第49話「ルルネとアーリ、二人の魔法薬師2」
第49話「ルルネとアーリ、二人の魔法薬師2」
「せっセシル⁉」
俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
どっどうして王女様から直々に連絡が⁉
俺がそう思っていると、小型の通信するための水晶から呆れた声が聞こえてきた。
『あなたね、定期連絡するようにってあれほど言ってあったはずなのだけれど、お忘れかしら?』
セシルの言葉に俺は「あっ」となってしまう。完全にグレンのことで頭がいっぱいで忘れていた。
「すっすまん! こっちはこっちで大変だったんだよ」
『何? 何があったの?』
俺はここに来た三週間で何があったのかを、セシルに伝えた。
『なるほどね。まさか、そんなことが起きていただなんて、思いもしなかったわ。ご友人さんの件も残念ね』
「グレンのことはまだ諦めてないぜ。今、必死にグレンを助けるための薬を作る材料を集めてるところなんだ」
『『ミアズマ』に憑りつかれた人間を救う方法なんてあるの?』
「魔法薬師が言うには、『世界樹の雫』を作り出すことが出来れば、救える可能性があるらしい。だけど、その為の材料を集める所だったんだけど、これが中々至難の業でさ」
『なるほどね。事情は分かったわ。リアム、すぐさまその『世界樹の雫』を作る材料とやらを教えなさい。王女の名において、すぐさまそれを用意してリアム達の所に届けさせるわ』
セシルのその申し出に俺は驚いてしまう。
「いいのか? 確かにそれは助かるけど」
『元々はわたしの命令でそこにあなたたちは向かったんだもの。わたしには出来る限りあなたたちを助ける義務があるわ』
「セシル、感謝する」
俺はセシルにそう告げると、すぐさま材料を伝えた。
『なるほどね。確かにそれだけの材料を集めるのは苦労するわね。分かった。王女の名において、今日中にその素材を届けさせるわ』
今日中ってもう太陽は地平線に近い位置にあるぞ。後一時間ぐらいで空は茜色に染まるだろう。それなのに今日中に届けるって、さすが王女様だなっと俺は思ってしまう。
『リアム、絶対にお友達助けてあげてね』
「ああ、絶対に助けるさ」
そこまで話して俺は通信を切った。
まかさ、王城のバックアップがもらえるなんて想定外だ。だけど、これで困っていた材料問題は解決した。となると、次なる問題は万能霊薬の方だな。ちょうど、俺が用意していた新・万能霊薬のストックは村人を助けるために全て使い果たしてしまった為、ここで一から作り直さなきゃいけないのだ。
材料を持ってきて正解だったな。後は調合する場所か。さすがに簡易式の錬金道具では、万能霊薬を作り出すことは出来ない。ちゃんとした錬金術の設備でなければ作ることは出来ない。
どこかで借りることが出来ればいいのだが、そう簡単にいかないよな……
……と思っていた時期も俺にはありました。
何となく俺がいた場所の近くにあった錬金術師のアトリエに入って、事情を話したらすんなりと作業場を貸してくれた。
俺はそこの主にお礼を告げると、すぐさま作業に取り掛かった。このアトリエの主は薬を作る工程を見たがっていたのだが、企業秘密ということで諦めてもらった。
俺はいつも通りの手順で錬金釜に材料を入れて調合していく。
釜の中はいつも通りの調合反応が起きてそのまま薬が完成する。
うし、これで後は王城から材料が届けばどうにか薬は完成させられるはずだ。
俺は主にお礼を告げると、ルナたちが待つ宿泊先へと引き返した。
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宿泊先に着くとルナが迎えてくれた。
「おかえりなさい、あなた。セシルさんから荷物が届いていますよ」
「もうか! 本当に早いな!」
連絡してからまだ五時間ほどしか経っていなかった。どれだけ大至急で用意してくれたのか。今度、お礼に行かないとダメだな。
王女様に本当に感謝だな。
俺はルナからその荷物を受け取ると、そのまま中へ入って行った。
「こっこれって、どれも最高一級品じゃない!」
俺が中で調整の準備をしているルルネに届いた荷物を渡すと、中を確認したルルネはそう叫んだ。
「しかも、それなりの数があるから何回試せそうね。でも、よく手に入ったわね」
「ああ、それはセシルが送ってくれたんだよ。それと、これも用意してあるぞ」
俺は先ほど作っておいた新・万能霊薬を渡した。
「うん、これで『世界樹の雫』は作れそうよ。調和の秘薬もちゃんと一級のものが用意されているし。王女様って凄いのね」
ルルネは苦笑いを浮かべると、さっそく調整の準備を始めていく。
「取りあえず、まずはあんたが作った万能霊薬と調和の秘薬を使って触媒を作るところから始めるわ」
言うが否や、ルルネはそれらを調整するための器具に入れると魔力を注ぎ込んでいく。
