エルスカーネとケイル
ーー六年前…。
これはまだエルスカーネが幼少期の頃の話…。
十歳となった彼女は朝起床し、家の手伝いを昼頃に終えた。
「じゃあ、お父さん、お母さん! ケイル君と遊んでくるね!」
「ええ、気をつけて行ってらっしゃい!」
「暗くなる前には帰ってくるんだぞ!」
昼食を取り終えたエルスカーネは家を出て、友人であるケイルの家まで走る。
家に着き、扉をノックするとケイルが出て来た。
「やあ、エルスカーネちゃん!」
「こんにちは、ケイル君!」
挨拶を済ませた二人は遊びの内容を考えていた。
「今日は何をするんだ?」
「…うーん…釣り!」
「ははっ、本当にエルスちゃんは魚が好きだね!」
ケットシー族は魚が好物であるが、エルスカーネは特にだった。その事が恥ずかしかったのか、彼女は頬を少し赤く染める。
「も、もう! その事は良いの!」
プィッ、と不満そうに顔を逸らしたエルスカーネを見て、ケイルは苦笑する。
「じゃあ、行こうか!」
「うん…!」
エルスカーネの手を取り、ケイルは近くの池にまで彼女を引っ張っていく…。彼女も抵抗せず、手を握られた事に少しドキッ、としていた。
エルスカーネの初恋の相手は紛れもなくケイルだ…。しかし彼女は想いを告げる事が出来ずにいた。
何とか遠回しに彼へアップローチをかけていたが、彼自身も鈍感なのか全く気付いて貰えなかった…。
だが、今の彼女はこれで良かった…。想いを告げるのはもう少し大人になり、お互いが立派になった後でもおかしくないだろう…そう思った彼女は今を大切にしていた。
「ねえ、エルスカーネちゃん?」
「何?」
釣りをしている最中、ケイルは彼女に尋ね出した。
「僕達もいずれ大人になる…君は何か将来の夢とかあるの?」
夢…。その事を尋ねられ、彼女は少し考える。
「うーん…誰かの役に立てる様になる…かな?」
「えっ…?」
彼女の夢を聞いて、キョトン、となるケイル…。
「エルスカーネちゃんは充分に誰かの役に立っていると思うよ? 君のお父さんやお母さんの手伝いも良くするし、村の人達も頑張り屋さんって言っていたよ?」
そんな事を言われていたなど知らず、心の中で嬉しがったエルスカーネ。
だが、彼女は首を横に振った。
「それは違うよ、ケイル君。…今私がやっている事は些細な事だもん。…私がやりたいのは本当に困っている人達の役に立つ事…誰かを笑顔にする事なんだ。だって…笑顔で向けられるありがとう、って言葉…それを見たら私も笑顔になるから…」
「エルスカーネちゃん…」
彼女の夢の本心を聞いたケイルクスリ、と笑い、彼女にも聞こえない様な声で呟く。
「君の笑顔が…何よりも素敵だよ」
「…えっ? 何か言った?」
「ううん! 何でもないよ」
勿論、エルスカーネに聞こえるはずもなく彼女は小首を傾げる。
結局、二人合わせて五匹しか釣れなく、日も沈んできた為、二人は家へ帰宅する…。
夕食を取り終えたエルスカーネは寝巻きに着替え、寝る準備を整えた後、ベッドに座り込んだ。
「…そう言えば、ケイル君の夢ってなんなんだろう?」
大事な事を聞き忘れてしまったと彼女は思ったが、また明日聞けば良いと眠りについた…。
翌日、彼女はまた家の手伝いを終わらせ、ケイルと丘へ遊びに来ていた…。
「ねえ、ケイル君? ケイル君の夢って何?」
前日に聞けなかった事を聞こうと、ボール遊びを中断し、尋ねるとケイルは少し苦笑し、視線を逸らした。
「…僕の夢を言う前に…エルスカーネちゃんは好きな人とかいる?」
「え…? どうしてそんな事聞くの?」
「どうしてって…。わかった、言うよ」
覚悟を決めた様に軽く深呼吸したケイルは言い放った。
「僕の夢はエルスカーネちゃんをお嫁さんにする事なんだ。冗談ではなく、一人の女の子として本気で君の事が好きだ! まだ僕達は全然子供同士で早いと思うけど、こんな僕で良ければ、お付き合いしてください!」
「…!」
手を差し出され、その差し出された手を見たエルスカーネはポロポロ、と涙を流し始める。
「エ、エルスカーネちゃん⁉︎ ごめん、嫌だった⁉︎」
まさか泣かれてしまうとは思っておらず、ケイルは焦ってしまうが、エルスカーネが首をブンブン、と横に振る。
「違うの…。私も…ケイル君の事が大好きだったから…!」
「エルスカーネちゃん…」
「こんな私で良ければ…よろしくお願いします!」
ニコリ、と笑顔を浮かべたエルスカーネをケイルは抱き締め、その勢いで初めての口付けをしようとしたその時だった…。
突然、数十匹の馬が走る音が聞こえ、その馬達は村へ向かっていた。
「あれは…?」
「亜人にナイフを突き刺すマーク…? ッ、マズイ!」
