外伝第1話「消えた王都の子どもたち」
本日からお話を再開させます。
と言っても外伝なのですが、楽しんで頂ければ嬉しいです。
外伝第1話「消えた王都の子どもたち」
南区画【スーザック】で近衛団隊長を勤めているグレン・アルタは王城を訪れていた。
国王の孫娘であるセシル・グリゼルダからの緊急招集を受けて、こうして王城に訪れていたのだ。
グレンの隣にはめでたく付き合うことになった魔法薬師であるルルネ・ニーチェの姿もあった。
ルルネもセシルからの緊急招集を受けて、グレンと共にこの王城へと赴いていた。
「でも、王女様からの緊急の呼び出しなんて何なんでしょうね?」
「それは分からないけど、王女様からの通信によるとかなり切迫した状況であることは変わりないね」
「ですよね」
グレンとルルネの二人は、セシル専属の錬金術師となっている友人のリアム・ラザールのように、セシルと直接通信できる水晶体を渡されていた。
それは今回のように緊急の招集があった時にすぐに呼び出せるといった理由で手渡されていた。
まあ、セシル個人としてはリアムとその周辺の人物、つまりグレンやルルネとの個人的な繋がりを持っておきたいという理由も一因ではあるのだが。
何故なら、リアムにその妻であるルナ。それにグレンやルルネ、魔法薬研究機構で勤めているアーリの五人は、今からおおよそ二年前に北区画【ゲンブン】で起きた『ミアズマ』と呼ばれる大規模な『瘴気障害』による被害を抑え、北区画の壊滅を守ったいわば英雄のような存在なのだから。
王女としては絶対に手放してはならない存在だと考えていたのだ。
そして、グレンとルルネは王城勤めの近衛兵の案内に従い、最近では通い慣れ始めてきた謁見の間へとやって来ていた。
「何だか、ここに来るのも慣れちゃいましたね」
「そうだね。前まではまったく縁がない所だと思っていたんだけどね」
ルルネとグレンが話すように、二人はちょくちょくセシルからの呼び出しに答えていた。
「王女様! グレン様とルルネ様をお連れしました」
近衛兵は中にそう声をかけると、中からは「入りなさい」との声が返ってくる。
グレンとルルネの二人は案内してくれた近衛兵にお礼を告げると、お互いの顔を見合わせ一度頷くと、謁見の間へと入っていった。
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中に入るとセシルは窓際に佇み、何やら難しい表情をしていた。そして、グレンとルルネが入ってきたことを確認するとにこやかな笑みへとその表情を変えた。
「急な緊急招集に応じて頂きありがとうございます。グレンさん、ルルネさん」
そう言って頭を下げるセシルの姿に、グレンとルルネの二人は慌ててしまう。
「頭を上げてください、王女様」
「そっそうですよ! あたしたちに頭なんて下げないでくださいよ、王女様!」
グレンとルルネの言葉に顔を上げたセシルの表情はどこか不満そうだ。
「グレンさん、ルルネさん、以前から私のことは王女様ではなく、セシルと呼んでくださいとお願いしているはずですが……」
セシルのその言葉にルルネはぎくりとしてしまう。
確かに二人は以前からセシルに名前で呼んでくださいとお願いされていた。しかし、王女様を名前呼びなんてさすがに恐れ多くて出来ないと思い、二人は結局、セシルのことを名前呼び出来ないでいたのだ。だが、セシルにとってはそれがとっても不満だったようで。
「私はお二人には友人のように接して欲しいのです」
セシルのその言葉がダメ押しとなり、二人は折れることにしたのだった。
「分かりました、セシル」
「うん、分かったよ、セシル」
そんな二人の言葉を聞いたセシルは、それはもう嬉しそうに微笑むのだった。
「それで僕たちが今日、ここに緊急招集された理由は?」
グレンのその言葉に嬉しそうに微笑んでいたセシルは、その表情を真剣なものへと切り替えていた。
一気にシリアスモードに入ったセシルの姿に、グレンとルルネの間にも緊張が走った。
「実はお二人を今日呼んだ理由は他でもありません。ちょっと急を要した事案が発生してしまって」
「何かの事件ですか?」
グレンのその問いにセシルは静かに頷いた。
「この王都【キーリン】には、いくつか孤児院があるのですが、その孤児院の一つから子どもたちが忽然と姿を消しました」
そのセシルの言葉に、グレンとルルネの二人は驚愕で両目を見開いていた。
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「子どもたちがいきなり姿を消すなんて。まかさ、神隠しにでもあったんですかね?」
グレンとルルネの二人は、セシルから事のあらましを聞くと、取り合えず現場に向かおうと言うことになり、被害合った孤児院に向かっているところだった。
この王都は王城を囲むように円になって街が栄えており、それを四つの北、東、南、西と言ったようにエリア分けがなされていた。
そして、グレンたちが向かっているのはそんな南エリアだった。南エリアは一番、庶民が暮らす人口が高く、今回被害合ったのも南エリアにある孤児院だったのだ。
「いや、セシルの話を聞く限りではその可能性は低いと思うよ。だって、攫われていたのは子どもたちだけで、そこを管理していた大人たちは殺されている。どう考えても誘拐だと考える方が自然だと僕は考えている」
セシルの話を要約すると、一昨日、その件の孤児院は何者かに襲撃を受け、大人は殺され、40人近くいた子どもたちは、忽然と姿を消したというのだ。
「でも、一気に40人の子どもたちを誘拐って、一度に運び出すにはかなり無理がありますよね」
「そうだね。とにかく孤児院に行ってみて、何か手掛かりになるようなものを探るしかないかな」
