第67話「新・万能霊薬のさらなる可能性」
今年ラストの投稿になります。
今年一年も本当にご閲覧ありがとうございました。来年にはこの作品も完結させたいと思っておりますので、また来年も変わらぬご愛読をして頂ければ嬉しいです。
第67話「新・万能霊薬のさらなる可能性」
俺が最初に感じたのはふわふわした感覚だった。しかし、その感覚は一瞬だった。ふわふわした感覚が来たと思ったら、一気に視界が狭まり周りの音が何も聞こえなくなった。
そして、その後は思考の濁流だった。
今まで得た経験、知識。それらが次から次へと俺の頭の中を駆け巡っては過ぎ去っていく。
違う、違う。これも違う。もっと深く、もっと深く! 考えろ、考えるんだ!
思考を深く深く読んでいく。
「違う、違う。これも違う!」
もっとだもっと。もっと先へ! 深く読め!
俺はどんどん思考の渦へと入って行く。
そして、どれぐらいそうしていたのだろうか? もはや時間の感覚もない中で、俺は一つの答えを導き出した。
「そうだ。俺はどうして忘れていたんだろう。一つだけ方法があるじゃないか!」
そうだ。まだ錬金術師だから出来ることがあったんだ。そのことを忘れていた自分のぶん殴ってやりたい気分に俺はなってしまうが、今は一刻を争う状態だと思い出し、それを自重する。
「セシル!」
いきなり声を上げた俺にセシルは驚いているが、そんなことはお構いなしに俺は話を進めていく。
「今から言う材料を大至急で集めてくれ!」
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あれから俺は工房へと移動していた。どうやら、答えを導き出すのに二十分もの時間を使ってしまっていたらしいのだ。そして、材料が揃うまでに十五分ほどが経過してしまっている。
それはつまり、残り時間は二十五分を切ってしまっている。
ここからが勝負だ。
俺はすぐさま錬金を始めていく。
まず初めに【新・万能霊薬(結晶済み)×2】【麻薬】【超強中和剤】【神獣の体液】の四種類を調合していき、液体Aを作り出す。
そして、すぐさま今度は【世界樹の雫】【新・万能霊薬(結晶済み)×2】【超強中和剤】【フェニックスの羽】の四種類を調合して液体Bを作り出す。
さらにその【液体A】【液体B】【フェニックスの尾】【神獣の牙】の四種類を錬金していく。
ここまでにかかった時間は二十分。残りは五分!
目の前の錬金釜からは黄金色の輝きが漏れている。
良し、もう少しで調合反応が落ち着くな。
俺はそのタイミングでルナのことを呼びつけた。
「あなたどうしました⁉」
ルナは慌てて俺に駆け寄って来てくれる。本当に頼りになる嫁である。
「ルナ、薬は最後の工程に入った。だけどな、この薬は一日寝かさないと完成しない。それはつまり、制限時間が過ぎるってことだ。だから、ルナにお願いがあるんだ」
「はい、なんですか!」
「一日後、薬が完成したらそれを俺に打ってくれ。そうすれば麻薬の効果は完全に消えるはずだから」
俺がそう話し終えた瞬間、釜の中から黄金色の輝きがあふれ出し工房全体をその光が包んだ。
そして、その光が止むのと、俺の意識が途切れるのは同時だった。
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あれ? ここはどこだ?
俺が目を覚ますと見慣れない天井が視界に入った。
そして、俺は何があったかを思い出していく。
えっと、確か俺は麻薬を飲んで、強制的に『ゾーン』の状態に入ったんだ。それで、俺は薬を必死に錬金していたんだ。最後の工程までは行ったことは覚えてる。それじゃあ、その後は?
俺がぼんやりとしている意識の中で考えていると、「あなた」と優しく呼ぶ声が聞こえてくる。
声のした方に視線を向けると、そこには瞳に涙を溜めたルナの姿があった。
「あなた、おかえりなさい」
「あっああ、ただいま?」
俺が起き上がろうとすると、ルナがすかさず背中を支えてくれる。
そうして今知ったことは、ここはまだセシルの秘密の隠れ家で、俺はその部屋にあったベッドに寝かされていたことと、俺の周りには全員が集まっていた。
「あなた、気分はどうですか?」
「気分は少し寝起きでぼぉーとするけど、おおむね大丈夫だよ」
「そうですか」
俺の言葉に安心したのか、ルナは安堵の息を吐いている。
「俺はあの後どうしたんだ?」
「あなたは一日中意識を失っていましたよ。それで、一時間前ぐらい前に薬が完成したので、あなたに言われた通り打っておきました」
「そっか。ありがとうルナ」
俺はルナに笑いかけると、その綺麗な金髪を撫でた。
「リアム、まずはお疲れ様。それで、寝起き早々で悪いのだけど説明してもらえるかしら。あなたがやったことを」
セシルの言葉に俺は頷いた。
「ルナ、完成した薬はどこにある?」
ルナは俺の言葉に頷くと、すぐさまフラスコに入った黄金色の液体を取ってくれる。
俺はそれをルナから受け取ると、みんなに見えるようにフラスコを掲げた。
「最初に言っておくけど、これは【賢者の石】だ」
俺のその言葉に全員に大きな動揺が走った。
「ちょっと待ってよ。あんた正気? 【賢者の石】って、確か錬金術師としては禁忌に値するんじゃなかったっけ? それに【賢者の石】なのに液体じゃない⁉」
ルルネが驚いたように声を上げている。
確かにルルネの言いたいことは俺にはよくわかった。
