第72話「リアムの秘策」
第72話「リアムの秘策」
さて、止めると言ったもののどう止めるか。
俺はアバウの剣を受けながら、どうするかを考えるが、超ゾーン状態に入ったアバウを止める術を思いつかなった。
アバウのパワーとスピードが強すぎて、俺もグレンも対応できていなかったのだ。
普通、この【麻薬】を使った強制ゾーン状態は一時間ほどで終了する。そして、ゾーン状態が切れれば、ものすごい倦怠感に襲われそのまま無気力状態になってしまう。
一本でもそうなってしまうのに、アバウはそれを一気に三本も打ったのだ。ただでさえ無理にゾーン状態に入っているのに、限界を超えた使用なので、さすがに長くこの状態は保てないはずだ。
だが、長くはもたないとは言ったもののこの状況を打破できたわけでもなく、アバウが有利な状況に変わりはしない。
そもそもアバウのスピードにまったくと言っていいほどついていけていないのだ。
せめて、アバウのスピードについていければどうにかなるんだけどな。
「リアム! グレンさん!」
俺とグレンが何とか、アバウの殺意を感じ取り危うく防いでいると、今まで黙ってことの次第を眺めていたルルネが声を上げた。
「二人ともこれを使って!」
そう言ってルルネが投げてきたのは小瓶でそこには液体が入っている。
「ルルネ、これは?」
「それはあたしとラールが作った薬よ。その薬を飲めば一時的にだけど、自分の基礎能力を上げることが出来るわ。だけど、本当に少しの間しか能力上昇効果は得られないわよ」
「つまり、短期決戦ってことだな。グレン、一つだけアバウを止める方法があるけど、こっちもチャンスは一度っきりだ。グレン、お前のことを信用していいか」
「当たり前だろ。リアム、僕は僕の親友を信じるさ。リアム、一緒にあいつを止めよう」
俺はグレンの言葉に頷きで返すと、グレンと同時にその小瓶の中身を一息で呷った。すると、内側から力が湧きあ上がってくる感覚が起こってくる。
そして、再びアバウの方に視線を向ければ、さっきまで捉えられなかったアバウの動きを捉えることが出来るようになっていた。
これならまともに戦える!
俺とグレンは今一度頷き合うと、グレンが前に出た。
グレンは振り下ろされるアバウの剣を、次から次へと自身の剣で受け流していく。
俺はその間にアバウを完全に抑えるための準備を進めていく。
錬金剣から今はめている 結晶体 を取り外すと、腰のポーチから今度は白色の結晶体を取り出した。
結晶体は五大元素の性質を閉じ込めたもので、それを剣に付与させて使用するものである。五大元素は火、水、風、土、空と一般的には呼ばれている。そして、俺が今取り出したのは白色の結晶体で、それはその五大元素のどこにも属さない性質を閉じ込めているものであり、この状況を唯一打破できるものだった。
俺はイレギュラーなそれを錬金剣に装着した。正直な話、ちゃんと機能するかは賭けの部分があり、機能してくれなければだいぶ万事休すと言った状況にもなりかねない。
絶対に失敗するわけにいかないんだ!
俺が祈るような気持ちで錬金剣を眺めていると、俺の錬金剣は白く輝き出す。
俺はそれを見て安堵の息を吐くのと同時に、今一度身を引き締めた。
目の前ではちょうどグレンとアバウの剣は同時に宙を舞っているところだった。
今がチャンス!
