第57話「竜の住処」
第57話「竜の住処」
飛行船で揺られること、数十時間。
俺たちは東区画【セイリュウン】の地に降り立っていた。
陸路で行こうとすると一週間以上の時間をかけて行かなければいけないところ、数十時間で行けてしまうのは、何とも偉大だなっと俺は感じてしまう。
「ラーザさん、ありがとうございました!」
「ありがとうございます」
俺とルナは見送りに出てきてくれていたラーザさんのお礼を言って頭を下げた。
「いやいや、気にすんな。もともとユーゴさんには恩があるんだ。だから、これぐらいはお安い御用だよ。まあ、後で少しの文句は言わせてもらうけどな」
ラーザさんの言葉に俺とルナは笑ってしまう。
「さて、急いでんだろ。この発着場を降りて、真っ直ぐ行けばこの区画の中央街に出る。そこで素材屋を探せばいいんじゃねぇかな」
「ありがとうございます」
俺はもう一度告げると、ルナと共に階段を下りていく。そのまま言われた通りにまっすぐ歩いて行くと、中央街と書かれたアーチ状の門が見えてきた。
その門を潜り俺たちは中央街を歩いて行く。
素材屋があるのを見つけると、俺たちは手当たり次第に入り仔竜のウロコがあるかないかを聞いていく。
今まで三件の素材屋を見つけ、三件ともに仔竜のウロコは置いてないと言われてしまった。それに、今後も一切入荷する予定はないとはっきりと言われてしまっている。
やはり、竜側で何かがあったと考えるのが妥当だろう。けど、一体何が竜の怒りを買った原因はなんだ?
そして、ここで素材屋を訪れるのは四件目になる。
「すみません、仔竜のウロコは置いていますか?」
「ああ? お前さん見ない顔だな」
「はい。俺は南区画【スーザック】で活動している錬金術師です。この子の母親を助けるために、どうしても仔竜のウロコが必要なんです」
俺の言葉に、その男性は少し考えるそぶりを見せた。
「お前さんの気持ちも分からんでもないが、それは諦めてもらうしかねぇな。お前さんが求めてる仔竜のウロコだが、もう二度と手には入らないだろうな」
「っ⁉ それはどうしてですか? やっぱり、人間が竜たちに何かをしてしまったんですか?」
「いやいや、そうじゃない。何でも今生きてる仔竜が謎の奇病に罹っちまっているらしい。その所為で仔竜のウロコは渡してもらえないってわけさ」
「奇病ですか……」
「そうさ。タイミングが悪かったな。だから仔竜のウロコは諦めな」
諦めなと言われても。こっちだって諦めるわけにはいかない。
「つまり、その奇病さえ治せれば。仔竜のウロコは手に入るってことですよね」
俺の言葉に店主は心底驚いた表情を浮かべている。
「おいおい、兄ちゃんバカな事は言っちゃいけねぇ。今まで何人もの魔法薬師や錬金術師が見てきて治ってないんだ。それを兄ちゃんが治せるわけがねえだろ。だから、バカは言っちゃいけねぇよ」
その店主の言い用は、どこか憐れみの色を含んでいた。
さて、この店主をどう言いくるめるか俺が考えていると、俺よりも先に今まで黙って聞いていたルナの方が口を開いていた。
「無理なんかじゃありません」
「おいおい、嬢ちゃんまでそんなことを言うのか。誰も治せなかったのに、こんなパッとしない奴が治せるとは思えない」
その店主の言葉に、ルナはむすっとした顔で言い返した。
「治せます! わたしの夫は世界一の錬金術師なんです! 夫にかかれば治せない病気はありません!」
「世界一の錬金術師だぁ~? 冗談は休み休み言え!」
「冗談じゃありません! わたしは本気で言ってるんです!」
そこからも二人は言い合ってしまう。でも、俺はルナの言葉に嬉しく思ってしまう。
「ルナ」
俺はルナの肩に手を置いた。
「あなた」
不安そうにこっちを見るルナに、俺はニッと笑いかけてやる。
「嫁にここまで言われたんだ。やるしかないよな。なあ、竜の住処の場所を教えてくれませんか?」
「お前、本当に行くつもりなのか?」
「ああ、もちろん。嫁の母親の命がかかってるんだ。行かないでどうするよ。それに、嫁がこんなにも信頼してくれている。夫としてそれには全力で応えるべきだろ」
俺の言葉に店主は固まっていた。
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店主から聞いた話だと、竜の住処は北の方角に向かってそこにある森を抜けた先にあるのだと言う。
「ああそうだ、ルナ。さっきはありがとな」
いきなりの俺の言葉にルナは不思議に思ったのか、首を傾げている。
「ほら、素材屋でおっちゃんに向かって言ってくれたこと、実はすごい嬉しかったんだ。だから、ありがとう」
俺の言葉にルナは「そんなことありませんよ」と呟いて微笑んだ。
「妻として当然のことですし。それに、わたしはあなたが世界一の錬金術師だっていつも本気で思ってますから」
言っていてルナは恥ずかしくなったのか、顔を赤らめていた。
そんなルナの姿に、俺はどうしようもない愛おしさを感じた。
「ありがとう、ルナ。そう言ってもらえてすごく嬉しいよ。それにルナが支えてくれるから、俺はこうして出来るんだ。だから、俺が世界一って思ってもらえるのは、ルナのおかげでもあるんだぞ」
