知らない。でも、これだけは言ってやる…! 俺は仲間を見捨てるような真似はしない! この不可能を打開して、仲間達を救ってみせる!」
俺の覚悟を聞いた声の主は黙り込んだ後、再び話しかけてきた。
『(それなら、私が力を上げる。…でも、この力は危険が伴うわ。それでも、力を欲するの?)』
危険な力…。それを手にしてしまったら最後、後戻りは出来ない…。
だが、俺に迷いはなかった…。
「力ってのは代償がつきものだ。…例え、どんな危険が俺を襲ったとしても…俺は仲間達と共にそれを乗り越えてやる!」
それを聞いた声の主はフフフッ、と笑った。
『(あなたを見ていると…彼を思い出すわ…)』
彼…?
『(良いわ。あなたにこの力を上げる。…私も見させてもらうわ。…技能複写の力を与えられた者のあなたを…)』
その言葉を最後に声が聞こえなくなると、俺の身体が突然脈打ち、身体の中に大きな力が入ってくるのを感じた。
「ウオオオオオオオッ‼︎」
溢れてくるエネルギーが身体から溢れ、俺の瞳は赤く発光し、声を上げた…。
気がつくと俺の意識は戻っており、その場にいたメリル達や《ドラグネス》は俺が目覚めた事や俺の溢れ出る力に驚いている。
『(見せて、ユニーク技能…灼焉の魔眼の力を…!)』
目を赤く発光させ、ユニーク技能、灼焉の魔眼を発動した俺は《ドラグネス》を強く睨みつけた…。