俺がそう思った瞬間、体は駆け出していた。
急に接近してきた俺にアバウは剣を構えようとするが、あいにくアバウの剣はまだ宙に舞ったままだった。
俺はその隙を見逃さず、錬金剣を横一線に振るったのだった。
「いい加減目を覚ませ! この大馬鹿野郎がぁ!!」
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俺は傷が治り元気よく走り去る狼を、姿が見えなくなるまで眺めていた。
俺の周りでは狼を救えたということで「うぉぉぉぉぉぉぉ」という歓声が上がっている。
この採取の一環で、こうして怪我をした動物に出会うことは少なくはない。だが、今みたいに命を救えることもまた多くないのだ。だからこその、周りの歓喜のしようだとはリアムは感じていたが、先ほどから気になることがリアムの中にはあった。
数々の称賛の声を上げてくれるクラスメイトたちに、リアムは軽く言葉を返すと森の中に入って行く。
そんないきなりのリアムの行動にクラスメイト達は、一様に頭の上に疑問符を浮かべている。
リアムはそんなクラスメイト達の反応に意を介さず、森の中を進んでいく。そして、リアムの予想通り森の中にいたのだ。
「お前だったんだろ? 最初に狼に応急処置を施したのは」
リアムが狼の傷を手当てしている時、狼の傷はあれ以上はひどくならないように、最低限の処置だけはされていたのだ。
リアムはそれを行ったのが、最初に狼が倒れていた場所にいた少年ーーアバウがやったのではないかと考えたのだ。
それでリアムはアバウにお礼を言うために森の中へと入ったのである。
「ありがとう、アバウ。アバウが狼に応急処置を施しておいてくれたから、俺は狼を助けることが出来たんだ。だから、ありがとう」
それは心からのお礼だった。しかし、リアムの言葉を聞いたアバウは苦々しげに舌打ちする。
「別にリアムにお礼を言われるようなことはやってない。俺は俺のやれる精一杯のことしかやってない。あれしか出来なかったんだ。あれ以上のことは何もできなかったんだ。自分で助けようと思ったけど、助けられなかったんだ」
そう話すアバウの表情はどこか悔し気な、情けなさを表すようなそんな表情だった。
「いや、その精一杯でも大事だよ。あの狼は本当に生死を彷徨うそんな状態だった。それをアバウの行動で繋ぎとめたんだ。だから、アバウのやったことは十分お礼を言われることだよ。だから、ありがとう」
リアムのその言葉に、アバウは「あっああ」と気のない返事しか返せなかった。
アバウとしては悔しかったのだ。いつもバカにしてくる奴を見返したくて、怪我をしている狼の治療に当たっていたのだが、結局出来たことと言えば、血を止めることぐらいだった。
目の前にいる天才のように、その動物に合った薬を錬金し、助けるなんてことは出来ないのだ。それに加え自分は落ちこぼれだと言うこともアバウは自覚している。
だからこそ、そんな天才に無才が褒められるいわれはないのだ。そんなの無才からしたら、皮肉としか思えないのだ。
天才に無才の気持ちが分かってたまるか!
アバウは内心で毒吐くと、無言でその場から立ち去っていく。
もう話すことはないと言わんばかりに。
リアムもリアムでそんなアバウのことを追ったりはしなかった。
リアムの最初の目的はアバウにお礼を言うことだったからだ。それに、アバウが錬金術に負い目を感じていることも、リアムは知っていた。なので、無言で歩いて行くアバウの背中を、リアムは黙って見ていたのだった。
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「リアム、君は一体何をしたんだい?」
気を失ったアバウのことを拘束しながら聞いてくるグレンに、俺は今行ったことを説明していく。
「グレン、ルルネの恩師であるアルス・マグナが起こした事件を覚えてるか?」
「ああ、もちろんさ。彼は事故で亡くなってしまった恋人の形見を探すために、危険な降霊術に手を出してしまい、彼は霊に取り付かれてしまったんだ。そして、そんな彼を救うためにリアム、君が【新・万能霊薬】の元となった薬【除霊薬】を錬金して彼を救ったんだ」
グレンのその説明に俺は頷きで返すと、腰のポーチから先ほど使った白い結晶体を取り出し、グレンに見せる。
「実を言うと、今回やったこともその時と同じようなことなんだよ。この白い結晶体には【賢者の石】の力が封じ込められている。アバウのように【麻薬】の力に飲まれて暴れる輩もいると思って用意していたんだ」
「つまりそれはどういうことだい?」
「つまり、この結晶体の力を引き出した錬金剣で斬れば、【麻薬】の効果を打ち消して無力化することが出来るんだ。要は錬金剣が注射器の代わりになったって感じだな。それにこの結晶体には【賢者の石】の他に傷を治す効果も含ませている。だから、斬ったとしてもその傷はたちまち回復して、斬った相手が死ぬことはない」
俺の言葉を証明するように、アバウの体には剣で斬った傷はなかった。
俺は錬金剣を腰の鞘にしまうと、ふぅ~と息を吐きだした。
何はともあれ、これで事件は解決したと言えるだろう。
近衛兵たちが気を失ったアバウを運んでいる所を眺めていると、「あなた~」と呼ぶ声がした。
俺が声のした方に視線を向けると、ルナがこちらに向かって走ってくる所だった。
「るっルナ! 走って大丈夫なのか⁉」
俺はルナの突然の登場に驚くのと同時に、妊娠中なのに走って大丈夫なのかと思ってしまう。
ルナはルナで俺の声が聞こえたのか聞こえてないのか、そのまま俺の胸に飛び込んでくるので、俺は慌ててそんなルナのことを抱き留めた。
「あなた、全部終わったんですね」
「ああ、全て終わったよ」
「それじゃあ、わたしたちの『アトリエ』に帰れるんですね」
「うん、帰れるよ。俺たちの『アトリエ』に」
俺とルナは笑い合うと、自然にその距離をゼロにしていった。
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