第64話「私だって怒るんです!」
第64話「私だって怒るんです!」
「ちょっと待ってくださいグレンさん! リアムに逮捕状が出たってどういうことですか?」
ルルネは思わず、グレンのその言葉を聞いて声を荒げてしまう。ルルネの隣に立つルナは、そのグレンの言葉にただただ困惑することしか出来ていなかった。
「僕も驚いたよ。まさか、リアムに逮捕状が出るなんて思っていなかったからね。それに、王城から直々だ」
「一体、あいつは何をしでかしたの?」
「どうやら、リアムは麻薬を製造した疑いがもたれてるみたいなんだ」
そのグレンの説明にルナとルルネの二人は再び息を呑んだ。
「詳しく経緯を説明するとね」
グレンはそう前置きしてから、その経緯を説明し始めた。
「今から一ヶ月前の話になるんだけど、王都【キーリン】で、とある一つ薬がばら撒かれたんだ。その薬は人を強制的に極度の集中状態にすると同時に、使用後はものすごい妄想状態に陥り、暴力的になったり、魂が抜けたみたいに無気力状態にしてしまう薬なんだ。だから、今は王都ではその薬が出回ってしまって、大変な混乱状態なんだ。それで、王都にいる魔法薬師がその薬を解析したところ、ある一つのことが分かったんだ」
グレンはそこで一度言葉を切ってから、ゆっくりとその事実を告げた。
「その薬には新・万能霊薬が使われていたんだ」
「えっ⁉」
その言葉を聞いた二人は小さく息を呑んだ。
「待ってください。その薬を作れるのって……」
「ああ、ルルネの思う通りリアムだけだよ。だからこそ、王城はリアムがこの麻薬を作り出した犯人だと思っているようなんだ」
「そんな無茶苦茶な」
最後まで聞き終えたルルネは言葉を失ってしまう。
リアムの今までの行いを考えれば、そんなことをするはずがないと分かることなのにと、ルルネは歯噛みせずにはいられなかった。
「確かに無茶苦茶な話だよ。だけど、可能性を考えるならその麻薬を作れるのはリアムしかいないんだ。だから、王城の人間がリアムのことを疑ってしまうのも無理はないかもしれない。もちろん、だからと言って、僕もリアムが麻薬を作ったなんて信じられないし、信じてもいないけどね」
三人の間には重い沈黙が降りていた。そんな沈黙を破ったのは、今まで黙っていたルナだった。
「グレンさん」
「なんだい?」
「グレンさんにここを家宅捜査しろと言ったのは誰ですか?」
「セシルからの連絡だったよ。それがどうかしたのかい?」
「いえ、ならば妻として、しっかりとセシルさんとはお話をしないといけないなと思っただけですよ」
にっこりと笑うルナだったが、その瞳はまったく笑ってはいなかった。
そんなルナの姿を見たルルネとグレンの二人の表情は引き攣っていた。
「ルルネさん、グレンさん」
「ひゃい!」
ルナに呼ばれたルルネは奇妙な声で返事をしてしまう。グレンはグレンで黙ってルナのことを見ていた。
そして、ルナは静かに告げたのだった。
「ルルネさん、グレンさん行きますよ」
その時、二人は確信したのだった。
絶対に怒らせてはいけない人を怒らせてしまったと。
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「でも、ルナちゃん。一体王都までどうやって行くつもりなの? 普通に行ったら数日はかかるんだよ?」
「そうですね。でも、それは普通に馬車で行った場合の話ですよね」
にっこりと笑ってそんなことを言うルナの姿に、二人は苦笑いしか浮かばなかった。
「ねぇ、グレンさん。なんだか最近のルナちゃん、リアムに似てませんか? ものすごく嫌な予感がするんですけど」
「奇遇だね、ルルネ。僕も同じことを思っていたよ」
ルルネとグレンがそう思っている中、ルナは迷いもなく歩みを進めていた。王都とは逆の方向へと。
やがて、ルナは街からだいぶ離れた所にある高原に着くとその歩みを止めた。
そして、首からぶら下げていた笛を胸元から取り出すと、それを吹いた。
高原一帯に笛の音色が響き渡った。そして、それからしばらくしてルナの目の前に一頭の竜が降り立った。
ルナは降り立って来た竜の姿を見ると、にっこりと微笑んだ。
「お久しぶりです、ズメイさん。急に呼び出してしまってごめんなさい」
「ヒサシブリヨ、ルナ。イヤ、ワレトルナノナカダ。キニスルコトハナイ」
普通に会話をするルナと竜の姿に、置いてけぼりにされている二人はただただ戸惑ってしまう。
えっ? 何この状況? 状態である。
「ねぇ、グレンさん。これってあたしの目がおかしいのかな? 何だかあたしの視界には、ルナちゃんと竜が親しく話しているように見えるんだけど」
「きっとルルネの目は正常だよ。だって、僕にもそう見えるからね」
あまりの異常な光景に、若干二人が現実逃避をしていると、あいさつを終えたのか、ルナがくるりと振り返り二人のことを真っすぐに見た。
「二人とも紹介します。竜のズメイさんです」
それは分かってる!
