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スカイフラッグス  作者: Phoenix
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果てなき青の中で

 上にはどこまでも続く青い空,下にはどこまでも続く青い海と,茶色,緑,白の混ざった陸地.その間を多くの飛行機が飛んでいた.

 

 飛行機といっても,大きいものと小さいものがあった.大きい飛行機は左右に長い翼を広げ,4つの大きなプロペラを回しながら飛んでいた.その中にはたくさんの爆弾が積まれている.この大きい飛行機は,爆撃機と呼ばれる種類の飛行機である.その周りには小さい体と小さい翼をもつ複数の飛行機が,互いの距離を維持しながら飛んでいた.これらは爆撃機を護衛する戦闘機――護衛機と呼ばれる――の集団である.

 

 護衛機に守られている爆撃機のコックピットの中で,サングラスをかけたパイロットたちがしゃべっていた.


「それにしても,もうすぐこの戦争も終わりか.」


「ああ,奴らの基地の中で,俺たちネルガミー軍がまだ手を付けてないのはこのあたりだけだからな.確か,コクラン岬,とか言ったっけ?ここさえ落としちまえば,リブナティアを完全占領,晴れて戦争終結だ.それも俺たちの完全勝利という結果でな.」


「これで妻や子供たちにやっと会える.それにしてもあっという間だったな,この戦争も.」


「ああ,うちにはキメラやらケルベロス隊やら,強力な助っ人がいたからな.あいつらに感謝しないとな.」


 そのとき,飛行機たちの後ろのほうで,大きな音とともに,オレンジ色の球体が現れた.球体はすぐに灰色の煙の塊に変化した.


「おい,今の音は何だ?」


「さあ,俺たちのお出迎えに花火でも上がったんじゃないのか?」


「ジョークにしちゃダサいな.こんな真っ昼間にだれが花火なんか上げるかよ.」


 パイロットたちがしゃべっている途中で,突如ノイズ入りの男の声が聞こえてきた.


「こちらハーピー13.たった今セントール5が敵の襲撃を受けた.敵襲!敵襲!」


「セントール5って,俺たちの一番後ろにいた爆撃機じゃないか.敵はどこから来やがった?」


「俺たちの後ろからお出迎えが来るとは・・・とんだサプライズじゃねぇか.」


 爆撃機編隊の後方,爆発後の煙の塊のそばに,周囲の護衛機と変わらない大きさの,しかし形の異なる戦闘機が1機飛んでいた.爆撃機を撃墜したリブナティア空軍の戦闘機である.


「フラッグ1,敵爆撃機を1機撃墜した.次の目標撃破に向かう.」


 フラッグ1,本名ジョージ・フォーク大尉.リブナティア共和国空軍戦闘飛行隊,フラッグ隊の隊長である.フラッグ1というのはコールサイン,つまりどこの部隊の何番機かを表す,いわばコードネームのようなものである.つまりフラッグ1とは「フラッグ隊の1番機」という意味である.なお,1番機は一般的に所属部隊の隊長を務める.


フラッグ1は煙のそばから離れ,別の爆撃機に接近した.落とされた爆撃機を護衛していた機体の群れが,フラッグ1を追う.フラッグ1は目標の爆撃機を捕捉(ロックオン)すると,ミサイル発射用のボタンを押した.戦闘機の両翼から小さいロケットが飛び出し,爆撃機に向かっていく.ロケットが爆撃機の機体に突っ込んだ瞬間,先ほどと同じ色の爆発が起きた.


「敵爆撃機に着弾を確認しました.その調子で任務を続行してください.」


 フラッグ1の耳元で女性の声が聞こえた.無線通信による女性オペレーターの声だ.声の主はモニカ・グレンフォード伍長.彼女は,戦闘中の空域から遠く離れた場所を飛んでいる早期警戒管制機(AWACS)「クラウド・アイ」の中でパイロットたちと通信を行っている.戦況を監視し,逐一報告するのが彼女の仕事だ.


フラッグ1は敵護衛機から攻撃を受けないように,急速に離脱した後,U字のカーブを描き,護衛機の群れに突っ込み,ミサイルを撃った.一撃離脱(ヒット・アンド・アウェイ)戦法である.護衛機のうち何機かが爆発した.


「また爆撃機がやられたぞ!護衛機は何をやっとるんだ!」


 爆撃機編隊の無線通信で怒号が響いている間に,また爆発が起こった.3機目の爆撃機が撃墜されたのだ.


「こちらフラッグ2.爆撃機の3機目を落とした.これで爆撃機はあと2機だ.」


フラッグ2,つまりフラッグ隊の2番機,パイロット名はアンドリュー・ホフマン大尉.隊長のフォーク大尉と同期であり,彼の右腕でもある.


