異世界転移
初めまして、Jです!
それではどうぞ!
「異世界転移です!」
光の満ちる真っ白な世界で目の前の少女はそう言った。
いや、どういう事だよ?
「いやいや、そんな満面の笑みで言われてもわからないって! アンタ、誰? ってか、ここは何処?」
俺は確か…学校から下校していたはずだが…。
「私は駆け出し女神のメリルです!ここは、女神空間…我々女神が存在する世界です!」
…女神…?
この俺と同い歳ぐらいの少女が?
ってか…女神とかマジで?
見た目は青い瞳に金色の髪…それ以外は普通の人間だろ。
「むっ! その顔は信じていませんね!」
「いや〜、流石に女神とか言われても信じられるワケないだろ」
無理無理、と俺は手を振る。
「そ、そんな〜! 私は本当に女神なんですよ! …駆け出しですが」
女神に駆け出しとかあるのかよ…。
「そもそも突然現れて、女神とか言われてもなぁ…」
「え〜…どうすれば信じてくれるんですか?」
「うーん…」
俺は顎に手を当て、考える。
…ってか、女神って、基本何するんだ?
「彼女の言っている事は本当ですよ。…麻生 或都さん」
声が聞こえ、振り返ると1人の女性がいた。
焼き付く様な赤い瞳に白い髪…そして、その白い髪と同じぐらいの白い肌をしていた。
麻生 或都…。
俺の名を女性は知っていた…何故だ?
「イネスさん!」
「メリル…いつも言っているでしょう? まずは転移者の状況を説明してからだと」
「う…す、すみません…」
イネスという女性の注意にショボン、となるメリル。
見た所、メリルの上司の様な人だが…。
「申し訳ありません、或都さん。私はイネス…この女神空間の女神でメリルの上司です」
ペコリ、と頭を下げるイネスに俺は首を傾げ、聞いた。
「何故、俺の名前を知っているんだ?」
「女神ですから!」
「いや、それ理由になってないから」
軽く息を吐き、イネスにツッコミを入れる。
それにしても…この人も女神、か…。
「女神ねぇ…」
「信じられないとは思いますが、私達は本当の女神なのです。…そして、私の力であなたをこの世界へと連れて来ました」
イネスがここに連れて来た?
「どうして、俺をここに連れて来たんだ?」
「連れて来たというよりは連れてこなければならない…ですね」
連れてこなければならない…?
「どうやら、唐突のショックで忘れてしまっている様ですね。…実はあなたはトラックに轢かれ、死ぬ所だったんです」
「えっ⁉︎」
イネスの言葉に俺は驚く。
死ぬ所だったって…俺が…⁉︎
「メリル…」
「はい。或都さん…これがあなたがこの世界に来る前の記憶です」
突如として、出現したモニターを操作し、メリルはそのモニターを俺に見せた。
そこには俺がトラックに轢かれそうになっていた子供を庇い、トラックに跳ねられそうになっていたが、接触寸前でピタリと止まっていた。
「これは…!」
「どうです、思い出しましたか?」
あぁ…そうだった…!
俺は下校途中でトラックに轢かれそうになった子供を見つけて、いてもたってもいられずに子供を助けたんだった。
「思い出したよ…。はあ…まさかこんな下手な展開で異世界転生をする羽目になるとは…」
「異世界転生?」
「え? だって、俺死んだんだよな?」
俺の言葉にイネスは質問し返して来た。
…ん?それにしてもメリルは異世界転移とか言ってなかったか? それにあの映像…どうして、あそこで止まったんだ?
「ですから、死んでいませんよ。あの映像を見た通り、車との接触前にあなたの世界の時間を止めたんです」
時間を止めるって…これは本当に女神だと信じるしかないな。
「まだ疑っていたんですね…」
ジト目で俺を睨むイネス…。
ってか、聞こえてたのかよ。
「つまり、アンタ達は時間を止めて、俺をこの世界へ連れて来たって事でいいんだよな?」
「はい。死んでいないので転生ではなく、異世界へ転移してもらいます」
…いや、おかしくないか?
「いやいや、俺転移する必要ないだろ! 普通に時間止めてる間に俺と背負ってる子供を助けてくれればいいじゃねえか!」
すると、メリルとイネスは申し訳なさそうな顔をする。
「申し訳ありません…。実は私達は簡単に人の死の瞬間を変える事は出来ないのです」
女神なのにか?
