越えるべき相手
王座の間への扉を開いたアイリとリフィルが目にしたのは王座にガランが座り込み、奴の足下には地に伏せたオルレスト様の姿があった。
「お父様!」
「アイリ…!」
地に伏せているオルレスト様の姿を見て、アイリは思わず叫んでしまう。
すると、ガランは足下に倒れているオルレスト様の身体を踏み付ける。
「おやおや…王座の間へ勝手に上がり込むとは無礼なお方ですね…。アイリ皇女」
「ガラン、貴方…!」
「これはこれは…ガイールのリフィル皇女もご一緒とは、一石二鳥とはこの事ですねぇ」
視線をリフィルに移し、不気味な笑みを浮かべたガランはオルレスト様から足を退ける。
「貴方達はもう終わりよ! 大人しく投降しなさい!」
「私が? いつ? 残念ですが、この王座に私が座っている時点で私の勝利が確定しているのですよ?」
ガランは勝利を確信し、王座の肘置き部分を撫でた。
「…でも、チェックメイトではないわ。だって…」
状況的には最悪…だが、リフィルには一切の諦めが存在していなかった。
「此処にはアルトがいるもの…。彼が必ずアンタの野望を打ち砕くわ!」
ビシッと、指を指すリフィルに対し、ガランは高らかに笑う。
「その彼は今、夕暮 キリヤと戦闘を行なっている…。もし、夕暮が負けたとしても傷ついた彼を倒すなど容易いのですよ」
一通り笑い終えたガランは再び、リフィルとアイリを見る。
「さて…長話も此処までです。アイリ皇女…アリシア殿とのご結婚のご決断をしてもらいますよ」
その言葉と同時に待っていたかの様に王座の間へアリシアが入って来た。いよいよ自分達の思い通りの国となる道が出来ていると余裕の表情を見せていた。
「アイリ皇女がアリシア殿とご結婚為されれば、アリシア殿との契約も完了し、二人でこの国の未来を新たに作る事が出来ます」
「そうです、アイリ皇女! 是非とも我が妃に…」
手を差し伸べるアリシア…。
その手を怪訝そうに見つめるアイリはオルレスト様を見る。
「私の娘は…貴様達などにはやらん…!」
「お父様…! 私は…貴方達の言いなりにはならないわ!」
「ふむ、どうやらアイリ皇女は今の立場をお分かりにはなっていない様ですね。…此処でオルレスト様の首を撥ねても良いのですよ?」
ガランは剣を手に持ち、剣身をオルレスト様の首元に押し付けた。
「や、やめて…!」
「では、有益なご決断を…」
正に外道の行いにアイリは怒りを覚えるが、父であるオルレスト様を人質に取られている為、大いに悩み出した…。
「わ、わかったわ…。アリシア…私は貴方と…」
結婚する…。その一言だけ呟こうとしたが、隣にいたリフィルから放たれた竜巻により掻き消された。
竜巻はガランが手に持つ剣を吹き飛ばした。
「ぬっ…⁉︎」
「リフィルさん…」
吹き飛ばされた剣を眺めたガランとアイリは驚き、竜巻を放ったリフィルを見る。
「アイリ…。貴女、こんな所で諦めるの? アルトが…メリル達が必死にこの国の為に戦っているのに、貴女は簡単に諦めてしまうの⁉︎」
「ッ…⁉︎」
「私達は確かにこの国を助けるって言ったわ…。でも、この国の未来を決めるのは貴女達なのよ! 目を背けないで! 貴女が戦わないで誰がこの国の為に戦うの⁉︎ 貴女は誰かに戦ってもらうだけの無責任な皇女なの⁉︎」
ガイールの皇女として…。コルドブームを守る為、リフィルはアイリの目を見て、言い放つ。その迷いもなき瞳にアイリは何かを気付かされた。
そう、俺達は手伝っているだけ…。この一件が終われば、後はアイリ達がどうこの国を導くかにかかっている。
だからこそ必要なのだ…。国の為に自らが立ち向かう意志が…。
「…全くもって、そうね…。ごめんなさい、リフィル。弱気になっていたわ」
「私達は指を咥えて見ているだけの皇女じゃない…。それを教えてあげましょう?」
「ええ!」
立ち向かう意志を露わにしたリフィルとアイリを見て、ガランは立ち上がり、剣を拾った。
「ならば…潰して差し上げましょう。…王に楯突く反逆者を!」
リフィルとアイリ…。ガイールとコルドブームの皇女は国と民を守る為にガランへ挑む…。決して俺達が居なくとも彼女達は諦めなかった…。
マギウスとアルドシュの戦い…。それは圧倒的と言って良いほど、アルドシュが優勢だった。
マギウスの全ての技能も彼の前では蚊を潰すも当然の様に打ち砕かれ続けた。
「おいおい…。これで俺を越えるとか口走っていたのか? それなら実力不足だな」
「グッ…! それならこれはどうだ! 《エレキアクセル》!」
両足に赤雷を纏わせ、マギウスはアルドシュに接近し、一撃を浴びせようとしたが…。
「遅えよ」
しかし、マギウスの動きが読まれていたのか、アルドシュの回し蹴りを叩き込まれ、民家に激突した。
崩れる瓦礫の中からマギウスは出る。
そんな彼をアルドシュは鼻で笑いながら、両足に赤雷を纏わせた。
「本当の《エレキアクセル》ってのは…こうやるんだよ!」
先程のマギウスのスピードとは桁違いの速さでマギウスに接近したアルドシュは高速の攻撃を何度もマギウスに浴びせ、最後に地面へ叩きつけた…。
「弱い…。やはり、お前では誰を越える事も出来ないな」
呆れと共に失望の声を漏らすアルドシュ…。少しは期待の色を見せていたのか、呆れというよりも失望の方が大きかった。
「…おい、マギウス。此処で尻尾巻いて逃げるのなら見逃してやるよ」
情けなく逃げ惑え…。情けにも近い声をかけられ、マギウスは悔しそうに拳を強く握った。
「…誰が…逃げるかよ…!」
それでもマギウスは逃げない…。嫌、逃げられないのだ。
「これは…俺だけの戦いじゃない…! アルトが…みんなが俺達の勝利を信じているんだよ! だから、逃げねえ! 何度ボコボコにされても俺はアンタを倒す!」
赤雷を右拳に纏わせ、マギウスはゆっくりと立ち上がり、アルドシュに殴りかかった。
彼の拳は間違いなく、奴の頬を捉えた…。だが、アルドシュは攻撃を受けた様子も見えなく、そのままマギウスはズルズル、と地に倒れた…。
「…負けねえ…! 俺は負けねえ…!」
何度も立ち上がろうとするマギウスを無言で見ていたアルドシュは息を吐き、彼に背を向けた。
「…今日はもう休め。今のお前じゃ、俺の所属している魔虎牙軍には勝てねえ。まあ…次会った時にまた楽しませてくれ。…頑張ったじゃねえか」
そうマギウスに告げる様に言った。…最後の言葉は彼には届かなかったが…。
「畜生…俺はまた…! ウオオオオオオッ‼︎」
負けた事…尊敬していた師匠が魔虎牙軍には所属していた事…。すべてが悔しくなり、マギウスは大きく叫んだ…。




