導く者と悩む者
城下町内で技能をぶつけ合うメリルとアナトス。
一歩も退かない攻防に決着がつかないでいた…。
「へえ…強くなったじゃない、メリル」
「私だって…アルトさんを導く為に強くなると決めたんです!」
自身の決意を口にするメリル…。それを嘲笑う様に息を吐いたアナトスは技能を放つのをやめる。
「導く…? 貴女にはそれが出来ていると言うの?」
本当に導けているのか…、その言葉を聞かされたメリルの心はドクン、と音を立てて震えた。
「貴女は誰も導けていない…。ただ麻生 アルトに全てを委ねているだけ。そう、貴女は導いていると言うよりも導かれているのよ、麻生 アルトにね」
自覚はしていた…女神として麻生 アルトを導くと言っていながら本当は導かれているのは自分ではないか? …自分は麻生 アルトの強さに甘えていたのではないかと…。
そしてそれが悔しくて堪らなかった…。彼女は俺を支えると決めていた…女神としてではなく、メリル・シーニングとして…。
だが、結果的に支えられていたのではないかと…。
「ねえ、貴女の言う女神って何なの? 私が言えた事じゃないけれど、貴女も女神としてどうなの? 導く相手に導かれている…。それで本当の女神になれると思っているの?」
「…」
「悩むのは勝手よ。でもね、私達は人間とは違う…大きな力も持っている。その力で貴女は何がしたいの? 麻生 アルトの担当女神として彼に何をさせてあげたいの? 半端な覚悟で生きていける程、この世界は甘くないわ」
言い返せず、ただただメリルは拳をギュッと握り締める。
「だから…貴女には荷が重いって言っているの。わかっているなら大人しく私に倒されなさい」
諦めるのは簡単だ…。このままアナトスの放つ技能を受けてしまえばいいのだから…。
だが、本当にそれでいいのか…? そんな簡単に諦めてしまっていいのか…?
悩んでしまったメリルだったが、彼女の脳裏にある言葉と光景が映し出された。
『俺…本当は辛かった…! 友達であるスノウを俺の手で手にかけて…苦しかったんだよォッ! でも、お前達の前で泣かないって、決めた…! 決めたはずなのに…! 俺は…!』
レンドベルで友人を手にかけ、強がっていた俺…。そして、メリル自身が強いと思っていた俺が見せた弱音と後悔…。それを見て彼女は初めて思ったのだ。
幾ら強そうに見えても…人間には必ず弱い部分があると…。完璧超人なんてこの世には存在しない。
だからこそ、誰かが導かなければならないんだと。俺を…麻生 アルトという存在を不器用ながらも支え、導いていこうと…。
「お断りします」
迷いを吹っ切ったメリルは反逆の意志を見せた。
その彼女の気迫にアナトスは少し圧倒されたのか、一歩後退った。
「確かにまだ私は女神として実力不足です。アルトさんを導けず、逆に導かれてしまう事もあります。…ですが、私達は仲間です。アルトさんが私を支え、私がアルトさんを支える…。私達はそう生きていくと決めたんです!だから…アルトさんの邪魔をする貴女に倒されるつもりはありません!」
メリルの気迫に圧されたアナトスだったが、すぐに歯をギリッと鳴らして、彼女を睨み、《ファイアボール》の体制に入る。
「何がお互いで支え合うよ…。そんなの弱い者の考えじゃない! 弱者がこの世界で生きていく事なんて無理! 最後に信じられるのは強者なんだから!」
「ええ、私は弱者ですよ? 弱者だから…私達は手を取り合い、この世界を生きていくんです!」
「仲間なんて…他人なんて信じられないのよ‼︎」
怒りに任せた《ファイアボール》が何発も放たれ、メリルを直撃し、起爆した…。爆煙が起こってもアナトスは《ファイアボール》を放つ事をやめず、何度も着弾音だけが響いた。
息を切らしながら、《ファイアボール》を放つのをやめたアナトスは爆煙が晴れるのを待つ…。
だが、爆煙の中から風の刃が飛んできて、彼女の頬を掠め、軽く切り傷が出来た…。
「…何故当てなかったの?」
爆煙が晴れ、メリルの姿が露わとなり、何故彼女が放った《ウインドカッター》を当てなかったのかを尋ねる。
「煙で視界が奪われてしまったので…。でも、それは間違いですよ」
「何の事…?」
「当てなかったのではなく…次の手の為に外したのですよ!」
メリルの言葉にアナトスはある事に気づき、背後を振り返るが既に遅し…メリルの放った《ウインドカッター》が目の前まで迫り、防ぐ事もできず、彼女にアナトスに直撃した。
「うあああああっ⁉︎」
複数の風の刃が彼女の肉体を浅く切り裂いていく…。だが、メリルは手を休めず、風の刃を受けているアナトスに《スプラッシュ》を放ち、吹き飛ばした。
地面に転がるアナトスにメリルは更に手を向ける。いつでも技能を放てる様に…。
「くっ…! まさか、《ウインドカッター》をブーメランの様に戻していたとは…!」
「…不思議ですね。アナトスならばこのぐらいの攻撃に気がつくと思いましたが?」
「…!」
煽られている…? 嫌、違う…。 彼女は他人を侮辱する性格ではない。と言う事は心配しているのか…?