 そのとき,まだ爆発していない爆撃機の下から,いくつもの黒く細長い物体が下に落ちていった.爆弾が投下されたのだ.下にあるのは,建物の群れだ.


「市街地が爆撃を受けています.」


女性オペレーターのグレンフォード伍長が無線で連絡した.


「一般人しかいない街に爆弾を落としやがって,貴様が落ちろ!」


 怒りをこめて言うと,フラッグ2は今まさに市街地に爆弾を落としている爆撃機にミサイルを撃ち込んだ.爆撃機はまた爆発した.爆撃機が落とした爆弾も連鎖的に空中で爆発していった.それはまるで爆風の鎖が空中から下に向かって伸びているようであった.おかげで地上に落ちる爆弾の数が減った.


「くそ,爆撃機が最後の1機になっちまった.全力で守れ!」


 今まで撃墜された爆撃機の護衛をしていたネルガミー空軍の戦闘機たちが,残り1機となった爆撃機の周りに集結してきた.しかし,フラッグ1による得意の一撃離脱戦法と,フラッグ隊以外のリブナティア空軍機の活躍により,護衛機の数は減っていた.


 リブナティア軍のパイロットたちの耳元に,今度は中年の男の声が聞こえた.


「クラウド・アイより各機,最後の爆撃機を優先して狙え.護衛を無理に相手にする必要はない.邪魔してくるようなら躊躇なく落とせ.」


 声の主は,作戦司令官のグラハム・ハミルトン中佐である.オペレーターと同様,管制機クラウド・アイより通信を行う.パイロットたちに指示を出すのが彼の役目である.


 中佐の命令の直後,リブナティア空軍機とネルガミー空軍機の群れは混戦状態に突入した.爆撃機の周辺空域は,あまたの戦闘機とミサイルが飛び交う戦場となった.あちこちから飛んでくるミサイルが,パイロットたちにプレッシャーとなって襲い掛かる.敵味方問わず,何機かの戦闘機がミサイルに直撃されて爆発した.


 そんなさなか,戦場の中心にいた最後の爆撃機が火を噴いた.1本のミサイルが直撃したのである.爆撃機は下を向き,炎と煙を上げながら海に向かって沈んでいった.高度を保てなくなり,もはやまともに機能しない状態に陥った.この瞬間,ネルガミーの爆撃機は全滅した.


「最後の爆撃機の撃墜を確認しました.」オペレーターが報告する.


「誰だ,落としたのは」フラッグ1が訊く.


「フラッグ3です.」オペレーターが答える.フラッグ3はパトリック・カーチス中尉.フラッグ隊最年少の3番機パイロットである.


「よりによって一番下の若造が決めやがったか.ハッハッハ」


フラッグ2が笑いながら言った.そのとき,ハミルトン中佐の通信が飛んできた.


「よし,リブナティア空軍各機に告ぐ,第一の目的は達成された.これより残敵掃討に移る.撤退する奴は見逃してやれ.ここにしつこく残る奴らだけ叩け.」


通信が終わると,フラッグ隊及びそれ以外の味方機が,ネルガミー軍機の集団に踊り掛かった.ネルガミー軍の中で戦闘空域から撤退するものが出始めた.彼らは爆撃機を護衛するという本来の任務に失敗したうえ,自分たちの味方をすでにいくつか失っていたのだ.自分たちで直接コクラン基地を攻撃しようにも,フラッグ隊をはじめとするリブナティア空軍が許してくれそうにない.もはや戦意喪失状態であった.


結局,ネルガミー軍機の一部はその場で撃墜され,他は撤退した.


「リブナティア空軍の全機に告ぐ.勝敗は決した.コクラン基地防衛作戦は成功だ.全機帰還せよ.」


ハミルトン中佐が伝えると,リブナティア空軍機はみずからの基地に向け飛んでいった.


帰り際,フラッグ2がからかいざまに言った.


「それにしても,ラストワンを若い衆にかっさらわれるとは思わなかったな,フラッグ3」


「すいませんね.先輩方と違ってまだ爆撃機を1機も仕留めていなかったので,最後の1機だけでも決めとこうと思いまして.」


「ま,活躍してくれる分には問題ないんだがな.よかったじゃねえか.俺たち先輩に独り占めされなくて」


 言い合う2人を隊長のフラッグ1がとりなしにかかる.


「まあまあ2人とも,撃墜スコアよりこの国の存亡のほうが大事だ.俺たちはあと少しで祖国を失うところだったんだからな.」


「はいはい,そうでございますね,隊長殿.おい若造,次も勝負な.」


 フラッグ2がおどけて見せ,後輩に次の機会での競争を吹っ掛けた.


「私も負けませんよ,先輩」


 フラッグ3は明るく応じる.


「やれやれ,言ってるそばから・・・」


 自分のとりなしが意味を成していないと悟った隊長は,ため息を落とさざるを得なかった.


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