第46話「グレン・アルタと言う男」
第46話「グレン・アルタと言う男」
ないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないッ!
「見つからない!」
俺は思わず図書館に設置されているテーブルを殴ってしまう。
グレンを助ける方法が見つからない。
結局、あの後グレンは姿を消してしまい、俺は何も出来ずにただそこに立っていることしか出来なかった。
グレンは何故だか、瘴気の塊となってしまった。普通、『瘴気障害』を患った場合、グレンの様に瘴気の塊になるのではなく、あの村の住人の様に体液バランスを崩して、様々な感染症などを引き起こし肌は紫色に変色してしまうはずなのだ。
あの時のグレンは、確かに普通のグレンだった。しかし、グレンの周りには実体化していた瘴気が渦巻いていた。
そもそもあの状況がイレギュラーなのだ。
一体どうなってるんだ? 人が瘴気に覆われてあんな状態になるなんて聞いたことがない。
俺は何とかあの状況を打破するためのヒントを得るために、この北区画【ゲンブン】の中央街の大図書館で、瘴気に関する本を読み漁っていたのだが、まったくもってグレンを助けるヒントが見つからないのだ。
「どうする? どうする⁉」
このままだと、グレンが本当に死んでしまう。
でも、そもそもどうしてグレンは自殺行為だと分かってるのに、あんな瘴気の塊の中に突っ込んで行ったのだろうか?
あの状況で瘴気の塊の中に入るなんて、正気の沙汰とは思えない。
いや、これはダジャレとかではなく、割と本気で。
「グレンは一体、何を考えていたんだろう?」
俺は脱線し始めてしまった思考を、頭を振って払い落すと再び本を読み始めた。
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僕は一体何なんだろう?
薄れていく意識の中で、グレンはそんなことを考えてしまう。
僕は『ミアズマ』を倒すことが出来たのか?
僕は一体何なんだろうか?
僕は……僕は……僕は……僕は……僕は……
グレンは自問自答を繰り返してしまう。
僕はまた同じ過ちを繰り返してしまうのか? また僕の手で人を殺めてしまうのか?
さらに意識が薄れていく。そんな中でグレンは十年前のことを思い出していた。二十二年間生きてきた中で、最大の悲劇の日となってしまったあの日のことを。
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グレンは東区画【セイリュウン】の生まれだった。
アルタ一族は、この東区画【セイリュウン】では貴族と呼ばれる偉い一族だった。この東区画の実権を握っているのはアルタ一族ではないかと言われるぐらいに、大貴族だった。
グレンはそこの嫡男として生まれていた。その為、いずれは貴族を継ぐものとして、様々な英才教育を受けていた。
一般教養はもちろんのこと、剣術、体術、銃術など実にその教育は多岐に渡った。
そして、グレンはその全てを飲み込んでいき、周りからは天才少年だと言われていた。これでアルタ家の将来は安泰だと誰もがそう思っていた。
しかし、事件は起こった。
アルタ家をよく思わない他の貴族たちが結託して、叛乱を起こしたのだ。しかもアルタ家が所有する土地に大量の魔獣は解き放ったのだ。
それによってアルタ家は大いに混乱し、迎撃しようと戦える者全員でその状況に対応したが、その状況は徐々に劣勢に追いやられていった。
それもそのはずだろう。解き放たれた魔獣の四割ほどが近衛団が討伐隊を組んでやっと討伐できるレベルの魔獣だったのだ。今ここにいる戦力では到底太刀打ちできないような魔獣たちがアルタ家を襲っていたのだった。
そして、その迎撃隊の中にはグレンの姿があった。グレンも迎撃隊の中に参加していたのだ。
先ほどからグレンは隣で死んでいく者たちを見ていて、この世の地獄とはこのことだろうと幼いながらに感じていた。
「うわぁぁぁぁぁぁ! 死にたくない!」
はっと意識を戻すと目の前で、カマキリ型の魔獣に胸を貫かれる所だった。
「ふっふざけるな!」
グレンは体を反転させると、建物中に入って行く。前庭では戦っている者たちの悲鳴や怒声が響き渡っている。
グレンはそれを振り切ると、この建物の中にある武器庫に急いだ。
アルタ家は代々、珍しい剣を集めることを趣味としていた。その為、それを保管する部屋があったのだ。そして、そこはグレンは立ち入ることは禁じられていた。だが、今はそんなことを言っている場合ではない。
グレンは聞いたことがあったのだ。グレンの父親――ガルダ・アルタは魔剣を収集していると言う噂を。
もしそれがここにあるのなら、この状況を打破する一つの希望なのかもしれないと、その時のグレンは本気で考えていた。
グレンは逃げ惑っていた執事長を捕まえると、武器庫の鍵を渡すように要求したのだ。執事長をその要求に対して、最初は抵抗する姿勢を見せた。この家の主であるガルダに絶対に渡しては駄目だと言われていたからだ。
しかし、グレンは折れず畳みかけるように執事長を説得すると武器庫の鍵を手に入れた。そのまま焦るように武器庫まで走って行くと、その鍵を使って武器庫を開けた。
中に入るとずらりと色々な剣が収納されていた。一つ一つ物色していくが魔剣と呼ばれる剣は見当たらなかった。
くそッ! どこだ、どこにある⁉
グレンは諦め悪く探してみるが、やはり見つからなかった。
あと考えられるのは、父さんの部屋か!
