第59話「新・万能霊薬の可能性」
第59話「新・万能霊薬の可能性」
俺は竜に断りを入れると、仔竜たちの状態を確認していく。
そして、すぐに一つ分かることがあった。
それはこの仔竜たちから溢れ出ている瘴気の正体は『ミアズマ』のようであって、『ミアズマ』ではないということだった。
どうして、そう判断出来たかと言うと、『ミアズマ』は生きとしてすべてのものに感染し、その生命を吸収して成長していく。
『ミアズマ』の感染を防ぐには『世界樹の雫』を触媒として作った護符を持っていることでしか、感染を防ぐことは出来ない。しかし、今、俺たちはその護符を持っていなかった。それはつまり、『ミアズマ』を防ぐ術がないということだ。それなのにも関わらず、俺とルナは『瘴気障害』に陥ることはなかった。だから、それを見てこの仔竜たちが罹っているのは、『ミアズマ』ではないと判断したのだ。
それじゃあこの仔竜たちが罹ってしまった奇病って?
俺が首を傾げていると、鞄の中に入れていた小型の通信するための水晶が震えていた。
俺が慌てて通信をオンにすると、そこからはもはや聞き慣れた声が聞こえてくる。その声はどこか焦ったような色が見えた。
『リアム! 大変なことになったわ!』
通信の相手はこの国の女王様であるセシルだった。
「悪い、セシル。協力してあげたい気持ちはあるけど、今は取り込み中なんだ」
セシルの声で、何だか良くないことが起きているのは分かる。だけど、こっちもこっちで今は手が離せない状況だった。
『うっ! それを言われると無理にお願いは出来ないけど、話だけは聞いてほしいんだけど……こっちも一大事なのよ』
「分かった。なるべく手短に頼む」
俺の言葉にセシルは『分かったわ』と答えると、用件を話し始めた。
『実はね、今回連絡したのはあなたに解決したもらいたい案件があったからなのよ。それは、奇病に罹ってしまった珍しい生物を救ってもらいたいの。出来るなら、なるべく早急にね』
ん? 珍しい奇病に罹った生物? まさかな……
俺はその言葉にどこか引っ掛かりを覚えた。
「セシル、まさかとは思うけどその生物って竜じゃないだろうな?」
『っ⁉ リアムどうして分かったの? はっ! まさか、あなたはエスパーなの⁉』
「いやいや、違うから」
って、今はそんな冗談を言い合っている場合じゃない!
俺はコホンと咳払いを一つして、話を本筋に戻した。
「いや、実は今、竜の住処にいるんだよ。それで目の前にはちょうど奇病に罹っている仔竜がいる」
『はっ⁉ 何でリアムがそこにいるのよ?』
「こっちにも事情があってさ。どうしても、仔竜たちを救って、仔竜のウロコが必要だったんだよ」
『なるほどね、なら話は早いわね。リアムの言う通りで、私からの依頼は仔竜が罹ってしまった奇病の治療をお願いしたいの。リアム、あなたは竜撲滅教団があるのは知っているかしら?」
「いや、初めて聞いたぞ。そんな教団」
と言うか、ものすごく後悔しそうな名前だな、それ。
俺の感想もそこそこに、セシルは話を進めていく。
『簡単に言うと、竜は滅ぶべしと思った人が集まって、竜を滅ぼすために活動している教団みたいなの。今までは、おとなしくしていたみたいなんだけど、つい最近になって活動が活発化したみたいなの。今はグレンに頼んで、その教団を追ってもらってるわ』
「つまり、その竜撲滅教団という組織が今回の一件に一枚噛んでいるということは分かった。そう言えば、竜と対話することが出来たんだが、その時に竜はとある男が仔竜たちに一本の注射を打ったらしたらしいんだ。それから仔竜たちは、体調が悪くなっていったらしいんだ」
『なるほどね。そう言えば、噂話で竜撲滅教団が、竜に対して効果的な薬を開発したと言う話を小耳にしたことはあったわ。もしかして、それのことだったのかもしれないわね』
「ああ、間違いなくそれのことだろう」
『ええ、リアムの言う通りね』
セシルは一度そこで言葉を切ると、言葉を続けた。
『リアム、女王として命じます。必ず仔竜の命を救いなさい』
「ああ、必ず救ってみせるさ」
セシルの言葉に、俺は力強く頷いた。
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セシルとの通話を切ると、俺は早速薬の調合に入ることにする。
薬を調合するにあたって、用意するものがあった。
「竜よ、一つお願いがあります」
「ナンダ?」
「薬を作る上で、どうしても必要な素材はあるんです。それを譲ってはくれませんか?」
俺の言葉に竜は頷いた。
「ヨカロウ。ソレデ、コリュウタチガスクエルノデアレバ、ヨロコンデ、キョウリョクシヨウ」
「ありがとうございます! それじゃあ……」
俺は竜に頼んで、素材を用意してもらう。
竜の爪、竜の牙、竜のウロコ、竜の体液の四つだった。
「コレデ、スクエルノカ?」
「ええ、必ず」
俺は竜に頷き返すと、調合の準備を進めていく。
鞄の中から、中型の錬金ポットを取り出した。
一見なんの変哲もない錬金ポットに見えなくもないが、これは俺が開発した錬金ポットだった。
