第75話「戻り始めた日常、変わりだした日常」
完結まで残り4話です!
第75話「戻り始めた日常、変わりだした日常」
「あなたたちをこうして叙勲するのは何度目でしょうね」
セシルはいつもの面々を見てそう呟いている。
「それを俺たちに言われても困るんだけどな」
俺はセシルの言葉にそう答えずにはいられない。
「リアム、そろそろ覚悟を決めてくれないかしら」
俺はセシルの言葉の意味することを理解して、緩く首を振った。
「セシル、何度も言ってるだろう。セシルの意見を聞くことは出来ないって」
「はぁ~、あなたも頑固な人よね」
「俺にも帰る家があるからな」
「あなたぐらいよ。こんな申し出を断るのは」
「あはは、セシルには悪いとは思ってるよ。だけど、俺はあのアトリエを捨てることは出来ないんだ。どうしてもさ」
俺は前々からセシルに王城に来るように言われていた。最初のうちはセシルも考慮してくれていたのだが、何度も叙勲されてるうちにさすがにそろそろ王族勤めをしないさいという空気になりつつあったのだ。しかし、俺はそれを頑なに断っていた。
「まったく仕方ないわね。まあ、あんたらしいけどね」
セシルは諦めたようにため息を一つ吐くと、話を進めていく。
「もう何度目の叙勲が分からないから、簡略化していくわよ」
セシルは困ったように言うと、形式に則り式を進めていく。
「しかし、今度もあなたたちに助けられましたね。国の王女としてお礼を申し上げます。本当に王都を救ってくださりありがとうございました」
セシルはそう話すと俺たちに向かって頭を下げた。
そのセシルの姿を見て、俺はやっぱり王女様なんだと感じてしまう。普段がじゃじゃうま娘過ぎてそんな王女様の印象が薄れていたのだ。ニアは初めての叙勲ということもあり少し緊張している様子だった。
「あんた、また何か失礼なことを考えてるでしょ?」
女の勘ってやつは本当に恐ろしい。
「あー、まぁ気のせいだ」
俺はそう思わずにはいられないので、思いっきりとぼけることにする。
セシルもセシルでそんな俺の態度に慣れたのか、そんな俺のことを一瞥すると話を進めている。
「それに本日はありがとうございました。お二人がご協力してくださったおかげで、予想以上に早く事態を収束させることが出来ました」
セシルは俺とルナにグレンとルルネ、アーリにニアと共に来ていた師匠とラーに向かって頭を下げている。
師匠は俺と共に麻薬の特効薬の製造を手伝ってくれ、ラーはラーで俺たちが薬作りに四苦八苦している間、麻薬中毒者の症状を抑制するための薬を作りずっと投与して症状を抑えてくれていたのだ。
そのラーの活躍もあり、こうして何とか事態を収束に向かわせることが出来たのだ。
「ん、魔法薬師として当然のことをしただけなの」
ラーはラーで特に興味がなさそうにそう答えている。
「それにグレンさんを始め近衛兵たちにも感謝をお伝えしないといけませんね。今回の一件でかなりの売人を検挙することが出来ました。大手の麻薬販売組織をいくつも壊滅させることも出来ました。王都としては長年その麻薬販売組織について頭を抱えてきました。なので、今回、こうしていくつもの販売組織を壊滅させることが出来たのは、大変な快挙と言えるでしょう」
確かにセシルの言う通り、王都【キーリン】では長年裏で行われていた麻薬取引に頭を悩ませていた。それを断絶させようと何度か行おうとしていたのだが、上手くはいかずずっと根を張らすように居着いてしまっていたのだが、今回エクリプセの後を追っていくうちにいくつもの大手の麻薬販売組織へとぶつかった。どうやら、エクリプセは個人での商売もこなしていたようなのだが、その他にも仲介役としてその界隈では有名だったらしく、いくつもの大手の麻薬販売組織とのコネクションを持っていたのだ。そうして、グレンたちもそのいくつもの麻薬販売組織とぶつかり逮捕することが出来たと言うわけなのだ。
「それで患者たちの様子はどうだ?」
「ええ、あなたたちが作ってくれた薬【賢者の石】のおかげで、おおむね回復に向かっていると聞いています。退院した人たちからも、中毒症状は出ていないのであの薬のおかげで、完全に完治したと言えるでしょう」
セシルはそこで言葉を切ると、俺たち八人を見渡してから、再び口を開いた。
「皆さん、この度は本当にありがとうございました」
最後と言わんばかりに、セシルは深々と頭を下げたのだ。
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俺は帰りの馬車に揺られながら、王城での叙勲式のことを思い出していた。