安定させる為に、ゆっくりと慎重に魔力を流していく。やがて、その容器の中にあった二つの素材が分解されていき、溶け合って再構築されていく。そして、その容器の中から真っ白な光が生まれ始めた。そのあまりの眩しさに、ルルネ以外の三人は手で目を庇ってしまう。
そして、光が止んだ頃には容器の中に一つの結晶が出来ていた。それが万能霊薬が触媒化したものだということは、説明されずともその場の全員が理解していた。
「よし、ここからが本当の勝負ね」
ルルネは額に浮かんだ汗を拭きとると、次の工程に入って行く。今作った万能霊薬の触媒を核として、超強中和剤に神獣の爪に角を調整していく。
「始めるわよ」
ルルネの一言に俺たちは黙って頷いた。
ルルネは俺たちに頷き返すと、容器にそれらを詰め込み調整を開始する。ゆっくり、慎重に魔力を注ぎ込んでいく。頭の中で素材たちが上手く分解され再構築していくさまをイメージを思い浮かべて繋ぎとめていく。
容器の中から緑色の光が漏れ始めるが、まだまだ弱い光なのでそこまで調整が上手くはいっていないのだろう。
ルルネは注ぎ込む魔力を強めてみる。すると、容器の中の光が強くなったのを感じたが、その光はとても不安定で明滅を繰り返していた。
ダメだ、中が安定しない。このままだと光は四散して調整失敗となってしまう。その焦りがルルネの魔力調整を狂わせて瞬く間に光は四散して、容器の中には何も残っていなかった。
「ルルネ、大丈夫か?」
「ええ、だけど、今のままじゃ薬は完成しないわね。やっぱり、この薬は細かい魔力調整を必要としているみたいなの。ちょっとの魔力の乱れでいとも簡単に、こうして調整は失敗してしまうの。だから、あの方法を試してみようと思うの」
「あの方法?」
「試してみたことはないけど、これが成功すればきっと『世界樹の雫』は完成する。アーリ、あなたの力を貸してほしいの」
「ルルネ、あなたまさか、調整切替を行うつもりね」
「そうよ。『世界樹の雫』を完成させるためには、この方法しかない。あたしとアーリ二人で薬を完成させるのよ」
調整切替とは途中から調整者を他の人に交代する調整方法を指す。この方法を取ればより強力な薬を作り出すことも出来るのだが、これを成功させるには行う者の息を完全に合わせなければ成功しないのだ。交代する時のタイミングや魔力なども完全にその者と一緒にシンクロさせないといけないので、色々と難易度が高い調整方となっている。
「あたしが触媒を使って調整する方法と、アーリの細かい魔力制御が必要よ」
「分かったわ。やってみるわよ」
ルルネはそう話している内にも、万能霊薬と調和の秘薬を調整し触媒を作り終えていた。
「タイミングはあたしが合図するわ。そのタイミングで調整をして」
ルルネの言葉にアーリは頷いた。
ぶっつけ本番で成功させるのは難しいとルルネは分かっている。しかし、今はこの方法を取る意外に完成させる方法が思い付かない。
ルルネは先ほどの手順を繰り返し、素材を調整していく。やがて、容器の中からは淡い緑色の光が漏れ始めている。
ここだ!
「アーリ!」
「分かってるわよ!」
「「調整切替ッ!!」」
ルルネとアーリが同時に叫んだ。すると、ルルネがいた場所にアーリが立ち調整を続けている。
ルルネはルルネで片膝をついて座っている。俺が駆け寄ろうとすると、ルルネに「大丈夫」だと告げられてしまったのでおとなしくしていることにする。
いつの間にか俺の左手はルナの小さな両手に包まれていた。横をちらりと見るとルナもルナで不安そうに綺麗な翠色の瞳を揺らして、その光景を眺めていた。
俺は大丈夫だと言外に伝えるように、ルナに握られた手をぎゅっと握り返した。
容器の中では淡かった光が、段々とその輝きの濃さを増している所だった。きっと、アーリが正しい量の魔力を上手く注ぎ込めていることだろう。あれで、一気に光が爆散して安定すれば、安定期に入るため薬の完成率は高くなる。
俺たち三人は静かに調整をするアーリのことを見守っていた。
やがて、眩いほどの光が容器から漏れ始めるが、その光は爆散することもなく静かにその光を失ってしまう。
失敗か。
俺はそう思いただただアーリの背中を見つめていることしか出来なかった。ルナはルナでさらにぎゅっと俺に左手を握っているし、ルルネはルルネでじっとそんなアーリのことを見ているだけだった。
誰もが失敗したと思っていた。少なくとも俺はそう感じていた。しかし、次の瞬間、目元を手で覆わなければならない程の光が溢れだしたのだ。
俺は咄嗟にルナを抱きしめてルナを光から庇うと、俺も空いている方の右手で自分の目を庇った。
光はほんの二、三秒で収まった。
光が病んで目の前を見てみると、アーリが床に座り込んでいた。
「アーリッ」
そんなアーリの姿を見たルルネは慌ててアーりに駆け寄った。
「大丈夫?」
「私は大丈夫。それよりも薬は?」
アーリの言葉に俺たちは容器の中を確認した。
その中には確かに緑色の液体が出来上がっていた。
それは間違いなく『世界樹の雫』だった。
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