第76話「どうも初めまして」
完結まで残り3話です!
ここからはリアムとルナがいちゃついているだけのお話になります。
第76話「どうも初めまして」
王都【キーリン】での麻薬騒動が終息してから半年以上が経とうとしていた。
あんな大きな騒動が起きて、もう半年以上が経とうとしていることに俺は驚いてしまう。
それにあんな大きなことが起きたのに、俺はこうして日常に戻ってきている。あの出来事が夢のように感じてしまう。
俺は今日も今日とて依頼をこなしていた。だけど、いつもよりはかなりセーブした数だが。
普段は5件以上の依頼をこなしていたのだが、今は2件までに数を減らしている。その理由が妻のルナが臨月に入ったため、いつでもルナのことを助けられるように仕事をセーブしていたのだ。それに伴い、ルナがやっていたカフェは今は休業していた。さすがにこの状態では営業なんてしてはいられない。ルナ当人は残念がってはいたが、こればかりは我慢してもらうしかない。
「ルナ、体調は大丈夫か?」
俺は作業を進めながら、作業室に置いてあるソファーに座っているルナにそう声をかけた。
時期が時期なので、そばにいてくれた方がすぐに対応ができるので、ルナにはそばにいてもらっているのだ。
「わたしは大丈夫ですよ。あなたこそ大丈夫ですか? 何か手伝った方が良いですか」
「こっちは大丈夫だよ。ちゃんと仕事をセーブしてるから。ルナは自分の体のことを心配してくれ」
俺はそんなルナに優しく笑いかけると、今行っている作業を進めていく。
今日はこの依頼品を作れば、本日の仕事は終了だ。
「ルナ、今日はこれで仕事は終わりだから、これが終わったら散歩でも行こうか」
「ふふ、そうですね。赤ちゃんには元気に産まれてきて欲しいですもんね」
「そうだな。やっぱり、せっかく産まれてくるんだら、健康で産まれて欲しいよ」
錬金反応が安定するのを確認すると、俺はソファーに座るルナの元に向かった。
「ルナ、確かに元気に産むことも大事だけど無理はしないでくれよ」
俺はそう言いながら、溢れてくる愛おしさが堪えられず、ルナの頭を撫でた。絹糸のようなルナのさらさらな金髪は触り心地が良くていつまでも触っていられるなと感じていた。ルナはルナで嬉しそうに目を細めている。
「あっ、今赤ちゃんが動きましたよ! あなたもお腹触ってみてください!」
嬉しそうなルナの言葉に、俺はルナの頭を撫でていた手をルナのお腹にやった。すると、確かに動いている感触がした。
「はは、やんちゃな子だな」
「ふふ、ですね。でも、元気そうでなによりです」
「ルナの言う通りだな」
ルナのお腹の中ですくすくと育っている赤ちゃんの胎動を感じて、俺の口元は自然とにやけるのを抑えられなかった。
「あなた、口元がにやけてますよ」
「こればかりは仕方ないさ。やっぱり、自分の子が産まれてくるんだ。嬉しくないわけがないさ」
「ふふ、あなたが喜んでくれて嬉しいです」
ルナはえへへと笑っている。そんなルナが愛おしくて、俺はもう一度ルナの頭を撫でてていた。
それから俺は仕事を終わらすと、ルナと共に散歩に向かった。
散歩と言っても、商店通りに行って家の必要な物を買って帰ってくるだけだけども。
商店通りに着くと、ルナは相変わらずの人気っぷりで、これから子どもが産まれると言うことで、色々とおまけしてもらったり、子供用品をもらったりと、なんだか至れり尽くせりの歓迎を受けていた。
そんなルナの大歓迎を見て、改めてルナの凄みを感じてしまう。
やっぱり、ルナは凄いんだな。
俺がそう感じていると、「リアム」と声を掛けられる。俺が声のした方に視線を向ければ、そこには俺がごひいきにしているハーブ屋の店主であるヤールさんが立っていた。
「ヤールさん」
「お前もついに父親になるのか。なんだか考え深いな」
「そうですかね? でも、俺もはっきりとはまだ父親になることを想像は出来てはないんですよね」
ヤールさんは俺の話を聞きながら、豪快に笑っている。
「男なんて最初はそんなもんだ。産まれてしばらく経たないと、自覚なんて出来ないさ。父親の自覚なんてもんは後から出てくる。だから、今は全力で奥さんを支えてやることを考えてあげればいいさ」
「はい、分かりました。タメになる話をありがとうございます」
「なーに、年寄りのお節介だよ」
ヤールさんはそう言って笑っていた。
「あなた~」
俺とヤールさんが話していると、一通りの交流を終えたのか、ルナが俺のことを呼んだので、俺はヤールさんに頭を下げるとルナの元へと駆けていくのだった。
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そして、ついにこの日がやって来たんのだ。
今朝頃からルナの陣痛が始まり、その感覚も短くなってきたので、俺とルナは医療施設へと訪れていたのだ。
最初のうちはそこのベッドの上で様子を見ていたのだが、本格的な陣痛が始まったのを機に、ルナは分娩室に運ばれて行って、俺はその分娩室の前でうろうろしていた。
「あんたが落ち着かなくてどうするのよ」
遅れてやって来たルルネにそうツッコまれてしまうが、落ち着かないものは落ち着かないのだ。
「でも、何となくだけどリアムの気持ちも分かる気はするけどね」
ルルネの付き添いで来ていたグレンもグレンで言葉を口にしているが、俺の耳には届いていなかった。
そわそわ、そわそわ。イライラ、イライラ。
こうしていても仕方がないと自分でも分かっているのだが、うろうろすることを止められなかった。
ルナは大丈夫だろうか? お腹の中の子は大丈夫だろうか?