「ルルネの言いたいことも分かる。だから、順を追って説明すると、まずは【賢者の石】からだな。もともと【賢者の石】は、石と言われているが、全部が石とは限らないんだ。液体としてもそれは【賢者の石】と扱われる。それに霊薬と言われているものだしな。だから、これも立派な【賢者の石】と言うわけさ。次に錬金術師としての禁忌に触れると言うことだが、それは大丈夫だ」
「はぁ? どうしてよ!」
「それはこれが完全な【賢者の石】じゃないからだ」
「いや、あんた今、これも立派な【賢者の石】って言ったじゃない」
「確かに言った。だけどな、【賢者の石】が何故錬金術師の間で禁忌と呼ばれているかと言うと、それはあまりにも強大な力だからなんだよ。その石一つあれば、不老不死も富も手に入る。だからこそ、禁忌とされたんだ。だけど、この【賢者の石】にはそんな力はない。ただ麻薬の効果を取り消すことだけを考えたんだ。だから、途中の材料で【麻薬】を使ったんだ。毒は毒を以って制すってことでね。それに【賢者の石】は【万能霊薬】の後に出来たと考えられている。それに【賢者の石】は【万能霊薬】と同様とも考えられているんだ。それはつまり、【万能霊薬】がこの【賢者の石】を作り出すカギだと考えたんだ。まあ、それは正解だったわけだけどさ」
もともと【万能霊薬】と【賢者の石】は同様の物であると考えられていたのだ。俺はそのことを思い出して、もしかしたら【万能霊薬】を最高の状態まで極めることが出来るのであれば、そこが今回の突破口になるのではないかと考えたのだ。そして、その俺の考えは当たっていた。
今回は異なるアプローチの方法で、効果を高めた【新・万能霊薬】を二種用意して、それを最高の形で錬金させたのだ。
そうして完成したのが存在が幻と言われていた、幻の霊薬【賢者の石】だったのだ。
「それにこの薬は完全に完成している。俺の体から完全に麻薬の効果は消えているから、間違いなくこの薬はあの麻薬に効果がある薬だよ」
俺の言葉を意味を理解した瞬間、ルルネたちの口から歓声が上がっている。
そんなルルネたちの反応を見て、俺も安堵の息を吐き出した。
これで何とか最大の難所だと思われていた薬の開発は成功だな。
「あなたはやっぱり、すごい人です」
そう言って微笑むルナの姿を見て、俺は「そうかな?」と首を傾げてしまう。
「そうですよ。あなたは誰もが成しえなかったことを二つもやってのけてしまったんですから。本当に本当にすごい人ですよ。あなた、お疲れ様です」
「ああ、ありがとうルナ」
俺たちは微笑み合うと、自然に惹かれ合うように抱きしめ合っていた。
「でもな、ルナ。これは俺一人で出来た偉業じゃないんだよ。きっとルナとお腹の子がいなきゃ絶対にたどり着けなかったことだと思うんだ。ルナがいてくれたからこそ、俺は自分自身の限界を超えることが出来たんだよ。だから、これはルナのおかげでもあるんだよ」
俺がそう言ってルナに笑いかけると、ルナもルナで笑って「えへへ、嬉しいです」と柔らかく微笑んでいる。
俺の好きなルナの表情の一つだ。
「ルナ」
「あなた」
俺とルナの距離は本当に極々自然にゼロになろうとしていたが、ゼロになる寸前、俺は頭をルルネに思いっきり叩かれた。
「いてぇな! いきなり何すんだよ!」
「だから自然にいちゃつくなっていつも言ってるでしょうが!」
「あはは、お兄ちゃんっていつもこうなんですか?」
「ええ、隙あらばいちゃついてるわね」
妹よ、そんな憐れんだ瞳で兄を見てくれるな。
「取り合えず、これから薬の量産に入るよ。今のままじゃとてもじゃないが、王都の人間を救える量はないからな」
「そうね。あたしも手伝えることがあったら手伝うわよ」
「なら、ルルネは【世界樹の雫】を大量生産してくれ。これはかなりの消耗戦になる。かなりの量が必要だからな。ニアは俺のバックアップを頼む。それとグレン」
「なんだい、リアム」
「グレンはその間に、麻薬を売っている売人を探し出してくれるか?」
「ああ、もちろん構わないさ」
「なら、王都の近衛兵たちを使ってください。王女セシルとして、今から一時的ではありますが、グレンさんに近衛兵団の全権を与えます」
「感謝するよ、セシル」
「いえ、ここからは総力戦なのでなりふりは構っていられませんから」
「そして、ルナは大変だとは思うんだけど……」
「分かっていますよ、あなた。わたしはみなさんが作業に集中できるように、そのほかをサポートします。料理とかはわたしに任せてください!」
「あはは、さすが俺の嫁、俺のことをよくわかってる。だけど、ルナは妊婦なんだから無理だけはしないでくれよ」
「分かってます。ちゃんと無理のない程度で頑張りますから。それに無理をしてしまったら、それこそあなたのお邪魔になってしますしね」、
本当によく分かってるよね。だからこそ、頭が上がらないんだけどな。
「それなら王女の権限で、一時的にルナちゃんを料理長にするから、王城の厨房を好きに使っていいわ。それに王城に勤めているメイドたちも好きに使っていいわ。メイド長に私から話を通しておくから」
おいおい、そこまで行くとさすがに職権乱用なんじゃないか?
そう思わなくもないが、今は時間が惜しいので野暮なツッコミは自重しておく。
「それじゃあ、みんなここからが俺たちの反撃だ! 大変だと思うけどやり切るぞ!」
『おおーー‼』
俺の声に全員の声が重なった。
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