第65話「陥れられた錬金術師」
第65話「陥れられた錬金術師」
「薬の売れ行きは上々。効果も俺が見越していた通り以上の効果があったな」
男は目の前にあるフラスコの中身を見ながら、そう呟くと不敵な笑みを浮かべた。
「王城の人間どもも、この薬を作ったのはあいつだと思ってるみたいだしな。くく、いい気味だぜ」
愉快そうに笑いながら、その男は薬を作る作業を進めていく。
「それにいつまでも善人気取りでいるのがイケねぇんだよ。こんな便利な薬を作り出しておいてさ」
男は慣れた様子で、材料を錬金して【新・万能霊薬】を作り出していく。リアムしか作れないはずのその薬を。
「さてと、取り合えずこの薬での布教は大方終了と言っていいだろう。となると、次の標的はこいつだな」
そう言って男が取り出したのは一つの試験官だった。その試験管の中には、緑色の液体が入っていた。
「『世界樹の雫』」
それは正真正銘の『世界樹の雫』だった。
「リアム、お前をどん底に突き落としてやるよ」
男は作業を進めていく。
第二の種を捲くために。
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ルナたちは王都【キーリン】から少し離れた場所にズメイに降ろしてもらうと、すぐさま王城に向かって駆け出して行く。
早いところ真相を確かめないといけないのだ。
ズメイからは帰る時にも呼びつけてくれて構わないと言われたので、素直にお礼を言って今は別れていた。
王城に着くと、ルナたちはセシルに話は通してあるとだけ伝え、中に入ってセシルが待っている応接の間へと急いだ。
「ルナさん!」
向かっている途中で、ルナは見知った顔に呼び止められた。
「ニアちゃん!」
リアムの妹であるニアは、ルナの姿を見た途端、急いで駆け寄って来た。
「ルナさん! お兄ちゃんが大変なんです!」
「ええ、分かってるから、取り合えずニアちゃんは落ち着いて」
取り乱してしまっているニアのことを、ルナは落ち着けるとここに来た理由をニアに説明した。
「わたしが来たのは、そのことでセシルさんとお話しするためなんだ」
にっこりと微笑みながらそう話すルナの姿を見た瞬間、ニアはぶるりと体全体に震えが走ったのを感じていた。
なんでも、ルナの背後には般若のような恐ろしく得体のしれないものが見えたような、そんな気がしてニアにはならなかったのだ。
応接の間に着いたルナたちは、ノックをして「どうぞ」とセシルの声を聞いてから中に入った。
「セシルさん! 一体どういうことなのか説明してくれますよね?」
中に入った瞬間、ルナがセシルのことを問い詰めている。
普段、あんなに温厚なルナが怒るところを見るのは、他の三人は初めてだったので、その勢いに圧倒されてしまう。
「えっと、リアムの事よね。オーケー、説明するから少しルナちゃん落ち着いてくれるかしら」
セシルもそんなルナの迫力に押され気味だった。
「変な言い訳は許しませんからね」
「もっもちろん。言い訳なんてしないわよ」
この場にいた全員は同じことを思っていただろう。
ルナのことを怒らせてはいけないと。
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「「「「リアム(さん)(お兄ちゃん)は逮捕されてない⁉」」」」」
「ええ、逮捕してないわよ。まあ、表向きは逮捕したってことにはなっているけど。実際には逮捕していないのよ」
セシルのその説明に四人は驚いてしまう。
「どういうことか説明してもらえますか?」
ルナが説明を促すと、セシルは「もちろん」と答えると説明を始めた。
「そもそもの問題なんだけど、この王都で起こっている問題のことはあなたたちは知っているわよね」
そのセシルの言葉にニア以外の三人は頷いた。
「確かこの王都に新種の麻薬がばら撒かれて、その麻薬に使われていたのが、夫が作り出した【新・万能霊薬】だったってことで、夫が麻薬を作った犯人だと疑われて、捕まったと言うことですよね」
「ええ、ルナちゃんの言う通り。解析班がその薬を解析したところ、その薬には間違いなく【新・万能霊薬】が使われていたの。そして、今王都でばら撒かれてしまった薬のせいで犯罪が絶えないの。それで早期解決をするためにリアムの事を呼びつけようと思っていたのだけど、何分、薬の成分が成分だから、リアムが作った物だと疑う人間もいるのよ。だから、リアムには悪いけど、取り合えず、王城内でその身柄を拘束しているという事実を作ったの。私だって最初からリアムが作ったとは思っていなかったわ。ただ、私一人思っていても、どうにもならないことだからね。だから、リアムには隠れてもらったわ」
「それじゃあ、夫は今どこに?」
「ああ、それはね。今、会わせてあげるからついてきてくれる」
セシルはルナにそう伝えると立ち上がった。そして、セシルがルナたちを連れて向かったのは、セシルの自室だった。
セシルの自室は王族らしさももちろんありながらも、どこか安心させるような、くつろげるような、そんな雰囲気な部屋だった。
「ちょっと待ってね」
セシルはそれだけ伝えると、自身は書棚に歩いて行った。そして、セシルがとある本を手前に引っ張ると、その部屋に何かが外れるような音が響いたかと思うと、そのまま書棚が横にスライドして、そこに一つの隠し扉が現れたのだった。
セシルが慣れた様子で、その扉に入って行くので、ルナたちも後に続いていく、
その扉の奥は一つの部屋になっていた。しかも隠れ部屋と言う規模ではなかった。。キッチンなど、生活するうえで必要なものもが全て揃っていた。なので、一つの家と言っても差支えないほどだった。
「リアム、首尾はどう?」
「う~ん、何とも言えないところだな。【新・万能霊薬】で解毒出来ないってことはかなり厄介だぞ、これ」
その声を聞いた瞬間、ルナは走り出していた。
そして、ルナが部屋の奥に行くとそこには大切な人の存在があったのだ。
「あなた!」
その姿を見た瞬間、ルナは駆け出しその胸に飛び込んでいた。
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どういう状況なんだ? 本当にこの状況!
