一周年記念SS「特別なあなたの日」
本日をもって、こちらの作品『錬金術師と幼な妻~俺に嫁が出来ました~』は一年を迎えました。ここまで続けられたのも読んでくれる読者様があってこそだと思っております。本当に一年間ありがとうございました! そして、これからもよろしくお願いいたします。
一周年記念SS「特別なあなたの日」
俺は今、人生最大のピンチに陥っていた。
「あんた、何か言い訳することはないの?」
「あっ……ありません」
作業部屋の床に正座させられ、ルルネに見下ろされていた。
北区画【ゲンブン】での騒動を終えて、南区画【スーザック】の戻って来て三日ほどが経とうとしていた。そこで俺にとっては重大なことが判明したのだ。
それは明日は俺の嫁であるルナの誕生日なのだ。そして、その事実を俺は今日知ったのだ。そして、今まさにルルネからの説教中と言う訳だ。
「そもそも、大事なお嫁さんの誕生日を今の今まで知らなかったとか、あり得ないでしょ!」
「はい、おっしゃる通りでございます」
まったくもって、ルルネの言う通りなので俺は何も言い返せずに、ただ黙ってルルネの言葉を聞いていた。
「るっルルネさん、わたしは大丈夫ですので、そんなにリアムさんを怒らないであげてください」
「ルナちゃんは優しすぎ! ここは怒ってもいいところだから! 嫁の誕生日を覚えてないとか夫としてダメでしょ!」
うっ……さっきからのルルネの言葉が俺の心臓をチクチクと刺していく。それに、今はルナのその優しさがとにかく痛かった。
確かに全てルルネの言う通りだった。普段からルナのことを好きだと言っているのに、そのルナの誕生日を知らないと言うのは、ルナの夫を名乗る上で情けないことこの上ないことだった。
「あんた、明日はどうしなきゃいけないか分かってるんでしょうね?」
「はい。お店は休んで一日ルナのことを祝います」
そんなことは当然だ! むしろ、俺としては祝わせてくださいと言う一心だった。
「ええっ⁉ そんなわたしの為に悪いですよ!」
そんな俺の気持ちは露知らず、明日の主役である当の本人は慌てふためいていた。
「いやいや、むしろ俺の方がごめん! 日頃から色々とお世話になっているのに、ルナの大切な日を知らなかったなんて。ほんとに情けないよ。だからさ、ルナさえ良ければ、明日一日、ルナのことを祝わせてくれないか?」
「あなた、その言い方は反則ですよ。そんなことを言われたら、断れないじゃないですか」
「別に断る必要はないさ。だって、ルナのせっかくの誕生日なんだからさ。だから、明日はいっぱいわがままを言って欲しいし、甘えて欲しいなって俺は思うよ。だからさ、明日はルナのわがままたくさん言ってほしいな」
「あっあなた」
「ルナ」
俺たちは自然と見つめ合ってしまう。
「あんたたち、イチャつくならせめてあたしがいなくなってからやりなさいよ」
ルルネの呆れが混じったため息が、作業部屋に響いたのだった。
***********************
そして、迎えたルナの誕生日当日。
俺とルナは朝から出かけていた。
今日はアトリエを臨時休業し、この南区画【スーザック】で一日デートをすることにしたのだ。
ルナに何がしたいかを聞いたところ、この一日デートがしたいとのことだったのだ。
特に目的もなく街を歩いて行く。
こうして、ゆっくりとルナと過ごすのはものすごく久しぶりな気がする。
「ごめんな、ルナ。いつも仕事ばかりで」
「いえ、気にしないでください。あなたは人を助けるために、日々お仕事をしてるんですから、それに不満を感じたことはないので、そんな謝らないでください。それに、そんな中で、こうして気遣ってもらってるだけでも、わたしは幸せですから」
ああ、なんて出来た嫁なのだろうと俺は思ってしまうが、今日はその嫁に最大限の恩返しをしたいと考えているので、俺はその考えを改め身を引き締めた。
ルナと手を繋ぎながら、街の中を散策していく。
たわいのない会話をしながら、俺たちは歩いていく。気が付くと、俺たちは商店通りへとやって来ていた。
ここでルナの誕生日プレゼントが見つかればいいなっと俺は思っていた。
商店通りに入るなり、ルナは声をかけられまくっていた。
「おっ! そこにいるのはルナちゃんじゃないか! 今日も新鮮な野菜が入荷しているよ。良かったら見ていってくれな」
「ラクスさん、いつもありがとうございます! また後で寄らせてもらいますね」
「おう、そうかい! それじゃあルナちゃんが来るのを楽しみに待ってるよ。いや、しかし、ルナちゃんが一人じゃないって珍しいな。いつもはリアムの奴はアトリエに閉じこもって出てこないって言うのに。こりゃあ一体、どんな風の吹きまわしだ?」
何ともひどい言われようである。
「今日はルナの誕生日なんですよ。そんな日にまで、アトリエに籠って仕事なんてしてられないでしょう」
「なん……だと……」
俺の言葉にラクスの表情が変わった。そして……
「こ~~のバカリアム! 何でそんな大事なことを先に言わねぇんだよ!」
「えっ! あっ、はい?」
いきなりのラクスの激怒に俺は戸惑ってしまう。と言うか、すごい理不尽な理由で俺は怒られてないか?
