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符術師はお金が無い ~  作者: ペペロン
3/3

勘違いな二人は踊る

まさか巧から、こんなに早く返答があると思わなかった女の妖魔は少し驚いてしまった。



女の妖魔は、確かに自分の体は今、かなり酷い事になっているが、不満でもなんでも、巧は返答してくれたのである。



少しでも好意がなければそんな事はしない、恩赦を貰う為に、畳み掛けるのは今しかないと、女の妖魔は素早く行動する。



「よ、よし(わらわ)の今の身体に不満なんじゃな。でも大丈夫じゃ、(剣を抜けば)心配せずともすぐに元に戻るぞ。ほれなんじゃ?やりたい事を恥ずかしがらずに言ってみ」



この女の妖魔の発言に巧は、やはりなと思った



そもそも、この状況で煽ってくる奴なんてそうそういない、それができるのは、すでに打開策のある者だけだ。



さっきからひたすら馬鹿にして来ている、この煽り上手の女の妖魔に対する苛立ちと、巧のちっぽけなプライドが相俟(あいま)って、すでに巧は完全に恐怖心が無くなっていた。



そう、もはや巧の恐怖心は、この女の妖魔を絶対に倒してやるという静かな怒りに変わっていたのだ。



女の妖魔はその、静かな怒りをはらんだ冷静な目で見下ろしてきている、巧を見た瞬間、今までの対話が何の意味をなさなかったのだろうと、消される自分の未来を想像しついに、恩赦を諦めた。



そして女の妖魔は恩赦が貰えない事と同時にもう一つ確信した。



やはりこの者は警戒した通りの、傑物(けつぶつ)だったのだろうと。



女の妖魔には、この動けない状態になっても、力を失い自分が消えるのも早くなるが、大抵の祓いにきた者は、最悪殺せる妖魔だという自負もあった。



この女の妖魔を倒しにきた男ですら、女の妖魔に大剣を刺した後、手酷くやられ、自然消耗を待つ為か、かなり警戒した目をしながら離れて行った程である。



女の妖魔からすると、自分を蚊を見るような目で見つめるその仕草と、親指に挟んだ符から場違いな程に漏れだす霊気。




また、巧の呪詛まで止めて発言する余裕な態度が相俟って、目の前の巧の印象が最初会った時の軽い考えから、遥かに高みにいる人間ではないのか、という認識に変えていた。




女の妖魔は、思い返せば、匂いで村人と思った一因でもある、この者が式を連れていなかった理由は、一人で対処できる程に強かったからだろうとか、色々な考えが落ち着きを見せ、()に落ちていった。



女は色々考察した末、もはやこの男から助かる未来は描けかった。



「ええいもういい。妾の種族上、この状態では式鬼神にしてくれと言っても嫌じゃろうし、はよう殺してくれ。」



ここで、絶対倒せると根拠のない自信に満ち溢れ、父譲りの虎の子の一枚を指で挟み、忙しなく指で印を紡いでいた巧の手が止まる。



「式にか?本気で言ってるのか?」



それは、自分の夢がこんな形で叶うとは思っていなかった、巧にとって百点満点の誘惑だった。



「そりゃ助かるなら本気じゃ、見たところお連れ様も見当たらんでの。助けてくれる事を条件になら喜んで式になってやるぞ」



女の妖魔は投げやりな口調で答える。



まさか自分より強い者が無条件で、式になると言い出すとは思わなかった巧は、少し戸惑(とまど)いながら答えた。



「貴様が式にしていいと言うのなら、確かに願ったり叶ったりだが、本当にさっき言った通り、足は生えるんだよな?」



逆に女の妖魔も思った以上の相手の食い付きに、今さらなぜと、少し戸惑っていた。



女の妖魔からすれば自分の足が生えるのは当たり前である。



たがすぐに女の妖魔はある考えに至る。



そう、この男はその気もないのに、先程自分がやった事へのお返しの意味で、甘い誘惑で自分を遊んでいるのだろう、という考えに(いた)ったのだ。



ならばと女の妖魔は思った。



最後は道化になって、最後まで気づかないふりをするのも、相手にとっては面白くないだろうと、しびれを切らして男が種明かしした時に気づいておったと盛大に笑ってやろうと。