アナトスの頭の中ではメリルの質問による疑問とレイレ負けたと言う悔しさが渦巻き、歯を食いしばった。
「貴女は迷っているのですよ? 本当に貴女自身の行いが良い事なのか…。このままではいいのでしょうか…と」
「迷っている…? この私が…? ふざけた事を言わないで!」
「ふざけていません! 確実に貴女は私よりも実力や技量も上なはずです! ですが、貴女は私の攻撃にも気がつけませんでした! それは迷いが貴女の注意力を阻害しているからです!」
迷いは人の注意力を邪魔する…。アナトスも迷いを心に抱いている…だから、メリルの攻撃にも気がつく事が出来なかったのだ。
「少し私に勝ったからって、調子に乗るな! 本当の私はこんなモノではないわ…それを教えてやるから待ってなさい!」
そう言い残すと、アナトスは《テレポート》を使って、消えた…。
「アナトス…貴女は一体何がしたいのですか…?」
考えても仕方ないと、メリルはルル達の下へ戻る事にした…。
俺とキリヤの勝負は技能を一切使わないエンゼッターと銃剣による格闘戦だった。
攻撃と防御、回避を繰り返している俺達の攻防はまさに舞を見せているかの様だった。
何度目にぶつけ合ったか数えておらず、どう次の手で攻撃しようかと考えていたその時だった。
「…! へえ…」
俺と距離を取ったキリヤは何かに気づき、興味深そうな顔をする。
「何だよ…?」
「アナトスの奴がメリル・シーニングに負けたみたいだぜ」
「どうしてそんな事がわかるんだよ?」
「《意識共有》の技能だ。案外便利だぜ?」
メリルの下にもアナトスが行っていたのか…。それにしても、やったな、メリル…。
「随分と嬉しそうじゃねえか」
「まあ、メリルが無事だって知れてな」
「…違うだろ? アイツがアナトスに勝って…だろ?」
キリヤの言っている事が理解できなかった…。俺は勝敗など気にしない。ただ仲間が無事ならばそれでいい。
「勝ち負けなんてどうでもいい。…メリルが無事ならな」
「……甘いんだよ、テメェは…。反吐が出る程にな‼︎」
突然、怒号を飛ばしながら、キリヤが斬りかかってきたが俺はそれを防ぐ。
「一言目には仲間仲間…鬱陶しいんだよ!」
仲間という言葉に過剰に反応したのか、見た事も無いキリヤの怒った表情を見て、俺は軽く驚く。
「人間なんてのは一人だ! 仲間なんて必要ねえ! どいつもこいつも裏切るしか能のねえ奴等何だよ!」
「確かに人間は自分の身を守る為に簡単に裏切る種族だ。…だが、アイツ等は違う!」
「何が違うってんだよ⁉︎ 」
食ってかかってくるキリヤに俺は言い放つ。
「アイツ等は俺を絶対に裏切らない!」
「何を根拠に…!」
「根拠…? そんなの簡単だ…俺がアイツ等を信じているからだよ」
信じる…言葉で表すのは簡単だ。だが、それでも俺は信じている…俺の大切な仲間の事を…。
「…なら、裏切られたらどうする?」
「その時はその時だ」
暫く睨みあった俺達…。だが、キリヤの鼻で笑った声で沈黙が破られた。
「…ったく、本当にバカだな、テメェは…。反吐が出る程に…。それなら、お前の大切なモノを守ってみやがれ」
二丁の銃をしまうとキリヤは俺に背を向ける。
「キリヤ…」
「だが、忘れるな、麻生。お前は俺が倒す…。そして、人間の闇を甘く見るな。まあ、光のお前にはわからないだろうけどよ」
そう言い残した後、彼は《テレポート》でこの場を去った…。
「光、か…。って、早く王座の間に行かないとな!」
エンゼッターを鞘へ戻した俺は王座の間へ急いだ…。
ーー俺が光…。それは違うぜ、キリヤ。俺も深い闇に囚われているんだからよ…。