「やっと帰れるんですね」
俺の隣に座っているルナがそうこぼしている。
「そうだな」
かれこれ俺が講義を開くために王都に向かい、そこから麻薬を作った容疑で逮捕され、疑いを晴らして麻薬騒動を収束させるのに一ヶ月はかかったのか。
「本当に久しぶりに帰るんだな家に」
俺は馬車に揺られながら見れる外の景色を見て、そう思わずにはいられなかった。
それぐらいにこの一ヶ月に起きた出来事が濃すぎたのだ。
隣の席ではグレンとルルネも座っている。
本当に長かったな。
「ルナ、体調は大丈夫か?」
「ええ、今は落ち着いていますよ。ありがとうございます、あなた」
「なら良かったよ。ここ最近、ルナには変な心労ばかりかけさせてしまったから、ルナの体調に何かあったらって思ったら心配でさ」
「ふふ、あなたは心配性ですね」
「心配して損なことはないからな。ルナのことに関しては特にさ。もしそれで軽視してルナに何があった方が嫌だからさ」
それは俺にとっては紛れもない素直な気持ちだった。
俺の人生の中でもうルナがいない人生なんて考えられないのだ。それにお腹の子だってそうだ。今はまだ父親になる、子どもが生まれるなんてことをちゃんと理解していないのかもしれない。
だけど、一つだけ言えることはある。
俺は絶対にルナもルナのお腹の中にいる子も幸せにしたいということだった。
今はまだ漠然としたことしか考えられないけども。
俺がそんな漠然とした未来に意識を向けていると、急に「あなた」とルナに呼ばれたので、ルナの方に視線を向けた。
「あなた、今はそれで大丈夫だよ思いますよ。わたしだってこの先の未来は分かりませんし、子どもが生まれたら戸惑うことの方が多いと思います。だけど、わたし思うんです。夫婦も一緒になっていくように、親も同じで二人で一緒になっていくものなのかなって。あくまでもわたしの意見なんですけどね」
そう言ってルナは笑っている。
「あはは、ルナには何でもお見通しか」
「そうですよ。だってわたしはあなたの奥さんですから」
「本当にルナには敵わないな」
「ふふ、だってわたしはあなたのことが好きですから。あなたのことを見ていますから、あなたの事ならわかりますよ」
誤魔化しもなく真っすぐな瞳で言われてしまい、俺は何ともむず痒い気持ちになってしまう。
「えへへ、あなた大好きです」
「ああ、俺も大好きだよルナ。愛してる」
いつの間にか俺たちの周りにはピンク色の空間が出来上がっていた。
そんな俺たちを見てルルネは呆れたようにため息を吐いている。
「まーた始まったわ」
「あはは、でもいつもの日常に戻って来たって感じがするよ」
グレンはグレンで困ったように笑っているのだった。
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「はぁ~、やっと帰って来たなぁ~」
やっとの思いで俺たちの家であるアトリエ【クレアスィオン】に戻って来た俺は、中に入るなりそう言葉をこぼしてしまう。
「ふふ、おかえりなさい。あなた」
「ああ、ただいま、ルナ。それにルナもおかえり」
「ただいまです。あなた」
俺とルナは見つめ合い、次第に二人の距離はゼロになろうとしていたが、ゼロになる瞬間、アトリエの扉が勢いよく開け放たれた。
そして、そこから入っていたのは商店街通りの人々だった。
「リアム! やっと帰って来たか!」
「ええ、ちょうど今帰って来たところですよ」
俺はみんなの慌てた様子にたじろぎながらもそう言葉を返した。
「そうか。なら、帰ってきて早々で悪いんだけど依頼をしていいか。リアムがいなかった一ヶ月でお願いしたいことが山ほど溜まっているんだ」
「俺も!」「私もよ!」「俺もだよ!」「うちもお願い!」
一人がそう切り出した瞬間、次から次へとそんな声が上がるので俺は何とかみんなを抑えるように声を上げた。
「わっ分かりました! 重要性が高いものからやらせてもらいますので、ちょっと整理させてください! ルナ帰ってきて早々で悪いんだけど、無理しない程度に手伝ってもらっていいかな。これは俺一人じゃ処理できそうにないや」
「ふふ、もちろんですよ。あなた。さて、わたしが皆さんの依頼内容を聞いて仕分けするので、あなたは作業の準備を進めてください」
「ああ、助かるよ。ルナ、ありがとう」
俺はルナにお礼を告げるとすぐさま作業に取り掛かるべく、準備を進めてい行くのだった。
ああ、日常に帰って来た。
俺は改めてそう思わずにはいられなかった。
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