「そもそも、俺がルナの誕生日を知ったのも昨日でしたから」
「はぁ~? おまっ! 大事な嫁さんの誕生日を前日まで知らなかったって、そんな嘘みたいな話があるか!」
「いやいや、結構マジな話なんですよ。情けないですけど」
本当に俺は昨日、今日がルナの誕生日ってことを知ったぞ。
俺がそう思っていると、いきなりラクスにヘッドロックされる。
「お前! そんなことを堂々と言ってんじゃねぇよ! こんなに可愛い嫁さんをもらったんだから、しっかり大事にしろ! ったく、ちょっと待ってろ!」
ラクスさんはそう言って引っ込むと、籠いっぱいの野菜を持って戻って来た。
「ルナちゃん、悪いな。こいつが教えてくれなかったから、こんなものしか用意出来なかったが、受け取ってくれな。誕生日プレゼントがこんなもので申し訳ないが」
「ええ! 頂けないですよ! ちゃんとお金払いますよ!」
ルナはラクスさんにそう言い募っているが、ラクスは「いやいや」と首を振っている。
「誕生日なんだ。これぐらいさせてくれ。いつもルナちゃんにはご贔屓にしてもらってるからさ」
「本当にいいんですか?」
「おうよ。むしろ受け取ってくれや」
「ありがとうございます! ラクスさん」
ルナは一度頭を下げると、にっこりと微笑んだのだ。
「おう、これからもレギュームをどうぞご贔屓にな!」
「はい!」
ルナはラクスさんの言葉に笑顔で応えると、その籠を受け取っている。持った途端、重かったのかルナが少しよろけたのを見て、俺は慌ててルナから籠を受け取った。
籠の中には新鮮な野菜がぎっしりと詰められていた。
ラクスさん、ルナの前だからって良い格好しやがったな。まあ、でもルナだから仕方ないか。
俺はそう考えることにして、ルナと再び商店通りを歩いて行く。デートをするために。
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しかし、結果から言えばルナとデートしている騒ぎではなかった。何故なら、ラクスさんが終わったと思ったら、ハーブ屋のヤールさん、パン屋のヴァンさんにヴァンさんのアリヤさんや、その他大勢の人にルナは誕生日を祝福されていた。
そのルナの姿を見て、ルナって商店通りに人々に愛されているんだなっと俺は感じていた。そして、商店通りを抜ける頃には両手では抱えきれないほどのプレゼントをもらってしまい、俺たちは予定よりも早く俺たちのアトリエに戻って来たのだ。
アトリエの中に入ると、中ではせっせかとルルネとグレンの二人がルナの誕生日を祝うために、誕生日会の準備をしている所だった。
「おかえりって……何よその荷物は?」
帰るなり、ルルネの呆れた声が室内に響いた。
「ああ、これは……」
俺はルルネに商店通りであった出来事を話した。
「……ってわけで、こうなったんだ」
「なっなるほどね。その状況が容易に想像できるところがルナちゃんの恐ろしいところね」
ルルネは引き攣った笑みを浮かべている。
ルルネの気持ちはよく分かる。俺だってルルネと同じ気持ちだった。まさか、商店通りに行ったら、荷台が必要なほどプレゼントをもらうなんて誰が予想するだろうか? 少なくとも俺には無理だった。
「ルルネさん、何かお手伝いすることはありますか?」
「今日はルナちゃんが主役なんだから、座って待ってて。ほら、リアムは準備手伝う。本来なら、まだあんたたちはデートしてるはずだったんだから」
「おっおう」
俺はルルネの言葉に頷くと、ルルネの指示に従いながら作業を始めていく。そんな俺たちをルナはどこか申し訳ないような感じで眺めていた。
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それから無事に誕生日会の準備を終え、俺とルナ、ルルネとグレンの四人でささやかだけど、とっても楽しいと思えるルナの誕生日会を開いた。
終始ルナも笑っていてくれていたので、楽しんでもらえたと思う。
今は会はお開きになり、いつも夜に二人だけで行っているお茶会をしている所だった。
「今日は本当に楽しかったです」
ルナは紅茶を飲みながら、今日一日のことを思い出していたのか、ニコニコと笑っている。
「そっか。なら良かったよ。こっちとしても、急拵えだったから、本当に申し訳なさでいっぱいだったんだけど、ルナに喜んでもらえたらな本当に良かったよ。きっとルルネやグレンも喜ぶよ」
「今度、ルルネさんとグレンさんにお礼をちゃんと言わないとです」
ほんと、ルナはいつも律儀だよなっと俺は思ってしまう。
「ルナ」
「はい、どうかしましたかあなた?」
「改めて言わせてもらうよ。誕生日おめでとう。本当に君が産まれてきてくれて、俺と出会ってくれて良かったと思ってる。だから、改めてお礼を言わせてほしい。ルナ、俺の嫁になってくれてありがとう。それから、これからもよろしくなルナ」
「はい! こちらこそよろしくお願いします。あなた」
ルナはそう言ってにっこりと微笑んだ。
俺も微笑み返すと、ルナに商店通りで見つけていたプレゼントを渡した。
それはブレスレットだった。それはルナにはこれからもずっと隣で支えていてほしいと思い贈ったプレゼントだった。
「ルナ、誕生日おめでとう」
こうして、ルナは十五歳になった。
fin.
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