「わたしはあなたの力になれてるんですね。えへへ、嬉しいです!」
「もちろんだよ。むしろ、ルナがいるから俺は頑張れるんだ」
そうこう話してるうちに、俺たちの目の前には森が見えてきた。
「ルナ、分かってるとは思うけど、森の中では何があるか分からない。絶対に俺から離れないでくれよ」
「はい!」
俺は左手でルナを手を繋ぐと、警戒しながら森の中に突入して行った。
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結局のところ、それは俺の杞憂で終わった。
森の中は閑散としていて、魔獣の気配は一切しなかった。それに竜の住処が近い所為なのか、何だかこの辺り一帯に神聖な空気が満ちている気がする。
森に入って数時間。
俺とルナは川辺を見つけて、今日はそこで野宿することにする。
もう日は地平線の向こうに消えかけている。このまま進むのは危険だと判断したためだった。
「ルナ、俺は薪に使えそうな枝を集めてくるよ。この一帯に魔獣の気配はないけど、もし万が一何かあったら、これを使ってくれ」
俺がルナに渡したのは投げると空中で光を発する球だった。これでルナに何かがあっても以上を知らせてくれる。
「分かりました。わたしは晩ご飯の準備を進めますね」
「ああ、頼むよ」
そこから、集めた枝で火を起こし、簡単だがルナが作ってくれたご飯を食べると、ルナを寝袋に寝かし、俺はその隣に座っていた。
「ごめんな、ルナ」
「いきなり、どうしたんですか?」
「いやさ、昨日からだけどちゃんとした所で寝かせてあげてないなっと思ってっさ」
でも、昨日はまだ飛行船の中で室内だからまだマシか。
「気にしないでください。わたしは、あなたがいれば安眠できますよ」
そう笑顔で言ってくれるルナに、俺は心を救われる。
「そう言ってもらえると助かるよ」
俺はルナの綺麗な金髪を撫でてあげる。すると、ルナは嬉しそうに瞳を細めた。
まるで猫みたいだなっと思ったが、どちらかと言えばルナは犬かと俺は思い直した。
「でも、竜さんたちに一体何があったんでしょうね?」
「分からないけど、あのおっちゃんの話だと何らかの『奇病』の所為で、仔竜たちの命が危ないってことだろう。けど、その話って不思議なんだよな」
「不思議ですか?」
「ああ、竜っていうのは病気に罹らない生物なんだよ。何でも自己再生能力に優れていて、ちょっとの病気なら自分で治してしまう生物なんだよ。それは仔竜でも例外じゃない。だから、仔竜たちも多少の病気ならそうなることはないんだ」
「と言うことは、竜たちの再生能力を持っても再生できない病気ということでしょうか?」
「まあ、普通に考えたらそうなるよな。だけど、竜が治せない病気なんて今まで聞いたことがない。こればっかりは、明日直接診てみないばかりには何とも言えないな」
けど、こいつがあればどうにかしてやれるかもしれない。
俺は鞄を引き寄せた。その中には新・万能霊薬が入っていた。
俺はこの一年間で、この新・万能霊薬に一つの可能性を見出していた。その可能性が今回の仔竜を救うことにも、ルナの母親であるサラさんを救う可能性だと思っていた。
この一年間の研究も無駄にならなきゃいいが。
「あなた?」
俺が考え事にふけっていると、ルナが心配そうに俺のことを呼んだ。
「どうした? ルナ」
慌てて言葉を返すと、ルナはふるふると首を振った。
「いえ、何だか難しい顔をしていたので」
「あっああ、別に大したことじゃないんだ。ごめんな、心配かけて」
「あなたが大丈夫なら良かったです」
そう言ってふわりと微笑んでくれるルナの姿に、いつの間にか硬くなっていた心が和らいで行くのを感じる。
「ほら、ルナ。そろそろ寝よ。きっと明日は大変な一日になるだろうから」
「そうですよね。おやすみなさい、あなた」
「ああ、おやすみっとその前に……」
俺は眠る前のルナの唇にキスを一つ落とした。
「よく眠れるおまじないだ」
そう言ってニカッと笑ってやると、ルナは顔を真っ赤にしたまま寝袋の中に顔を隠してしまった。
もう一年以上も一緒にいるのに、相変わらずルナの反応は初心なままだった。
と言うか、自分でするのは案外大丈夫なのに、されるのは苦手なんだな。
俺はそんなことを考えながら、仮眠を取ることにしたのだった。
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そして、翌日。
俺とルナは朝早くから森を歩き、太陽がてっぺんに昇る前に、竜の住処と思われる場所についていた。
その場所は例えるなら、大きな岩の中にクレーターが空いて出来たそんなような場所だった。周りには完全に岩で囲まれてしまい、俺たちの目の前にポツリと人が通れそうなぐらいの穴があった。
「行くか、ルナ」
「はっはい」
俺とルナはお互いに顔を見合わせると、その岩の中に入って行くのだった。
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