第74話「麻薬騒動の終結」
第74話「麻薬騒動の終結」
「ルルネは妊娠しているの」
ラーのその言葉に、俺は自分の耳を疑ってしまう。
あれ? 俺って疲れてるのかな?
確かにようやく麻薬を作った容疑が晴れて自由の身になれたとは言え、そんなバカな聞き間違いがあってたまるか。
「すまん、ラー。もしかしたら聞き間違えたかもしれないから、もう一度言ってくれないか」
「ルルネは妊娠しているの」
おうす、どうやら聞き間違えではないようだ。そして、ラー即答な返しをありがとう。つうか、マジなのか。ルルネが妊娠しているのは。
「マジなの」
「ラー、心の声を読むのは止めてくれよ。というかマジなんだな」
「さっきからそう言ってるの」
「本当にマジなんだな。あはは、俺一言も聞いてないんだけど」
俺が困ったように笑っていると、ルナが気まずそうに視線をそらしている。
「ルナ? どうかしたのか?」
「いっいえ、ルルネさん、本当に妊娠していたんだなと思ってしまって」
「えっ? ルナもしかしてルルネが妊娠してることに気が付いてたのか?」
「いえ気が付いていたというか、何となくルルネさん妊娠しているんじゃないかなと思うことがあったので。妊娠の初期症状みたいなのが出ているような気がしていたんです。でも、麻薬騒動のせいでうやむやになってしまって。だから、今の話を聞いてああやっぱりそうだったんだって思ったんです」
「なるほど」
ルナも妊娠中だから感じられることがあったと言わけか。
「でも、黙ってないで言ってくれればよかったのにな」
俺の口からは思わず正直な感想がこぼれてしまう。
「言えるわけないでしょ」
そんな感想に返答の言葉なんてあるとは思ってなかったので、返答の言葉があって俺は驚いてしまう。
声のした方に視線を向ければ、ゆっくりとルルネが起き上がるところだった。そんなルルネのことをルナが腕を背中に回して支えている。
「どうして言ってくれなかったんだよ」
「言おうとは思ってたわよ。そしたらあんたが王城に連行されて、それを言うタイミングを逃したのよ」
「すっすんませんでした」
俺はルルネの言葉に謝らずにはいられない。確かに俺に非があるのは否めない。不本意ではあるのだが。
「でも、本当に妊娠しているのかは分からないのよ」
「ん? どういうことだ?」
俺はルルネのその言葉に首を傾げてしまう。それも当然だろう。今の今までルルネが妊娠しているという流れで話が進んでいたのに、いきなり本人からその逆の言葉が出たのだから当然だ。
「まだ一ヶ月目だからはっきりとは判断できないのよ。だけど、ラールが作った薬で検査したら、妊娠していることが分かったの。だから、妊娠していることは間違いないとは思うのよね」
「ラーの作った薬は完璧。だから、ルルネが妊娠しているのはまず間違いない」
「まあ、ラーがそこまで言うなら間違いないんだろうな」
しかし、ルルネまで妊娠しているとは予想外も良い所だ。
「っと、そういえばグレンはどうしたんだ?」
あいつなら真っ先にルルネがこういう状況なら飛んできそうなのにな。
俺は先ほどから姿の見えない親友のことを思い、そう思わずにはいられなかった。
「グレンさんなら今は、この王都に麻薬をばら撒いた売人の所に向かってるわ。この数日まったく姿も尻尾も見せなかったのに、今日になってその姿を現したみたいなの」
「なるほど」
確かに麻薬騒動は取り合えずの解決はしていたが、完全に解決したとは言えなかった。
麻薬を作っていた大本は逮捕されたが、それを売りさばいていた売人は未だに逮捕されておらず、ずっとその売人ーーエクリプセのことをグレンは追っていた。
もしもその売人がまだ麻薬の在庫を抱えていれば、再びこの王都の街は麻薬騒動で大変なことになってしまう。
それを防ぐためにグレンはずっとエクリプセのことを追っていたのだ。
また王都で2万人を超えた麻薬中毒者は、セシルが手を回してくれたおかげで、すぐに麻薬の特効薬である【賢者の石】が中毒者たちに行きわたり、治療を完了していた。なので、本当に麻薬騒動で残すところはその薬のルートを根絶するだけだった。
まあ、後は錬金術師としての仕事ではなく、グレンたち近衛兵の仕事だ。
「まあ、グレンが行ったってことは時期に売人は捕まるだろう」
実際にこの麻薬騒動からの売人逮捕率はかなりの率が上がっていると聞いている。しかも怪我の功名と言えるのか、今回の騒動を起こした売人以外にも、大手の売人グループも逮捕されたと言っていたので、王城としては嬉しい誤算と言えるだろう。
