番外編「ルルネの帰郷2」
番外編「ルルネの帰郷2」
「へぇ~、ここが温泉か。けど、ルルネが前に言ってたみたいな賑わいはなさそうな感じがするけどな」
俺の言葉に隣に立っていたルナも「そうですね」と呆気に取られたような声を上げていた。
ルルネが言っていた温泉は、南区画である【スーザック】と、西区画である【ビャッコン】のちょうど中間ぐらいの位置にあった。
一つの大きな建物には、でかでかと【秘泉の湯】と書かれた看板が下げられていた。
どうやら、この建物の中に温泉があるようなのだ。
「リアムの言う通り、確かに賑わっているとは言い難い感じだね」
グレンも俺と同じような感想を抱いているようだった。
俺たちがそう思うのも無理はなかった。なんせ、人気と呼ばれている温泉には、俺たち以外の客の姿が見られなかったのだから。
「本当に人気なのか?」
「十分人気な所よ」
俺の言葉にルルネが不機嫌そうに答えた。
「誰かさんが気にするから、今日一日だけ貸し切りにしてもらったのよ」
「えっ⁉ そんなこと出来るのか?」
「薬の研究をするために、一日貸して下さいって言ったら、快く貸して下さったわ」
「マジか。そんな嘘を信じてくれたのか」
「あら、あながち嘘ではないわよ。温泉の湯って少なからず体にいい影響を与える効能があることはリアムも知ってるわよね?」
「ああ、確か温泉によって色々な病気に効果を発揮するんだよな」
「そうそう。その温泉の効能を、薬にも活かせないかって思ったのよ。大もとの薬を助ける補助薬としてね」
「なるほど。つまり、ルルネは温泉に入ると得られる効果をそのまま薬で実現しようと考えてるわけだ」
「そういうこと。その病気に使ってる薬だけじゃ補えない部分をカバー出来ればと思ってさ。本当なら、その病気に対して特効薬になり得る薬を作り出せればいいんだけど、そう簡単に作ることは難しいから、その間を持たせるための薬を作り出せればなって思ったのよ。そうすれば、少しは病気の症状を緩和出来るんじゃないかなって」
「へぇ~、ルルネも色々と考えてるんだな」
「何? あんたバカにしてんの?」
「ちっ違う! 違う! 昔に比べてルルネは変わったなっと思っただけだよ」
「変わった? ああ、確かにそうかもね。昔ならこんなこと考えもしなかっただろうし。ラールに影響されたのかもね」
「ああ、あいつは薬のことになると本当にすごいからな」
なんせ法で禁止されている自白剤を作り、俺に飲ませようとしたぐらいだしな。自白剤……作るの結構大変なはずなんだけど、ラーの奴はあっさり作ってたもんな。
「リアム」
俺がそんなことを考えていると、グレンに名を呼ばれ、隣に立っていたグレンに視線を向けた。
「薬の話はそこまでにして、そろそろ中に入らないか。さっきからルナが待ちきれなくてそわそわしてるみたいだから」
グレンの言葉で、俺がルナの方に視線を向ければ、ルナは恥ずかしそうに頬を赤く染めている。
可愛いなおい! ……じゃなくて。
「取りあえず、温泉に入るか」
俺の言葉に、ルナは嬉しそうに顔を輝かせたのだった。視界の端でルルネがにやにやと笑っていたのは、この際見なかったことにしよう、うん。
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建物に入り、番頭のおじいさんに挨拶をしてから、俺たちは男と女で別々の更衣室に入った。
更衣室で持ってきていた水着に着替えると、俺とグレンは奥に進んだ。引き戸となっている扉を開けて中に入ると、そこのは体を洗うスペースがあり、さらにその奥に一つの大きな風呂があった。
「へぇ~、意外としっかりしてるんだな」
「そうだね。思った以上に快適に過ごせそうな場所だね」
「だな。取りあえず、先に洗って温泉に入っておくか」
俺はレンにそう声をかけると、そそくさと洗い場に行って髪の毛や体を洗い始める。グレンもグレンで、俺の隣に腰を下ろし洗い始めている。
そう言えば、ルナは一体どんな水着を選んだのだろうか?