俺の頭にはその考えがさっきからずっと駆け巡っている。
「あんたね~、本当に落ち着きなさいよ!」
そうは言われても、落ち着かないものは落ち着かないのだ。
俺がうろうろ、そわそわしていると分娩室の中から、ルナが痛がる声が聞こえてくる。
その声が聞こえてきて、俺の心は締め付けられるような感覚に襲われた。
こんな時男は無力だとは聞いていたが本当にその通りだと感じてしまう。
「頑張れ、ルナ。頑張ってくれ」
俺はうわ言のようにそう呟いていた。
やがて、分娩室の中からルナの声が止んだと思っていたら、次に聞こえてきたのは、「おぎゃあ、おぎゃあ」と泣く赤ちゃんの声だった。
無事に赤ちゃんが産まれたのだと分かった瞬間、力んでいた力が抜け俺は腰からへたり込んでいた。
分娩室の扉が開き、そこから看護師と運ばれてくるルナと赤ちゃんの姿があった。俺は慌ててルナと赤ちゃんに駆け寄った。
「ラザールさん、おめでとうございます! 2270グラムの元気な女の子ですよ!」
小柄なルナが産んだのでちょっと赤ちゃんは小さめだが、それでも元気に産まれてきてくれたことには変わりはなかった。
「ルナ、ありがとう! 本当にありがとう!」
俺はベッドにぐったりと横たわるルナに駆け寄ると、ルナの右手を両手で握った。もうすでに俺の視界は涙でぐちゃぐちゃだった。
「ふふ、あなた泣きすぎですよ」
そんな俺の状態を見たルナは柔らかく笑うと、俺の顔に流れた涙を拭こうと手を上げようとするが、出産が終わってすぐと言うこともあり、力が入らないのか小さく照れ笑いをしている。
「んなこと言われても、仕方ないって。だってさ、嬉しすぎるんだから」
そう話しながらも、俺の瞳からは次から次へと涙がこぼれてくる。
「ちょっと、あんた本当に泣きすぎよ」
そうツッコんでくるルルネの瞳にも涙が浮かび、その隣に立つグレンの瞳にも涙が浮かんでいる。
「はいはい、あなたたち早くルナさんと赤ちゃんを病室に運びますよ」
そんな俺たちを見かねた看護師がそう声を上げた。
その声に俺たちは苦笑をこぼすしかなかった。
病室に戻ると、俺は早速赤ちゃんを抱いてみることにする。
赤ちゃんは軽くてすぐにでも壊れてしまいそうな、そんな儚さを感じさせたが、でも、そこにちゃんと命があるんだと確かに実感させられる不思議な感覚だった。
「あなた、とっても不思議な顔をしていますよ」
「えっ? ああ、何だか生命の不思議を実感したなって思ってさ」
俺がとんちんかんな発言をしていると、「なにバカなのこと言ってんの」とルルネからすかさずのツッコミが入った。
「それで、その子の名前はもう決まってるの?」
ルルネの質問に俺とルナは頷くと、一緒に答えたのだ。
「「ミア」」
そして、その二か月後にはルルネが3200グラムの元気な女の子を出産したのだった。その時はグレンが男泣きをしていた。
ルルネとグレン二人の娘は「レイ」と名付けられたのだった。
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