外伝番外編「それは日常になった一コマ」
これで外伝は無事に終了になります。
次回から久しぶりにリアムとルナのターンに戻ります。
外伝番外編「それは日常になった一コマ」
「隊長ー、それじゃあ見回り行ってくるっすね」
「ああ、よろしく頼むよ。ああ、最近は路地裏でバカをやらかす輩がいるから、そこを重点的に頼むよ」
グレン・アルタは部下のフェルト・サライにそう指示を出すと、自身は溜まっていた書類仕事を片付けるべく、書類作業に戻ろうと視線を書類に戻そうとするが、そこでフェルトが見回りに行かず、こちらのことをどこかニヤニヤした顔で見ていることに気が付いたのだ。
「フェルト、そんなにニヤニヤして何か良いことでもあったのかい」
グレンのその言葉に、フェルトは「いやいや~、そんなんじゃないですよ~」と応じている。
「ん? そうなのかい?」
フェルトのその反応に、グレンは首を思わず傾げてしまう。フェルトがどうしてニヤニヤしているのか、まったく理由に見当がつかなかったからだ。
そのグレンの様子に、フェルトは内心でため息を吐いてしまう。
「隊長も隅に置けないですよね~」
「ん? いきなりどうしたんだい? フェルト」
フェルトのその呟きはしっかりと、グレンの耳に入っていたらしく、グレンがさらに首を傾げている。
「いやいや~、仕事一筋なのかと思いきや、ちゃっかりと可愛い恋人、と言うか婚約者を捕まえてるし。本当に前の朴念仁な隊長はどこ行ったんですか!」
フェルトの思わぬ言葉に、グレンは少し面を食らい何も言えないでいると、畳みかけるようにフェルトは口にする。
「それに、その婚約者さんが出来てから隊長の見回りに対する意識も、以前にも増して高くなっている気がしますし!」
「そっそれはさすがに気のせいなんじゃないかな」
フェルトの言いように、グレンは困ったような笑みを浮かべている。
「え~、絶対に気のせいじゃないと思うんですけどね」
なおも言い募ろうとするフェルトに、どうしようかとグレンが迷っていると、そんなフェルトの横から鋭い右ストレートが走った。
「あべしっ!」
フェルトが奇怪な声を上げながら吹っ飛ぶのと同時に、鋭い叱咤が飛んでくる。
「おいこらフェルト! いつまで油を売ってやがる! とっとと見回りに行くぞバカ野郎!」
そうフェルトを叱咤したのは、フェルトが所属している小隊の隊長であるライオネス・ハーレスだった。
「隊長、すんませんでした。すぐさまこいつをここから離脱させて、後でとっちめとくんで、それで許してください」
「いやいや、そこまで気にしていないからそんなことしないでいいよ。取り合えず、ライオネス、見回りをよろしく頼むよ」
グレンの言葉にライオネスは「お任せください」と応えると、床で伸びているフェルトを引きずってその場を後にしたのだった。
グレンはそんな部下たちの様子に、苦笑いをこぼしながら自身の作業に戻っていくのだった。
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それからどれぐらいの時間が経ったのだろうか。
グレンがひと段落ついたと思い伸びをすると、目の前にある応接用のソファーにグレンにとってはよく知った人物が座っていることに、グレンはようやく気が付いたのだ。
「るっルルネ⁉ どうして君がここに?」
ルルネが近衛団の事務所にいることが信じられず、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
それに対してルルネは、「あっ、やっと気が付いた」と冷静に返していた。
「あたしは隊員さんに、グレンさんが書類仕事に入るとお昼も忘れて書類仕事に没頭しちゃうって聞いたので、お昼を持って来たんです。本当に没頭して忘れてたみたいですけど」
ルルネは話しながら、困ったように笑っている。
「いつから待っていたんだい?」
「えっと、二時間ぐらい前からですね。一応、ノックと声をかけてから入ったんですけど、グレンさん、本当に集中してたみたいで気が付いていなかったみたいなので、黙ってここで待たせてもらってたんです。勝手にごめんなさい」
「いやいや、ルルネが謝ることじゃないよ。僕も仕事に熱中しすぎてたよ。すまなかった」
「いえいえ、グレンさんの方こそ謝らないでください! お仕事なんですし仕方がないですよ。それに、真剣にお仕事しているグレンさんの姿がとってもカッコよかったので、二時間なんてあっという間でしたし」
頬を染めながらそんないじらしい反応を見せるルルネの姿に、グレンもグレンで何だか気恥ずかしくなってしまい、二人の間には何とも言えない空気が降りてしまう。
グレンはその何とも言えない空気を払拭するべく、声を上げた。
「いっ今お茶を入れるから、ルルネは座って待ててくれないか」
