番外編ex2「商店通り集会の懸念・終」
皆様、大変お久しぶりでございます。そして、こんなに間が空いてしまったのに、本編ではなくて申し訳ありません。そして、作品の投稿は九月を目途に再開させたいと思っております。しかし、最初の数話は本編ではなくグレンが主人公の外伝のようなお話を予定しております。重ね重ね本編をお待ちしていただいているのに申し訳ありませんが、またお付き合いいただければ嬉しいです。
番外編ex2「商店通り集会の懸念・終」
今日も今日とて俺のアトリエ【クレアスィオン】は平和で、今ではすっかりと当たり前になった日常が流れていた。
俺が依頼品を作っていき、嫁であるルナがサポートしつつ家事などをこなしてくれている。本当にルナには頭が上がらなかった。
今作っているのは、アルパンギーナと呼ばれる四歳児までに多く見られる病気だった。
アルパンギーナはその名の通り、医学者であったアルファド・アルパンギーナが発見した病気だった。
夏頃に多く見られる症状で、罹った子どもたちには高熱やのどの痛み、水泡などの症状がみられるのだ。これを放っておくと合併症になるリスクもあるので、四日で症状は引く病気ではあるが油断できない病気でもあった。
またこのアルパンギーナには特効薬がなく、水分補給や解熱剤で熱を下げて症状を和らげるといった方法しか、この病気に対する対処方はなかった。今まではの話ではあるが。
俺は何とかこのアルパンギーナに対して、特効薬が作れないと思案して、試行錯誤を繰り返していた。そして、その試行錯誤の末、俺はアルパンギーナに効く特効薬を作り出すことに成功したのだ。
今はその特効薬を各所の医療機関に納品するための薬作りに追われている最中だった。
えーと、あれはどこやったかな?
「あなた、これですか?」
俺がアルパンギーナの特効薬を作るための材料を探していると、すかさず探していた素材が差し出された。
「ありがとう、ルナ」
俺はルナに礼を告げると、作業を進めていく。
まさに阿吽の呼吸と呼べる技だった。
ルナは俺の動きをよく見てくれていて、こうして俺が困ったりするとすかさずその意図を汲み、こうやってサポートをしてくれるのだ。本当にルナには頭が上がらなかった。
こうしてルナのサポートを受けながら作業を進めること数時間、何とか作業に区切りが見え始めてきたなっと思い始めた頃、いきなりアトリエの入り口ーー受付スペースになっている場所ーーから、バタンと勢いよく扉が開け放たれる音が響いたのだ。
俺とルナが顔を見合わせ慌てて入り口の方に向かうと、そこには血相を変えて立っていたのは、商店街通りでハーブ屋を営んでいるヤールさんをはじめ、夫婦でパン屋を営んでいるヴァンさんにアリヤさん、八百屋を営んでいるラクスさん、そして、薬屋【ヒール】を営んでいるマルクス・ニーチェさんの姿があった。
このマルクスさんに至っては俺の友人であるルルネの父親だったりする。
そんな皆様の姿を見て、俺もルナも目をぱちくりと見開いてしまう。
「えっと、皆さんお揃いでどうしたんですか?」
俺は戸惑いながらもそう声を出した。
というか、本当に何かあったのか?
あまりの勢ぞろいしている感じに、俺は嫌な予感を覚えるが、それは何とも見当違いの方で当たることなった。
「リアム、率直に答えてほしいんだ」
どこか重苦しい空気の中、最初に口を開いたのはパン屋のヴァンさんだった。
「はっはい。何かあったんですか?」
「いや、そういう訳じゃないんだがな、リアム、君は幼い子しか愛せない特殊性癖なのかい?」
「はぁ?」
ヴァンさんの思いがけない言葉に、俺は素っ頓狂な声を上げることしか出来なかった。
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待ってくれ、どういう状況なんだこれは?
俺は頭が痛くなるのを感じていた。
何故なら、今俺はヴァンさんの言葉を皮切りに、ここに集まっている商店街通りの皆様方に質問攻め基の尋問を受けているところだった。
本当にどうしてこうなった⁉
俺はこの状況に動揺を隠しきれなかった。
確かに以前から、ルナと結婚したことによりそういう風に疑われることがあったが、こうもまとめて言われたことはなかったし、すでにルナと結婚してから半年以上は経っているので、もうその疑いはてっきり晴れたのだと思い、完全に油断していたというのもあった。
「それでリアム。正直に話しなさい。あんたは特殊性癖の持ち主なのかい?」
そう追求してきたのは、ヴァンさんの妻であるアリヤさんだった。
「いやいや、違いますから! じゃあ、もし仮に俺がそうだったらどうだって言うんですか?」
「そりゃあ、決まっているだろ。衛兵に突き出すのさ」
止めてください、俺が社会的に死んでしまいます。と言うか、俺はそもそもそんな性癖持ってないから!
