外伝最終話「未来ある者のために 後編」
外伝最終話「未来ある者のために 後編」
大質量の大剣がグレンに迫ってくる。
グレンはその大剣を冷静に処理していく。真正面から剣を受け止めながら次々と攻撃をいなしていっている。
普通ならそんな大質量の大剣を真正面から受ければ、振るっている『人工生命体』の力も相まって、叩き潰されていてもおかしくはなかった。しかし、今もこうしてグレンが健在だと言うことは、それは偏にグレンの実力を意味していた。
グレンはただ『人工生命体』の大剣を受け止めているわけではなかった。刃が当たる瞬間の紙一重のタイミングで力を後ろへと流していたのだ。そうすることによって、グレンは叩き潰されずに、こうして大質量の大剣を受け止められるのである。
『人工生命体』の大剣を『剛』とするのならば、グレンの剣は『柔』だった。
思いのように倒れないグレンに、業を煮やした『人工生命体』は「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」と雄たけびを上げた。
すると、すぐ近くから「きゃっ!」と少女と思われる悲鳴が聞こえてきたのだ。
グレンが咄嗟に声のした方に視線を向ければ、そこには十歳ぐらいの女の子は『人工生命体』の姿を見て、驚いたのかへたり込んでしまっていた。
いくらここが人通りが少ない路地だとしても、完全に人がいないと言うのはあり得ないと言う事だろう。
グレンの背中に嫌な汗が流れた気がした。そして、それを証明するかのように、『人工生命体』はにやりと不敵な笑みを浮かべたのだ。
そして、『人工生命体』はグレンと打ち合っていた剣を引っ込めると、その剣をその少女に投げつけたのだ。
まずいっ!
グレンは咄嗟に駆け出すと、少女を庇うようにその射線上に飛び出した。
少女と大剣が当たる寸前に、飛び出したグレンにその大剣は刺さり、その少女が怪我をすることはなかった。
グレンは口からがはっと吐血した。完全に内蔵にまでダメージが入ってしまっているのだ。
後ろにへたり込んでしまっている少女は、どこか怯えた表情でグレンのことを見つめていた。
「早く……逃げるんだ」
何とか絞り出したグレンの声にはっとしたのか、慌てるように立ち上がるとそのままその場から逃げ出したのだ。
グレンはそんな少女の姿を安心したように見えると、自身は片膝を着いた。
「くくっ、無力なガキなど庇うからそうなるのだ! ガキはガキらしく神の御業の糧になればよいのだよ!」
「ふざけるなよ」
アルソルの言葉にグレンは静かに返した。
「なに?」
「ふざけるなって言ったんだよ。あなたのバカみたいな思想のために、罪のない子どもたちが殺されるなんて、到底許せるわけがない!」
「なっ⁉ お前、神の御業の前にそれをバカみたいな思想と切り捨てるのか」
「ああ、切り捨てるさ。子どもたちの命はそれ以上に価値があるのだから!」
「死にぞこないが、減らず口を叩きおって。殺れ」
アルソルの静かな声に『人工生命体』は反応すると、ゆっくりとグレンに止めを刺すために近づいてく行く。
グレンはグレンで体に刺さってしまっている大剣を、無理やり体から抜き取った。
「ぐっあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
グレンの口からは苦悶の声が漏れ、大剣が刺さっていた場所からは大量に血が流れ出てしまっていた。
意識が朦朧とする中で、グレンは素早く腰のポーチからルルネに渡された回復薬を取ると、それを一息であおった。すると、見る見るうちに傷口が塞がっていった。
普通、普通の回復薬ではそこまでの回復力は持っていないのだが、この回復薬を調整したのは、あの天才魔法薬師のラール・レーメルが認めたルルネ・ニーチェなのだ。その実力は折り紙付きだろう。
リアムと言い、ルルネと言い、本当に二人は天才の錬金術師と魔法薬師だよ。
グレンはふふと笑みをこぼしてしまう。そんな二人の友人であり、片や恋人である事が誇らしく思えたのだ。
グレンは何とか回復した体で立ち上がると、腰のポーチから今度は赤い色をした結晶体を取り出した。
実はこれはリアムが開発した新武器なのだ。今、グレンが使っている剣はリアムが考えて作り出したものなのだ。見た目は普通の剣と変わらないが、ちょうど鍔の辺りに今取り出した結晶体をはめ込む窪みがあるのだ。そこにその結晶体をはめ込むことによって、この剣はさらなる真価を発揮するのである。
そして、この結晶体『エクリクシス・コア』は、五大元素の性質を閉じ込めたものだった。今取り出したのは赤色の 結晶体 なので、火の力を扱うことが出来るようになるのだ。
僕もそんな二人に負けてられないな。確かにこれはリアムが作ってくれた武器だ。でも、武器はただ作っただけじゃあその力は発揮しない。使う人がいて、それを正しく使うことで、武器は輝きだすんだ。リアム、僕はこの武器を大切な人のために使うよ。
グレンは心の中で親友にお礼を告げると、結晶体をその窪みにはめ込みその剣の真価を発揮させた。
刀身が炎に包まれたのだ。そして、その剣を振るってグレンのことを握り潰そうとしていた『人工生命体』の両腕を切断したのだ。そこからの自己再生はなかった。
「確かにプラナリアはいくら切ったとしても再生を繰り返す。だけど、その生物は完全に不死身と言ったわけではない。ちゃんと火に弱いという欠点がある。だったら、この『人工生命体』も同じで燃やしてしまえばいい」
