外伝第5話「未来ある者のために 前編」
あれ? おかしいな。本当はこの回で終了するはずだったんですけど、後2話ほど外伝が続きそうですが、よろしくお付き合いのほどをよろしくお願い致します。
外伝第5話「未来ある者のために 前編」
グレンは静かな怒りを胸に秘めていた。
恋人で大切な人であるルルネが傷つけられたこと。まるで子どもたちを人と思っていないシエルの態度が許せなかったのだ。
「グレン・アルタ生きていたのね」
シエルの言葉にグレンはルルネを床に降ろしながら言葉を返した。
「ええ、死にかけましたけど、この通り生きてますよ」
皮肉を返しながら、グレンはルルネのことを背に隠すとシエルと真っすぐに対峙した。
「回りくどい言い方はしない。メーリア・クローズン、いや、シエル・アーリントおとなしく投降しろ」
グレンは静かに告げると、真っすぐにシエルのことを見据えた。
シエルは全てグレンに悟られていると思い、諦めたかのように言葉を口にした。
「それに私がおとなしく従うと思うの?」
グレンの怒気を含んだ言葉に、シエルは冷静さの残った声でグレンにそう言葉を返した。
グレンの言葉にシエルは何をバカなことを言っているとでも言いたげな表情を浮かべていた。
「良いわ。あの爆発で殺しきれなかったのは誤算だけど、今度こそ殺してあげる」
シエルは今度こそグレンを確実に仕留めるために、多数の『人工生命体』に命令した。
グレンを殺せと。
だがしかし、そんなシエルの声に反応する『人工生命体』は一体もいなかった。
この日初めて、シエルの顔に焦りの表情が生まれた。何度も何度も『人工生命体』に指示を出すが、結果は同じだった。
「無駄だ」
そんなシエルにグレンは静かに告げた。
「この施設にいたすべての『人工生命体』は倒してきた。だから、いくらやろうと結果は同じだよ。そのことを踏まえてもう一度だけ言う。おとなしく投降しろ」
「どうやらそうみたいね。だけど、私は捕まるわけにはいかないのよ!」
シエルがそう叫ぶと、手に持っていた筒を地面に向けて投げつけた。
〝閃光発音筒〟
強烈な光と音を閉じ込めた強力な武器だった。
「ルルネ! 目と耳を庇え!」
グレンの叫びにルルネはすぐさま反応し、目を閉じ耳を両手でふさぐのと、閃光発音筒が炸裂するのはほぼ同時だった。
室内に大質量の光と鼓膜が割れんばかりの音が響き渡った。
その隙にシエルはこの施設から脱出しようと試みるが、それは叶わなかった。何故なら、シエルの目の前には剣が突き出されていたからだった。
「っ⁉」
シエルの口から声にならない悲鳴がこぼれた。それもそのはずだろう。両目と両耳を完全に潰したはずなのに、グレンの剣は正確無比に突き出されていたのだから。
そして、グレンの瞳が真っすぐにシエルのことを貫き、その瞳が雄弁に語っていた。
これ以上抵抗するならば、問答無用で斬ると。
これ以上の抵抗は不可能だと感じ取ったシエルは両手を上げて無抵抗だと意思表示を示した。
シエルはグレンの実力を侮っていたのだ。
「聡明な判断だと思うよ」
グレンは静かに剣を下げると、シエルに手錠をかけるのだった。
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それから子どもたちを保護していた隊員たちと合流すると、グレンたちはシエルを近衛団の詰め所に連行していた。
「グレン隊長、子どもたちは40人とも無事でした」
「それは本当かい。なら良かった。そうしたら、子どもたちは医療施設に連れて行って、診てもらおう。それで問題なければ、他の孤児院に受け入れてもらおう」
グレンが次から次へと指示を出していくのに対して、ルルネはルルネで何が起きているのか分からず、困惑している子どもたちに声をかけていた。
「みんなもう大丈夫だよ。お兄さんが悪い人をやっつけてくれたから」
ルルネは子どもたちにそう伝えると、その子どもたちを安心させるかのように優しく微笑んだ。
その微笑みを見た子どもたちは一気に緊張の糸が解けたのか、安堵の息を吐き出す子や、泣き出してしまう子の姿もあった。
ルルネはそんな子どもたちを精いっぱいなだめたりしていた。
そんなルルネの様子を見ていたグレンは、自然と自身の頬が緩んでしまうのを自覚していた。
これで一件落着だと誰もが思っていた。しかし、この一件はまだ終わっていなかったのだ。
グレンたちが子どもたちを医療施設に送り届けるために、王都の道を歩いている時だった。いきなり目の前の建物の壁が弾け飛び、そこから巨大な体躯を持った人型の何かが飛び出してきたのだ。そして、その人型の何かの手にはこれまた大ぶりな剣が握られていた。
「全員、子どもたちを避難させろ!」
すぐさま指示を飛ばしたグレンは、自身は剣を抜刀するとその巨大な体躯を持っている何かを厳しく睨みつけていた。
「グレンさん、あれって……」
「ああ、間違いなく『人工生命体』だろうね」