従来の錬金ポットでは、簡単な錬金術しか出来なかったが、俺が開発した錬金ポットを使えば、錬金釜で行う調合の八割ほど再現することが出来るのだ。
そして、次に新・万能霊薬を取り出した。しかし、それはただの万能霊薬ではなかった。今取り出した万能霊薬は結晶化していたからだ。
普通の万能霊薬は液体状をしていた。それを俺はあえて結晶化させたのだ。それは、万能霊薬の新たな可能性を試す為だった。
万能霊薬。
それは、その薬が一つあるだけでありとあらゆるもの病気を治してしまう薬だと呼ばれている薬だった。
しかし、いくら万能霊薬と呼ばれていようが、全てにおいて万能なわけではなかった。それを俺は一年前の『ミアズマ』の一件で痛感させられた。
そして、俺はその後、もう一度詳しく万能霊薬に関して研究をし直した。そして、ある一つの可能性が見つかったのだ。
そのヒントをくれたのはルルネとアーリの二人の魔法薬師だった。
『ミアズマ』事件の解決には、ルルネとアーリが協力して作った『世界樹の雫』が活躍した。その際に、その『世界樹の雫』を作る過程で、それを作るために万能霊薬を触媒として調整する方法が取られていた。
それはつまり、万能霊薬が『世界樹の雫』を作る上で重要な核となったと言える。
俺はその結果から、ある一つの仮説をひねり出した。
それは……
万能霊薬を触媒として用いれば、今まで万能霊薬では治せなかった病気も治せるのではないかと。むしろ、万能霊薬の本来の使い方はそれが正解なのではないかと?
要するに、万能霊薬はその薬自体では万能ではなく、触媒として用いることで本当の意味で万能になるのではないかと言うことが、俺が出した仮説だった。
その仮説を立てた後、俺はすぐさま検証することにしたのだが、そこには大きな落とし穴があった。
それは錬金術アプローチでは、液体状態の万能霊薬では触媒にはなりえないことだった。それはつまり、ルルネが行ったように、万能霊薬を結晶化させなくてはいけないということなのだが、それが中々に難しかったのだ。
普通に結晶化しようとしても上手く固まってくれなかったのだ。
俺が試行錯誤している時に、助けてくれたのはルナだった。ルナの何気ない一言がこの問題の突破口をくれたのだ。
「結晶化するのって難しいんですね。ハチミツさんを見てると、とてもそうは思わないんですけど」
「ハチミツ?」
「はい。ハチミツさんって放っておくと、勝手に結晶化してしまっていざ使おうとするときに困ってしまう時があるんですよ」
ルナはそう言うって「えへへ」と笑っているが、いつもの様に可愛いと思っている暇は俺にはなかった。
何故なら、ある一つの答えが俺の中でまとまりそうだったからだ。
確か、ハチミツって急激に冷やしたりしたら結晶化しないって聞いたことがある。それに、結晶化する温度もそれなりに低くもなければ、高くもなかったはずだ。後は酸素に触れさせて振動を送ることによって、結晶化を促進することが出来るって以前に本で読んだことがある。
俺は今まで、急激に冷やすが、熱くするかしか試していなかった。もし、ハチミツと同じ原理だとしたら……
俺はすぐさまその方法で、万能霊薬の結晶化を開始した。すると、万能霊薬は上手く結晶化が進んだのだ。
俺は思わず作業部屋から飛び出すと、そのままルナに抱き着いたのだった。
ルナのおかげで、一番難題だったポイントは脱し、後はそれが触媒として機能するかだった。それも見事に成功して、俺の仮定を裏付けることになった。
つまり、新・万能霊薬は触媒として使用することで、その病気にあった特効薬になりえるということが証明されたのだ。
俺はその特性を利用して、今回の仔竜たちの病気を治そうと思っていた。
竜に提供してもらった素材を錬金ポットに放り込み、最後に結晶化した万能霊薬を落とし込む。
そして、しばらくすると調合反応が起き無事に薬は完成した。
竜だけに使える万能薬ってとこか。名付けて竜万能霊薬って所か。
俺は今まさに出来た薬を、注射器に入れるとすぐさま仔竜たちに打っていく。
きっと、これで仔竜たちは良くなるはずだ。
薬を打ち終え、俺は祈るような気持ちで仔竜たちを見守っていた。隣に立つルナも、祈るように手を組んで、静かに仔竜たちを眺めている。
竜も黙ったままその様子を眺めていた。
どれぐらいの時間が経ったのだろうか?
次第に仔竜たちを包んでいた黒い瘴気がなくなっていくのが目に見えた。それからまた少しして、黒い瘴気は完全になくなり、一体の仔竜がむくりと起き上がった。そして、
「リュー、リュー」
と鳴き声を上げたのだ。
「っ⁉」
その声に、今まで押し黙ったままだった竜の口からは驚きの吐息が漏れている。
さらには、また一体、また一体と先ほどまでぐったりとしていた仔竜たちが、次から次へと起き上がっていく。
「あなた! 仔竜さんたちが元気になりましたよ!」
「ああ! そうだな!」
俺たちが感動している間にも、仔竜たちは起き上がり、ここにいた八体もの仔竜たちは元気な鳴き声を上げたのだった。
それはつまり、俺は竜との約束を果たせたのだ。
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