「いっいえ! お茶ならあたしが淹れますから、グレンさんの方こそ座って待っててください!」
ルルネはそう言うと、逃げるように給湯室の方へと向かってしまう。実はルルネはグレンと付き合い始めてから、何回かここに遊びに来たことがあるので、給湯室の場所は把握していたのだ。
「あ、ああ」
ルルネが事務所から出た後、グレンの口からもれたのはそんな情けない声だった。
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お茶を淹れて戻って来たルルネと、待っていたグレンはお昼を食べるために、並んでソファーに腰を掛けていた。
「お口に合えばいいんですけど」
そう言いながらルルネが取り出したのは、二つのお弁当だった。一つはグレン用で、もう一つは自分用のお弁当だった。
「もしかして、わざわざ作ってくれたのかい?」
「はっはい。ルナちゃんよりは美味しくないかもしれないですけど、食べてくれたら嬉しいです」
そう言っておずおずとお弁当を差し出すルルネに、グレンは「嬉しいよ」と笑顔で伝えるとルルネからお弁当を受け取り、すぐさまそれを食べ始めた。
「うん。心配しないでもちゃんと美味しいじゃないか。僕は好きな味だよ」
「本当ですか⁉」
食い気味に聞いてくるルルネに驚きながらも、グレンは「ああ、本当だよ」と言葉を返した。
それを聞いたルルネは、安心したようにほっと息を吐くと、自身もお弁当を食べ進めるのだった。
グレンはグレンで、本当にルルネのお弁当が美味しく無我夢中で箸を進めていた。そして、気が付いた時にはお弁当の中身は空になっていた。
「ふぅ~、美味しかったよルルネ。本当にありがとう。朝も食べてなかったから空きっ腹に染みたよ」
「ええっ⁉ グレンさん、朝から何も食べてなかったんですか?」
「あっああ。最近外での仕事が多くて、事務仕事が溜まっててね。少し気合いを入れないと終わりそうになかったんだ」
グレンのその言葉に、ルルネは困ったような表情を浮かべた。
確かに、最近のグレンは外での仕事が多いことはルルネも重々承知していた。この間も、王女ーセシルに呼び出され一緒に、王都で起きた子どもたち誘拐事件の解決のために、王都に行っていたので、確かにそういった仕事をする時間がなかったのはよく分かった。分かったのだが……
「でも、そんなことをしてたら倒れちゃいますよ」
「あはは、分かってはいるつもりなんだけどね。つい、ね」
グレンはそう言うとあいまいな微笑みを浮かべるのだった。
そのグレンのあいまいな微笑みを見て、ルルネはどうにか出来ないかとしばしの間、思考を巡らせていた。そして、ある一つの考えにたどり着いた。
「グレンさん」
「なんだい、ルルネ」
「あの、グレンさんが良かったらでいいんですけど、これから毎日あたしがお弁当を作って、グレンさんの所に持ってきていいですか」
「えっ? それは確かにありがたい申し出だけれども、ルルネに申し訳ないかな。ルルネだって自分の仕事で忙しいのに、そんなことは頼めないよ」
いかにもグレンらしい返しだとルルネは感じてしまうが、ここで引き下がるわけにはいかなかった。
「別にそんなことないです! グレンさん知ってますか? お弁当作るのって一人分も二人分も大して変わらないんですけどすよ。だから気にしないでください。それでも気になるって言うなら、あたしに一つご褒美をくれませんか?」
「ご褒美? 僕に出来ることなら良いけど」
「むしろ、グレンさんにしか出来ないことです」
ルルネは頬を赤く染めながらそう呟くと、グレンとの距離を詰めるとそのままその距離をゼロにした。
「ルルネ?」
いきなりのルルネの行動に、グレンは驚いてしまう。
「最近、グレンさんと過ごせる時間が減ってますし、お昼の時間ぐらいあたしにください。それと、その時にキス一回でお弁当の件はチャラでいいです」
間近でそんなことを言うルルネの姿を見て、グレンは堪えきれずにルルネのことを抱きしめた。
「ごめん、ルルネ。確かに最近忙しくて時間作れてなかったね。本当にごめん。分かった。お昼はこれから一緒に食べよう。それと、今度の休み一緒に出掛けよう」
「本当ですか!」
「ああ、本当だ。約束は絶対に守るよ」
グレンが笑うと、ルルネもつられるように笑った。
二人の距離は自然と近くなり、再びその距離はゼロになったのだった。
こうして、この日から近衛団の間には、お昼休みの間は事務所に近づくなかれという、暗黙のルールが誕生したのだった。
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そして、外伝をここまで読んで頂きありがとうございました。突発的に思いついた案をそのまま形にして、ここまで書いてきましたが、少しでも楽しんで頂けてれば幸いでございます。
ありがとうございました。




