第48話「ルルネとアーリ、二人の魔法薬師」
第48話「ルルネとアーリ、二人の魔法薬師」
「あっアーリ。あんたどうしてここに?」
ルルネは思わずそう言わずにはいられなかった。だって、それぐらいに思わぬ人物が目の前にいたからだった。
アーリ・クロウズ。
ルルネと同じ南区画【スーザック】の出身で、ルルネとは犬猿の仲と呼べる存在だった。その少女がどうしてここにいるのかが、ルルネには不思議でしょうがなかったのだ。
「ここの人たちに、薬を届けに来たのよ。あと経過観察」
アーリも前回の試験で無事見習い魔法薬師から、正規の魔法薬師へとなっていた。
「そう言えば、ここに魔法薬師が派遣されるって聞いてたけど、それは君だったのか」
俺とルルネもアーリとは面識があった為、頭を下げておく。
「ええ、そうなんですよ。でも、リアムさんの処置がよかったのか、私が来た時はやることはほとんどないぐらいまで皆さん回復していましたよ」
あれ? アーリって呼ばれた少女ってこんなキャラだったか? 前はもっとこうギャルぽっかた気がするのだが……
「それで、ルルネこそ何しに来たのよ」
「あたしはこいつの付き添いで来ただけよ。それに探し物を探さないといけないし」
「探し物?」
「ああ、実はそうなんだ」
「俺たちはあるレシピを探しているんだ」
「レシピですか」
「ああ、ルルネが持ってはいるんだが、半分に破かれているんだ。その破かれた半分を探しているんだが、今のところ手掛かりが何もない状態なんだ」
「なるほどね。取りあえず、その紙を見せてくれない」
「ああ、ルルネ」
「分かってるわよ」
ルルネはアーリにあの紙を渡した。アーリはその紙をまじまじと見ると「あっ!」と驚きの声を上げた。
「何か分かったのアーリ」
「ええ、もしかしたらこれって……皆さん、ここの仕事が終わったらついて来て欲しい場所があるんですけどいいですか?」
俺たちは顔を見合わせると、行く当てもなかったのでアーリのその提案に乗ることにしたのだった。
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それからアーリの仕事が終わるを待って、俺たちがアーリに連れられて来たのは一つのホテルだった。
「ここは?」
「私が宿泊しているホテルです」
アーリはそれだけ答えると中に入って行ってしまったので、俺たち三人もそれについていくことにした。
そうして、アーリに連れて来られたのは八○三号室と書かれた部屋の前だった。
「入って」
アーリがそう言うので、俺たちは遠慮なくその部屋へと入った。中は意外にも広くもなく狭くもない感じの部屋だった。
「あなたたちに見てもらいたいものがあったのよ」
アーリがそう告げて、部屋にあった鞄から取り出したのは一枚の古ぼけた一枚の紙だった。
「そっ……それは⁉」
「ええ、きっとルルネ、あなたが探しているものなんじゃないかしら」
「アーリ、あなたがどうしてそれを持っているの⁉」
「それは私が聞きたいわね。どうして、ルルネがそれを?」
アーリのはしばみ色の瞳が真っ直ぐと、ルルネの紅い瞳を射抜いた。まるで、言い逃れは許さないと言うかのように。
「あたしはお父さんに貰ったの。試験の合格祝いだって」
「なるほどね」
「アーリは?」
「私は、家の書庫で偶然見つけたのよ。本に挟まっていたのを見つけて、ずっと破れてしまっている片方を探していたの。まさか、ルルネが持っているとは思わなかったけどね」
そう言いながら、アーリはルルネにその紙を渡した。
「くれるの?」
「ええ、きっとこのレシピは私には作れないモノでしょうし」
アーリの含みのある言い方に、ルルネは首を傾げてしまう。そんなルルネに対して、アーリは自身が渡した紙の一部を指さした。それを見て驚きで両目を見開いてしまう。
「アルター……ゲイル」
かすれ声でルルネがそう呟いた。確かにそこにはアルター・ゲイルと書かれていた。
「アルター・ゲイル? それは一体誰なんだ?」
俺の問いにルルネは驚きを隠せないまま、俺に説明してくれる。
「昔、凄腕の魔法薬師だった人よ。だけど、その人は魔法薬師としては邪道な方法を使って薬を作っていたために、他の魔法薬師には受け入れられず、歴史には残らなかった魔法薬師の名よ」
「凄腕なのにか?」
凄腕の魔法薬師がどうしてそんなことに?
「あんたが思うことも分かるわ。彼は確かに凄腕だった。けど、彼の薬の作り方は魔法薬師の技術と錬金術師の技術を使って作り出されていたの。あんたなら知ってると思うけど、昔は今以上に魔法薬師と錬金術師の仲は悪かったの。だからこそ認められなかった。いえ、きっと認めたくなかったでしょうね」
「何だよそれ……」
そんなプライドの為に、凄腕の魔法薬師は陰に埋もれてしまったって言うのか? そんなの間違ってるじゃないか!
