第70話「グレンと真犯人」
第70話「グレンと真犯人」
ここにエクリプセがいるかもしれないか。
リアムとルルネが薬作りに没頭している頃、グレンはザウリから教えてもらった取引が行われる場所をしらみつぶしに探していた。
とにかくエクリプセを見つけ出さないと話にならないと、グレンはそう考えたのだ。
取引が行われる場所は複数あったので、王都の近衛団の隊員と共に手分けして当たっていく。
とにかく麻薬【パナセ】の出所を解明しないと。
今グレンが来ているところは、王都にあるスラム街に来ていた。
取引場所の一つにこのスラム街にある奥地が含まれていたのだ。
それに確かこの麻薬【パナセ】は、スラム街でも大流行を見せていた。
そんなに安価で取引されているのだろうか?
普通、麻薬と言ったものがここまで街全体に広がることは今までなかったことなのだ。それはひとえに麻薬の値段が高く誰それが手を出せなかったことも、ここまでの麻薬の大流行が起きていなかった理由の一つだった。
本当に何が起きているんだ? それに麻薬【パナセ】に【新・万能霊薬】が使われているのも、この大流行を引き起こしてしまった一因なのかもしれない。
グレンは物陰に隠れながら、エクリプセが現れるのを待っている。
「隊長、本当に奴は現れますかね」
「現れるさ、きっと」
一緒に待機していた部下の言葉に、グレンは迷いなく答えるとただ一点を見つめていた。
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「新薬が開発された⁉」
フードを被った男はエクリプセの言葉に驚きを隠せなかった。
「ああ、何でもその薬はあんたが作った麻薬の特効薬だそうだ。その薬を投与すればたちまち麻薬の効果は打ち消されるらしい」
「ちっ……リアムの仕業か」
フードの男は不愉快そうに口元を歪めている。
「何でもその麻薬に効く特効薬は、【賢者の石】と呼ばれているらしいぞ」
「ッ⁉」
エクリプセの言葉に二重の驚きを受けてしまう。
「【賢者の石】……だど⁉ ありえない!」
「いやいや、これがマジな話らしいぜ。マジで【賢者の石】が開発されたらしいぞ」
「リアム! どこまで俺のことをコケにすれば気が済むんだ!」
怒りを露わにすると、いきなり席から立ちあがった。
「どこに行く気だ?」
「これから医療施設をしらみつぶしに当たる。何としても【賢者の石】は手に入れなければならない」
そう話したフードの男は深い深い闇の色を含んでいた。
リアム、お前はどこまで俺の予想を超えてくるんだ。そして、どこまで俺のことを惨めな気持ちにさせるんだよ!
フードを目深に被った男はそのままいつもの密会場所であるバーを後にするのだった。
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いつだ、いつ現れる。
グレンはあれから半日以上張り込みを続けていた。
とにかく今は少しでも早く麻薬【パナセ】を作った人間の手掛かりを見つけなくてはならない。
それが僕に出来るリアムへの恩返しだからね。だから、何としてもエクリプセを捕まえてみせる。
グレンが決意を新たにしていると、「たっ隊長!」と慌てた様子の隊員が近づいてくる。
「どうかしたのかい?」
グレンはすぐさまその隊員の様子からただならぬ事態が起きていることを察した。
「大変です。麻薬中毒者が入院している医療施設が襲撃されました!」
「ッ!」
隊員のその報告に、グレンは少なからずの衝撃を受けるがすぐさま気持ちを切り替えた。
「分かった、すぐに向かう」
グレンは答えるや否やすぐさま駆け出した。
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どこだ、どこにある! 俺に【賢者の石】を寄こせ!