二人の思考は完全に一致していた。
「えっと、ルナちゃん。その竜……ズメイさんとはどういう関係なの?」
ルルネが恐る恐ると言った感じで尋ねている。
「ズメイさんとはお友達ですよ。ねぇ、ズメイさん」
「サヨウ。ルナハ、ワレニトッテタイセツナトモダ」
いやだからどういう状況だ! 竜と友達同士とか普通はありえないから!
ルルネたちが困惑している間にも、ルナとズメイは慣れた様子で話を進めていく。
「ソレデ、ルナヨ。キョウハナンノヨウダ?」
「ズメイさんにお願いがあるんですけど、良いですか?」
「フム、ハナシテミルガイイ」
「わたしたちを王都にまで送り届けてほしいんです。夫が今大変な状況にあるんです。だから、わたしたちは急いで王都に行かないといけないんです」
「フム、キュウヲヨウスルヨウダナ」
「はい、とっても要します」
「ナラバワカッタ。リュウノナニカケテ、ルナノコトヲオクリトドケヨウ」
「ありがとうございます! ズメイさん!」
「ナニ、キニスルナ。モトヨリルナノネガイダ。サイショカラコトワルツモリハナイ」
ズメイをそう答えると、ルナたちが乗りやすいようにしゃがむと、ルナの方へと背中を傾けた。
慣れたようにズメイの背中に上るルナの姿を見て、この日何度目かも分からない呆気に二人は取られてしまっていた。
「ルルネさん、グレンさん。早く行きましょう」
そうルナに声をかけられなければ、二人はずっとそこに案山子になっていたかもしれないほどに、その場に固まってしまっていた。
そして、二人が改めて思っていたことは、ルナ、恐ろしい子! だった。
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「もともと、ズメイさんとの関係はわたしの母の病気を治すことから始まったんです」
ズメイの背中に乗って王都に向かっている中、ルナはズメイとの関係を二人に説明していた。
「その際に母の病気を治すために、【仔竜のウロコ】が必要だったんです。そんな時にわたしとリアムさんが竜の住処に行って、直接、【仔竜のウロコ】をもらいに行ったんです。その時に出会ったのが、ズメイさんでした」
ルナは当時のことを思い出しながら話を進めていく。
「その時にわたしはリアムさんと一緒に、竜の住処と呼ばれるズメイさんが暮らしているところに行ったんです。そうしたら、そこには【竜撲滅教団】と呼ばれる教団によって、珍しい奇病に罹ってしまった仔竜たちの姿があったんです」
「ああ、その教団の事なら知ってるよ。数年前にセシルに頼まれて、その教団の主犯格の男を捕まえたことがあったよ。構成員も少なかったことから、その教団はすぐに壊滅にまで持って行けたんだけどね。でも、まさか、その状態の竜を救ったのがリアムだったとはね。そこに驚きだよ」
その話を聞いたグレンは、感心したように笑っている。
「でも、その話と今の状況ってどう繋がっているの?」
一人、この話に関わっていないルルネは繋がりが分からずに、首を傾げてしまう。
「つまり、リアムさんは今、ズメイさんとの約束で竜の定期検診を行っているんですよ。それで、その時にズメイさんが普通に来るのでは大変だと言ってこの笛をくれたんです」
ルナはそう話すと、首から下げた一つの笛を見せた。
「これはズメイさんがくれたもので、この笛を吹けばどこにいてもズメイさんが来てくれるんです」
「つまり、それは言うなれば【竜呼びの笛】と言うことだね」
グレンのその言葉にルナは「はい」と頷いた。
「ねえ、グレンさん。あたしは分からないんですけど、ルナちゃんが持ってる笛って、かなり貴重な物なんじゃ?」
「貴重も何も、持っているのはまず間違いなくルナだけだろうね」
盗まれたら大変なことになるだろうなっと、二人が思っているとそこにルナからの補足説明が入った。
「盗まれても問題はありませんよ。この笛にはわたしの血が混ぜられているので、そもそもわたし以外の人が吹いたとしても音はなりませんから」
その説明を聞いた二人はこの夫婦は一体⁉ と思わずにはいられなかった。
そもそも竜がここまで人を信用すること自体が珍しいことなのだ。それはひとえにリアムとルナだからこそ成せたことなのかもしれない。
リアムの仔竜たちを助けたいという気持ちと、ルナが見せる仔竜たちに向ける深い愛情。その二つが折り重なり合い、今の竜ーーズメイとの信頼関係を作り上げたのだ。
ルナが考案した仔竜たちに向けての、食べ物も仔竜たちに好評で、信頼を築き上げるのに一役買っていた。
「ソロソロトウチャクスルゾ」
そうこう話しているうちに、王都の近くまで来ていたようでズメイからそう声がかかった。
待っててくださいね、リアムさん。わたしが絶対にあなたの冤罪を晴らしますから。
ルナはそう決意を固めるように、胸の前でぎゅっと手を組んだのだった。
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