第71話「麻薬の真実」
第71話「麻薬の真実」
「アバウ。そうかお前だったのか」
「なに? あんたあの男を知ってるの?」
ルルネのその言葉に俺は頷いた。
「ああ、あいつは俺が錬金術師養成学校に通っていた時に同じクラスだった奴だよ」
「それってあんたの同級生ってこと?」
「その通りだ」
俺の言葉にルルネは驚きで声を失っている。
「取り合えず、ルルネはグレンの手当てを」
「うっうん!」
俺の言葉にルルネは我に返り、急いでグレンの元に向かっている。
俺は俺で真っすぐにアバウと対峙した。
「アバウ、なるほどな。お前が今回の件を引き起こしていたのならすべて説明がつく」
「ほう、何がつくって言うんだ?」
「アバウ、お前は養成学校時代、ずっと劣等生の烙印を押されていた。何故なら、お前は錬金術師として一番大切な能力である錬金の能力が欠如していたからだ。そのせいでお前は常に劣等生の烙印を押される羽目になっていた。誰もがアバウには才能がないんだと思っていた。だけど、本当は違ったんだ。お前の才能は錬金とはその逆、分解することの才能に秀でていたんだ。そうすればすべてのことに説明がつく」
フードの男、アバウは黙って俺の言葉を聞いている。
「お前は何かしらの【新・万能霊薬】を使っている薬を手に入れ、それをお前が開発した分解器を使って、その薬から【新・万能霊薬】を分離させて、【新・万能霊薬】を手に入れたんだ。そして、それを使ってお前は麻薬を錬成したんだ。いくら劣等生の烙印を押されていたお前でも、麻薬を作りだすぐらいの簡単な錬金は出来るだろう。それに【新・万能霊薬】を使えば、それが程よい触媒となって錬金も安定してくれる効果も持つ。だから、なおさら錬金もしやすかったはずだ」
分解器とは、その名の通り分離させるためにある装置だった。
その装置に薬などを入れると、それはたちまち薬からその薬に使用された素材に分離されるという仕組みだった。
それはつまり、錬金しなくても【新・万能霊薬】が手に入ることを意味していた。
まさか、アバウがこの事件に関わっていたとは、夢にも思っていなかったが。
俺が真っすぐにアバウを眺めていると、アバウは突然笑い出したのだ。
「ふっふふ、あははは! 笑わせるなよリアム。お前はお前は何も分かってねぇよ!」
「何も分かってない?」
「ああ、そうさ。お前は俺の錬金術を何も分かってはいない。分解錬金術を」
「分解錬金術?」
分解錬金術……だと? そんな錬金術、俺は聞いたことがないぞ。それに分離錬金術なんて、相反しているものが合わさっているなんて、意味が分からない。
俺が訝しんでいると、アバウは口を開く。
「お前が訝しむのも無理はないだろうな。これは俺が編み出した俺だけの錬金術なんだからな」
「アバウだけの錬金術?」
「養成学校時代、俺は劣等生だと周りにバカにされていた。そして、その時代から頭角を現していたお前とはよく対比されもした。それがどれだけ屈辱だったがお前は分かるか! だから、俺は生み出したんだ! 錬金が出来なくても錬金を行う方法を!」
「それが分解錬金術というわけか」
「そうさ!」
分解錬金術とは、分解器を使って行う錬金術のことだった。普通、分解器はその物から素材を分離させるために使う装置なのだが、アバウはそれを応用したのだ。
分解器は一つの物を入れて、それを分解させて素材を取り出す装置であるが、その分解器を改造し、一つではなく複数の物を入れ分解させてそのまま錬金させる方法だった。
いわば分解錬金術は割り算と足し算を合わせた方法と言えよう。
そもそもアバウが錬金を行えない理由は、錬金術師としては重要である錬金道具を扱えないことにあった。
アバウはどの錬金道具にも適性を示せなかったのだ。
それがアバウが劣等生の烙印を押された大きな原因だった。錬金道具が使えなければ、素材を錬金することは出来ない。
それはつまり、錬金術師としては致命的なものだった。
だからこそ、アバウは誰にもあの時は見向きもされなかったのだ。
「だからこそ、俺はリアムお前を陥れることにしたんだんだよ!」
「それって完全に逆恨みじゃない」
グレンに回復薬を飲ませていたルルネが、ポツリとそうこぼしてしまう。
「逆恨みでもなんでもいい! 俺は俺をバカにしていた奴を許さない! そして、俺はお前を超えることによって、劣等生と言う烙印を壊す!」
「だから、この麻薬騒動を起こしたのか?」
「ああ、そうさ。この騒動を起こせば、お前の評価は地に落ちる。いつも善人ぶるお前が許せなかったんだよ!」
アバウは錬金剣に赤色の 結晶体 を装着させると、俺に斬りかかってくる。俺も錬金剣に青色の結晶体を付けて水の性質を発動させると、その剣を受けた。
「アバウ、お前の目的は何なんだ?」
「お前をどん底に突き落とすことだよ!」
アバウがそう叫ぶと、振り下ろされていた剣にさらに力が込められて、つばぜり合いの状態だった俺の剣は弾かれてしまう。
がら空きになってしまった俺の体に、アバウは拳を打ち込もうとしてくるが、俺はそれをバックステップで回避する。
それと同時に腰のポーチから閃光玉を取り出すと、アバウに投げつけ牽制するが、アバウはすぐさまそれが閃光玉だと気が付いたようで、目を庇われてしまう。
くっ、やっぱり、同じ錬金術師だとすぐにバレるか。
俺は考えを改めると、そこから接近戦を仕掛けていく。
そこからしばらくの間、剣戟が続いていた。
俺が結晶体を変えれば、アバウも相殺出来る結晶体に変えて受けてくる。その逆もしかりだった。それに加え、俺とアバウの実力も互角で拮抗した状況が続いていた。
「アバウ、お前はどうして医療施設を襲った?」
「…………」
俺の質問にアバウは何も答えなかった。
何だ? アバウの目的は一体?