ここに来る前の二、三日前にルナとルルネの二人は、水着を買いに行くんだと言って、二人で出かけていたのだ。
それでルナたちが帰ってきた際に、俺はルナにどんな水着を選んだのかを聞いていたのだが、ルナとルルネにその時に悪戯そうに微笑まれ、当日のお楽しみと言われてしまったため、二人がどんな水着を選んだのかを俺は知らなかった。
「グレンは、二人がどんな水着を選んだのか知ってるか?」
「残念ながら、僕もそれは知らないんだよ。だから、おとなしくルルネたちが来るのを待つしかないんじゃないかな。どんな水着を選んだのかは、ものすごく気になるところだけど」
「やっぱり、そうだよな」
俺とグレンがそう話していると、ガラガラと引き戸が開く音がして、そこからルナとルルネの二人が入って来た。
二人の体にはタオルが巻かれていた。
「何、明らかに残念そうな顔をしてるのよ」
ルルネの呆れたような声が聞こえ、俺が顔を上げるとルルネがジト目でこちらを見ていた。
「べっ別にそんな顔してないって!」
ルルネの言葉に俺は慌てて反論する。
それじゃあ、まるで俺が変態みたいじゃないか。
俺はそう思わずにはいられなかった。
「ふ~ん、それじゃああんたはルナちゃんの水着見たくないんだ?」
「そっその聞き方はずるいだろ!」
ルルネの奴、絶対に面白がってるだろ!
俺がどうやって、ルルネのからかいを何とかしようかと考えていると、控えめに俺の腕を掴む感覚があった。
そちらの方に視線を向けると、ルナが俺の腕を遠慮がちに掴んでいた。
「ルナ? どうかしたか?」
俺がそう聞けば、ルナは上目遣いにこちらを見てくるとこう呟いたのだった。
「あなたはわたしの水着、見たくありませんか?」
可愛い嫁に上目遣いで、こんなことを言われたら世の中の男はどう答えるだろうか? 俺はもちろんこう答える。
「めちゃくちゃ見たいです!」
断じて言うが、俺は幼い子しか愛せない特殊性癖の持ち主ではない。それに最近のルナは女性的な身体つきになりつつあり、ますますドキッとさせられることが増えていた。
だから、俺は断じて特殊性癖の持ち主ではない。ただ俺の嫁であるルナが可愛すぎて好きなだけである。
俺が誰にしているか分からない言い訳を頭の中で並べ立てていると、ルルネの視線はジト目から、ゴミを見るような視線に進化していた。うん、心外だよ本当に。
対してルナは、赤い顔のまま固まっていたが、やがてタオルに手を掛けるとそのままタオルを取り払った。
タオルが取り払われると、ルナは可愛らしいフリルが付いた水着を身に纏っていた。背伸びをし過ぎない、かといって子どもっぽくなりすぎないようなそんな水着だった。
「うん、良く似合ってて可愛いよルナ」
俺はルナの水着姿を見て、率直に感想を述べた。
似合っている。俺は素直にそう思ったから。
「ありがとうございます。あなたに、そう言って頂けて嬉しいです」
ルナはそう言うと、嬉しそうに微笑んでいる。
「良かったわね、ルナちゃん!」
いつの間にか、水着姿になっていたルルネがルナに抱き着いて頭を撫でている。
「はい! ルルネさんに選んでいただいて良かったです!」
「そっか、そっか。リアムに可愛いって言ってもらいたいって、ずっと言ってたもんね。う~ん、やっぱりルナちゃんは可愛いわ!」
ルルネはそう言うと、ルナに頬擦りをしている。
その姿に俺もグレンも和む思いだった。
***********************
それから体を洗い終えた俺たちは、温泉に浸かっていた。
「はぁ~、日頃の疲れが抜けていく感じがするよ。確かに団員たちが話題にするのにも無理はないね」
グレンは本当に気持ちよさそうに温泉に浸かっていた。
「グレンさんの言ってること分かります。あたし、温泉って初めて入りましたけどこんなに気持ちいものだとは思いませんでした。お風呂も確かに気持ちいいですけど、お風呂とはまた違った気持ちよさが温泉にはありますよね」
「ああ、ルルネの言いたいことは分かるよ。僕もそう思ってたところだよ」
グレンとルルネは温泉談議で盛り上がっていた。
まあ、かくいう俺たちも温泉の話題で持ちきりなのだが。