「言ってる意味は分からんが、もちろん足も生えてくるぞ。ああ祓わんでくれれば、この終わっていた命を捧げ、共に生きるのも面白いじゃろうて」



女の妖魔は、これが最後の抵抗と、皮肉を込めて満面の笑顔を巧に向けてやった。



「では名前を言え」



この時に巧は確認しておくべきだった。



女の妖魔の種族がいったい何だったのか。



なぜ例え大剣が心臓に刺さったままで動けないとしても、最後まで祓われずに放置されていたのかを。



「はっ、名前まで言わせるとは。騙されたふりをして笑ってやろうと思ったが、こんな状態の妾の事をもて遊ぶお主は、妾より性格が悪いの。リアナ.ヴェルゴール.スフィアじゃ。そんな覚悟があるなら式にしてみろ馬鹿者」



しかし巧は何度も夢に見た式がすぐそこまで、現実になってかなり浮かれていたのだ。



今の巧は自分の都合のいい事だけしか聞き取れていない。



リアナが名前を言うと、巧は何度も練習してきて叶う事のなかった、名を縛る呪詛を唱える。



「途中で止める事など、目に見えておっても、やはりここまでくれば期待してしまうものじゃの」



リアナは自嘲気味に言葉を吐くと、この(おかし)な祓う者に少しの期待をしつつ、自分の最後を受け入れる様に目を閉じた。



するとリアナの身体が発行すると、一筋の光がうねりながら出てきた。



その光は巧の心臓のある位置まで上がり、呪印に変わり不思議な模様が巧に描かれた。



リアナは本当に諦めていたので、何度も自分と巧の繋がりを何度も確認しながら興奮気味で巧に喋りかける。



「はっ。まさか本当に式にしてくれるとはの。妖生何があるか分からんもんじゃな。これでお主は間違いなく妾の(あるじ)様じゃ。これからは、一蓮托生じゃろ、ならばはやく剣を抜いてたもう」



巧もまた式の繋がりを感じ、嬉々として言われるがまま剣を抜いた。



『ドッックッッンッッ』



とその瞬間巧の心臓はまわりに音が響く程脈うった。




けたたましい心臓の痛みに巧が耐えていると、隣にいたリアナが上半身の下からさらさらと霧の様に消えていく。



「どうゆう事だ?まさかっ…がぁぁ」



巧は念願叶ってやっと式ができるのに、失敗したと思って内心かなり焦っているが、心臓の痛みで上手く言葉が出てこない。



「何を驚いておる?ヴァンパイアじゃからあたり前じゃろ?とりあえず心臓が慣れるまで痛むじゃろうが、妾は何も出来んし、その間に妾も霧になって再形成しようと思っただけじゃ。頑張るのじゃぞ。主様」



そう言い残すとリアナは今度こそ、その場から消えていった。



ここで心臓の痛みに耐えながらも、驚いたのは巧である。


 

ヴァンパイア。



ヴァンパイアまたの名前を吸血鬼、一般人ですら、大人から子供まで知っているその名前に、言葉が出てこなかった。



なぜなら、ヴァンパイアは上級から特級、さらにその上の特級の中でも、上位の者しか受ける事が許されない、天災級にもよく名前の上がる、名のある退魔師にしか依頼のこない、有名な大妖魔だったからである。



