合流
自称神秘的なお姉さんの正体…それはこの国の第一皇女であるアイリ・ブームであった。
アリシアの言葉に俺は驚愕する。確かに、彼女は何処かの貴族の娘かと思ってはいたが、まさかこの国の皇女だったとは思いもよらなかったからだ。
「…お前、皇女様だったのか」
「…黙っていてごめんなさい」
申し訳なそうに俯きながら、謝罪の言葉を口にするアイリ。
そんな俺達に構わず、アリシアの野郎は話を進める。
「…まさか、アイリ様が犯罪者を逃すとは…。お可愛そうにアイリ様は犯罪者に洗脳されておいでですのね?」
…はあっ? 洗脳…?
「洗脳…? 何勘違いしてるかは知らねえが、そんな事してねえよ。彼女が第一皇女だと知ったのも今なんだからな」
「そ、そうよ。アリシア! 彼は私自身の意志で牢屋から出したの!」
アイリの話を聞いたアリシアは残念そうにため息を吐いた。
「いけませんな…その様な事は…。さあ、その犯罪者をこちらに手渡し、共にオルレスト様の下へ戻りましょう」
ニヤリ、と邪悪な笑みを浮かべるアリシアに俺は怪訝な表情を浮かべる。まるでアイリを連れ戻すというより、利用しようとした様な笑みだった。
この男…善意で彼女を助け出そうとしていない…!
前に立つアイリの顔を見ると、恐怖に囚われていた。アリシアを見る怯えの目…それはアイリがアリシアをどう思っているのかがわかる。
「…今ならば弁明も効くでしょう。さあ、早く戻りましょう」
いい加減この男に嫌気が刺した俺は口を開こうとしたが、アイリにコートの袖を掴まれ、彼女に視線を移す。
「…お願い、助けて…。このままじゃ、私…彼と強制的に結婚させられるの」
「ッ…⁉︎」
アイリから告げられた言葉に俺は言葉が出ない程驚く。
俺と年齢が変わらない彼女が中年であろうアリシアと結婚…だと…⁉︎
…嫌、そうか…。此処で俺がアイリを洗脳し、連れ去ろうとしていたと話せば、オルレスト様はアリシアに何かしらの褒美を与えるであろう。…そして、奴の自信…俺の事件の前にも悪どい方法で評価を上げているってワケか…!
「…一つ聞く…。オルレスト様は娘であるお前を利用する愚王か…?」
「…違う。お父様はガランや魔虎牙軍に利用されているだけなの」
…やはり此処は魔虎牙軍が関わっているのか…。
「だから、お願い…! 私達を助けて…!」
ギュッとコートの袖を握り、目元に涙を溜めながら、悔しそうに彼女は懇願してきた。
それがこの国や父であるオルレスト様を想う彼女の願いだ。
「犯罪者…その方をこちらに手渡せばオルレスト様から罰を軽減してもらう様私から申し入れよう」
…何処までも自分の評価大事ってワケかよ…。下らねえ…。
「…わかった、アイリ…任せろ」
そう呟いた俺は彼女を抱きしめ、そのまま横にあった窓を突き破り、外へ出た…。
突然の行動に抱き寄せられたアイリとアリシア達は目を見開く。
窓を突き破った俺達はそのまま外へ逃げる事に成功した…。
「あ、あの…」
「舌噛むぞ!」
抱き締めからお姫様抱っこに変えられ、顔を真っ赤にするアイリ。
すると、アリシアの命でなのか、追手の騎士達が俺達を追って来た。
それにしても…この技能を無効化する手錠をどうにかしないと逃げ切れるモノも逃げきれねえ…!
暫く、奴等を撒くように逃げ進めるが、結局追い詰められてしまう。
アリシアやブルースはいないが、武器も何もない状態でこれはマズイ…。
せめてモノ俺の荷物を奪い返してから外に出るんだった…。
「アイリ様を返せ、犯罪者が!」
ジリジリと迫る騎士達…どうすればいい…?
「アルト…」
心配そうにこちらを見上げるアイリを抱き寄せる俺…。
すると、聴き慣れた声が聞こえて来た。
「《エレキガン》!」
「吹き飛ばす」
突然放たれた紅い稲妻の銃弾と腕は俺達に迫っていた騎士達を吹き飛ばす。
「な、何だ…⁉︎」
二つの攻撃を放った者達に気づき、俺はニヤリ、と笑みを浮かべた…。
そう、そして、その者達は俺達の前に降り立つ。
「騒がしいと思えば、もう出て来れたのか? アルト!」
「無事で何より、マスター」
俺達を助けてくれたマギウスとアイム…さらには…。
「《シールドブーメラン》!」
「《ウインドカッター》!」
盾と風の刃も放たれ、騎士達を吹き飛ばす。
「アルト様!」
「ご無事ですか⁉︎」
エルスカーネとメリルか…!