グレンは厳しい表情を浮かべながら返していた。
グレンが厳しい視線をその『人工生命体』に向けていると、その隣にフードを被った一人の人間が歩み寄ってきた。
「アルソル・バルラだな?」
グレンのその声にフードを被った男性ーーアルソル・バルラは「ほう」とどこか感心したような声を上げた。
「俺のことを知っているのか?」
「ええ、あなたはかつて錬金術研究機構で所長をしていた人物だった。しかし、禁忌であるはずの『人工生命体』の研究を極秘裏に進め、その所長の座を降ろされ王城が管理する監獄に投獄されているはずだった。しかし、半年前にそこから脱獄してそのまま姿を消した」
「ほう、そこまで分かっているのか」
「そして、あなたの隣に立っているのは、完成した『人工生命体』なんでしょう」
グレンの言葉通り、アルソルの隣に立つ『人工生命体』はシエルの施設で見た異形の姿はしておらず、完全に人間の姿をしていたのだ。
「そうだとも。俺の研究は完成したのだ! 『子どもの心臓』を触媒にすることによって、遂にこうして完全な『人工生命体』を造ることに成功したんだ! まあ、まだこの一体だけしか完成はしていないが、まあこれからもっと安定して量産が出来るだろう」
「あなたはその一体を造るために、どれだけの子どもを犠牲にしたんですか?」
「神の御業の前で、ガキの犠牲になど些細な問題だ。一々気にしてる方がどうかしている」
アルソルのその言葉に、隣で聞いていたルルネの口からは「ひどい」と言葉がこぼれていた。
「どうしてそんなことをしたんですか?」
「『人工生命体』を完全に完成させられれば、私は神になれるのだ! 神になれる可能性があるというのに、それを手放す人間がいると思うか?」
アルソルはどこか心酔し、恍惚したような表情でそう言葉にしていた。ダメだ、完全に何かに取り付かれたかのような感じを出している。
もはや何を言っても言葉は通じないだろう。
「俺が神になるためにあの女は必要な人材でね。捕まると面倒なんでね。こうして取り戻しに来たわけだ。と言う訳で、俺の邪魔をするのならば死んでもらうぞ」
「ルルネ、僕の後ろに」
「はい」
雰囲気が変わったアルソルに警戒するように、グレンは剣を構えた。
「ほう、邪魔するみたいだな。なら、死ね」
アルソルの言葉に隣に立っていた『人工生命体』は雄たけびを上げると、突然駆け出して大ぶりに剣を振り下ろしてきた。
グレンはその剣を最小の動きでかわすと、カウンター気味に剣を繰り出してその腕を斬りつけるが、その傷はたちまち回復してしまう。
「無駄だ。その『人工生命体』にはプラナリアの細胞を埋め込んである。ちょっとの傷ではそいつを倒すことは不可能だ」
アルソルの言う通り、この『人工生命体』にはプラナリアの細胞が埋め込まれていて、驚異の自己再生能力を有していた。なので、グレンの剣でいくら斬りつけようとも傷は再生してしまうのだ。まさに不死身の『人工生命体』と呼べる存在だった。
「ルルネ、君は子どもたちの所に行って、一緒に医療施設に行っててくれ」
「ぐっグレンさんは?」
「僕はこの『人工生命体』を止めてから行く!」
「大丈夫ですよね?」
グレンは一度、ルルネを逃がすために爆発に巻き込まれて死にかけている。なので、ルルネとしては不安で仕方がなかったのだ。
「ああ、今度こそ大丈夫だよ。それと心配かけてすまない」
グレンはルルネに優しく告げると、そのままルルネの唇にキスを一つ落とした。
「すぐに追いつくよ」
「はい、信じて待ってますね。あとこれをグレンさんに」
ルルネがそう言って渡したのは、『超安定の秘薬』を調整する際にこっそり作っておいた回復薬だった。
「ありがとう、ルルネ。やっぱり君は最高の恋人だよ」
「もっもう、グレンさん。こんな時に何言ってるんですか!」
リアムのことを文句言えない状況になっていることに、今はまだ二人は気が付いていなかった。
ルルネは恥ずかしそうにはにかみながら言葉を返すと、「それじゃあ、グレンさん。ご武運を」と言葉を残して、隊員たちが向かった道へと走って行った。
グレンもグレンでもらった回復薬を腰のポーチにしまうと、真っすぐに『人工生命体』の方に向き直った。
「恋人との別れの挨拶は済んだのかい? まあ、心配するなよ。お前が死んだら俺があの娘を可愛がってやるからさ。神の伴侶になれるんだ光栄だろ」
「無駄な心配をしないでも大丈夫だよ。僕は死なない。それにあなたはもっと自分の心配をした方がいいんじゃないかな」
アルソルの言葉にグレンは冷たく言葉を返した。
両者、無群で視線をぶつけ合う。その後は言葉はいらなかった。
グレンと『人工生命体』が地面を蹴るのは同時だった。
そして、真正面からお互いの剣がぶつかり合い、王都に激しい金属音を響かせたのだった。
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