しかもヴァンパイアは種族上、式鬼神にはめったに出来ないとされている。



ヴァンパイアは、一族全てが一つの呪いと言っても過言ではない。



一番上の者が下の者を下の者がさらに下の者を縛る。



すでにピラミッドの図式でひとつの呪いとなって完成されており、後から他の者が縛れないからである。



この図式が当てはまらないのは一番頂点、もしくはピラミッドの上の者が、全てなんらかの理由で消滅した特殊個体のみである。



「本当に、俺…やばかったんじゃないか?」



この時、初めて巧は自分の状況を理解し、運良く式を手に入れた事よりも、生きていた事に安堵した。



そうこうしているうちに、霧が集まり人形を作りゆっくりと降りてきた。



心臓の痛みが収まってきた巧は、改めて自分の式となったリアナを見た。



金髪のウェーブとモデルのような顔立ち。



陶磁器のような肌には、良く似合う黒の基調に、赤をあしらったドレスが纏われていて、開いた胸元と、背中が、なんとも言えぬ色香を放っていた。



その妖艶な姿は確かに、異性を魅了させ生き血を啜ると言われている、ヴァンパイアの姿そのものであった。



そして空いた胸元の右上には、元々は無かったであろう、巧が先程刻まれた紋章と同じものが描かれていた。



この国では少し不釣り合いではあるが美しいと巧は思った。



「なんじゃ、見惚れておるのか、妾は美人じゃからの」



リアナは意地の悪い笑みで巧を見つめた。



そこは恥ずかしかったのか、巧はぶっきらぼうに質問する。



「違う。それより説明しろ。お前はなぜ俺の式になれた?始祖なのか?」



始祖(しそ)とはヴァンパイアの中でその一族の一番最初に生まれた妖魔の事をさす言葉である。



リアナはそれを聞いて可笑しくなり笑いながら答えた。



「妾が始祖な訳ないじゃろ。妾は昔は町娘からヴァンパイアにされてしもた、下の者じゃ。始祖なら、心臓なんぞ潰されておらぬわ。我らの始祖と上位の者は、遥昔、人狼属の長とその群れとの戦いで消えてしもうた。それから隠れて、中堅の者と一緒に暮らしておったが、妾より上の者が全員、昨日の妾を襲ってきた組織に消されて、残り妾一人になっておったから、契約できただけじゃ。主様は冗談が好きじゃの」



一族全て祓われたと言う事実に驚きながら巧は、リアナの言った言葉でそれより引っ掛かった事を喋りだした。



「お前の前いた所はら祓う者と言うかも知れないが、この国では妖魔と闘う者を退魔師と言う。そもそもその冗談ってのはなんだ?」



リアナは不思議な顔をしながら巧に訪ねる。



「なんじゃ、ヴァンパイアに足が生えてくるかだの、妾の事を始祖かだの、式になる前からずっとおちょくってきてるではないか。主様は心臓のないヴァンパイアと契約する変人じゃし、笑いのセンスもずれててもまぁ納得はいくがの。やっぱり猛者(もさ)は変わった者の方が多いしの」



この言葉に巧はさらに戸惑う。



「何を言っている?まずお前の種族など、俺は今聞いたばかりだぞ。だいたい、ただでさえ特級しか縁がないヴァンパイアの心臓が無くなった状態で契約したらどうなるかなども知らん。ヴァンパイア事態【社】で契約してる退魔師を一人しか俺は知らん。剣を抜いたら再生するんだろ?現にお前は今ピンピンしてるじゃないか。だいたい俺は猛者なんかじゃない。何でそう思ったかは知らんが、毎日日銭に追われる、しがない中級の退魔師だ」



これを聞いてリアナはこれまでの一連の流れを思い出しながら、何かを言いかけて止めを繰り返し、鯉のように口をパクパクしだした。



そして覚悟を決めたようにリアナは言葉を少しずつ吐きだした。



「いいか、よく聞け主様よ、主様のヴァンパイアの知識に関して、妾の勘違いがあった事は素直に謝罪しよう。しかし妾相手にあんな態度を取られては、主様が強いと思ってしまっても仕方ないと思う。強い者に知識があると思うのも当たり前じゃ。それにあの紙切れからの力を確かに妾は感じた。お主が強いのも間違っておらぬ事のはずじゃ…」



リアナが話すのを途中で遮って巧は説明する。



「まて、いいか良く聞け。お前の言う紙切れは呪符と言う。胸を張って言える事じゃないが、あの呪符は、俺の親父(おやじ)が作った物だ。符術師ってのは、霊気を様々な形状にして紙に込めれる。そして、符術師は霊力が似ていると、完全で無くても他人の作った呪符を使えるって利点があるんだ。俺達は親子だから霊力も似ていて、手順を踏めば、あの呪符に込められた九割くらいの力を使える。だからあれは俺の術技であって、俺の霊力ではない。いわいる借り物だ。ちなみに親父は特級で数字持ちだから、そら強い力を感じるだろうよ」