アリヤさんの言葉に、俺は盛大に顔を引き攣らせてしまう。何故なら、アリヤさんの顔がまったく冗談を言っているという顔をしていなかったからだった。
そこにヴァンさんからの補足が入る。
「リアム、本当にそうなら素直に認めた方が得策だぞ。アリヤはこう言ったら本当にそのようにするからな。それに商店通りに住んでいる人が今の君を見て何を思っているか分かるかい? みんな君が可愛くて若い奥さんをもらってうらやまけしかっごふ……」
ヴァンさんは言葉の途中で変な声を上げながら地面に倒れ伏してしまう。その理由としては、隣に立っていたアリヤさんの拳が、ヴァンさんのみぞおちに食い込んだからだった。そして、そんな地面に倒れこんだヴァンさんに向かってアリヤさんは容赦ない言葉を送っている。
「うるさい! あんたはちょっと黙ってな!」
おっおう。嫁天下怖い。マジでルナが俺の嫁でよかった。
若干、冷や汗を流しながらその様子を眺めていると、今度はラクスさんが声をかけてくる。
「それでリアム。本当のところはどうなんだ? 本当にリアムは幼い子しか愛せない性癖の持ち主なのか?」
「いや違いますから! 俺はただルナのことを愛してるだけですから!」
俺はすかさずラスクさんの言葉を否定した。
みんな揃いも揃ってどんだ誤解をしている。
俺がどうやってみんなのことを説得しようか悩んでいると、今の今までずっと押し黙っていたマルクスさんが重い口を開いた。
「リアム、一つ聞く」
「はっはい。何でしょう?」
いつになく真剣なマルクスさんの言葉に、俺は自然に背筋を伸ばしてしまう。
そして、待ち構えた俺に放たれた言葉は何とも斜め上を行くものだった。
「娘、ルルネのことはどう思っているんだ?」
「はいい⁉」
あんまりにも突飛な質問に俺は戸惑ってしまうが、マルクスさんの瞳が誤魔化しは許さんぞと何よりも語っていたので、俺は正直に答えることにする。
「ルルネは、俺にとって大切な仲間で友人です」
俺としては嘘偽りのない本心からの言葉だったのだが、マルクスさんが納得する答えではなかったようで、マルクスさんの眉がぴくりと動いていた。
「お前、俺の娘が可愛くないって言いてぇのか?」
あれ? そんな話してたっけ?
俺はそう不思議に思いながらも、マルクスさんの雰囲気に呑まれ慌てて言葉を出した。
「えっ? いや、ルルネは可愛いですよ」
「俺の娘はお前なんぞに嫁にやらーん!」
いや、だからなんでそうなるんだよ!
俺はこのカオスな状況に頭を抱えたくなってしまうが、そういう訳にもいかなかった。
なんか、マルクスさんの背後に火山が噴火する光景が見えるんですけど……
俺がどうやってこの状況を収めようか頭を悩ませていると、そこに静かだがよく通る声が響いた。
「みなさん、いい加減にしてくれませんか」
全員が声のした方に視線を向けると、そこにはとってもいい笑顔を浮かべたルナの姿があった。
顔は笑っているが目は全然笑っていなかった。そんなルナの姿に全員が押し黙り、ルナの次の言葉を待っていた。
そして、ルナはと言うとにっこり笑顔のまま口を開いた。
「みなさん、いい加減にしないとわたし怒りますよ。それにわたしの夫をこれ以上馬鹿にするなら、全員、このアトリエを立ち入り禁止にしますからね」
静かに告げられた言葉は、商店街通りのみんなからすれば、死刑宣告にも等しかった。
マルクスさんはそうでもないが、他の面々はなんだかんだでこのアトリエ【クレアスィオン】をごひいきにしていたのだ。
そんなルナの言葉に俺とマルクスさん以外は完全に震え上がり、顔を真っ青に染めていた。
そして、この時みな悟ったのだった。
ルナのことを怒らせてはいけないと。普段、温厚なルナが見せる迫力に誰もがびびっていたのだった。
なので、皆一様にこくこくと首を縦に振るのだった。
そんなみんなの様子を見て、ルナは満足そうに微笑むと俺にピッタリと寄り添った。
そんな嫁の姿に俺の胸にはとてつもない愛おしさが込み上げていた。
「ルナ大好きだぞ」
「ふふふ、わたしもあなたのことが世界で一番大好きですよ」
そう言って微笑み合う二人を見て、その場にいた全員は確信した。
本当に二人は相思相愛なのだと。そして、リアムの瞳には目の前の愛する女性しか映していないことを。なにより、自分たちの今までの考えがすべて杞憂だったことを、この時悟ったのだった。