「お前等…!」
仲間達が助けに来てくれた事が嬉しくなり、俺はクスリ、と笑った。
「兎に角、あの場所まで逃げるぞ!」
「ああ!」
尚も追いかけて来た騎士達をメリル達は吹き飛ばし、俺達はアリルシエルさんの装備屋まで走った。
何とか騎士達を撒き、俺達は装備屋に入るとルルとアルシエルさんが出迎えてくれた。
「アルトさん!」
「おう、坊主! 無事だったのか!」
俺の無事を確認するや否、笑顔で駆け寄ってくる。
だが、アルシエルさんの視線はアイムに向かった。
「…って、そこに居るのはアイリ様⁉︎ どうして坊主と共に⁉︎」
「アイリ様…?」
「そう言えば、気になってはいたが、彼女…何者なんだ?」
先程は逃げる事に精一杯で聞いては来なかったメリル達は再び、アイリが何者なのかを問い掛けて来た。
俺はメリルから治癒を受けながら、答えようとしたが、アイムが立ち上がり、スカートの裾を持ち上げ、お辞儀をした。
「始めまして、皆さん。私はアイリ・ブーム…。コルドブームの第一皇女です」
彼女が名乗るとメリル達に衝撃が走る。…嫌、実際俺もそん感じだったしな。
「だ、第一皇女様⁉︎」
「お、おい。アルト! どうしてその皇女様と一緒に逃げてんだよ⁉︎」
「へえ、皇女様まで誑かすとはやるな、坊主」
ルル、マギウス、アルシエルさんの順で話す。
…ってか、アルシエルさん、言い方⁉︎
取り敢えず、俺とアイムは逃げる事になったきっかけを話した。アリシアがガランと結託し、俺たちが利用された事…。このままではアイリがアリシアと結婚させられてしまう事…。
その話を聞いたみんなは怒りを覚える。特に強制的な結婚という言葉に女性であるメリル、アイム、ルル、エルスカーネは特にだ。
「だから…俺は彼女を助けようと思ったんだ」
「…坊主は相当なお人好しだな」
「…耳が痛いです」
今更なので言わないでいただきたい。
「あ、そうだアルト。これ…」
アイリが何かを思い出した様に手渡して来たそれは無限鞄だった。
「お前、それ⁉︎」
驚いて、無限鞄を受け取った俺は中身を確認するとエンゼッターやブレッターなど奪われた荷物が全部入っていた。
「貴方が囚われている牢屋に行く前に拝借していたの。取り敢えず、貴方の物っぽいモノを詰めて」
嬉しいが正直さっきに渡して欲しかったぜ…。まあ、これで武器は戻って来たし、襲って来ても反撃は出来る。
もんだいはこれからどうするか、だが…。
「まずは俺達の無実を晴らさないと意味がねえ」
「…でも、どうすればいいんですか?」
そもそもガランの目的は何だ…? 何故、俺を陥れようなんて事をする…?
「ガランってよ…。もしかして、この国を乗っ取ろうとか考えているかもな!」
マギウスの何気ない一言…そうその一言に彼へ視線が集まる。
視線が集まったマギウスはえ⁉︎、と俺達を見る。
「そうか…。奴の目的がこの国を乗っ取ると言う事だったら、いつかは強行手段に出る可能性があると言う事だ!」
「加えて、あの男には戦力が集まりつつある。…強硬手段に出るのも時間の問題」
つまりその強硬手段に出た時が勝負って事だな…。
すると、何か大きな荷物が届いたのかアルシエルさんが取りに行き、戻ってきた。見た目は箱で結構な大きさだな…。
「何だ、これ?」
「え? アルシエルさんが発注したんじゃないんですか?」
「嫌…今日発注した商品はなかったはずだが…」
まさか、罠かと思った時、その箱が激しく揺れ、開いた。
「プハーッ! やっと抜けられたわ!」
…荷物として届いた箱から人間…それも女の子が出て来た…。
極め付けは知り合いだ…。
「え…ええええっ⁉︎」
「ど、どうしてアンタが…⁉︎」
声を出して驚くメリルとマギウス…アイムも眉を潜め驚いている。
「あら、アルト達…? 無事だったのね⁉︎」
箱から出て来た女の子は俺達を見つけるや否、箱から飛び出て来て、俺の肩を強く握った。
「…何やってんだよ、リフィル…」
箱から現れた者…ガイールの第一皇女、リフィル・ガイールに俺は呆れ気味で呟いた…。
俺達が無事だと知り、目元に涙を浮かべていた彼女だったが、すぐに表情を一変させ、真剣になった。
「貴方達を助けに来たの…アルト」
彼女の真剣な表情…それがタダ事ではないと悟り、俺も頷いた…。