ここでリアナは自分が勘違いをしていた事に気付いた。



「まて、なら何か?妾は主様の後ろにいる、親父さんを恐れていたのか?じゃが、自分の力でもないのに、妾を虫けらを見る様な…そう…あの歴戦を潜り抜けてきた様な…あの猛者の様な目はなんじゃったんじゃ?」



巧はあの無敵状態を思い出し、少し恥ずかしい感覚になった。



「それはリアナがほぼ首だけで、意味の分からん事ばかり言うからだ。なんか段々馬鹿にされてる様に思えてきて、腹がたったからってのもあるが…」



リアナは当然の疑問を投げ掛ける。



「妾は大妖魔じゃぞ?あの状態でも、主様に自力がないのなら、血を使って主様の事をぶち殺す事だってできたのじゃ。そんな事考えなんだのか?」



巧は思い出すだけで少し恥ずかしいので、これ以上ない純粋な疑問をぶつけるのは、止めて欲しかった。



「あの時は何も考えてなかった。煽られてムカついて、倒せると思ってた。誰だってハイになる時だってあるだろう?」



巧は投げやりに答えて、身体ごと目線を後に向け意味もなく山々を見た。



リアナはその巧の姿を見て、少しため息を吐きながら話を続けた。



「確かに良く考えれば妾も自分の状態があれじゃったし…確かに焦って何も考えておらなんだ…まぁとりあえず、過ぎてしもた事は仕方ないじゃろ。どのみちあの状態で剣を抜いて貰ったところで、暗闇の中でも、一年もたたずに死んでおったであろうしな。知らぬならいいづらいが…簡潔に言うと妾が心臓の無い状態で式となった事で、お主の心臓が妾の心臓になっておる」



リアナの突然の爆弾発言に、後ろを向いていた巧は凄い勢いで、振り返りリアナを見た。



「はぁ?どうゆう意味だそりゃ?」



リアナは巧の目を、少し悪い気がしてるのか、困った様な顔をしながら見つめ、ゆっくり諭すように答えた。



「妾は自分の種族故に、常識じゃと思っていたが、改めて説明すると、ヴァンパイアの(かなめ)は心臓じゃ。その代役を主にして貰わなんだら、妾はヴァンパイアとして成り立たん。そんな者を式にする為には、必然的に代償が必要になってくる。それが主様の心臓じゃ。心臓を共有する事により、現在妾は成りたっておる、つまり簡単に言えば、妾が死ねば主様も死ぬ。主様が死ねば妾も死ぬと言う事じゃ」



今度は状況が飲みこめず、巧が口を鯉のようにパクパクする番だった。



「って事は…」



リアナは気持ちを切り替え満面の笑顔で被せる様に答えた。



「先程も言ったが一蓮托生。運命共同体と言うやつじゃの」



巧は状況を把握しきれず、頭を整理する為か、ぐるぐると同じ場所を歩き回った。



「ふざけるな。なんで説明しなかった。お互いの条件を満たさなければ式の契約できないはずだろ?そんなもん解除だ」



巧の知識では式鬼神の契約は双方の条件をクリアしなければ、結ばれないシステムとなってるはずである。



「妾は知ってると思って話ていたから、まったく騙しているつもりがなかったし、お主は妾が式になる事を望んでおった。多分あの会話の(くだり)で総意の認識となり契約が成ったのじゃろ。仮に知らなくても、呪印の光が心臓まで上がってきた時点で普通は疑問に思って、式の契約を一時中断して止める事もできたじゃろ、まぁ何を今さら言うても、呪印が刻まれた以上、解除は不可能じゃ」