俺はアバウの剣を受けながら素早く情報を整理していく。
まず、アバウは養成学校時代、俺を恨んでいたのは確かだ。自身が劣等生の烙印を押され、俺といちいち比べられるのが嫌だったと言うことだ。
その恨みを晴らすために今回の麻薬騒動を思いついた。【新・万能霊薬】に【世界樹の雫】を使えば、作れる人は限られ麻薬を製造した罪を擦り付けることが出来たからだ。
そして、アバウのその目的は達成されたと考えても良い。アバウの目論見通り、俺とルルネは麻薬を作った容疑をかけられ逮捕の一歩手前の状態までいっている。
そんな印象がついてしまえば、俺はみんなから信用を失うだろう。それはつまり、完璧に陥れられたということと同義だった。
それじゃあ、何故、アバウはこうして医療施設を襲っているのかが分からなかったのだ。
それが仇となった。
アバウが襲撃した理由を考えるために意識が疎かになってしまい、俺に確かな隙が生まれてしまったのだ。そして、アバウはそれを見逃さなかった。
俺の剣を弾き、がら空きになった俺の体に剣を振り下ろしたのだ。
斬られる!
俺は瞬時にそう思って、何とかアバウの剣を防ごうとするが、生まれた隙は簡単には修正できず、俺の体に刃が迫ってくる。俺は来る衝撃に身構えていたのだが、待てど暮らせどその衝撃はやってこなかった。
何故なら、振り下ろされた剣を回復したグレンが受けていたからだった。
「ぐっグレン⁉ 大丈夫なのか?」
「ああ、ルルネは凄腕の魔法薬師だからね。ルルネの薬を飲んだらたちまち大丈夫さ」
グレンはそう答えると、今度はアバウの剣を弾き返した。
「リアム、あいつの目的は【賢者の石】だ」
「っ! 【賢者の石】だって? あれはそこまで情報として出回っていないはずだ」
そうだ。【賢者の石】は完成したばかりと言うこともあり、そこまで完成したことを知られてはいない。なので、どうしてアバウが【賢者の石】の存在を知っているのか不思議で仕方がなかったのだ。
「そのはずだね。【賢者の石】の存在は僕たちの間でしか認知されていないはずだ。それなのに、彼がどこで【賢者の石】の情報を知りえたのかは調査する必要がありそうだね」
「ああ、その件はグレンに任せるよ。とにかく今はアバウを止めないと」
「そうだね」
俺とグレンが剣を構え直すと、アバウもちょうど態勢を直したところだった。
「リアムにグレン・アルタか。二人を相手するのはこっちの分が悪いか」
アバウは静かに呟くと、腰のポーチから三本の注射器を取り出した。
そして、それをおもむろに自身の胸に突き刺したのだ。
その突然の行動に、俺とグレンも驚いてしまう。
アバウは一体何をしようとしている?
俺たちが警戒をしていると、目の前にいたアバウの姿がかき消えた。
「っ⁉ どこにいった⁉」
俺が辺りを見渡していると、いきなり目の前にアバウが現れた。
「遅い」
アバウが剣を横なぎに振ったのを見て、俺はそれを自身の剣でガードするのがそれが手一杯だった。
先ほどに比べてパワーもスピードも格段に上がっていて、次から次へと繰り出されてくる斬撃を防ぐので精いっぱいだった。
途中でグレンがアバウに攻撃を仕掛けるが、それも格段に上がったパワーとスピードで簡単にあしらわれてしまう。
「リアム、一体何が起きたんだい?」
グレンは攻撃を防ぎながら俺に聞いてくる。
「これは俺の予想だが、アバウがさっき自身に打ったのは【麻薬】だ。それも複数打ったってことは、無理矢理、普通のゾーンの何倍もの力を引き出す超ゾーン状態に入ったと考えられる。だけど、そんなことをしたら体は当然悲鳴を上げるだろう。バカなことしやがって」
俺は思わず舌打ちをせずにはいられなかった。それぐらいにアバウが行った行動は危険なことなのだ。
「なら止めないとね」
「ああ、当然。アバウは絶対に止めるし、絶対に間違いに気づかせる」
アバウの体からは、白いオーラが上がっていたのだった。
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