俺は心の中でそう叫ばずにはいられなかった。
だって、講義に来たかと思えば、あらぬ疑いで捕まるわ。捕まったかと思ったらセシルに逃がされてここに連れてこられるわ。そんでもって、いきなり麻薬の解毒薬を作れとか言われるし、しまいにはルナたちが飛び込んでくるし。うん、もう何が何だかよくわからなかった。
今はルナが淹れてくれたお茶を飲みながら、今後のことを話し合っていた。
「それでリアム。解毒薬は作れそうですか?」
「う~ん、今のところだと難しいな。解決の糸口が全く見つけられない。もともと、【新・万能霊薬】のせいで、麻薬がかなり強化されてるんだ。だから、生半可な薬だとその麻薬の効果を打ち消すことは出来ないだろう。もっと、強力な薬が。【新・万能霊薬】を超えるような薬を作り出せなければ、今回の麻薬騒動は収まらないだろうな」
「【新・万能霊薬】を超える薬って、そんなものが存在するの? そもそも錬金術師としての最高の名誉が、万能霊薬を作り出すことじゃなかったの?」
ルルネの言っていることは間違っていないだろう。確かに万能霊薬は、錬金術師2としては最高と呼ばれる薬だ。それ以上の薬を作りだすことなんて、普通から考えて不可能だろう。だけど、今回はそうは言っていられなかった。
「確かにルルネの言う通りだよ。だけど、今回はそんなことは言ってはいられない。なにせ、今まで考えてこなかった部分を突かれたわけだからね。いや、考えていなかったわけではないか」
「ん? それはどういうことだ?」
「【新・万能霊薬】の悪用ですね、あなた」
グレンのその疑問に答えたのはルナだった。そのルナの答えを聞いて、さすがルナだど俺は思ってしまう。
「ああ、正解だよ。ルナ」
俺はルナに笑いかけると、その綺麗な金髪をひと撫でしてから言葉を続けた。
「【新・万能霊薬】はこれまでの研究の通り、万能霊薬を触媒にすることによって薬の能力を引き上げることが出来る。そのことはここにいるメンバーは知っているよな?」
俺の問いかけに、ここにいた全員が頷いた。俺も頷きで返すと、説明を続けていく。
「これまではその能力を使って、従来の薬の効果の引き上げや、今まで作れなかった薬の触媒とすることによって、色々な新薬を開発してきた。病気や怪我などを治したい一心でね。しかし、この万能霊薬の力はどんな薬にだって作用してしまう。つまり、麻薬にもね。それは言い換えれば、超強力な麻薬だって作り出せてしまうってことなんだよ。今までは、この【新・万能霊薬】は俺にしか作れないと高を括って、その可能性を排除していたけど、ここでその考えは完全に覆された。改めてみんなに謝罪をさせてくれ。完全にこれは俺の落ち度だ。すまない! 俺がもっとちゃんと対策をしていえばよかったんだ。だけど、その対策を怠った。本当にすまない!」
俺はそこまで言うと、みんなに頭を下げた。
考えなかったわけじゃなかったんだ。当然、どんなにすごい薬だろうと、悪用すればそれなりの脅威になるのだ。なのに、俺は今日の今日までその対策をしてこなかったのだ。
今、王都を混乱に陥れているのは俺と言われても仕方がなかったのだ。
しばらくの間、この空間には沈黙が落ちていたが、それを破ったのはセシルだった。
「顔を上げてください、リアム」
俺はセシルの言う通りに顔を上げた。そして、俺の顔を見たセシルはにっこりと微笑んだのだ。
「リアムが悪いなんてことはありません。確かに【新・万能霊薬】は便利な反面、扱い方を間違えると、今回のように大きな脅威になります。しかし、私はそれは人次第だと思うのです。兵器だってそうです。心ある人が使えば、大量殺戮兵器になったりはしませんよ。だから、今回の件はリアムが悪いなんてことはありません。むしろ、悪いのはそれを悪用した人なのです。だから、リアムは胸を張ってください。そして、王女としてあなたに命じます。必ずこの薬の解毒薬を作ってください」
そう話すセシルの表情は、いつものふざけた様子ではなく完全に王女のそれだった。
そんな王女に俺はゆっくりと頷くと「はい!」と答えたのだった。
そうして、まとまりかけたこの部屋に一つの報せが届くこととなった。
「大変です、王女様! 王都に新たな麻薬がばら撒かれました!」と。
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