グレンとルルネがセシルに呼び出された理由は、この子どもたちを探し出すことと事件を究明することだった。
二人がその孤児院に着くと、すでに現場の調査に当たっていた近衛兵の一人が二人に駆け寄ってきた。
「グレン・アルタさんとルルネ・ニーチェさんでよろしかったでしょうか?」
「はい、そうですがあなたは?」
「これは失礼しました。私はこの隊の隊長を任されています。メーリア・クローズンです。よろしくお願いします」
そう自己紹介したメーリアはすっとグレンに手を差し出した。
「グレン・アルタですよろしくお願いします」
グレンも自己紹介すると、そのメーリアの手を取った。
「ルルネ・ニーチェです。よろしくお願いします」
「ええ、よろしく」
ルルネも自己紹介すると、そのメーリアと握手をした。
「まさか、女性の隊長だとは思いませんでした」
ルルネは思ったことを口にしてしまう。そうルルネが口にした通り、メーリアは女性だった。凛とすました顔に、長い髪を一つに纏めて立つ姿は女性でもカッコいいと思える佇まいだった。
セシルから先行して小隊が調査に当たっていると聞いていたが、まさか、女性の隊長が調査に当たっているとは思っていなかったので、ルルネは少し驚いてしまったのだ。
「王女様は何も言ってなかったんですか?」
「ええ、何も聞いてませんでした。小隊が調査に当たっているとしか」
「そうですか」
メーリアはルルネの言葉に困ったような笑みを浮かべていた。
「それで何か分かったことはありましたか?」
グレンが現場の状況を確認するために、メーリアにそう問いかけた。
「いえ、まだ分かったことはありません。だた孤児院内が荒らされているので、何者かの襲撃を受けたのは確かのようですね」
「分かりました」
グレンはメーリアの言葉に頷くと、ルルネを連れたって孤児院内に入っていく。
メーリアの言う通り、孤児院内は盛大に荒らされた跡があり、孤児院内には何やら不穏な空気が充満していた。
「ルルネ、僕から離れないでくれ。なんだか嫌な予感がする」
「はっはい!」
グレンとルルネは警戒しながら孤児院内を探索していく。途中、先に孤児院内を探索していた小隊の人たちにあいさつしながら、一つ一つの部屋を丁寧に探索していくが、手掛かりになるようなものは転がっていなかった。
「何も見当たらないですね」
「そうだね。でも、まだ部屋はあるし根気よく探し回ってみよう」
グレンの言葉にルルネは頷くと、何部屋かも分からない部屋を開けて見ていく。
「やっぱり、ここにも何もない」
荒れている部屋を見ていくが、やはり、この孤児院が襲撃された以外の手掛かりはありそうになかった。
ここもハズレだなとルルネは思いながら、部屋を出ようとすると突然パリーンと窓ガラスが割れる音が室内に鳴り響いた。そして、その割れた窓から異形としか表現できないものが室内に侵入してきたのだ。
「えっ⁉ なっ何⁉」
人の形をどうにか保っているが、その姿は見たものに畏怖を抱かせるには充分な見た目をしていた。
皮膚と思われるところはドロドロに溶けていて、顔は目と鼻の位置や口などの顔のパーツが本来ある場所になく、バラバラに付いていたのだ。
そんな化け物がぎろりとルルネのことを睨むと、ルルネに襲い掛かろうと動き出した。
「ひぃぃ!」
「ルルネ! 僕の後ろへ!」
悲鳴を上げるルルネを背中に隠すと、グレンは腰から剣を抜くと構えその化け物と対峙した。
化け物は突然現れたグレンの様子にも動じた様子もなく、グレンのことをひと睨みすると、グレンの向かって飛び掛かった。
グレンは冷静にその化け物の動きを見切ると、化け物の動きに合わせてカウンター気味に蹴りを繰り出した。
その蹴りは見事に化け物にクリーンヒットして、その化け物のことを壁に叩きつけた。
「何なんだ、あいつは」
「分かりません」
警戒しながら化け物の様子を眺めていると、壁に叩きつけられた化け物は何事もなかったかのように起き上がった。
そして、再びグレンに襲い掛かったのだ。
「本当に何なんだ、こいつは」
グレンが何度も何度も化け物の攻撃を凌いでいると、今度は別の所から悲鳴が上がった。
「今の声って……」
「ああ、間違いなくメーリアたちだろうね」
グレンは再びカウンター気味に蹴りを食らわせると、ルルネと共に部屋を飛び出した。そして、部屋を飛び出した二人は外の光景に驚かされてしまう。
いつの間にか院内はその化け物で溢れていて、近衛兵がその化け物たちに襲われているところだった。
「なっ何なのよ、この状況」
あまりの光景にルルネは無意識にそう呟いてしまう。
「とにかく、この場を何とか切り抜ける! ルルネ、絶対にそばから離れないでくれ!」
グレンはそう言うや否や、集団で襲ってくる化け物を切り伏せていく。
「ルルネ、僕が退路を切り開くから、その隙に建物の外に!」
化け物のあまりの多さにルルネをかばいながらだと、処理が出来ないと判断したグレンは、ルルネをいち早く逃がすために道を切り開いた。
ルルネもルルネで自分がここにいては、グレンの邪魔になるとすぐさま悟り素直にグレンの指示に従うことにする。
「グレンさん、無理しないでくださいね」
「ああ、もちろん」
グレンの笑顔での答えを聞くと、ルルネも笑顔で頷くとグレンが作ってくれた道を駆け抜けていった。
グレンはそんなルルネの姿を確認すると、目の前の化け物たちを駆逐するために意識を集中させていくのだった。
しかし、グレンは自身の判断を後に後悔することになった。
その日、ルルネが忽然と姿を消したのだった。
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