俺が悔しさのあまりに拳を固く握っていると、ルナの小さな手が俺のその拳を優しく包んでくる。
優しいなルナは。
俺はそう思いながら、ルナの頭を優しく撫でてやる。すると、ルナは花が綻びるように笑った。
「それで、その紙には何て書いてあるんだ」
「ちょっと待って。今読んでみるから」
ルルネは紙を合わせると、それを熟読し始める。
ルルネが読み終わるまで、俺たち三人は座って待つことにする。その間、ルナがお茶とお茶菓子を用意してくれた。それを食べたアーリがものすごく気に入っていた。ルナ、恐ろしい子。
「あなた、もしあの薬が完成すればグレンさんは助かるんですか?」
「きっと助かると思う。とにかく今はあのレシピだけが頼み綱だ」
俺たちがそう話していると、いきなりルルネが「うがぁぁぁぁ」と吠えた。
そのいきなりの奇行に、俺たちは驚いてしまう。
「どうしたんだよ?」
俺がそう聞き返している間、ルナがルルネにお茶を差し出している。ルルネはそれを受け取ると一気にそれを飲み干した。熱くないのかな?
「これは確かに世界樹の雫のレシピよ。それにアルター・ゲイルが作ったものならば、表に出ていなかったのは分かるわね」
「それで、作れそうなのか?」
「やってみないと分からない。けど、いくつか特殊な素材を使うみたいなの」
そう言ってルルネが口にした素材を聞いて、今度は俺が驚いてしまう。
「万能霊薬だって⁉」
「そうなの。このレシピには万能霊薬を触媒にして、他の素材を調整すると書いてあるの」
「ちょっと待ってくれ! 万能霊薬だって⁉ そもそものルルネの話では、魔法薬師達は、錬金術師が作り出した万能霊薬に対抗するために、作り出したのか世界樹の雫を作り出したとか言っていなかったか?」
「ええ、あたしもそう思ってたわよ。けど、ここに書いてあるレシピを見ると、何だかその話も信憑性に欠けるわね」
ルルネはルナにお代わりをもらったお茶を飲んで、喉を潤していた。
「それに厄介なのは万能霊薬に限った話じゃないわ。他の素材もかなり厄介なのよ。万能霊薬を触媒に出来たとしても、他の素材が揃うかどうかが分からないわ」
「集めてみせるさ。だって、それが唯一の希望だしな。それが出来ればグレンは助けられるんだろ?」
「うん、きっと助けられるはずよ。ただ、やっぱりこの世界樹の雫は死者を蘇らせる薬ではなかったみたい。この薬は『ミアズマ』によって破壊されてしまった体細胞を復元させる薬みたいなの。つまり、世界樹の雫は『ミアズマ』の特効薬みたいなものなの」
「なるほどな。とにかく、ルルネは素材を教えてくれるか。集められるものならすぐに集めに行く」
「分かったわ。それじゃあ、あんたは素材集めをお願いね。後、万能霊薬もよろしく。それがないと話にならないわ」
「おう、任せとけ!」
俺はルルネから必要な素材が書かれたメモを受け取った。
「アーリ、調整器具とかあなたの力を貸して。今回の調整はかなり細かい調整が必要なの。アーリは細かい調整が得意でしょ」
ルルネはアーリに向かって、ウィンク一つした。
「ええ、確かに得意だけど……」
そこでアーリは言葉を濁している。やっぱり、アーリには思う所でもあったのかな?
以前、目の前の少女に会った時はかなりルルネに噛みついていたからな。
「あなたは怒ってないの? 私がこれまでしてきたこと」
アーリのその問いに、最初はルルネは驚いた表情を見せていたが、やがて真剣な表情を見せると口を開いた。
「怒ってるか、怒ってないかって聞かれたらあたしは間違いなく怒ってる方を取るかな。だけど、それは昔のあたしだったらかな。今はこの世界樹の雫を絶対に完成させたい。完成させられることが出来るのなら、誰の力だって借りるわよ。それに、この薬を完成させれば、あなただってあたしの実力を認めてくれるでしょ」
ルルネはそう笑うと、「ほら、時間がないからみんな早く動いて」と声をかけている。アーリは最初はルルネの言葉に固まっていて動けないでいたが、やがて、ゆっくりと言葉の意味を噛み締めて行ったのか、涙を流し始めていた。
ルナがハンカチを渡している。うん、気遣いが出来る嫁だ。
「ルナちゃんには悪いんだけど、多分、徹夜の作業になると思うから、色々と食べるものを用意してもらえると助かるわ」
「任せてください。腕によりをかけて作りますから!」
こうして、それぞれが出来ることをやるために動き出したのだった。
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えっと、俺がやらなきゃいけないことは素材集めだ。しかし、ルルネの言っていた通り、どれもが厄介な素材ばっかりだった。
万能霊薬は俺が用意できるから抜くとして、残る素材は四つか。
超強中和剤に神獣の爪に角。そして、調和の秘薬。この調和の秘薬は万能霊薬を触媒にする過程で、安定させるために必要不可欠な素材だった。
ちょっと待ってくれ。こんな素材どうやって集めろって言うんだよ! 集められるとしたら超強中和剤ぐらいじゃないか! 神獣の素材なんてとんでもない高額が付いているため、買おうとしても買えるようなものでもない! 最後の調和の秘薬に関して言えば、これはまた別の素材を用意して、魔法薬師が調整しなきゃいけない奴だしな!
俺が頭を抱えて唸りそうになると、ローブのポケットの中に入れている小型の通信するための水晶が震えていることに気が付いた。
俺が慌ててそれを繋げると、そこから女性の声が聞こえてきた。
『ああ! やっと繋がったわ! まったく、わたしを無視するなんてあなたは凄いわね!』
果たしてその通信相手は、王女様のセシルだった。
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