医療施設に襲撃をかけていたフードの男は、次から次へと自身を捕まえようと斬りかかってくる近衛兵たちをねじ伏せると、医療施設内をくまなく探索していく。
リアム、リアム! お前だけは絶対に……
フードの男は次々に室内に入り、【賢者の石】を探していく。しかし、いくら探しても【賢者の石】は見つからなかった。
「どこだ、どこにある!」
フードの男の中には次第にイライラが募っていく。
「ここじゃないのか……」
フードの男はここに見切りをつけると、次の医療施設に向かおうと踵を返した。
最後に診療施設に火炎瓶を投げ込んだ。医療施設を燃やして証拠隠滅をするためだった。
「さてと、次の医療施設へと向かうか」
フードの男は次の医療施設へと向かおうと歩き出そうとするが、それは叶わなかった。何故なら、フードの男の前に一人の男が立ちふさがったからだった。
「グレン・アルタ。二年半前に北区画【ゲンブン】を『ミアズマ』から救った英雄か」
フードの男が呟くように、目の前には息を切らせたグレン・アルタが立っていた。
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「グレン・アルタ。二年半前に北区画【ゲンブン】を『ミアズマ』から救った英雄か」
目の前に立つ不気味なフードの男の呟きを聞いて、グレンの背中には嫌な汗が流れるのを感じた。
グレンはそれを精神力で追い払うと、目の前のフードの男に真っすぐと告げた。
「傷害、および放火の疑いで逮捕する!」
「断ると言ったら?」
「無理矢理、逮捕するさ」
グレンはゆっくりと腰に下げている剣を抜刀した。
「あの男は僕が相手をする。みんなは医療施設に生き残りがいるかもしれないから、可能な限り避難させてくれ」
グレンは手早く周りの隊員たちに指示を出すと、目の前の男と対峙した。
「その剣。リアムが作った剣だな」
「っ! お前はリアムのことを知ってるのか?」
「さあな」
フードの男はとぼけるようにそう答えると、先制を仕掛けてくる。
腰のポーチから医療施設を燃やした火炎瓶を取り出すと、それをそのままグレンに向かって投げつけたのだ。
グレンはグレンで冷静にその攻撃を見極め、剣の鍔に水色の 結晶体 をはめ込んだのだ。
水色に封じ込められているのは水の性質だった。
すぐさまその剣が水の性質を持ち、その火炎瓶をぶった斬った。当然、水で瓶の中にあった火薬は消火されてしまい、その火炎瓶が爆発することはなかった。
「ちっ! リアムの奴は本当にこっちをバカにしてやがる! だったら、次はこっちだ」
再び瓶を投げつけてくる。
グレンはもう一度、その瓶を斬り付けるが、その瞬間、グレンの剣は凍り付いてしまう。
「っ⁉ これは冷却瓶か!」
「ご明察。さて、これはどうする?」
グレンは手早く水色の 結晶体 を抜くと、その代わりに赤色の 結晶体 をはめ込んだ。
その途端、剣には火の性質が宿り、剣を凍り付けにしていた氷を溶かした。
「行くぞ」
グレンが駆け出すと、フードの男は冷却瓶をもっと投げていく。
グレンはその投げつけられてくる瓶を斬り落としながら、フードの男に近づいていく。
フードの男は「ちっ!」と舌打ちをすると、懐から剣を取り出すと、その剣にグレンと同じ水色の 結晶体 をはめ込むと水の性質を利用して、グレンの火の力を相殺させた。
「っ⁉ 君は、錬金術師なのか?」
「ああ、そうだ」
フードの男は特に興味もなさげに答えると、グレンの剣を追い返すために力を込めた。
グレンはグレンでフード男に対抗するために手早く 結晶体 を、今度は緑色の結晶体をはめ込んだ。
緑色の結晶体は風の性質を封じ込めた物だった。
「君の目的は一体何なんだ?」
「お前には関係のない話だ」
「関係がなくても、僕は君を止めるよ」
グレンはそう宣言すると、フードの男に次から次へと斬りかかっていく。
しかし、フードの男はそのグレンの剣を次から次へと自身の剣で受け流していく。
「ッ⁉」
目の前の男は錬金術師と言っていたはずだ。なのになんだこの動きは⁉
フードの男はトップクラス顔負けの剣の腕を持っていると考えていいだろう。
正直な話、グレンは接近戦に持ち込めばすぐさま勝負がつくと考えていた。錬金術師と男が語っていたので、戦闘は不慣れだろうと思っていたのだ。リアムみたいな例外はあるが。
つまり、このフードの男もリアムと同じ例外に当たる人物だったと言うことだろう。
「くっ……」
グレンは苦戦を強いられていた。
「【ゲンブン】の英雄もこの程度か」
つばぜり合いの中ぼそっとフードの男が呟くと、剣に力を込めた。
「舐めてもらっちゃ困るな」
グレンは何とか反撃のタイミングを狙っているが、なかなか掴めないでいた。
「これで終わらせてやる」
フードの男はそう呟くと、錬金剣に黄色い結晶体をはめ込んだ。
黄色い結晶体には土の性質が封じ込められていた。
その結晶体の力を解放させると、グレンの足元の地面がいきなり隆起した。
グレンは突然隆起した地面に足を取られて、態勢を崩してしまう。
それが大きな隙となってしまい、つばぜり合いの均衡は崩れてしまう。そして、それは致命的な隙となってしまう。
フードの男の錬金剣がグレンを体を斬り付けたのだった。
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「グレン!」
診療施設が何者かに襲われたという話を聞いて、俺とルルネはその襲撃された診療施設に来ていた。そして、二人はそこで驚くべき光景を目の当たりにすることとなった。
そこには血を流して地面に倒れているグレンと、その前に立つフードの男の姿があった。
「ぐっグレンさん!」
そんなグレンの姿を見たルルネは、悲痛な叫びをあげている。
俺は俺でそのフードの男の姿を見て戦慄が走ってしまう。
「リアムか。久しいな」
フードの男はそう短く呟くと、フードを脱いでその素顔をさらした。
俺はその姿を見て小さく息を呑んでしまう。
「っ⁉ アバウなのか……?」
「ああ、そうさ」
フードの男ーーアバウは俺の言葉を肯定すると不敵に笑うのだった。
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