第60話「ルナのこと、必ず幸せにしてみせます」
第60話「ルナのこと、必ず幸せにしてみせます」
竜との約束を果たした俺たちは、無事に竜から仔竜のウロコを受け取ると、飛ぶようにしてルナの実家がある西区画【ビャッコン】に帰って来ていた。
『ニンゲンヨ。オヌシハ、ワレトノヤクソクヲハタシタ。イママデノブレイヲワビヨウ。オヌシトノ、ケイヤクニモ、オウジヨウ』
「ありがとうございます」
『ソレトニンゲン、イヤ、リアムトイッタカ』
「はっはい。リアム、リアム・ラザールです。それと、こっちがルナ。ルナ・ラザールです」
『ソウカ。リアムトルナ。ホントウニカンシャスル』
そう言って頭を下げたのだった。
今思い出してもみても、何とも不思議な光景だったなっと俺は思ってしまう。
まさか、自分がこうして竜と対話して、友好関係を築くことになるとは夢にも思わなかったと俺は思えてしまうのだ。
【ビャッコン】に着くと、俺たちは急いでルナの実家に戻って来ていた。
「ただいま戻りました。お義父さん」
「ああ、戻って来たのか。おかえり、リアム君にルナ」
「ただいまです。お義父さん!」
笑顔で迎えて入れてくれた、お義父さんのあいさつもそこそこに、俺とルナはサラさんが寝ている寝室に向かった。
サラさんはベッドの上で、静かに寝息を立てて眠っていた。
ここに入る前に聞いたお義父さんの話によると、俺たちがここを離れた三日ほどで病気の症状は、進行してしまい、今では起き上がることもままならない状態にまで発展してしまったらしいのだ。
事実、サラさんは俺の目の前にあるベッドで眠っている。
かなり病気が進行しているな。早く薬を投与しないと。
俺は鞄から薬を錬金するための道具や材料を用意していく。
えっと、今回使うのは、新・万能霊薬(結晶化済み)に仔竜のウロコ、スベリヒユに超強薬の四つだった。
以前は新・万能霊薬の所を別の薬で補っていた。しかし、それだと十分な薬の核としては機能せず、何ともあやふや薬となってしまい、アソル症を治すための薬とはなりえなかったのだ。
だけど、今回は違う。触媒として優秀な働きをする万能霊薬があるのだ。これらを上手く繋ぎ合わせて調合することさえ出来れば、今度こそアソル症を治すための特効薬を完成させることが出来るはずだ。
俺は深呼吸を一つすると、錬金ポットの中にそれぞれの素材を入れていく。
今度こそ絶対に成功させる。
俺はそう思いながら、錬金を進めていった。
***********************
あの日から一週間が経過しようとしていた。
「お母さん! これはこっちでいいですか?」
「ええ、そっちで大丈夫よ。本当にルナは料理が上手になったのね」
ルナの料理をする姿を見て、サラさんが嬉しそうに微笑んでいる。
結果から言って、サラさんのアソル症は完治させることが出来た。
俺は無事にアソル症に効く特効薬を作ることに成功したのだった。
薬を注射して、二日間はサラさんは寝たきりのままだったが、三日目からは起き上がることが出来た。そして、四日目には喋れるようになり、五日目には手足が動くようになった。
そして、今日で薬を投薬して一週間が経とうとしていた。一週間目でサラさんは、日常生活が普通に送れるまでに回復することが出来た。
サラさんが普通に日常生活を送っている姿を見て、俺はホッとして肩の力が抜けるのを感じた。
ルナとサラさんは今はキッチンで昼食を二人仲良く作っている所だった。対して、残った俺とお義父さんはリビングで二人の様子を眺めていた。そのお義父さんの腕の中には、ルナの妹であるシャーナが幸せそうに眠っていた。
だけど、ルナは本当にサラさんに似てるんだな。以前にお母さん似だとは聞いていたが、本当にそっくりだ。
俺がそんな感想を抱いていると、目の前に座っているお義父さんが口を開いた。
「しかし、噂通りの腕だな。まさか、リアム君がここまですごいとは正直驚きだよ。娘が自慢したくなるのも当然なのかもしれないな」
「いえいえ、そんなの過剰評価ですよ」
「そんなことないさ。そんなに謙遜することないさ。だって、君は今まで誰も治すことが出来なかった病を治すための薬を作ることが出来たんだ。それはもっと誇っていいことだと私は思うよ」
お義父さんは一度、そこで言葉を切ると俺を真っ直ぐに見た。
「リアム君、改めてお礼を言わせてくれ。妻を救ってくれてありがとう。君に依頼して本当に良かったと思っているよ」
お義父さんはそう言って柔らかく微笑むと、一つの小切手を取り出した。
「少なくて申し訳ないが、これは私からの感謝の印だ」
お義父さんが差し出してきた小切手には、決して少ないない金額が書かれていた。
「おっお義父さん! こんなの受け取れないですって!」
「いやいや、君は今回それぐらいの働きをしたんだ。これは当然の対価だと私は思っている。いや、これでも君の働きを考えれば少ないぐらいだろう。だから、これでも対価に見合った額と言う訳ではないが、それでも私は君に受け取って欲しいと思う」
「いえ……ですが……」
う~ん、困ったな。お義父さんは家族ってことになるわけだし、出来ればそう言うのはなしでいきたいんだよなぁ~。それにルナのお母さんを助けるのなんて当然のことだしな。
俺がどうしようかと困っていると、キッチンの方から「あなた~、お義父さんごはんですよ~」とルナが呼ぶ声がする。
「とっ取りあえず行きましょうか、お義父さん」
「あっああ、そうだな」
俺とお義父さんは曖昧に笑いながら、ルナたちが待つ場所に向かったのだ。
***********************
「リアムさん、改めてお礼を言わせてください。二度も私のことを助けて下さり本当にありがとうございます。大したお礼は出来ませんが、少しでもあなたに恩返しが出来ればいいと思っていますので」
