外伝第2話「攫われたルルネ」
外伝第2話「攫われたルルネ」
あれ? あたしはどうして?
ルルネはどこか朦朧とする意識の中、気怠い体を何とか起き上がらせた。すると、ルルネが体を起き上がらせると同時に、じゃらりと音がした。どうやら腕と足に拘束するための枷が付けられていた。辺りを見渡すと、そこはどこか薄暗い部屋の中だということが分かった。
そもそもここはどこなの? あたしはどうなったの? グレンさんは⁉
意識を取り戻したルルネの頭の中には、濁流のように色々なことが駆け巡って混乱してしまう。
「目が覚めたようだな」
そんな混乱しているルルネに声をかけた人物を見て、ルルネは両目を見開いてしまう。
「メーリアさん……」
ルルネはどこか呆然とした感じで呟くことしか出来なかった。
そもそもどうしてルルネが、こんな所にいるのかと言うとその原因を作ったのは目の前にいるメーリアだった。
あの後、グレンが何とか切り開いてくれた道で孤児院内から外に脱出したルルネは、外でポツンと佇んでいたメーリアの所へと近寄ったのだ。
「メーリアさん?」
ルルネはそんなメーリアの姿にものすごい違和感を覚えながらも、メーリアに近づいていく。それが間違いだった。
ルルネが近づいたと思ったら、メーリアはいきなり動き、そのままルルネのみぞおちに拳を叩き込んだのだ。
「めっメーリアさん……どうして……」
ルルネはそれだけ言葉を出すと、そのまま意識を失ってしまう。
「あなたは連れていきます」
メーリアはそんな意識を失って倒れこんだルルネを抱き抱えると、そのままルルネを連れてその場を後にしたのだった。
そして、今はこうして薄暗い部屋で拘束されている状況だった。
「メーリアさん、どうしてこんなことを?」
しかし、メーリアはそのルルネの言葉を無視して言葉を発した。
「あなた魔法薬師よね。なら、私の研究を手伝ってくれないかしら」
「研究?」
「ええ、『人工生命体』を造りだす研究よ」
「『人工生命体』っ⁉」
ルルネはメーリアのその言葉を聞いて大いに驚いてしまう。何故なら、『人工生命体』を造りだすことは、錬金術師として禁止されているとリアムから聞いていたので、今目の前で話されたことが現実味を感じられないのだ。
「メーリアさん、何を言ってるんですか? 『人工生命体』を造りだすことは禁止されているはずです」
「そんなの知っているわ。それに私はメーリアじゃないわ」
メーリアはそう言うとパチンと指を鳴らすと、一気にその姿を変えた。
長身で少し赤みのかかった短髪をした女性が目の前には立っていた。
「あなたは一体?」
いきなり姿の変わったメーリアに、ルルネは大いに戸惑ってしまう。
「『変幻の秘薬』よ。聞いたことないの?」
その言葉にルルネは首を横に振った。
「変わりたい相手の体の一部をその薬に混ぜれば、その相手の姿に変わることが出来る秘薬よ。まあ、錬成するのはものすごく難しいんだけどね」
メーリア改め、シエルと名乗った女性は「さてと」と呟くと立ち上がった。
「ルルネ・ニーチェ。あなたには私の研究が終わるまで協力してもらうわ。ああ、あなたに拒否権はないからね。あなたが拒否する度に子どもたちが死んでいくからね」
シエルのその言葉に隣の部屋から子どもたちの悲鳴が聞こえてくる。
確かにルルネに拒否するという選択はなかった。そして、ルルネはそこですべて悟った。目の前にいるシエルがメーリアになりすまして、孤児院を襲撃して子どもたちを攫ったのだと言うことを。
「……分かったわ」
ルルネは渋々と言った感じで頷いたのだった。
****************************
グレンは次から次へと押し寄せる化け物をどうにか斬り伏せていく。
どれだけ数がいるんだ。すぐにルルネの元に行かないといけないのに。
グレンはあまりの多さに退路を切り開くのに手こずってしまう。途中、襲われた小隊の隊員を救出しながら化け物を倒していくが、なかなか出口にたどり着けないでいた。
グレンの中に確かな焦りが生まれていた。
如何せん、化け物の数が多すぎるのだ。
グレンはどうしたものかと歯噛みしていると、何やら背後に違和感を感じた。
グレンの背後には先ほど保護した小隊の隊員の姿があった。そして、その隊員の顔には歪な笑みが浮かべられていた。
そんな薄気味悪い笑みを見て、グレンの背中に凄まじい悪寒が走る。頭の中の警鐘が今すぐにここを離れろと告げている。
そのグレンの中に響く警鐘は正しかった。
次の瞬間、その隊員の体がぼこぼこと何かが体の中で暴れまわるように膨れ始めたのである。
グレンは咄嗟に化け物を斬り倒して道を開くと、近くにあった窓から飛び出した。
グレンが孤児院から飛び出すのと、その隊員が爆発するのとはほぼ同時だった。
グレンはその爆風に飲まれ吹き飛ばされ、そのまま地面に激しく叩きつけられてしまう。
「ぐっ……」
グレンの口からはうめき声が漏れ、薄れゆく意識の中でルルネがメーリアに連れ去られて行くのを見ていた。
「ルっ……ルネ」
グレンは力なく虚空に手を伸ばすと、そのまま意識を手放したのだ。