確かに呪印の光が胸まで上がってきた時に巧はちょっと不思議には思った。



しかし巧の父の親友が心臓に呪印がある人物だった為に、中にはそういう事もあるんだな位にしか思わなかったのである。



「まじかよ。それじゃあお前が俺の知らない所でくたばっても、俺が死ぬって事じゃねぇか。しかもあの人もそうなのかよ。ちゃんと教えておいてくれよ」



父の親友を理不尽に恨みつつ、巧は座学も、もっと勉強しとけば良かったと後悔していた。



リアナは自分の中で決着がついているので、巧に諦めるように諭していた。



「あの人が誰かは分からんが、今さら何を言っても仕方ないぞ。これから宜しくの主様」



巧ももはや諦めるしかないと腹をくくろうとするが、気持ちの整理がついていないので、不安がまだ隠せないでいた。



「ところで太陽の光は大丈夫なのか?いきなり灰になって俺も死亡とか絶対嫌だからな」



途端に紳士になったかの様に気遣う巧を見て、リアナは笑いを堪えるのに必死だった。



「大丈夫じゃ。妾はそこまで弱いヴァンパイアでもないからの、弱いヴァンパイアだと灰になる事もあるじゃろうが…後はまぁ…弱ってる時も灰になるかの。妾も剣を刺れたまま三日もたっておったら灰になっておったじゃろうな。改めて礼を言うぞ主様」



巧は軽く頭を()きながら、リアナを見る。



「礼もなにも、祓うつもりで行ったから、お礼を言われるのはおかしい気がするが。ていうかあの状態で三日間生きれるとか、なかなか凄さまじいな。とりあえず一安心だ」



ここで巧は一つ疑問に思った。



「まさかだが、リアナを祓った奴、【社】にいねぇだろうな。まぁ昨日の事なら報告が上がってるだろうし、大丈夫だは思うが」



さすがに式になったので無いとは思うが、もし祓おうとしてきたら巧は全力で抵抗する所存である。



「大丈夫じゃ。そもそも妾がやられたのは、主様の働いてる【社】とやらではないのは確かじゃ。妾はこことは違う国から来たからの。あちらの国では主様の働いてる【社】にあたる機関を【協会】と呼んでおる。そこから来た魔を祓う者、つまり、主様の所で言う退魔師がわざわざここまで追いかけて来たのじゃ。しつこくて嫌な男じゃった。ある日(ひつぎ)で眠っていただけの妾達を一方的に心臓の血だけ回収して、殺していきおったからの…妾も血を抜かれそうになったのじゃが、最後に報いてやろうと思って、抜かれた血で一発食らわしてやったんじゃ。そしたら相手もなかなかの深手を負っての。剣だけ刺して逃げおったんじゃ。今考えただけでも忌々しいわ」



【社】は妖魔がちゃんと自我を持ち、話し合いができ、人間と平和に暮らせる種族であれば、相互不干渉、又は協力関係の取り決めをしている。



きっとヴァンパイアでも、リアナの種族がこの国で暮らしていたら、そういった種族に入っていのではないかと巧は思った。



「知らないとは言え聞いてすまん。【協会】の事は聞いた事あるくらいで、良く知らねぇけど、家族を皆殺しにした退魔師そのものは憎くないのか?ふと思ったんだが、リアナは退魔師の式になって本当に良かったのか?」



巧の言葉を聞いてリアナは巧の背を笑いながら軽く叩いた。



「この国の退魔師に思うとこなど無い。と言えば嘘にはなるが、妾から奪ったのも退魔師じゃが、妾を助けた主様も退魔師じゃ。ある程度生きてるとの、未来の見えぬ不安の中で、悠久(ゆうきゅう)の時を存在する事はなかなか精神が削られるんじゃ。ヴァンパイアの一族の中でも、何をするでもないそんな人生が、面倒になってきて、いつ死んでもいいと思う者もポツポツとおった。妾もその中の一人じゃと思っておったが、殺されそうになった時、不思議と生にしがみついておる自分がおった。主様に拾って貰わんかったら妾はこの気持ちのまま死んでおったじゃろう。礼こそ言え、憎いなど欠片も思っておらん、まぁそうじゃな、主様が弱いと分かっておれば、また違った結果になってたかも知れんがの」



巧は朝日を浴びながら意地悪い笑みを浮かべた彼女が、綺麗で少し強がって見えた。



「まぁ…なんだ…式になっちまったもんは仕方ねぇ。これから宜しくな、リアナ」



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