「いえ、気にしないでください。こっちも好きでやっていることですし。それに、嫁のお母さんを助けるなんて、当然のことですよ」
サラさんのお礼に、俺はやんわりと気にしないでくださいと告げる。
「ですが、それだと私の気が治まりません」
「そう言われましても……」
気にしなくても良いと言うのは事実なので、俺は対応に困ってしまう。
「サラさん、本当に気にしないで頂けると助かるんですけど……」
「ですが……」
なおも言い募ろうとしたサラさんを、俺は何とかサラさんが納得してくれそうな理由を探した。隣を見ると、ルナがシャーナを抱いてにこにこと微笑んでいた。その姿を見て可愛いと思うと同時に、ある一つのことを思い付いた。
「お義父さん、サラさん、いえ、お義母さん。俺はすでにお義父さんとお義母さんから、感謝してもしきれないぐらいのものをもらっていますよ」
俺のその言葉に、目の前に座っている二人は首を傾げている。
「どういうことだい?」
お義父さんの言葉に、俺は一度ルナのことを見てから言葉を発した。
「お義父さん、お義母さん。改めましてあいさつが遅くなり心からお詫び申し上げます。この度は大事な娘さんをお嫁にくださり、本当にありがとうございます。お義父さんとお義母さんからは、一生かけても返せない大切なものを頂いています。だから、今回はこれでチャラということにしませんか。俺はルナをお嫁に頂けて本当に幸せなんです。ですから、お義父さんとお義母さんがよろしければこれからもずっと仲良くしていきたいと思っています。俺から言うのも本当になんですけど、家族にはそう言うの一切なしで付き合っていきたいって思ってるんです。だから、今回のことも気になさらないでください。それと生意気言ってすいません」
俺はそこまで言うと、二人に頭を下げた。
これが今の俺の精いっぱいな気持ちだった。家族には貸し借りとかそう言うの無しでやっていきたいって本気で思ってるから。
俺が頭を下げていると、隣から「ふふっ」と小さく笑う声がする。驚いて横を向けば、ルナが小さく微笑んでいた。
「るっルナ?」
「ごめんなさい。あなた」
「ん? どうして謝るんだ?」
「いえ、どこまでいってもあなたは、あなただなっと思ってしまって。まあ、だからこそ、わたしはあなたのお嫁さんになりたいと思ったんです」
ルナはもう一度微笑むと、今度はお義父さんとお義母さんの方に顔を向けた。
「お義父さん、お母さん。こうなったリアムさんは頑固ですから、何を言ってもお礼は受け取らないと思いますよ。嫁であるわたしが言うんだから違いありません」
ははっ、本当に違いない。
俺もルナの言葉に笑ってしまう。いや、俺だけじゃなかった。お義父さんもお義母さんも笑っていた。
「そうか。はは、不束な娘かもしれないが、これからも娘のことをよろしく頼むよ」
「はい、ルナのこと、必ず幸せにしてみせます」
俺とお義父さんは固い握手を交わしたのだった。
そんな俺たちを祝福するかのように、シャーナが嬉しそうに笑い声を上げたのだった。
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「何だか、色々と濃い帰省だったな」
「そうですね。だけど、帰って良かったです」
「ああ、ほんとにな」
俺とルナは約二週間ぶりに自分たちの家であるアトリエ【クレアスィオン】に帰って来ていた。
お義母さんの体調を考えて、もう一週間ほど滞在していたのだ。だが、その心配も杞憂に終わっていた。お義母さんは今では問題なく正常な体に戻り、問題なく生活することが出来ている。本当に助けられて良かったと俺は心の底から思った。
「シャーナ、可愛かったです」
「そうだな」
確かにルナの妹であるシャーナは可愛かった。それに、それをお世話しているルナの姿も、何だか様になっていて驚いたぐらいだった。ルナがお母さんになったら、あんな感じになるんだろうなっと考えてしまうぐらいに、ルナが赤ちゃんをあやしている姿は様になっていた。
ルナとの子どもも悪くないのかもしれないな。
俺はルナの実家にいる時に、ずっとそのことを考えていた。ルナは子どもが欲しいと言っていた。そして、俺も今ではルナとの子どもが欲しいと思う。
「なあ、ルナ」
休まずにすぐさま片付けに入ろうとしていた、ルナに俺はそう声をかけた。
「どうしました? あなた? お茶でも飲みたくなりましたか?」
ルナは不思議そうに小首を傾げている。
俺はそんなルナのことを見ながら、深呼吸を一度すると、さっきまで考えていたことを口にした。
「あのさルナ、いつか、いつか必ず俺たちの子どもを作ろう」
今思えば、俺からその話をするのは初めてだったかもしれない。
対してルナは、最初は俺の言葉を理解できなかったのか、ポカンとしていた。だが、次第に言葉の意味を理解したのか、顔を赤く染め瞳を涙で潤ませていた。
「はっはい! 絶対に約束ですよ、あなた!」
「ああ、約束だ」
そう言って、俺たちはお互いの小指を絡めたのだった。
これにて第三部の本編の方は終了となります。お疲れ様です。みなさま、ここまでお読み頂きましてありがとうございました!
さて、次回は恒例となってまいりました番外編を投稿させて頂きたいと考えております。
次回は3月3日の投稿予定しております。少し間が空いてはしまいますが、お読み頂ければ嬉しいです。
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本当にここまでありがとうございました。