****************************
「ルルネッ!」
グレンは意識が戻るや否や、そう叫びながら起き上がった。しかし、体中に走る痛みにより、再び体は倒れてしまう。その際に倒れた体は柔らかいものに包まれた。
そして、その数秒後に自身はどこかのベッドに寝かされているのだと、グレンは自覚した。体中に巻かれている包帯を見て、どこかの医療施設なのだとグレンはあたりを付けた。
僕は確か爆風に巻き込まれて……
グレンが必死にその時のことを思い出そうとしていると、外側から扉が勢いよく開け放たれた。
そこから顔を覗かせたのは王女のセシルだった。
「グレンさん! 大丈夫ですか⁉」
セシルがグレンが寝ているベッドに駆け寄ると、心配そうにグレンのことを覗き込んだ。
「なんとか大丈夫です」
グレンが何とか体を起き上がらせようとすると、慌ててセシルがそんなグレンのことを制した。
「グレンさん、何かあったか覚えていますか?」
セシルのその問いかけに、グレンはゆっくりと頷いた。
「はい。覚えています」
「何かあったのか話してくれますか? それにルルネさんの姿が見られない理由も話していただけますか?」
セシルの問いかけにグレンは頷くと、何かあったのかを話した。
グレンの話を聞いたセシルは神妙な顔で頷いていた。
「僕はどのくらい寝てたんですか?」
「三日です」
「っ⁉ そんなにですか?」
セシルのその言葉にグレンは素直に驚いてしまう。
爆風に巻き込まれて気を失ったところまで覚えていた。しかし、まさかそんなに日が経っているとは思っていなかったグレンとしては衝撃だった。そして、セシルの話だとグレンは王城にある医務室に寝かされたいたようだった。
「メーリア隊長の裏切りに、謎の化け物ですか。この王都で何やら良からぬことが起きているのは確かですね」
「ええ、それにメーリアが何故ルルネを攫ったかも謎のままです。それにあの孤児院では証拠に何そうなものは何もありませんでした。唯一の収穫と言えば、謎の化け物の情報ぐらいでしょうか」
グレンは悔しそうに、セシルにそう告げた。化け物の情報だって強いて言えばぐらいの情報しかないのだ。つまり、あそこに行って得られたところが、ルルネを攫われるというマイナスの結果しか生まれていなかったのだ。
くそっ! 僕がそばについていればルルネは攫われることなんてなかったのに!
無駄だと分かっていても自分を責めずにはいられなかった。
そんなグレンの心情をセシルは察したのか、セシルはそんなグレンのことを励ますかのように、優しくグレンの手に自身の手を重ねた。
「そんなに自分を責めないでください。さすがに誰だって今回の化け物の襲撃や、隊員の中に爆弾が仕込まれていて、それが爆発するなんてことは想像できませんでした。それに隊員の裏の顔を見破れなかったのは、私にも責任があります。決してグレンさんが悪いわけではありません。だから、そんな風に自分のことを卑下するのは止めてください」
セシルは優しく微笑み、一度言葉を切ってから会話を再開させた。
「それにルルネさんだって絶対に王城の全勢力を上げて探し出します。絶対にルルネさんが無事に帰ってこられるように尽力します。だから、グレンさんは心配せずに傷の回復を優先してください」
王女としても友人としても、グレンの気持ちには全力で応えてあげたいというセシルの気持ちだった。グレンだって予想外の事態で傷を負ってしまったのだ。相当悔しいはずだ。だからこそ、提案だったのだがグレンは首を横に振るとその提案をやんわりと断った。
「セシルの気持ちは嬉しいけど、その気持ちだけ受け取らせてもらいます。ルルネの元には僕が向かいます」
「向かうって、何か手掛かりはあるのですか?」
セシルのその疑問にグレンは頷きで答えた。
「ええ、もちろんあります」
そう答えたグレンの瞳には、絶対にルルネを取り戻すという強い意志が見えた。
そんなグレンの表情を見て、セシルは思わずため息を吐いてしまう。
リアムもそうですが、どうしてグレンさんも無茶をするのでしょうか? でも、それはきっと仕方がない無茶なのでしょうね。
セシルは困ったように微笑むと、医務室の外に待機させていた侍女を呼ぶと、その侍女からとある薬を受け取った。
「実はグレンさんならそう言うんじゃないかと思って、リアムに頼んで作ってもらっていたんです」
セシルはそう話すと、侍女から受け取った薬をグレンに渡した。
「とびっきりの回復薬です。グレンさんが怪我をしたと言ったら、リアム、それはもうすぐにこの薬を作って送り届けてくれましたよ。良き友人を持ちましたね」
「リアムが……」
グレンはその話を聞いて、胸の中が熱くなるのを感じていた。そして、今では親友と言っても過言ではない友の存在に心から感謝する。
リアム、ありがとう。このお礼はいつかきっちり返させてもらうよ。
グレンはリアムに強く感謝の気持ちを思いながら、その薬をあおったのだった。
そして、この時のお礼はすぐに返されることになることを、この時のグレンはまだ知らない。
面白いと思いましたら、ブックマークや評価のほどをよろしくお願いいたします。




