第73話「錬金術師として」
第73話「錬金術師として」
真犯人が逮捕されたことによって疑いが晴れた俺は、王城が管理している収容所に来ていた。
王城の人たちにはめちゃくちゃ謝られたが、今となってはそれは些細なことだった。
俺たちの家がある南区画【スーザック】に帰る前に、どうしてもあいつに会っておきたかったのだ。
「あなた、その人とは仲が良かったんですか?」
俺が会いに行くと言ったら、ルナも当然ながら付いてくると言ったので一緒に収容所に来ている。
「う~ん、偶に会ったら話したぐらいかな。それと言った接点はなかったよ」
俺は養成学校時代のことを思い出しながら、ルナにそう告げる。
本当に印象に残っていることと言ったら、あの時の森であった狼の怪我を直した時のことしかないのだ。
「確かにアバウは落ちこぼれと言われていた。だけど、それは従来のやり方ではアバウの才能が引き出せなかっただけであって、本当はアバウには才能があったんだ。もし、アバウがこんなことをしないで、錬金術の腕を磨いていたらものすごい錬金術師になっていたはずなんだ」
「あなたがそう言うなら、本当にすごい人だったんですね」
「ああ、実際にアバウが考案した分解錬金術は目を見張るものがあったよ。アバウは従来の錬金術の常識を一人でひっくり返したんだからな」
分解錬金術。
今までの人生の中で、そんな錬金の仕方をしようなんて俺は考えたこともなかったので、本当に意表を突かれたのだ。
でも、アバウをそうしてしまった原因の一因は俺にもあるんだよな。あの時はとにかく必死で周りを見る余裕なんて全然なかったし、早く一人前の錬金術師になりたいとしか考えていなかった。とにかく、愚直にがむしゃらに、必死で錬金術に打ち込んだ。
だけど、それが誰かを追い込んでいるなんて考えたこともなかったな。
俺が負い目を感じていると、急に右手に温もりを感じた。そちらに視線を向ければ、ルナが両手で俺の右手を包み込んでいた。そして、俺と視線が合うとふんわりと微笑む。
「あなたは何も悪くありませんよ。だって、あなたは必死に錬金術師になろうと頑張っていたんですから。だから、あなたが負い目に感じることはないんですよ。あの人が【麻薬】を作って普及させてしまったのは、その人の心の弱さに溺れてしまっただけですよ。だから、あなたが気にすることはないんですよ。それにあなたが頑張って来た努力を馬鹿にするなら、わたしは例えあなたでも許しませんよ」
ルナの翠色の瞳は許さないと雄弁に語っている。
「わっ悪かったよ。ただ、アバウがこうならない未来があったのかなって思っただけなんだ。今回の事件でたくさんの被害者が出てしまった。その原因に間接的とは言え、俺にも関係があったんだ。だからこそ、そう考えてしまうんだ」
俺の言葉にルナは「あなたらしいですね」と言葉を漏らしている。
「俺らしいか?」
ルナの言葉に俺が首を傾げていると、そんな俺のことを見ていたルナはふふと微笑んでいる。
「ええ、あなたらしいですよ」
ルナはくすくすと笑っている。
そんなルナの姿を見て、やっぱり俺は好きだと感じてしまう。
ルナとの結婚生活はかれこれ三年が経過している。三年経った今でも、ルナとは新婚のような関係が続いている。
そうこうルナと話していると、面会の準備が出来たと言われたので、俺は面会室に向かうのだった。
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俺はルナに待合室で待っていてと告げると、一人面会室へとやって来ていた。
そこで少しの間待っていると、近衛兵に連れられたアバウがやって来る。
アバウは無言で俺の目の前の席に腰を下ろすと、無言でこちらを睨みつけてくる。
その瞳には言外になんで来たんだと込められているように、俺には思えていた。
「アバウ、お前に一つだけ話しておきたいことがあったんだ」
俺のその言葉にアバウはそれも視線で続きを促した。
俺はそう解釈すると、アバウに向かって頭を下げた。
「アバウ、本当にごめん。今更かもしれないけど謝らせて欲しい」
いきなりの俺の謝罪にアバウはアバウで驚愕で言葉を失っている。
「どうしてお前が……お前が……謝るんだよ」
やがてアバウの口からはそう言葉がこぼれている。