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リアムとルナがルルネから驚きの報告を受けてる頃、グレンはエクリプセを追って王都の街を駆けていた。
部下からエクリプセが現れたとの報告を受けたので、現場に急行していたのだ。エクリプセが現れたのは、前にグレンが張っていたスラム街にある奥地だった。
グレンが現場に着くと、そこには怪しげな男が一人佇んでいる。グレンはその男にすかさず近づくと声をかける。
「ちょっと麻薬事件のことでお話を伺いたいんだけど良いかな?」
グレンが声をかけた瞬間、その男は目の色を変えるとすぐさまそこから立ち去ろうとしたので、グレンは慌ててその男のことを引き留めた。
「話を聞いたところによると、この場所で違法薬物の売買が行われていたという。しかもその薬物はここ最近王都を騒がせていた【パナセ】と呼ばれる麻薬だ。そして、その薬を売っていた売人の名前はエクリプセと呼ばれているらしい。エクリプセと言うのは君の事だろ」
グレンのその言葉に、男は苦々し気に舌打ちをするとグレンの腕を振り払うと、その場から逃げ出そうとするが、グレンと共に来ていた近衛兵たちに道を塞がれている。
「エクリプセ、いや本名はザーウ・ラリッツ。君を禁止薬物使用法に則り逮捕する!」
「ちっ! こんな所で終わってたまるかよ! 俺の野望を邪魔するんじゃねぇよ!」
エクリプセ、改めザーウは叫ぶと懐から一本の注射器を取り出した。そして、取り出した瞬間、それを自身の胸に突き刺したのだ。
その瞬間ザーウの動きはいきなり俊敏になり、道を塞いでいた近衛兵を次から次へと斬り倒していく。
そのザールの動きを見てグレンは悟っていた。今、ザーウが自身に打ったのは麻薬【パナセ】であることを。そして、その麻薬を使ってゾーン状態に入ったことを。
「バカ野郎」
グレンは小さく呟くと、腰から白色の 結晶体 を取り出すと、それを錬金剣の柄にはめ込むと、真正面からザーウと衝突した。
ザーウは麻薬の力を使いゾーン状態に入っているとはいえ、以前ぶつかったアバウ程の動きではないので、グレンはザーウの動きについていけていた。それに、ザーウが振るう剣はただでたらめに振り下ろされているだけなので、対処するのは簡単だった。
グレンはでたらめに振り下ろされた剣を自身の剣で弾くと、そのままザーウのことを斬り付けたのだった。
この白色の結晶体はリアムから渡されていたものだった。これは【賢者の石】を封じ込めたもので、麻薬【パナセ】で暴走してしまった者を抑える効果がある。
そのため今こうしてザーウのことを斬り付けたことによって、ザーウからは麻薬の効果は完全に消えたため、ゾーン状態も強制解除されている。
「ザーウ・ラリッツ。君を禁止薬物使用法及び、傷害行為によって逮捕する」
グレンはそう告げると、気を失ったままのザーウを縛り付けたのだった。
それから意識を取り戻したザーウに、リアムの知り合いである天才魔法薬師のラール・レーメルが作った自白剤を飲ませーー飲ませる前に取り調べを行ったが、自供しなかったのでーー、アバウから渡された残りの麻薬の在り処を吐き出させると、近衛兵がすぐさま回収に向かい、その麻薬は無事に回収され、今度こそこの麻薬騒動は終息を見たのだった。
そうして一仕事終えて戻って来たグレンの元に衝撃の事実が届くことになる。
「グレンさん、少しお話があるんです」
王都での仕事を終え、明日に南区画【スーザック】に帰ろうという話になり、帰るための準備を進めていると、ルルネが急にそう切り出したのだ。
「ん? どうかしたのかい、ルルネ」
そんなルルネに対して、グレンは優しく問い返している。
ルルネはルルネで何度か深呼吸をしてから続きを切り出す。
「あたし、妊娠したみたいなんです」
ルルネのその発言に最初は驚いていたグレンだったが、次第にその瞳には涙が浮かんでいる。
気が付いた時には、グレンはルルネのことを抱きしめていた。
「ありがとう、ルルネ。僕は今とっても感動しているし、嬉しいよ」
「えへへ、喜んでもらえて良かったです」
そう笑うルルネの瞳にも涙が浮かんでいる。
「当然じゃないか! 君と僕の子なんだ。嬉しくないわけがないだろ。これからは三人で幸せにならないとね」
「ふふ、そうですね。グレンさん」
二人は笑い合うと唇を重ね合わせるのだった。
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また残り5話ほどでこの『錬金術師と幼な妻~こんな俺に嫁が出来ました~』は完結予定となります。
なので、もう少しのお付き合いをして頂けたら嬉しく思います。