「ルナ? どうだ気持ちいいか?」
「はい、とっても気持ちいです。だけど、あなたとお風呂に入るなんて、ちょっと緊張してしまいますね」
ルナの頬が赤いのは、温泉に入っているだけが理由ではないだろう。と思っている俺も、顔が真っ赤な気がするが……
よくよく考えれば、ルナとこうして一緒にお風呂に入ることは初めてのことかもしれない。そう考えると、緊張するのは当たり前のことなのかもしれない。
でも、こうしてルナと一緒の時間を過ごすのも悪くもないことなのかもと俺は感じていた。
「なあ、ルナ。今度から一緒に……」
風呂に入らないか? と言い掛けて俺は慌てて言葉を止めた。
待て待て待て! 俺は一体何を言い掛けているんだ! 確かにルナとこうしてリラックスできる時間を、一緒に過ごせるのはとっても名案だと思っている。決して、いやらしい意味や気持ちはない! だけど、ルナは少女から女性へとなろうとしている。そんな状態で一緒に風呂なんて入ったら、俺の理性が持つのか? ……って俺は何を考えてるんだ! これはあれだ! ちょっと温泉の熱気に中てられたんだ! うん、きっとそうだ。そう言うことにしておこう!
俺の頭の中では意味のない言い訳が、ぐるぐると行ったり来たりしていた。
「あなた? どうかしましたか? それと先ほどの今度から一緒にって?」
ルナが可愛らしく小首を傾げていた。
そんなルナの姿を見て、可愛いなコンちくしょう! と思ったところで俺の意識はばったりと途切れた。
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「まったく、湯冷めするとかあんたは子どもなわけ!」
今は南区画【スーザック】に帰るために、馬車の中で揺られている所だった。その中で俺は先ほどから、ルルネから説教を受けていたのだ。
どうやら、俺は温泉で湯冷めを起こして気を失っていたらしいのだ。
「いや、今回の件はマジですまん! 自分でも気を失うとは思ってなかったから!」
「だからって、そんな作り話みたいな展開、誰も求めてないでしょうが!」
「まあまあ、湯冷めをしてしまったのは仕方がないよ。ルルネ、今回のことは大目に見てあげてもいいんじゃないかな」
グレンの言葉に、ルルネは「グレンさんがそう言うなら」と言葉を治めた。
俺は視線でグレンに感謝を伝えると、グレンは優しく笑っていた。
「あなた、お水飲みますか?」
「ああ、ありがとうルナ。もらうよ」
そして、ルナはさっきから甲斐甲斐しく俺のことを看病してくれていた。
「ごめんな、ルナ。迷惑かけて」
「いえいえ、これもあなたの妻であるわたしの役目ですから」
本当にルナには頭が上がらないな。
そして、俺は今改めて再認識したことがあった。
俺は順々に三人の顔を見渡した。
俺がいてもちろんルナがいて。そして、ルルネがいてグレンがいる。
俺にとっては大切な奥さんで、仲間で友人で。絶対に切りたくない縁だと思う。この三人がいなきゃ、今の俺の人生がないとも思えるぐらい、この三人には助けられているんだなって。
「ルルネ」
「何よ?」
未だにルルネはどこか不機嫌そうだった。
「改めておかえり。それとこれからは【スーザック】にいるんだよな?」
「ええ、そのつもりよ」
「なら、これからもよろしくな」
「改めてあんたに言われると気持ち悪いけど、ええ、仕方がないからよろしくしといてあげるわ」
俺とルルネは笑い合うと、がっちりと握手したのだ。
再会とこれからまたよろしくの意味を込めて。
そんな俺たちをルナとグレンは優しく見守っていたのだった。
以上を持ちまして、『錬金術師と幼な妻~俺に嫁が出来ました~』の第三部が完全終了になります。
皆さまここまでご閲覧ありがとうございました!
そして、次の部で最終部となります。今のところ内容はぼんやりとしか浮かんではいないのですが、必ず最終部まで書き切りたいと思っておりますので、これからもよろしくお願いいたします。
しばらくの間、休載期間とはなってはしまいますが、連載を再開する際には活動報告にて報告させて頂きますので、またのご閲覧をよろしくお願いいたします。