「ケイル君⁉︎」
村へ迫っている者達の旗のマークを見たケイルは何かに気づき、村へ駆け出した。エルスカーネもその後を追い、何とか村へ辿り着いたが…。
時は既に遅かった…。
馬で駆けつけた者達が村の亜人達を襲っていた。
女子供は生け捕りにし、男はその手で殺めている。
「子供は捕らえ、大人は殺せぇー!」
亜人狩り達によって、殺されていく同族達…。しかしそこで見えてしまう…亜人狩り達がエルスカーネの両親に迫っていた事に…。
「お父さん! お母さん!」
「ダメだ、エルスカーネちゃん!」
ケイルの制止を振り切り、危険に晒されている両親に駆け寄るエルスカーネ。
「エルスカーネ…お前は生きろ」
「きっと…貴女の事を大切に思ってくれる人と出会えるわ」
「嫌! お父さん! お母さん!」
エルスカーネが両親に手を伸ばす…。しかし、両親は無残にも彼女の目の前で殺害されてしまう…。
「うわぁぁぁぁぁんッ‼︎」
エルスカーネの泣き声が崩壊した村中に響き渡る…。
だが、そんな彼女に構わず、亜人狩りの男達はエルスカーネを捕らえようと手を伸ばす。
「エルスカーネちゃんに手を出すな!」
エルスカーネを捕らえようとしていた男達の手をケイルが振り払い、彼女を守る様に立つ。
「へぇー? 格好いいじゃねえか? その女のナイトってか?」
「エルスカーネちゃんは…僕が守る!」
「ケイル君…!」
何とかエルスカーネを連れ、逃げようと動き出したケイルだが、亜人狩りの男達に力尽くで抑え込まれた。
それと同時にエルスカーネも捕まってしまう。
「グッ…! その子に…触れるな!」
押さえ込まれてもなお、エルスカーネを守る様に男達を睨みつけるケイル。そんな彼を鼻で笑った男達は彼の右足に鎖を着けた。
…そして、その先には同じく鎖に繋がれた馬車があった…。
それを見ただけでケイルがどの様な仕打ちを受けるかわかってしまったエルスカーネは絶望の表情を浮かべる。
「ケイル君!」
「…大丈夫。必ず、迎えに行くから…」
その言葉を最後にケイルは馬に引っ張られ、地面を引き摺られていく。
ケイルの名を何度も叫ぶが、もう彼女の声は彼には届かない…。そして、エルスカーネも亜人狩りの男達に捕らえられ、奴隷商へ売り払われた。
この一件以来、エルスカーネとケイルが出会う事はなかった…。今日、この時までは…。
ー俺達の目の前でケイルは真犯人の化け猫になった。
「ケイル君…!」
十年振りの再会…だが、それは最悪のモノとなった。それだけでエルスカーネは悲しい顔をする。
彼女の表情を見た俺は更なる怒りを覚えるが、今は一刻も早く城へ着かなければならない。
「…悪いが獣人形態の弱点は知っている。…そのペンダントを破壊させてもらうぞ!」
ブレッターの銃口を店主の持つペンダントへ向ける。
「良いのか? コイツはそのクソ猫と違う。…このケイルの生命とペンダントは繋がっている。…つまり、このペンダントを破壊すれば…ケイルは死ぬ」
「…!」
な、何だと…⁉︎
つまりそれは…ケイルを止める為には彼を殺すしかない…って事なのかよ…!
「そして、ケイルは調整により、今はもう俺の操り人形だ」
コイツ…!
「…何て外道なの…!」
「この様な男がこの国にいたなんて…!」
店主の仕打ちに怒りを露わとするリフィルとアイリ…。
すると、エルスカーネが盾を構え、俺よりも前に出る。
「…アルト様、お城へお急ぎください」
「エルスカーネ…」
「どの様な結果になろうとも…私がケイル君を止めます…! それが私の…私が愛したケイル君への…恩返しですから…!」
愛する者への恩返し、か…。だったら、止める必要はないな。
「…わかった。だが、奴隷の館の野郎もいる。…アイムを残すが構わないな?」
「…私は大丈夫」
「構いません。…アルト様、この国を…お願いします」
エルスカーネの頼みを受け入れ、俺とアイリ、リフィルは城の中へ入ろうとした…。
だが、奴隷の館の野郎がそれを阻もうとしたが、エルスカーネが《シールドブーメラン》で阻止する。
彼女の援護を受け、俺達は無事城の中へと入る事に成功した…。
俺達を見届けたエルスカーネは獣人形態となったケイルと向き合う。
「…アイム様、手は出さないでくださいね?」
「了解。…でも、貴女の身の危険と…あの男が横槍を入れて来たら手を出す」
その一言を聞き、アイムは一歩後ろに下がった…。
「やっと会えたね、ケイル君…」
『グルルルル…!』
唸り声を上げながら、エルスカーネを睨むケイル…。
「…初めよっか…。私達の…全てをかけた戦いを!」
盾を構えつつ、エルスカーネはケイルに挑んだ…。