グレンは話すと、次から次へと『人工生命体』の体を斬りつけていく。やはり、『人工生命体』の体が再生されることはなかった。
「やっ止めろ! 止めてくれ! 貴様は何をしているのか分かっているのか! 神の所業を無に帰そうとしているんだぞ!」
アルソルがここで初めて焦った声を上げた。どうやら、グレンが的確に弱点を突いてくることが予想外だったらしく慌てふためいているらしいのだ。
「黙れよ。何が神の所業だ。子どもたちの命を犠牲にしといて、神の所業などあってたまるか! そんなのはただの悪魔の所業だよ!」
グレンは完全に『人工生命体』を動けなくすると、切っ先をアルソルに向けて告げた。
「アルソル・バルラ。あなたを殺人並びに脱獄、禁忌を犯した罪として逮捕する」
「やっ止めろ! こっちに来るなぁぁぁぁぁぁっ!」
アルソルはそう叫びだし、逃げ出そうとするがグレンがそれを許すはずがなかった。
グレンは一気に間合いを詰めると、アルソルに峰内を決めて意識を落としたのだった。
「ふぅ~、これで本当に一件落着かな」
グレンは意識をなくしたアルソルを地面に横たえると、剣を鞘にしまい『人工生命体』の目の前に跪き静かに黙とうを捧げた。
犠牲になってしまった子どもがどうか安らかに眠れますようにと。
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「なるほど。そう言う事でしたか」
グレンの報告を聞いたセシルは、神妙な面持ちで頷いていた。
「攫われた子どもたちも無事に保護して、今は医療施設でカウンセリングとかを受けてもらってます。後はあの子たちの受け入れ先を見つけてあげられれば良いんですけど」
ルルネのその言葉にセシルは「大丈夫です」と言葉を返した。
「そこは王女の権限でどうにかします。今はただお二人には感謝しかありません。本当に無事に子どもたちを保護してくれてありがとうございます」
セシルは再度、グレンとルルネにお礼を告げると頭を下げた。やはり、この二人を呼んで助けを求めたのは正解だったと安堵の息を吐いた。
「セシル、頭を上げてくれ」
「うん、そうだよセシル。頭を上げて。あたしたちにお礼なんていらないよ」
不思議そうに顔を上げるセシルに対して、グレンとルルネは顔を見合わせ笑うと二人して告げたのだ。
「「だって友達だから(ね)」」と。
「困っている友達がいるのであれば、助けるのは当り前さ。きっとリアムだって同じことを言うよ」
「ええ、あいつなら間違いなく言うと思います。だってリアムだし」
「はは、ルルネの言う通りだね」
笑い合う二人の姿を見て、セシルにも自然と笑みがこぼれたのだった。
「グレンさん、ルルネさん。これからもわたしの友達でいてくれますか?」
そんなセシルの問いかけに、二人は「もちろん」と答えるのだった。
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セシルの報告、その後の叙勲式を終えたグレンとルルネの二人は、南区画である【スーザック】に向かう馬車に揺られているところだった。
「そう言えば、グレンさん」
「ん? 何だいルルネ」
寄り添いながら座っていたルルネは、そう言えば一つ気になることがあった事を思い出し、グレンに声をかけた。
「どうやってあたしが捕まっている場所を知ったんですか?」
そう、あの時はグレンが助けに来てくれた事で安心したことにより忘れていたが、ルルネはどうやってグレンがあの場所を見つけたのか気になっていたのだ。聞いた話によると、グレンも爆発に巻き込まれた怪我の影響で、三日間眠っていたらしいので、そこまでの時間はなかったはずだ。
そんな中でどうやってあの場所を見つけたのか、ルルネはとても気になっていたのだ。
「ああ、それはその指輪のおかげだよ」
グレンはそう言って、ルルネの左手薬指に嵌っている指輪を指さした。その指輪はルルネが修行の旅から【スーザック】に帰って来た際に贈ったものだった。
「指輪ですか?」
「ああ。その指輪はリアムが作ってくれたんだよ」
「リアムが?」
「そうなんだ。その指輪は遂になっていて。万が一の時に備えて、対になっている指輪の位置を感覚で教えてくれる機能が付いているんだ。だから、ルルネがその指輪を付けている限り、僕もこうして指輪さえしていれば、ルルネの居場所が分かるようになっているんだよ。だから、今回ルルネの居場所をすぐに特定できたんだ。本当に迅速に動けて良かったよ。それに……」
グレンはそこで言葉を一度切ると、隣に座るルルネのことを抱きしめた。
「こうしてルルネが無事でいてくれている。だから、本当に良かったと思ってるよ」
グレンの説明を聞いていて、最初は愛が重いのでは? と思ってしまったりしまったが、グレンの最後の言葉を聞いて、本当に心配をかけてしまったんだなとか、大切に想われてるんだと言う気持ちが伝わってきて、自然とルルネの胸の中は温かくなった。
「グレンさん、大好きです」
ルルネはその温かくなった気持ちを吐き出すように、そう言葉にした。
そんなルルネに対して、グレンも優しく微笑んで答えたのだ。
「僕も大好きだし愛してるよ」
真っすぐすぎるグレンの言葉に、顔を真っ赤に染めて恥ずかしがるルルネに、グレンはたまらずにキスをしたのだった。
この時の帰りの馬車には、これ以上ないぐらいの桃色空間が出来上がっていたという。
fin.
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