グレンは慌てて武器庫から飛び出すと、そのままの勢いでガルダの私室に向かった。
ガルダの私室には鍵が掛かっていた。
やっぱりか……
ガルダはこの私室には誰も人を入れたことがなかった。やっぱり、ここが怪しいよな。
グレンは近くにあったイスを持ち上げると、思いっきりその扉にイスを叩きつけた。イスはバラバラに崩れてしまうが、扉はビクともしなかった。
ダメか。こうしている間にも庭で戦っている人たちの命が危ぶまれていると言うのに、こんな所で油を売っている場合じゃないって言うのに!
グレンはそこであることに気が付いた。自身の腰に一丁の銃が刺さっていたことに。そこから行動は早かった。銃でドアノブを破壊すると、扉を蹴り飛ばし中へと入った。
そして、そこにはグレンの予想通り、武器庫では見なかった剣たちが並べられていた。一目見ただけでそれが武器庫にあった剣と違うことが伺えた。
これさえあれば、この状況を打破できる。みんなを救える!
そして、グレンはそこにあった一本の剣を取って鞘からそれを引き抜いた。
それがグレンの人生の中での一番の過ちだったのだ。
結果から言えば、貴族たちが引き起こした魔獣を使った叛乱を鎮めることに成功した。しかし、その場にはグレンただ一人の生き残りしか残っていなかった。そして、その場にはたくさんの人や魔獣の死体が山の様に重なり合っていて、辺りは口を覆いたくなるほどの血臭が漂っていた。
その場にただただ立っていたグレンは、おびただしいほどの返り血を浴びており、グレンが持つ剣からも血が滴っていた。そのグレンの姿を見たすべてのものに畏怖を覚えさせたのだった。
この一連の出来事は『アルタ家の悲劇』と呼ばれることになったのだった。
グレンは今でも覚えている。
あの時、グレンは剣を鞘から抜いた途端、誰かに操られるかのように体が乗っ取られてしまい、言うことをきかなくなってしまったのだ。そのまま庭に出ると、そこから今度は人でも魔獣でも関係なく次々にその命を奪い始めたのだ。それは完全にグレンの意思とは関係なく、剣が意思を持っているかのように勝手に動き命を奪っていたのだ。
そして、その剣が鞘に戻ったのはその場の生命を狩りつくした時だった。
これが魔剣と呼ばれる所以だった。魔剣は強大な力を与えるが、その代りにそれと同等、もしくはそれ以上の対価を支払わされるのだ。今回のその対価と言うのが、全ての生命を奪うことだったのだ。
あの悲劇は大貴族たちの叛乱と、一本の魔剣によって引き起こされた悲劇だったが、それでも僕が殺したことには変わりはなかった。
それは今でもグレンの心の中に大きなしこりとして残っている。
僕が……殺したんだ。父さんも母さんも、執事たちもみんな……みんな……
僕が……殺した。殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した。
殺……した。
あの悲劇の後、グレンは南区画【スーザック】の孤児院に引き取られることとなった。最初はずっと心閉ざしたままだったが、当時の近衛団の隊長に引き取られたことによって、今のグレンの人格が形成されていったのだった。
そして今回、グレンは魔剣を使って『ミアズマ』の瘴気を取り払おうとした。その対価が自身をに瘴気を纏わせることだった。
その魔剣の効果によってグレンは、『ミアズマ』と同じ状態に陥ってしまったのだ。
今は辛うじて意識を留めてはいるが、いずれグレンの意識は完全に消滅してしまうだろう。
リアム、ごめん。約束守れなかったよ。それに、ルルネ。こんな僕を好きだって言ってくれてありがとう。僕もそんな君のことが……
最後の方は言葉が出なかった。何故なら、そこでグレンの意識は途切れてしまったからだった。
こうして『ミアズマ』となってしまったグレンは動き出した。
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「ルナちゃん、本当に行くの?」
「はい。夫が困っているのなら、全力で助けたいですから!」
ルナは両脇でぐっと拳を作るとやる気ありのポーズを取った。
「分かったわ。でも、危険だから気を付けてね」
「はい」
「オッケー、それじゃあ行こっか」
南区画【スーザック】にいるルルネとルナも動き出した。
リアムとグレンが待つ【ゲンブン】へと向かうために。
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