「しかし、簡単に死なせてしまってはダメだと思い、貴方を異世界へ転移して頂こうと思ったのです」
「もし、貴方が断るのであれば…あなたが助けようとしている子供に転移をお願いするしかないですね」
…何だって⁉︎
「はぁ⁉︎ 本気で言ってんのか⁉︎ まだ5歳ぐらいの子だったんだぞ!」
それなのにモンスターとかいるかも知れない異世界に転移させるなんて…!
「ですので、貴方にお願いしているのです。…貴方が異世界転移を受け入れて頂ければ、あの子供を助ける事を約束しましょう」
これはもう選択の余地はないってワケかよ…。
仕方ねえな…。
「わかったよ。異世界転移…やってやるよ!」
俺の決意の言葉を聞いて、イネスとメリルは笑顔になる。
「そう言ってくれると思いました!」
それはそうで…俺が転移する先の世界について、聞いていないな。
「所で、俺が今から行く世界はどんな世界なんだ?」
「行けば、わかりますよ。それから貴方には幾つか特典も差し上げます!」
ここで異世界転移を望んでいた者なら、喜んでいるだろう。
転移特典…特典の内容は様々だが、特典によってはチート級の力を得る事が出来る。まあ、俺的にも得点を得る事は嬉しい所だ。
「転移特典は転移先に行った後のお楽しみです!」
それは楽しみが広がるな。
転移の準備を始めたイネスの横でメリルが話しかけて来た。
「頑張ってくださいね、或都さん! 私…応援していますから!」
「応援ありがとよ、メリル」
「…あ、言い忘れていたけど、メリル…貴方も行くのよ。或都さんと一緒に」
…………はい?
「え…イネスさん、今何と言いました⁉︎」
「だから、貴方も或都さんと転移するのよ」
「えーーーーっ⁉︎」
メリルの驚愕の叫びが、空間内に響いた。
「ど、どうしてですか⁉︎」
「女神の仕事は転移者を異世界に導く事よ。それに貴方は駆け出し中の見習いなのだから」
ううっ、と後ずさるメリルにイネスはさらに笑顔で続ける。
「それに、ここでいい成績を叩き出せば、立派な女神として活動できる様になるかもね!」
「立派な女神…!」
それを聞いたメリルの目は綺麗に輝いていた。
眩しいぐらいに…。
「或都さん!頑張りましょう!」
「いや、俺の承諾なしかい!」
勝手に話が進んだ事に俺はツッコミを入れざる負えなかった。
「或都さん…。メリルはドジで運が悪いですが…どうか、よろしくお願いします」
ペコリ、と頭を下げるイネス…だが、その表情は上司という感じではなく、まるで妹を心配する姉の様な表情だった。
そんなイネスの表情を見て、断る事が出来ず…。
「ああ、わかったよ。できる範囲でメリルは守る」
「ありがとうございます!」
ニコリ、と安心した様にイネスは笑う。
その側では何故か、メリルが頰を赤く染めていたが…。
「では、転移の準備が整いましたので、お二人をお送りします!」
そう言えば…転移って、やっぱりワープみたいなものなのか?
だが、不意にブワッ、と俺とメリルの足下の感覚がなくなった。俺達はゆっくりと下を見ると大きな穴が空いていた。
えっ?、と俺とメリルはお互いに顔を見合わせた後…勢い良く、落下していく。
「ウワアアアアッ⁉︎」
「キャアアアアッ⁉︎」
俺とメリルの悲鳴が響く中、最後に穴の底を覗く様にイネスが顔を出した。
「快適な異世界ライフをお楽しみください!」
遠めだが笑顔なのはわかる…。
そして、最後にこれだけは言わせろ…。
「落ちるなら最初からそう言え、この野郎ォォォォォッ‼︎」
その声もイネスからしては遠のいていき、次第に聞こえなくなった…。
「お願いします、或都さん、メリル…。異世界の命運は貴方達が握っています」
両手を握り、祈る様なポーズを取りながら、閉じていく穴を見届け、イネスは呟いたのであった…。
感想や指摘、お願いします!