「あの時は俺も必死で、周りを見てる余裕なんてまったくなくて。もしあの時、俺が周りに少しでも目を向ける余裕があれば、アバウが道を外さない未来があったのかもしれない。アバウが苦しんでいたのは俺にも原因があったんだから。だからこそ、ごめん」
俺はそこまで話すともう一度頭を下げた。すると、いきなり目の前からバタンと大きな音がした。それはアバウが立ち上がった際に、イスが倒れた音だった。
「ふざけるなよ!」
俺が顔を上げれば、アバウの瞳には確かな怒りが浮かんでいる。
「それが善人ぶってるって言ってるんだよ! 俺はお前のことをどん底に突き落とそうとしたんだぞ! それなのにどうしてそんな奴に頭なんか下げられる! どうしてこの期に及んで、俺が助かったかもしれない未来を考える!」
感極まっているアバウは、そばに控えていた近衛兵に取り押さえられている。
「アバウ、これだけは言える。お前は劣等生なんかじゃない。無才なんかじゃない。だって、お前が考案した『分解錬金術』は本当に素晴らしいものだから。アバウにしか出来ないアバウだけの錬金術だ。それは誰もが認めてくれるって俺は思うよ。だから……だから……アバウ、これは身勝手な俺の願いなのかもしれないけど、ちゃんと罪を償って今度は人のためにその才能を発揮してもらいたいって俺は思うよ。だって、それが俺たち錬金術師としての使命だと思うからさ」
俺がそこまで話して改めてアバウの顔を見ると、アバウは静かに泣いていた。
「俺が言うことでもないのかもしれないけど、アバウ、お前は絶対に良い錬金術師になれるって思うよ」
「本当にバカじゃねぇの、お前は。どんだけお人好しなんだよ」
「あはは、さっき似たようなことを嫁に言われたよ」
アバウはそんな俺に何も言わずに振り返ると、そのまま扉の前まで歩いて行ってしまう。しかし、出る寸前に立ち止まると振り返らずにそのまま口を開いた。
「リアム待ってろよ。絶対にお前を見返せるような錬金術師になってやるからよ」
アバウはそれだけ言うと、俺の返事も聞かずに面会室を出て行ってしまう。しかし、そんなアバウの背中には、以前見た気負いは感じられなかった。
俺はアバウが無事に錬金術師として復帰できることを願わずにはいられなかった。
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「ルナ、お待たせ」
「アバウさんとはちゃんとお話し出来ましたか?」
「ああ、ちゃんと話できたよ」
俺の言葉を聞いたルナは、「それは良かったです」と言って優しく微笑んでいる。
「それじゃあ、帰ろうか」
「はい!」
俺はルナの手を取ると歩き出した。取り合えず、王城に顔を出して、報告を済ませないといけない。それに再び叙勲式が開かれることにもなっているので、それにも参加しないといけないので、アトリエに帰るのはもう少し後のことになりそうなのだ。
俺とルナが王城に向けて気分転換も兼ねて歩いていると、俺たちの目の前に一台の馬車が止まった。そして、扉が開きそこから出てきたのは何とも予想外の人物であった。
「ん、リアムやっと見つけたの」
「らっラー⁉」
天才魔法薬師であり、ルルネの師匠でもあるラール・レーメルである。
ラーは基本的に自分のアトリエに引きこもっているか、もしくは研究のためだと言ってあちこちを飛び回っているかのどちらかなので、神出鬼没な奴だった。そんな人物がいきなり目の前に現れたのだ。驚かざるにはいられない。
「どうしてお前がここに?」
そして、俺にはもう一つ懸念することがあった。それはルナとラーの仲がものすごく悪いのである。前にルルネの魔法薬師の試験を受けるためについて行った時だって、この二人は顔を合わせて言い争いをしている。なので、今回もそれが起こってしまうのではと言う懸念があり、俺がハラハラとしていると、それはまったくの杞憂で終わった。
ラーは人の顔を見るなりあっさりと告げたのである。
「ルルネが大変なの」
ラーのその言葉を聞いた瞬間、俺とルナはラーが乗っていた馬車に飛び乗ると、ラーと共にルルネの所に向かうのだった。
ルルネがいたのは医療施設のベッドの上だった。ベッドの上で規則正しい呼吸をしながら眠っている。
「ルルネさんはどうかなさったんですか?」
「ルルネは妊娠しているの」
ルナの言葉にラーは爆弾発言を落としたのだった。
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